本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十二の巻(第32回)「残業問題その2~割増賃金と代替休暇~」をご覧ください。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
脇甘商事株式会社 従業員
残業問題その2 割増賃金と代替休暇:
当社は、このままだと、従業員への残業代が支払えません。
顧問弁護士によると、平成20年に労働基準法(以下、労基法)が改正され、残業代を休暇で振り返られるようになった、とのことなので、従業員に休暇を取らせることにしました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:割増賃金
従業員の労働時間を延長することは、
「災害等による臨時の必要がある場合」
と、労働組合または職場の代表者との間でいわゆる
「三六協定」
を締結することにより可能となりますが、法定の労働時間を超えて労働をさせた場合、使用者は従業員に対し、通常の賃金とは別に、相応の追加賃金を支払わなければなりません。
これを割増賃金といいます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:平成20年労働基準法改正のポイントその1:割増賃金の割増率の改善
平成20年12月に労基法が改正され、残業代の割増率に関し、1カ月の時間外労働の時間が60時間を超えた場合の割増賃金率を50%以上とすることが定められました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「上乗せ部分の割増賃金制度」とは
従前、法定労働時間を超えた時間外労働については
「基本賃金の25%以上の割増賃金を支払うもの」
とだけ定められていました(通常の割増賃金)。
ところが、労基法の改正により、
「使用者は労働者に対し、1カ月の時間外労働について、40時間を超えて60時間を超えない分は25%以上の割増賃金を、60時間を超える部分については、上乗せ部分として、さらに25%以上の割増賃金(合計50%以上)を支払うこと」
が義務付けられました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:平成20年労働基準法改正のポイントその2:代替休暇制度
また、目玉として、
「上乗せ部分の割増賃金」
部分を休暇に振り替える
「代替休暇制度」
が創設されました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:代替休暇は企業が強制的に振り替えるものではない
重要なポイントとして、代替休暇を取得するかどうかは、あくまで労働者の判断によらなければならず、企業が一方的に振り替えられるものではない、ということです。
会社が強制的に休ませると法令違反となります。
また、代替休暇の対象となる割増賃金は、
「上乗せ部分の割増賃金」
だけで、
「通常の割増賃金」
についてはあくまで残業代として支払わなければなりません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点6:残業代にまつわるコンプライアンスの重要性
残業代不払いを続けていると、給与不払いと同様に、基準監督署から厳しいお叱りを受けることになります。
実際、Dハウス工業株式会社は、2年分の残業代32億円を支払わず、天満労働基準監督署から是正勧告を受けています。
このような是正勧告(行政指導)を無視していると、経営者が労基法37条違反で手錠をはめられる場合もあります(特別養護老人ホーム神明園を経営する社会福祉法人亀鶴会の経営者が同法違反の容疑で平成15年2月3日逮捕されています)。
助言のポイント
1.残業代は、延長分の「通常の賃金」に加えて「割増分の賃金」があることを忘れない。
2.自社に「上乗せ部分の割増賃金」制度が適用されるのか否かをしっかり見極めよう。
3.代替休暇に振り替えられるのは「上乗せ部分の割増賃金」のみ。「通常の割増賃金」については、必ず現金で支払わなければならない。
4.代替休暇を取得するかどうかは、あくまで従業員の判断に委ねられる。会社の都合で強制的に休暇にすることはできないことを忘れない。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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