本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年2月号(1月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十一の巻(第71回)「労働組合? なんぼのもんじゃい!」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 盲信(ちよとつ もうしん)
相手方:
脇甘商事株式会社 元従業員 抜作(ぬけさく)
合同労働組合
労働組合? なんぼのもんじゃい!:
不正行為をした従業員を懲戒処分にしたところ、合同労働組合から
「組合加入通知書および団体交渉申入書」
が送付され、一方的に協議のための期日まで指定してきました。
元従業員の行為は刑法的にいえば横領で、当社としては事実確認も行ったうえ懲戒解雇処分をしており、手続に何らの違法もありません。
このような要望に応じる必要はまったくないため、この申入れは放置するつもりです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働組合とは?
労働組合は、憲法に存立の根拠を有する重要な団体であると位置づけられています。
労働者が1対1で使用者と労働条件についてフェアに交渉することを期待することは困難であることから、憲法28条は、
1.労働者が団結する権利(団結権)
2.労働者が使用者と交渉する権利(団体交渉権)
3.労働者が要求実現のために団体で行動する権利(団体行動権)
として具体的に労働組合を通して実現可能な労働者の権利を保障しています。
労働組合を作るには、2人以上の労働者が組合を作ろうと意気投合し、地方労働委員会において規約等が労働組合法に適合していることを確認されさえすれば、原則として、労働組合法上の労働組合として、その活動に手厚い保護が与えられることになります。
また、企業内の労働組合が存在しない状況においては、従業員が企業外の独立系労働組合の組合員となることも可能ですし、その場合、当該独立系労働組合が会社に対して団体交渉等を行うことも可能です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:団体交渉事項
会社としては、企業外の独立系労働組合から団体交渉が申し入れられた場合、義務的団体交渉事項として、交渉に誠実に応じるべき義務を負います。
「義務的団交事項」
の範囲は、現在では、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントなどを予防するための職場環境の整備に関しても
「労働条件その他の待遇」
に含まれるなど、広く理解されています。
義務的団交事項について、会社が正当な理由なく交渉を拒絶した場合には、不当労働行為に該当し、労働委員会に救済命令を求められて申立てをされることになるなど、負担が生じることになります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:対応方針
団体交渉に関する基本的な構造は
「労働組合から義務的団交事項に関する交渉要請」→「誠実交渉義務の発生」
であるため、実体的な理由の存否はさておき、会社としては、
「交渉を誠実に行うことが必要である」
認識を有することが大切です。
いったん、交渉が始まると、組合側からは労働法の理論と判例を頭に詰め込んだ切れ者の交渉担当者が出てくるものと想定され、理詰めで解雇の撤回を求めるのに対して、
「そんなの関係ねぇ!」
などと交渉に協力しない場合も、やはり不当労働行為となり得ます。
しかし、会社側が負担しているのはあくまでも交渉を行う義務であり、会社として何らかの妥協あるいは合意までが義務ではありませんので、合理的根拠を示して妥結を拒否することは当然に許されています。
一部の合同労組は、およそ不当労働行為に当たらない行為に関しても
「不当労働行為だ」
「労働委員会に申し立てる」
などという発言もあるようですので、き然とした対応を行っていく必要があるでしょう。
助言のポイント
1.労働組合からの団体交渉に応じない、その姿勢こそが最大のリスク要因。理由がありそうだろうが、なさそうだろうが関係ない。
2.交渉は誠実に行うべきだが、安易な妥協は義務じゃない。まずは落ち着こう。
3.落ち着いて対応できるかどうか不安? 弁護士などの専門家を立ち会わせることで、プレッシャーに負けないことが最良の対策。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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