00944_企業法務ケーススタディ(No.0264):特許の効力範囲~均等編~

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十六の巻(第36回)「特許の効力範囲~均等編~」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
なし

特許の効力範囲~均等編~ :
当社は、「痛くない注射器」の技術の特許権を侵害せずに、機能は確保しつつ、安値で販売しようと考えます。
特許で公表している針の素材と異なる素材をつかうことで、特許権侵害にならないはずです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:特許権の範囲2540
特許権者には、自分の技術内容を日本語で端的に説明させるとともに、第三者に対し明確に知らせるという制度が構築されています。
特許の効力の及ぶ法的限界を
「特許請求の範囲」(以下「クレーム」)
と呼びます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:特許侵害とは
特許侵害とは、
「クレームに記載されている技術内容のすべてを勝手に利用する」
ことです。
少々似たようなモノを創り上げたとしても、特許のクレームに記載されている要素を少しでも欠ける形で実現しているのであれば、特許権への侵害とはなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:均等侵害
「特許請求の範囲(クレーム)の記載とはほんの少しズレるみたいだけれど、あなたの行為は、特許権への侵害とほとんど同じ(均等)としか評価できませんので、『特許権侵害』ということにします」
という拡大解釈がなされることがあります(「均等侵害論」)。
「置き換えたといっても些細な部分にすぎないし(1.非本質的部分性)、その置き換えがされていても元の特許発明と同様の効果が出ているし(2.置換可能性)、大体その置き換え自体今の技術からすると容易に思いつくし(3.置換容易性)、しかも何年も前の出願時にその置き換えを権利者がフォローしておくべきことが酷といえるときには(4.特許出願時にその置き換えを容易に推考できたものではないとき)、出願中にあえて文言を付加したとかでなければ(5.侵害品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき)、均等侵害となる」
と、規範されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:クレームを実施していなくても侵害になる可能性は十分にあり
現代の技術からすると、クレームに記載された素材について、権利者に
「特許出願時に新素材の出現をあらかじめ予想してクレームを作成するように」
と期待することも酷なように思われることから、均等侵害と判断され得ると考えられます。
説例の場合、当社がほかに優れた特許を有しているのであれば、クロスライセンス契約(特許を持つ2つの会社間で「お互いの特許を使い合いましょう」という契約を結ぶこと)を試みることも可能ですし、生産能力や販売網等の営業力に自信があるのならば、正面からライセンス交渉をして実施権の許諾を受けることも不可能ではありません。

助言のポイント
1.まずは特許請求の範囲(クレーム)の確認。
2.ほんの少しクレームと異なるといっても、均等論の存在を忘れてはならない。
3.特許侵害訴訟には、このほかにも「特許無効の抗弁」などアクロバティックかつ専門性の高い武器があったりするため、信頼できる専門家に相談しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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