本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百七の巻(第107回)「商標権をとられてしまった! もはや、これまでじゃ!」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
抜無(ヌケナシ)物産株式会社のグループ会社 抜無ドラッグ
吉本・堀・アンド・ジャニー法律事務所
商標権をとられてしまった! もはや、これまでじゃ!:
当社では、半世紀前から売り出している巾着型の使い捨てカイロが商標権未登録であることに気づき、商標出願をすることになりました。
同じタイミングで、商品名の使用差し止めを求めた内容証明郵便による通知書が届きました。
相手のいうとおりにすると、商品名変更と、それに伴うパッケージや宣材や販促グッズの変更、プロモーションプランの修正等で3億円程度かかるうえ、店に並べられるのは需要シーズンが終わる4月ごろになります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:商標権とは
商標とは、商品やサービスの識別標識であり、目印です。
新商品を売り出す際、新規の名前で勝負するよりも、すでに著名になっているネーミングをもじったり、類似するロゴやマークを使った方が、販売数において顕著な差が出ることは容易に理解できます。
しかし、マネされたり、パクられたりした本家本元としては、本来売れるはずのものが売れなかったり、あるいは、エセ商品のクレームが寄せられたりすることもあり、踏んだり蹴ったりの状態になります。
このように、取引社会において重要な機能を担い、また、それ自体重大な経済価値を有する可能性がある、商品やサービスにつける
「マーク」
「ネーミング」
を、一定の要件と手続の下、確固たる財産権として成立させ、これによって、取引秩序を守ろうとする法システム、商標法が誕生しました。
この法律に定められた要件・手続の下、商標について、財産権として成立するのが
「商標権」
という知的財産権です。
ちなみに、商標には、文字、図形、記号、立体的形状やこれらを組み合わせたものなどのタイプがあるほか、2015年4月から、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標および位置商標についても、商標登録ができるようになりました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:取得までと取得後の効力
商標権を取得するのはなかなか面倒で大変です。
「ユニークで識別性のあるネーミングや目印等でなければダメ」
「すでに同一または類似の商標の出願がされていたら先のものが優先される」
など各種要件面がクリアできそうであれば、願書に適切な記載をして、特許庁に出願して、権利として登録されるように手続きをすることになります。
特許庁の審査の結果、要件が充足していないと判断されると、不合格(拒絶査定)となる場合もあります。
晴れて合格(登録査定)し、一定の費用(登録料)を支払うと、商標権を有する商標として商標登録原簿に登録され、商標権という権利が発生します。
商標登録がされると、権利者は、指定した商品やサービスについて登録商標を独占的に使用できるようになります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:先使用権
設例の場合、
「先使用権」(商標法32条、他者の登録商標であっても、その商標出願前から、同一または類似の商標を使っており、かつそれが周知となっている場合に、引き続き自己の商標を使うことが認められる権利)
を抗弁として対抗し、先方の主張を駆逐する方法を考えた方がよさそうです。
先使用権成立のためには一定の要件を充足する必要がありますが、半世紀前から普通に使っているのであれば、十分検討に値します。
助言のポイント
1.商標権はじめ知的財産権は、所有権などの古典的な物権と比べて、権利の存立基盤としては脆弱であり、制約が働く契機が満載。
2.「そんな無茶な、殺生な!」といった状況になるようであれば、権利自体を潰したり、範囲を制約したり、法律が用意している抗弁の成否を検討しよう。法律をよく読んで、相手の主張を封印したり減殺したりする方法を検討すると、意外と逃げ道が見つかったりする。
3.相手方の商標権出願前から使っている周知の商標があれば、先使用権をもって対抗できる。相手の主張する権利に気圧されて、無条件降伏する前に、しつこく法律を読んで、対抗手段をひねり出そう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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