本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2013年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五十三の巻(第53回)「少しのつもりがまんまと全額もっていかれた・・・」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
亀鎚(ガメツイ)木工
少しのつもりがまんまと全額もっていかれた・・・:
当社は、相手先に8年前の代金未支払分5000万を請求されました。
法務部長は、
「8年も前のことですから、とっくに時効は完成してます」
と返答しましたが、その報告を受けた社長は、
「50万くらい払ってやったらいいじゃないか。
相手にも感謝してもらえるし、どうせ税金でもっていかれてしまうんだから。
50万円支払ったって、4950万円も得しているじゃないか」
と、いいます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:時効の種類
「時効」
は、民法上
「消滅時効」
といい、
「債権は、10年間行使しないときは、消滅する」(167条1項)
と規定されています。
したがって、相手方から10年間請求されなければ、当該債権は消滅し、支払う必要がなくなる、というわけです。
時効が完成する期間は、すべて一律10年というわけではなく、労働者の退職金は5年(労働基準法第115条後段)、交通事故の慰謝料は加害者を知ったときから3年(民法724条)、退職金以外の労働者の賃金や災害補償は2年(労働基準法115条前段)、ホテルや旅館の宿泊料・キャバレーや料理店などのツケは1年(民法174条第4号)など、民法をはじめ、それぞれの法律で規定されています。
商人同士の契約の場合、商行為によって生じた債権は、5年間で時効が成立します(商法522条 )。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:時間の経過=時効の完成ではない
時間が経過すれば、自然と債務が消滅するわけではありません。
「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判することはできない」(民法145条)
とされており、
「援用(時効の完成を主張)」
しなければ、つまり、
「時効が完成したのでお金を払うつもりはありません」
と相手に伝えなければ、時効は完成しません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:時効のリセット
時効がリセットされてしまうことがあります。
その場合は、リセットされたときからさらに法律に定められた一定の期間が経過しなければ、時効は完成しません。
リセットには、次の3つがあります。
1.請求
2.差押
3.承認
裁判所では、当事者同士で借用証書を新しく書き換えた場合や、借りていたお金を少しでも返した場合、もしくは
「必ず払いますから」
「あと1週間だけ返済を待ってください」
と約束した場合が、
「承認」
にあたるとされています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:払っちゃだめな訳じゃない
契約時に時効の存在をナシにすることはできません(「時効の利益はあらかじめこれを放棄することができない」(民法146条))。
しかし、時効が完成したとしても、あくまでも自らの債務を弁済したい!という気持ちがあれば、お金を払うことはできます。
自分の債務を支払っちゃだめという訳ではないのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:時効成立後の承認
たとえ債務者が自己の債務に時効が成立していたことを知らなかったとしても、一度、債務の存在を認めた以上は、時効はリセットされてしまいます(最判昭和41年4月20日)。
助言のポイント
1.時効には様々な種類がある。時効期間には注意が必要。
2.時効にもリセットボタンがある。
3.時効が完成したら自分の債務を払っちゃだめという訳ではない。正直者が損をする。
4.時効が成立した後でも、リセットされることがある。時効の成立=ゲームオーバーではない。ロスタイムまで気を抜かない。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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