企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社ウオゴコロ 代表取締役 光嶋 裕男(みつじま ひろお、26歳)
相談内容:
華やかだったころは良かったよな。
覚えてるかい?
俺が発明して爆発的にヒットしたダイエットサプリ
「カゲロウ」。
どれだけたくさん飲み食いをしたとしても、これを前もって飲んでおけば、後につくであろう脂肪がカゲロウのように消えちまうってやつさ。
市場で一定のプレゼンスを得て購入者が増えたからかな、もちろん、ウチの製品に不満を抱くやつも出てきたさ。
「高い金を出したのに、全く効かない!」
とか、
「オイオイ、効果までカゲロウかよ」
みたいなね。
でもさ、販売数が減っていなかったこともあって、クレーム対処を甘くみちゃったんだよね。
先生からのアドバイスも無視して。
結局、効果効能をうたった点や消費者対応の点について監督行政庁に叱られてからは、まったく売れなくて。
一気に売れた製品ってのは、しぼむのも急激なんだな。
継続的に売り続けるという困難さ、本当に勉強になったと思ってるよ。
でもさ、俺だって会社を引っ張って従業員を食わせていかなきゃならないじゃん。
売れる製品を頑張って開発してるけど、未だに訴求力ある商品は
「カゲロウ」
くらいしかないんだよね。
で、
「カゲロウseason2」
みたいなのを販売するんだけど、広告を大きく出す余裕もないから、手っとり早く、これまでの顧客名簿に基づいて商品を送りつけようと思うんだ。
「不要の場合は返品を。
返品ないときは承諾したとみなします」
って文言をつけることで売り上げをガンガン延ばして、もう一度復活したいんだよ。
大丈夫だよな?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:ネガティブ・オプション商法(送りつけ商法)の契約法上の問題
このように一方的に商品を送りつけて消費者に購入をさせることを、
「送りつけ商法」
とか
「ネガティブオプション」
とかいい、少し前に流行りました。
ここでは、売買契約が成立しているのかどうかがまずは問題になります。
この点、民法上の契約は
「申し込み&承諾」
という当事者の意思の合致によって成立するのが大原則のため、商品を送りつけた段階で、契約が成立することはありません。
こうはいっても、
「承諾したとみなす」
なんて書いてあるし、
「返品しなかった」
という事実によって
「承諾」
したのと同じといえ、売買契約はやはり成立しているのではないのか?
などと考える方がいるかもしれません。
しかしながら、法律上、一方当事者の意思を
「みなす」
なんてことはよほどのこと(通常は法律に具体的に明定されています)がなければあり得ませんから、送りつけられた商品の注意事項を破ったからといって
「承諾」
の意思表示がみなされることはありません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:商品を費消されてしまったら?
それでは、消費者が気ままに商品を使ってしまった場合も、契約が成立することはなく、会社は常に代金を求めることができないことになるのかといえば、そうでもありません。
この点、消費者の中には、気に入った製品がたまたま送られてきたと思い、満足して利用する者もいるでしょうし、そこまでいかなくとも、少し怪しいけれど使ってみたらなかなか良くて買ってもいいと考える者もいることでしょう。
そこで、このような事態を想定し、民法526条2項は
「契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する」
と定めています。
ここにいう
「承諾の意思表示と認めるべき事実」
とは、消費者に
「送られてきた商品を認識しながらあえて使用した」
などを指し、要するに、
「普通、そのような事実があるのであれば、商品を購入するつもりがあったのだろう」
と考えられ、契約成立の余地があるということになります。
以上からすると、消費者は、
「勝手に送りつけられたものだから、契約が成立しているわけでもなく支払義務はないが、かといって商品を使用することもできず預かっておく」
という中途半端状態に陥ります。
そこで、特定商取引法59条は、
「14日間預かっておけばその後は処分しても大丈夫」
と、中途半端な状態に期限をもうけ、それ以降は、返品すべき義務がないのはもちろん、使おうが売ろうが自由と定め、消費者を手厚く保護しています。
すなわち、その反面、事業者としては、売買契約が締結できないどころか、商品を失うだけという事態が多く生じることが想定されるわけです。
モデル助言:
「貧すれば鈍す」
とはよくいったものです。
そんな商法で業績の回復を見込もうっていったって、続々と売買契約が成立して売上げが伸びるなんてことがありえないことは説明のとおりです。
この商法は、いかにも
「契約が成立した」
かのように消費者に思い込ませ、支払義務があるかと錯覚させることで金を巻き上げており、批判も大きなものでした。
そこで、特定商取引法により消費者保護がなされたわけですが、消費者の誤解につけ込んで商売をしようなんて考えは、このご時世御法度ですよ。
商品には自信があるのですから、リーガルリスクをしっかりとクリアして、真っ当にいきましょうよ。
売り上げが落ちたのは行政等への対処不足です。
そうと決まれば忙しいですよ。
当事務所がリーガルリスクを洗い出し、対処方法を考え出しますから、御社では、行政に叱られた点を精査して、IRを発表し、消費者をないがしろにしない体制等の整備を急いでください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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