00984_企業法務ケーススタディ(No.0304):訴訟に勝てばこっちのもんじゃい!!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十六の巻(第76回)「訴訟に勝てばこっちのもんじゃい!!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
踏倒 隠(とうとう こもる)

訴訟に勝てばこっちのもんじゃい!!
社長は友人に会社名義で無担保で1000万円ほど貸した後、相手とはまったく連絡がつきません。
法務部長によると、契約書がある以上、相手に訴えを起こしさえすれば、自動的に勝てるでしょうし、1000万円も回収してもらえる、とのことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:力づくはご法度
借金を返してもらう方法として一番簡単な方法である、相手方から無理やりカネを奪い取ってしまう
「自力救済」
といいますが、禁止されています。
その代わり、法は、裁判所を通じて自己の権利を主張する
「訴訟制度」
を、設けました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:訴訟とは
訴訟を起こすということは、多大な費用と時間がかかります。
訴えの提起後は訴状を相手方に送達しなければならず、相手方が居留守などをして訴状を受け取らない場合にはなかなか手続きが進みませんし、弁護士を訴訟代理人に選任するために着手金等の費用を支払わなければならず、事案のサイズによっては、事件解決に至るまでにかかる時間と費用は膨大なものとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:判決をもらえば、マルッと解決!?
時間と費用を大量にかけて勝訴判決を得たとしても、それだけでは問題が解決するとは限りません。
説例の場合、当社が勝ち取った判決は、その時点で
「脇甘商事の踏倒隠に対する貸金債権1千万円が確かに存在しますよ」
ということを公に証明するものではあるものの、裁判所が直ちに相手からカネや土地・建物などの不動産を取り上げて、脇甘商事に引き渡してくれるわけではありません。
法は、訴訟制度とは別個に、債権者に代わり、裁判所が債務者の財産を強制的にカネに換えて債権者の下へ引き渡す制度を用意しています。
それが強制執行です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:役に立たない強制執行~無い袖は振れないのがまかり通る世界~
強制執行をしても、いくら判決(債務名義)を持っていたとしても、そもそも債務者に財産がなければ、
「執行不能」
ということで、一銭も回収できないことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:カネのない人への貸付を贈与という
債権をとりっぱぐれないようにするためには、
1.そもそも返済の当てもなくカネを貸したり、売掛をしない
2.仮に他人にお金を貸す際には、必ず担保(不動産に抵当権を設定したり、連帯保証人をつける等)をとる
3.訴訟を起こす際には、執行段階を見越して、仮差押え・仮処分(財産を隠したり・破壊したりするのを防ぐための制度)をしておく
4.訴訟を起こしたとしても、裁判所から納得のいく条件の和解提案が出されたら、それを無下にせずに乗る
5.(それでも腹の虫がおさまらなければ、大損覚悟で)債権者破産をする
という対応をとるのが正しい対処法です。
説例の場合、訴訟で頑張って判決を勝ち取ったとしても、結局、一銭も回収できないことになりましょうが、仕方ありません。
担保もとらずに夜逃げするような無責任な人にカネを貸すこと自体が間違いだったのです。
「返済能力のない人への無担保貸付」
という行為は、ビジネスの世界では、
「贈与」
と同じものとみなされます。
そもそも経済的合理性の点で超アブノーマルな行為をしておきながら、後から
「返せ」
とわめき出すのは、(ビジネスの世界では)120%貸した人間の方が愚劣です。
「無担保債権の債務者がカネを返さない」
のは確かに許せないでしょうが、この種の無責任な債務者にやられたのは、元はと言えば自業自得、因果応報。
「やられたら、やり返さない。
やられたら、華麗にスルー(泣き寝入りする)」
のが
「経済人としては」
正しい選択です。

助言のポイント
1.訴訟で勝ち、判決をもらっただけでは意味がない。
2.強制執行も、成功することはほとんどないのが実情なので、過度な期待はしないこと。
3.カネのない人にカネを貸すのは、プレゼントするも同然。やむを得ず貸す場合でも、担保をとるなど、債権を回収できる手はずを整えてから貸すこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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