00947_企業法務ケーススタディ(No.0267):抜け駆けは御法度でござる

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十九の巻(第39回)「抜け駆けは御法度でござる」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
余荷外(ヨニゲ)産業

抜け駆けは御法度でござる:
破綻した取引先の弁護士から
「近日中に破産申立てをするから、もう債務は払えない。現在の債権額を教えろ」
と、内容証明が届きました。
債権者としては何とか回収をしたいところですが、だからといって、相手先からムリヤリに在庫引き揚げしたら、警察沙汰になるでしょう。
法務部長の調べによると、合意の下、当社の債権額に見合った分だけ弁済を受け、合意のあったことを証明するために、ドキュメントを作成すれば問題ないとわかりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:破産法の目的
破産制度が整備されていなかった時代は、ヒートアップした債権回収が行われ、債務者に対する取り立ても苛烈なものとなり、無用な社会混乱が発生しました。
現代のわが国においては、破産制度を整備し、裁判所に選ばれた破産管財人が破産者の財産すべてを管理した上で
「多くの債権者が、できるだけ多額かつ平等に回収ができる」
ように、
「債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図る」(破産法1条 )ことを目的に掲げています。 

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:破産法のテーマ「債権者平等の原則」
私法上の一般原則として
「債権者平等の原則」
というものが存在します。
「債務者に資産がなくて、債務のすべてを弁済するのに足りないときは、債権者の債権額に応じて配当される」
ところですが、
「債権者平等の原則」
に従わないまま行動を開始してしまうと、リスクを冒すことになりかねません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「破産管財人」
破産手続が開始された後は、破産管財人(裁判所に選任された弁護士)が、破産手続が開始される前に行われていた
「抜け駆け」
を是正します。
破産管財人が、破産者の手元から出て行ってしまった財産を、債権者らに分配するべき財産(破産法では「破産財団」といいます)に戻す作業を行います。
破産管財人には、
「多くの債権者が、できるだけ多額かつ平等に回収する」
任務が遂行できるように、さまざまな強力な権限(破産法40条、268条)が与えられています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「否認権」
破産法は、裁判所から選ばれた破産管財人に、
「破産者が自分の破産間際に債権者以外の者への財産の贈与や、特定の債権者のみに対する弁済などいろいろやってしまった」
ことについて
「否認」
し、財産を取り戻す権限を与えています(破産法160条以下)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:「支払不能」「支払の停止」
「債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する」
としています(破産法15条2項)。
そして、債権者は、債務者が
「弁済能力がないため、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に表示する行為」
を知ってしまった状態で弁済を受けても、後から管財人に否認される可能性があります。
この場合、受け取った現金については法定利息(商事ですので年利6%)を付けて返済し、受け取った商品については、現物を返すか、転売したり滅失している場合、受け取った商品の価額を賠償しなければなりません。

助言のポイント
1.破産の場面では、平時と異なって「債権者平等」が大原則になる。平時の感覚で「オレってクレバー。華麗な抜け駆けの債権回収だな」なんてことをする場合には、とりあえず法律家に相談しよう。
2.破産管財人は、破産制度の適正な運営のために、裁判所と破産法の御威光をバックにした強力な調査権を与えられている。「うまくやってるから、バレないだろう」などとは思わない方がいい。
3.偏頗弁済をしたり、破産管財人の調査に協力しなかったりした債務者は、免責不許可となって、せっかく破産したのに借金が丸々残るというお仕置きを受けるから要注意。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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