前世紀においてもそれなりに企業不祥事が発生しその度に大々的に報道されていましたが、
「コンプライアンス」
という言葉が取り沙汰されることはありませんでした。
これは、護送船団行政と関係があります。
すなわち、20世紀の時代、企業にとっては、監督官庁こそが、法制定者であり、法執行者であり、紛争解決機関であり、神様であったのです。
監督官庁と緊密な関係を保っていれば、そもそも違反自体を逐一指摘されることはなかった(あるいは少なかった)のです。
万が一、違反が明るみになっても、監督官庁が
「何とかしてくれる」
という状況がありました。
企業の
「コンプライアンス戦略」
とは、法令や規制環境を調査することでも、法令遵守を徹底させるための教育体制やマニュアルを整備することでも、困った問題があれば弁護士に相談することでもありません。
前世紀における企業においては、
「何でも監督官庁によく相談する」
ことこそが
「コンプライアンス」
だったのです。
しかしながら、護送船団行政システムが終焉を迎え、徹底した規制緩和が行われました。
その結果、監督官庁の立場・役割は、
「法を制定し、解釈し、運用し、紛争を解決するオールマイティの神様」
から、
「法令を執行するという単純な役割(とはいえ、これが本来の役割ですが)」
に変質することになったのです。
反面、企業の負荷は増えました。
「何でも気軽に相談できる面倒見のいい神様」
がいなくなり、自前で法令を調べ、わからなかったらコストのかかる弁護士や法務部に聞き、さらに心配であれば面倒くさい事前照会制度(ノーアクションレター)を活用しなければなりません。
揉めごとが発生しても、気軽に課長や局長に面会して泣きつくことはできず、費用を支払って弁護士に弁護してもらわなければならなくなったのです。
役所の庇護から離れた企業は、
「法」
と正面から向き合うことが要求されるようになりました。
企業は、自らのコストで法令遵守や法に関連するトラブル一切を取り仕切ることが求められるようになったのです。
ここに至り、日本の産業界は、自らの費用と責任で、経営の合法性・合理性を確保する必要に迫られ、経営上の意思決定を行う上で、法務専門家(社内の法務マネージャー・スタッフや、顧問弁護士)の意見・判断を経由するようなプラクティスが生まれ、発展してきたのです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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