01992_企業法務リスク調査手法

企業法務リスク調査は、次のような流れで進めることになります。

(1)エラーないしリスクの端緒の発見
(2)トップマネジメントによる調査の決定
(3)チームの組成とオーソライゼイション
(4)調査の実施(ファクトベース)
・ドキュメントレビュー
・インタビュー
(5)調査の実施(イッシューベース)
・関係法令の調査抽出
・エラー/リスク/事件の洗い出し
・エラー/リスク/事件の評価(リスクないし事件の重大性の評価軸と、対応情の緊急性の評価軸によるマトリックス評価)
(6)総括

ハインリッヒの法則を前提とすると、1つの重大事件があれば、29の事件ないしリスクが潜在し、さらに299の事件に発展する可能性のあるエラーないしリスクが潜在する、ということですから、実際動くと、うんざりするくらい“膿”が出てくると思います。

企業法務リスク調査手法については、該当コンテンツを参照してください。

00759_企業法務リスク発見(抽出)・特定の手法1:日本の産業界において、法務リスクを効果的に発見・特定できている企業はほとんどない

00760_企業法務リスク発見(抽出)・特定の手法2:リスクや課題の発見・特定を阻害するもの(1)正常性バイアス・楽観バイアス・常識(という偏見ないしフィルター)

00761_企業法務リスク発見(抽出)・特定の手法3:リスクや課題の発見・特定を阻害するもの(2)法の無知や無理解を引き起こす「霞が関文学」や「霞が関言葉」

00762_企業法務リスク発見(抽出)・特定の手法4:リスクや課題の発見・特定を阻害するもの(3)リスク管理に携わる実務担当者の「伝える力」の貧困さと、企業役職員の知ったかぶり

00763_企業法務リスク発見(抽出)・特定の手法5:リスクや課題の発見・特定するための具体的なスキルの実装

これらコンテンツは、もっぱら重大不祥事・コンプライアンスマターとなる事件・事案の調査手法の話であり、企業の規模や環境によっては少しモディファイが必要となりましょうが、弊著「企業法務バイブル」にても、段取りや進め方について記述しております。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01991_「会社をたたむ」相談前にすべきこと

「会社をたたみたい」
と弁護士に相談にくる経営者の10人中9人は、
「冷徹な経済合理性判断に基づいたものである」
といいます。

すなわち、
「競争環境・市場の状況を前提とすると、価格と品質両面での能率競争を、持続可能な形で展開することが不可能である、という認識・解釈・判断にいたった」
ということを口にします。

概して、資産はあるが、赤字垂れ流しで、構造改善の見込みはない、という状況です。

このような状況においては、正解はなく、正解があるかすらわからず、どの選択肢をとってもデメリットがついてくるというような(経営者にとって)未経験でアブノーマルな事態対処が目の前に存在する、ということです。

「会社をたたむ」
ことを、“唯一無二の目的”として、そのためには、いかなる手段も厭わないマインドで取り組めるかどうか、が、この難事達成の鍵となります。

ところが、相談にくる多くの経営者は、
「迷惑をかけてはいけない」
という強い思い込みにとらわれています。

思い込みが強いためか、カウンターパート(相手先)として存在する、組合労働者、一般労働者、卸先といった利害関係者が、笑顔で
「はいそうですか。じゃあ、私たちは静かに関係終了に同意します」
とは言わず、場合によっては、残された資産を狙って、妨害や攻撃に出る可能性があることを、 まったく考慮にいれません。

弁護士が、リスクの可能性を指摘すると、受け入れるどころか、否定します。

その結果、
「全員に迷惑をかけまい、として、結局、全員に不満を残しつつ、自身は財産を失う」
経営者があまりにも多いのが現実です。

まず、すべきことは、
「“唯一無二の目的”のためには、いかなる手段も厭わない」
というマインドセットです。

それは、
「我が身大事で、我が身だけを考えて、相手に迷惑がかかっても、必死で逃げ切り、追ってを振り切る」
という覚悟をするということです。

それほどの難事であり大ごとです。

正解がない状況にもかかわらず、あたかも、何か、
「正解や定石や適切なルーティンがある」
かのような錯覚に陥り、
「環境認識・状況解釈・目的設定・課題発見・手段構築・ゲームチェンジの準備」
ということを想定せず、何か、スケジュールのようなものを策定し、時間的冗長性を確保しないまま、突っ走ろうとする経営者が、難事を達成できないのは、いうまでもありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01990_「常識」対「非常識」の戦い_その3

