00977_企業法務ケーススタディ(No.0297):あの取締役が気に入らん!!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六十九の巻(第69回)「あの取締役が気に入らん!!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 取締役 家触(かぶれ)

あの取締役が気に入らん!!:
若くて優秀な取締役を任用したものの、社長は、その取締役が気に入りません。
「取締役の職務を減らし、常勤取締役から非常勤取締役にし、はじめに決めた報酬より減額する、あるいは、任期が残っていても辞めさせることは簡単」
と、法務部長は社長にいいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:お役御免で減額OK!?
昭和の半ばごろより、減額の対象となる取締役の同意がない限り取締役会によって一方的に減額することはできない、とされるようになりました。
取締役会と取締役との間で一度決定した報酬額は、会社と取締役の契約の内容となるので、契約期間中は対象となる取締役の同意なく変更することはできませんし、取締役の職務内容に変更が生じた場合であっても、同様に、一方的に報酬額を変更することはできません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:報酬残金払って「はい、さようなら」
会社と取締役の関係は、
「経営のプロ(取締役)とカネに不自由していない出資者(株主、つまり会社の所有者)」
という対等の地位にある当事者同士が想定されており、雇用ではなく委任に準じた関係であるとされています(会社法330条)。
したがって、原則として、取締役には労働基準法等の適用はなく、取締役については
「いつでも、株主総会の決議によって解任することができる」
と規定されています(会社法339条1項)。
つまり、株式の過半数を有していれば、株主総会を開いて、いつでも取締役を解任できるのです。
しかし、解任に
「正当な理由」
がない場合、会社は、解任した取締役に対して
「解任によって生じた損害」
を賠償しなければなりません(会社法339条2項)。
「正当な理由」
とは、取締役の職務遂行上の法令・定款違反行為、心身の故障、職務への著しい不適任(能力の著しい欠如)等であり、
「解任によって生じた損害」
とは、取締役が解任されなければ在任中及び任期満了時に得られた利益の額、つまり、
「任期満了までの役員報酬」
となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:お家騒動登記
解任することのデメリットは任期満了までの役員報酬の支払いだけではありません。
取締役が解任された場合、会社登記に
「解任」
という登記原因が記載されます。
通常であれば
「辞任」
「死亡」
等との登記原因となりますので、お家騒動を世間に公表することとなりかねません。
また、解任された取締役にとっても
「解任」
と登記されることによって、他の会社の取締役となろうとする場合や就職する場合においてもイメージが悪くなりますので、好ましい状況とはいえないでしょう。

助言のポイント
1.役員報酬の決定が取締役会に一任されているからといって、一方的な報酬の減額はできない。職務内容を変更しても減額は許されない。
2.「正当な事由」なく解任すると任期満了までの役員報酬を支払う義務がある。
3.取締役を解任すると登記に「解任」と記載され、お家騒動が露呈してしまう。
4.取締役に「解任」する旨告げ、がっかりしている間に退職金の提示をして、辞任届にサインしてもらおう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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