本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年4月号(3月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十八の巻(第38回)「パブリシティ権侵害で巨額の賠償を分捕ってやれ!?」をご覧ください。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
千代凸 爆進(ちよとつ ばくしん、同社顧問弁護士である千代凸 亡信の息子)
相手方:
なし
パブリシティ権侵害で巨額の賠償を分捕ってやれ!?:
当社グループ芸能事務所所属タレントの暴露本が売れています。
当社としては、悪質な名誉毀損、莫大な損害賠償請求訴訟を起こそうと考えましたが、日本の名誉毀損に対する損害賠償の相場は実にしみったれています。
アメリカから帰ってきた当社顧問弁護士の息子の助言により、パブリシティ権侵害で訴えることにしました。
経済的損害の回復を求めることができるため、本が売れれば売れるほど、その利益をそっくりいただけるし、アメリカでは楽勝の訴訟とのことです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:芸能人・著名人を取り巻く権利
「プライバシー権」
は
「みだりに私生活を公開されない権利」
といわれ、その人の人格的利益を尊重するものです。
「肖像権」
「名誉権(社会的評価の保護)」
が侵害された場合、精神的苦痛に対する慰謝料という形での損害賠償は非常に低く、被害回復を図っても、実際の経済的なダメージを回復するには遠く及ばず、非常に難しいと考えられます。
そこで、
「有名人の商品としての価値」
に着目したのがパブリシティ権です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:パブリシティ権とは
日本でも、最高裁判決において、ようやく、
「顧客吸引力を排他的に利用する権利」(「パブリシティ権」)
が法的権利として承認されるに至りました。
パブリシティ権に対する侵害が認められた場合の損害額は、プライバシー権等の損害額を大きく上回ることがあり、これがパブリシティ権を議論する実益です。
パブリシティ権という経済的利益が侵害された場合、高額な経済的利益の回復も求めることが可能になります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:パブリシティ権侵害が認められる要件
パブリシティ権侵害の成立させるには、
「専ら顧客吸引力を利用する目的」
といった高度の要件が必要です。
1.肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
2.商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
3.肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「ピンク・レディーでダイエット」事件
最高裁の事件は、タレントのピンク・レディーの写真14枚を使用した
「ピンク・レディーdeダイエット」
と題する3頁の週刊誌記事が問題となりました。
「顧客吸引力が問題となるのは、記事単体ではなく、商品としての『雑誌』と考えるべきであり、『雑誌全体の分量との比率』が重要である」
として、パブリシティ権の権利者側の主張に水を差す態度を示しています。
日本におけるパブリシティ権侵害の賠償相場に関しては、かなりしみったれたものになっているのが実情のようです。
助言のポイント
1.ここは日本。「アメリカでは~」「イギリスでは~」などと海外の話を振りかざしてワケ知り顔で議論する“出羽(でわの)守(かみ)”は信用ならない。
2.知名度を悪用して金儲けをするような輩には、パブリシティ権を持ちだして、経済的利益の賠償を検討すること。
3.ただ、パブリシティ権の侵害認定要件は相当厳しい。名誉権侵害や著作権、不正競争防止法に基づく請求も併せて検討すること。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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