訴訟事というものは、いわば、常識と非常識の戦いです。

たとえば、交わした契約について、更新のたびに、少しずつ書きぶりが変化し、数年たつと大きく変容していた、ということは、ままあります。

弁護士の視点では、相談してきたA氏の状況は、契約の条件交渉でもなく、金額の交渉でもなく、敗戦交渉事案です。

A氏は、ここでまた、
「常識」
と戦うことになります。

「敗戦交渉するのは、単に、武装解除して、白旗上げて、手を上げれば、それで、最低限の尊厳は確保される」
というのは、思い込みです。

負けを悟って降伏した相手を、人間として尊重し、敬意をもって処遇したのは、日露戦争の日本軍か、第二次世界大戦の英米の軍隊くらいで、強盗・レイプ集団と化した、ソ連の満州侵攻や、会津戦争の薩摩兵の狼藉ぶりの方がデフォルトイメージです。

「優位に立った非常識は、常識に遠慮するどころか、ますます図に乗り、のさばり、全てを奪っていく」
という可能性・危険性は、こういう歴史的事象から推察される真実を前提としています。

敗戦交渉するなら、最後まで抵抗する姿勢をみせ、
「いざとなったらいくらでも抵抗し、辟易させる」
と武威を示しつつ、ナメられないようにして、勝ち取るべきものです。

相手の要求したものを差し出せば、それで相手が笑って許してくれる、というものではありません。

「無駄な悪あがきをせず、コスパ重視・自尊心無視で、とっとと相手にひれ伏す」
という一方の極論と、
「たとえ、無駄とわかっても、コストをかけ、時間労力を投入し、徹底して相手にとって面倒で付加のかかる抵抗を続ける」
という他方の極論があり、その間に、
「どっちつかずの中間解がいくつか存在する」
というのが現実です。

A氏が、まずすべきことは、発想を転換すること(マインドシフトをすること)なのです。

・「常識」に囚われずに、「非常識」な事態や相手を理解・想像する
・法という「非常識」にしたがった準備を、してこなかった者は、徹底して煮え湯を飲まされる、という認識にたつ
・訴訟事において、正解はない

これら発想の転換より、
・何か、直面した課題を魔法のように消し去ってくれる、過去の過ちをすべてなかったことにしてくれる弁護士は、存在しない
という認識にたつことが先決やもしれません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01989_「常識」対「非常識」の戦い_その2

「常識」対「非常識」の戦いとは、どういうことをいうのでしょう。

たとえば、交わした契約について、更新のたびに、少しずつ書きぶりが変化し、数年たつと大きく変容していた、ということは、ままあります。

A氏は、契約更新において、その都度、内容をしっかりと把握・解釈することなく、文書に署名してきました。

数年を経て、相手方が、
「更新をするには、これこれこのような条件となる」
と、知らせてきました。

通知された側は、(内容をしっかりと把握・解釈せずに署名し続けてきた自分の行為を棚にあげ、)驚きます。

「これはひどい。あんまりではないか」
「このような通知を出すなんて、信じられない。非常識だ。今までの(私たちの)関係は、良好だったではないか」
あるいは、
「世情や環境の変化もあるだろう。このように、言ってくるのはしかたがない。とはいえ、この条件はあんまりだ。もう少し、何とかならないだろうか」
A氏は、このような考えから抜け出せません。

そして、考えに考えて、
「相手の同じ人間だ。話せばわかるはず。とはいっても、無償では聞いてくれまい。いくばくかのカネを渡せば、こちらの言い分も少しは受けて止め、きいてくれるのではないか。まあ、常識的なところで、○○円さえ渡せば、それ以上は要求せず、おとなしくなるだろう」
と思い込み、“○○円の交渉”のために弁護士に相談します。

