00943_企業法務ケーススタディ(No.0263):会社分割の濫用

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十五の巻(第35回)「会社分割の濫用」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
子会社 脇甘リアルエステート
子会社 脇甘住宅管理
コンサルタント 土地 文男(どじ ふみお)

相手方:
なし

会社分割の濫用:
経営不振に陥った子会社を、会社分割を用いて事業再建を図ることにしました。
子会社の優良部門だけを取り出して、新会社に引き継がせます。
その際、新会社との取引に協力することを約束してくれた債権者については、新会社に債務を引き継がせますが、その他の債務については、引続き、もともとあった子会社に留めておきます。
新会社は元の子会社とは別法人ですから、非協力な債権者たちは、新会社からは取り立てることができない、というわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:新設分割における債権者保護手続
会社分割においては、分割会社(もともとあった、分割をされる会社)の債務が、新たに設立された会社に移転したり、逆に移転せず、そのまま分割会社に残ったりすることになります。
このような場合、債権者とすれば、回収不能のリスクが増大することになるため、債権者を保護する手続きが必要となります。
しかし、会社法においては、会社分割について異議が出せる債権者には制限がかかり、
「分割会社に対して債務の履行を求めることができる債権者は、新設分割について異議を出せない」(会社法810条1項2号)
と規定され、債権者保護手続はありません。
「脱け殻の会社」
が自分の債務者となった債権者は、大きな不満を抱くことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:詐害行為取消権(民法424条)
民法424条は、
「債権者は、債務者が債権者を害することを知った法律行為の取消しを裁判所に請求することができる(後略)」
と、債権者に対して、一定の場合に、債務者が行った行為を取り消すという強い権利を与えています。
しかしながら、債権者が、債務者である会社が行った
「会社分割」
については、同条2項
「前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない」
を根拠として、
「取り消せない」
とするコンサルテーションも存在したようです。
さて、裁判例では、
「会社分割も財産権を目的とした行為である」
として、詐害行為取消しを認めました(リース料請求控訴事件、東京高裁平成22年10月27日判決)。
この判決では、分割会社のみならず、新設会社に対しても、約1911万円におよぶ支払いが命じられています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:法人格否認の法理
さらに、福岡地裁平成22年1月14日判決(譲受債権等支払請求事件)は、債権者の事前の了解を得ないまま、債権者に不利となる新設分割を行ったケースについて、
「信義則違反」
を理由とする法人格否認の法理の適用を認め、新設会社に対して、分割会社の債務を弁済することを命じています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:会社更生法
債権者は、会社更生法を用いて反撃することも可能です。
裁判例では、取引金融機関に対して事前の相談、説明なしに会社分割を実施し、取引金融機関からの債務とその担保以外の、ほぼすべての資産・負債・事業を新会社に承継させたホテルと新設会社について、債権者である銀行が会社更生手続開始の申立てを実施し(2010年11月)、その暮れに、東京地方裁判所から、両社について、会社更生手続開始決定が下されました。
会社更生手続が開始されると、債権者の同意がない限り旧経営陣は退陣させられることになります。

助言のポイント
1.組織再編は会社の基礎を大きく変更するから、失敗した場合の影響が大きい。必ず事前に外部の専門家から慎重な意見も採取しておこう。
2.会社法は民法の特別法であることを忘れない。会社法に規定がないから大丈夫というのは早計。会社法のウラをかいたと思っても、その一般法である民法を使って思わぬ反撃をされることがあるから注意が必要。
3.事業再生がらみでヤンチャをして債権者を怒らせると、“債権者からの会社更生の申立て”を誘発し、経営陣が“総とっかえ”にされることがある 。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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