本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2013年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五十一の巻(第51回)「労働審判には即座に対応を!」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
相手方:
脇甘商事株式会社 元社員
労働審判には即座に対応を!:
リストラした社員が解雇は無効だと労働審判を申し立ててきたので、顧問弁護士に相談すると、
「労働審判は、基本的には訴訟と変わらない。
予定が合わないから、第1回期日を変えてもらおう。
慌てたら負け。
第1回期日は相手の出方をみるためにあるようなものだから、ちゃんとした反論は2回目以降にすれば十分」
とのことでした。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「労働審判」って何?
平成18年に労働審判法が施行され、労働審判手続が新しくスタートしました。
「労働審判」
とは、時間がかかる等の訴訟のデメリットを解消し、労使間紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とした制度で、裁判官と労働問題の専門家(労働審判員)が事件を審理し、調停による解決の見込みがある場合には、これを試み、解決に至らない場合には、事案の実情に即した解決案を定める手続です。
当事者は審判の内容に不満があれば異議を申し立てることができ、訴訟手続との連携も図られています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「通常訴訟=鈍行列車、労働審判=ジェット機」というスピード感
労働審判手続で最も特徴的なのは、非常にスピーディーな点です。
期日は原則3回以内しか設けられず(法15条2項)、実際の運用では、事実関係の争いはほとんど第1回期日で決着がついてしまうほどです。
申立てから終局までの審理期間が2~3か月であることからも、訴訟とはまったく異なります。
第1回期日の冒頭で争点整理、裁判官・審判員による心証形成が行われてしまうため、答弁書の段階で、相手方から出されることが予測される反論も見据えた上で、相当充実した主張を行わなければなりません。
しかも、申立てがされた日から40日以内に第1回期日が指定され(規則13条)、原則として第1回期日の変更を認められませんし、第1回期日の指定から答弁書の提出まで、2~3週間程度で準備を進めなければなりません。
裁判官と審判員の心証形成は、フリートーキングで出席者に質問をする形で行われ、その中で和解が図られたり、調停案が示されたりします。
調停案を拒否しても、調停案とほぼ同内容の審判が出されることになります。
よほどの事情がない限り、訴訟でも
「審判」
の判断が尊重されます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:使用者からの申立ての活用
申立てをする権限は労働者に限られているわけではなく、使用者でもできます。
団体交渉を中断し、労働審判を申し立てれば、労使双方の主張にズレがあっても、手続の中で、主張が不明確な部分等は適宜裁判官・審判員が質問により補充しますし、心証が開示されることによって、落とし所が早く見つかる可能性が高いです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:使用者側の心構え
労働審判においては、第1回期日から手を抜くことなく十分な準備をし、裁判官・審判員には自己に有利な心証を持ってもらえるよう慎重に対応すべきですし、そのためには、申立後即座に対応できるよう、日頃から顧問弁護士との調整等を図っておくべきです。
助言のポイント
1.労働審判手続はとにかくスピーディー。訴訟と同じ感覚で対応していては間に合わない。
2.ソフトな手続だからといって気を緩めないこと。一挙手一投足が心証形成に響く。
3.調停案も無下に断らずに真摯に対応を。
4.労働審判は使用者にとってデメリットばかりではない。団体交渉の早期解決にも利用できる。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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