実は、このように考える人は少なくありません。

弁護士の視点からすると、(A氏が考える)“平和”のための○○円というカネの提供は、
「相手をビビらせれば、金が出てくる」
というメッセージを相手に与えてしまい、そこから、際限なき譲歩を迫られていく、というシナリオ(無論、可能性に過ぎませんし、そこまでに至らない可能性もあるかもしれませんが)への配慮がほとんどなされていません。

(相手方からすれば)A氏をビビらせ、困惑させるネタは、これまで、(A氏本人が)しっかり内容を把握せず、あるいは、その悪意を解釈することなく、署名してきた、数々の文書からネタを引っ張れますし、
「漢字が多く、意味解釈が困難で、一見しておどろおどろしい法的手続」
を誇示してちらつかせれば、A氏はいくらでも言うことを聞いてくれる、ということを、相手方に教えています。

相手にとっては、こんなラクな相手はありません。

法律の世界では、A氏は、
「常識」
に囚われ、
「非常識」
な事態や相手を理解・想像せず、法という
「非常識」
にしたがった準備を、してこなかった者ということで、
「怠惰、唾棄すべき存在」
とされます。

このようにして
「優位に立った非常識は、常識に遠慮するどころか、(相手方は)ますます図に乗り、のさばり、全てを奪っていく」
のです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01988_問合せフォームに中傷メールが届いたときの問題の捉えかた

会社のウェブサイトの問合せフォームから、中傷メールが届いたとき、まず、すべきは、この問題をどう捉えるか、ということです。

法律問題として捉えるのか? あるいは、ビジネスマターとして捉えるのか?

仮に、ビジネスマターとして捉えるとしましょう。

正解なり定石なり、が、想定できますか?

正解なり定石なりが想定できないとすれば、最善解を追求することになりましょう。

最善解を追求するためには、試行錯誤のプロセスに入ります。

プロコン分析をし、
「ある達成課題との関係で、正解ではないにせよ、よりマシな選択肢」
を抽出し、方策を決定し、その実施を検討する、というように順を追ってすすめることです。

これらのプロセスをすべてすっ飛ばして、いきあたりばったりの対策をすると、問題は大きくなるばかりです。

もちろん、対応上の選択肢は、無限とはいわないまでも、相当多くの方法が存在するはずです。

そのなかから、選択した方策には、その意図や背景を明確にする必要があります。

ビジネスマターで対処できたものが、法律問題に発展しかねません。

法律問題となった場合、弁護士に相談することになりましょうが、問題解決には、正解なり定石は存在しません。

あるのは、最善解の追求であり、そのための試行錯誤のプロセス、選択肢、思考実験、プロコン分析をするということになるのです。

問題が大きくなればなるほど、 資源(カネと時間)が必要となることから、まずは、リテラシー水準を(弁護士と)議論可能な状態にしておくことをおすすめします。

<参考>

00791_有事(存立危機事態)対処の際のタスクアイテム

01713_🔰企業法務ベーシック🔰/企業法務超入門(企業法務ビギナー・ビジネスマン向けリテラシー)24_ネットトラブルに関する法とリスク

01420_ネットトラブル対策法務>ネットトラブル対策法務(フェーズ0)>課題概要と全体構造>課題と対応の基本>ネットトラブルの特性と対応

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01987_「常識」対「非常識」の戦い

訴訟事というものは、いわば、常識と非常識の戦いです。

そして、常識と非常識が戦った場合、常に優位に立つのは非常識です。

1 「常識」対「非常識」の戦い

法も裁判も、
「法」
という非常識を理解し、味方につけ、これにしたがって非常識でえげつない準備をした側を守り、勝たせます。

「常識」
に囚われ、
「非常識」
な事態や相手を理解・想像せず、法という
「非常識」
にしたがった準備を、してこなかった者に対しては、怠惰、唾棄すべき存在として、徹底して煮え湯を飲ませます。

