00992_企業法務ケーススタディ(No.0312):ライバル企業への人材流出を防げ! 従業員の自由を剥奪せよ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十四の巻(第84回)「ライバル企業への人材流出を防げ! 従業員の自由を剥奪せよ! 」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)

相手方:
外資系企業GYAKUSIN(ギャクシン)商事 マネージャー 宇良桐(うらきり)

ライバル企業への人材流出を防げ! 従業員の自由を剥奪せよ!
当社に迎え入れる予定のマネージャーは、数多の企業を渡り歩き、短期間在籍した後、法外な退職金を請求しては転職を繰り返しているらしく、当社に入社してもすぐにまた転職するかもしれません。
そこで、入社前に何らかの対策を打ちたいと考え、顧問弁護士に相談したところ、 契約書に
「退職後10年以内に、すべての競合他社に就業するのを禁止し、違反した場合は退職金を一切支給しない」
という内容を入れるようにとアドバイスを受けました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社にいる間は、不義理・裏切りはご法度!! ~競業避止義務~
会社の取締役は、その在任中は競業避止義務(会社法356条1項1号)を負い、また、従業員(労働者)についても、会社と締結する労働契約に関わる誠実義務(労働契約法3条4項)の一内容として競業避止義務を負います。
「競業避止義務」
とは、従業員等が、在職中は自分が働いている企業の商品やサービス・業態がカブるライバル企業で働いたり、ライバル企業の代表者として、所属企業と同じような商品やサービスを提供することを禁止するものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:退職後はやりたい放題!?
従業員等は、退職後については、基本、競業避止義務を負わない、とされています(会社法356条1項1号)。
従業員等の生活保障は
「憲法」
によって守られており、
「職業選択の自由(憲法22条1項)」
という権利の一態様として、手厚く保護されているからです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:自由を剥奪する「競業禁止特約」の妙味
憲法上の権利といえども、他人の保護に値する利益・自由を害することまでは認められておりませんので(憲法13条)、退職社員の競業行為についても一定の範囲で制限することができます。
その方法として実務上用いられるのが、
「競業禁止特約」
です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件(東京地判平成24年1月13日)
「2年間競業行為を禁止し、仮にこれに違反した場合には、退職金3000万円を不支給とする」
旨の競業禁止特約の有効性が問題となった事案では、裁判所は、原則として無効、と判断しました。
ただし、例外的に、
1.競業が禁止される期間が短く、
2.会社の機密情報等、ライバル企業へ漏れてしまうと、会社の存亡が危ぶまれるような情報に触れていた人物であること
3.競業避止義務を課す代わりに手当ての支払いなど、代償措置がキチンとなされており、
4.競業に当たるとされる職種・地域も限定されている場合には、
特約は有効と扱われる、ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:処方箋
特約を結ぶ場合は、経済産業省が公表する
「競業避止義務契約の有効性について」
と題したレポートを参考にするとよいでしょう。
実際に競業禁止特約を作成する際には、有効とされるような記載ぶり・内容の契約書に仕上げるべきです(その際には、退任後の秘密保持義務なども併せて文書化しておくことが有効です)。

助言のポイント
1.従業員には、退職後、競業他社に転職するなどの「好き放題・ワガママ放題」をする自由(憲法22条1項)が保障されていることから、競業を禁止することは原則できないと心得よう。
2.裁判所において、競業禁止特約が有効とされるためのハードルは高く、裁判所のお目溢しを期待して適当に作った契約書は、問答無用で無効とされるから注意しよう。
3.事前に競業禁止特約を結ぶ場合、判例が示す要素、具体的には、①禁止期間の長短、②特約締結の必要性、③代償措置の有無・程度、④禁止される職種・地域が限定されているか等の視点を踏まえた契約書を作成すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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