01138_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(4)対応のポイント>裁判官が早期に争いのある事実についての認識(心証形成)ができるよう協力する

裁判官には、事件当初から、事件の背景や全体像を詳細に理解してもらうことが重要です。

裁判官は多くの事件を抱え、常に時間がありません。

そのような多忙な裁判官にとっては、企業の生死を決するような重大な契約事故・企業間紛争や商事紛争であっても、一般的な民事事件と同じ
「どうでもいい、ロクでもないトラブル話」
の1つに過ぎません。

絶対的な訴訟遂行の権限と事実認定・法解釈判断権限を有している裁判官に、
「どうでもいい、ロクでもないトラブル話」
を聞いてもらうわけですから、よほど要領よく話をしないと、話の全体をわかってもらう前にうんざりされてしまいます。

多数の事件を抱え、常に時間に追われる裁判官は、少しでも早く事件の全体像を把握したがっています。

そして、一度把握した事件の全体像は、 よほどのことがない限り、修正したりしません(事件の全体像を何度も変遷させると、時間の無駄につながりかねません。このようなフィロソフィーは「思考経済」「訴訟経済」などと表現されます)。

したがって、事件は後半ではなく、初動段階が勝負になります。

この段階で、いかに裁判官に効率的に事件の全体像を示すかが、企業にとって勝敗を決するポイントになります。

弁護士によっては、事件の初動段階では、過剰主張を忌避する観点から、最低限の要件事実に関する主張にとどめておいて、最終段階になってから大量の主張や証拠を提出し詳細な議論を大々的に展開する、競馬でいう
「差し馬」
のような弁護活動を好む方もいます。

しかし、事件後半から巻き返そうとしても、裁判官はすでに心証を形成してしまっており、最終段階で提出された書面等はほとんど読んでいない(あるいは逆に粗探しの材料を提供するだけ)という場合が多く、
「差し馬」
型戦略は定石から外れたものと言わざるをえません。

要するに裁判官は、
「食が細い美食家」
と同じであり、前菜で料理の腕を判断してしまいます。

前菜で手を抜くと、メインやデザートでいかに美味しい料理を作っても、いい評価がもらえない、ということにつながります。

いずれにせよ訴訟は、
「差し馬」
型ではなく、
「先行逃げきり」
型の戦略を採用すべきであり、初動段階で充実した主張を展開し、重要な証拠を提出し、裁判官が早めに事件の全体像をつかめるよう誠実に協力することが、訴訟遂行上必須の対応となります。

とはいえ、きちんと調べた上で主張すべきことは大前提であり、依頼部門担当者のいい加減な話を鵜呑みにして客観証拠を精査せずに根拠のない議論を展開するのは大変危険です。

依頼部門担当者の話がころころ変わったり、後から様々な証拠が提出され客観証拠との矛盾を露呈したり、釈明に窮したりすると、挽回が不可能な状況に陥ります。

また、高度な戦略になりますが、訴訟の相手方に前半で好きなように言いたいだけ言わせて、訴訟後半から相手の主張と矛盾する客観証拠を大量に提出してそこで心証を逆転させる方が効果的な場合もあります。

無論、このような例外もありますが、裁判官によっては、一方当事者にとって小気味のいい逆転劇も、時間の浪費でありうんざりであると感じる人も相当多くいらっしゃると思われます。

民事訴訟とは、裁判官を顧客として、原被告双方が
「自己の事実認識」
という競合商品を売り込むセールス合戦であり、プレゼンテーション・コンテストです。

この観点からすれば、あらゆる訴訟上の戦略は、
「『お客様であり、神様である裁判官』の事実把握の負荷を少しでも軽減してあげる」
という“顧客第一”の発想に基づかなければなりません。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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