優位に立った非常識は、常識に遠慮するどころか、ますます図に乗り、のさばり、全てを奪っていきます。

ですから、次のような思い込み・バイアスにおかされ、(とらわれから)一歩も出ない人は、徹底して煮え湯を飲まされる、というわけです。

・常識的に対応して何が問題だ、何が悪い。

・こっちは、常識を味方につけているんだから、一点の間違いもない

・常識と非常識が戦ったら、常識が、非常識が負けるにきまっているだろ

・常識を唱えつづけていれは、いつかは、非常識も、常識に目覚め、こちらに遠慮し、話が通じ、妥協点がみつかるだろう

このような思い込み・バイアスにおかされ、とらわれている人は、状況を認知・解釈する段階で、バイアスや妙なフィルターがあるため、弁護士が話す言葉は理解できたとしても、話が通じないのだと思います。

いわば、天動説を盲信するバチカンの天文学者のようなもので、これは終生治らないかもしれません。

ちなみに、天動説が地動説に変わったのは、天動説を唱えるバチカンの学者が、観測結果や理論的整合性を理解納得し、頑迷固陋を捨て、説を変更したから、というわけではありません。

天動説を唱える学者は、どんな観測結果や整合する理論を示されても、死ぬまで、自説を変えませんでした。

天動説が地動説にとって変わったのは、天動説を唱える学者が全員死に絶えたからです。

バチカンは、1990前半まで天動説を正当としていました。バチカンが地動説を認めたのは、1993年になってからです。

ですので、このような、死ぬ思いで、発想の転換というか、マインドシフトをしないと、戦略はおろか、状況解釈そのものが共有できませんので、そもそも戦う前提が整いません。

2 正解はなく、あるのは地獄の選択だけ

訴訟事において、正解はありません。

「何か、直面した課題を魔法のように消し去ってくれる、過去の過ちをすべてなかったことにしてくれる、そんな便利で、身勝手な妄想を叶えてくれる、魔法が存在し、その魔法を使えるのが、弁護士だ」
と思う人は、少なくありません。

これは大きな勘違いです。

弁護士は、正解なき状況においては、失敗の先延ばしのため、無駄なあがきの支援しかできません。

とはいえ、この程度の悪あがきをするだけでも、時間、費用、エネルギーといった資源動員が必要になります。

無駄な悪あがきは、文字どおり、
「無駄」
であり、抜本的解決策はなく、相手を辟易させ、面倒な状況を作出し、そこで、ほんの少し妥協を引き出す効果しかありませんし、この手の悪あがきに対する耐性がある相手方には、まったく無益です。

その意味では、
「無駄な悪あがきをせず、コスパ重視・自尊心無視で、とっとと相手にひれ伏す」
という一方の極論と、
「たとえ、無駄とわかっても、コストをかけ、時間労力を投入し、徹底して相手にとって面倒で付加のかかる抵抗を続ける」
という他方の極論があり、その間に、
「どっちつかずの中間解がいくつか存在する」
というのが現実です。

そして、そのすべてが正解ではない、ということなのです。

この状況を理解できない人は、(訴訟事について、弁護士が)何を話しても、受容能力の前提がない(聞く耳をもたない)ということですから、
「弁護士とコミュニケーションを取るのは時間の無駄」
になる可能性は否めません。

戦う間にすべきこと(弁護士に相談する前にすべきこと)は、実は、
「常識と非常識が戦った場合、常に優位に立つのは非常識」
「正解はない」
と、発想を転換すること(マインドシフトをすること)といっても過言ではありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01986_企業法務ケーススタディ(No.0373):紹介された“非常に儲かる投資商品”ついて気をつけることは?

