「効率性と低コストを追及した工場操業・製品調達」
と
「効率性を犠牲にしても法令遵守を徹底すること」
の両者の実現を同一人の責任とすることは、指揮命令に混乱を来すだけで、管理手法としては有用とはいえません。
特に、現場責任者(工場長)に、上記両課題の完全な遂行を命じることは、アクセルとブレーキを同時に踏むことを命じるもので、結果的にはJCO東海事業所の裏マニュアルのように、コンプライアンスを無視した操業が行われることにつながります。
「操業管理・調達管理」
と
「コンプライアンス管理」
は、ライン(指揮命令系統)を分断すべきであり、後者はマネジメントと直結した法務部や内部管理部等が責任をもって管理遂行し、効率性に目を奪われることなく現場の細かいところまで法令遵守の目を光らせるべきです。
賞味期限改貨事故を防止する観点から菓子製造業におけるコンプライアンス体制構築が行われた例を紹介します。
これは有用で合理的なコンプライアンス・モデルと評価されますが、
「常に操業効率化を優先する現場においては回収品の再利用や賞味期限改気を行う誘惑と危険が存在する」
という性悪説に立脚し、徹底したリスク・アプローチによる不祥事予防のための科学的・合理的体制を構築していることがわかります。
この体制は、企業法務総論で述べた企業内従業者性善説に基づく法令・倫理一体説による設計思想ではなく、大和銀行ニューヨーク支店事件大阪地方裁判所判決や性悪説に基づく法令・倫理区別説に立脚した科学的・合理的観点からの設計によるものと考えられます。
ここまで完成度の高いコンプライアンス法務(内部統制システム構築・運用法務)が行われていれば、万が一回収された廃棄品の再利用や賞味期限改賀が行われたとしても、製造現場のみが責任を負うべき行動として、企業経営陣は免責を得られますし、無論、このような消極的意義を述べるまでもなく、そのような事件が発生する可能性自体ほぼ皆無といえるでしょう。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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