【企業法務でありがちなケース・情景】

非常に儲かる投資商品を紹介されました。

外資系の証券会社の案内で、一口が結構な金額するので、特定のお金持ちにしか紹介しないものだそうです。

仕組みは複雑でよくわからないのですが、しっかりとした会社のようですし、担当者の方も、大手証券会社ご出資の方で、いい加減な話ではなさそうです。

専門外かもしれませんが、なにか、助言というか、気をつけるべき点があれば、教えて下さい。

【畑中鐵丸弁護士の助言・アドバイス・御指南】

まず、この種の案件評価も、ビジネス弁護士や企業法務弁護士の大きな役割です。

したがって、専門外ということはありません。

実際、顧問弁護士の立場で、経営者の知恵袋として、投資案件の評価・助言をすることがあります。

参考になると思われますので、よく似た事例を紹介します。

顧問先の経営者が、知り合いの経営者から紹介された、
「投資のプロ」
と称する、極めて高度な投資理論を使った、安全で、儲かる投資案件を持ち込まれ、その評価・助言を求めて、当事務所で面談しました。

自称「投資のプロ」
は、高そうなスーツに、高いネクタイをぶら下げて、理解したがたい、難解な理屈を並べ立てて、自分が提案する投資案件がいかに儲かるか、どれほどの投資家がこぞって投資を望んでいるか、を滔々と述べ立てます。

私は、コメントを求められ、
「私にはわかりません。理解できません」
と返答しました。

自称「投資のプロ」
は、
「弁護士さんには難しいでしょうね。新しい投資商品ですから」
などとやや小馬鹿にしたような目線で返し、
「じゃあ、進めてよろしいでしょうか?」
と畳み掛けます。

私は、
「いや、やめておいた方がいいでしょう」
と答えました。

場が凍りつきます。

私は続けます。

「先程から、いろいろ小難しい話をされていますが、これって、たかが金儲けの話。
儲かる話、の説明ですよね。
1万円札を5千円で買って、買った1万円札を2万円で売れる。
そんな程度の話ですよね。
別に量子力学の議論をしているわけでもないし、ホッジ予想やリーマン予想の話でもない。
単なる金儲けの話。
そんな単純な話なのに、私は全く理解できない。
『たかだか金儲けの話なのに、この私が理解できない』という点が問題なのです。
言えば嫌味になりますが、私は東京大学教養学部文科一類、通称東大文一に現役合格しております。
バカでは合格できません。
相応に国語読解能力が必要です。
したがって、私は、世の中の方々の平均以上に国語読解能力があります。
その、東大文一現役合格した私がもっている国語読解能力を総動員しても、あなたがおっしゃる、たかが金儲けの話なのに、理解できない。
別に、宇宙の成り立ちの話ではない。
ニュートリノの話でも、メッセンジャーRNAの話でも、ポアンカレ予想の話でもない。
何度もいいますが、たかが、金儲けの話です。
にもかかわらず、東大文一の国語読解能力を総動員して2回繰り返し聞いても、どういう構造と論理で儲かるのかが理解できない。
この場合の可能性は2つしかない。
1つは、『あなたが、東大卒の想像と理解を絶するほど非常に高度に知的で、話されている内容がabc予想や量子力学並に難解で、そのために、東大卒風情の私が理解できない』という状況。
あるいは、『あなたが話している内容が狂っているか、騙そうとしているから、東大卒の知性と理性を総動員しても、混乱した内容なので理解できない』という状況、のどちらかだ。
で、失礼ですが、あなたの学歴をお尋ねしてよろしいでしょうか。」
と。

そうしたところ、
自称「投資のプロ」
は、そそくさと逃亡しました。

あとでよく聞いたところ、マネロン絡みのリスクの高い取引のブリッジファイナンスで、
「1万円札の洗濯をお願いするのに5万円払って、一歩間違うと、犯罪行為に加担したとされるリスクを引き受けてもらう」
という話でした。

犯罪行為の加担としての
「お金の洗濯の資金と名義協力」
を、
「投資商品」
と言い張るため、東大卒の頭脳では、理解できなかったというオチでした。

高いネクタイ、高いスーツ、外資系、留学歴、そういう幻惑アイテムにごまかされてはいけません。

「自分以外の他人は一切信じず、他者の悪意を予測しつつ、他者の愚考や愚行を想定しつつ、非常識であっても、怒られても、睨み返されても、合理的に考え、自分の頭で考え抜いた予測や想定する」
ということを徹底しないと、お金をなくします。

それまで経験したことのない事業や取引や非常識なまでに高額の財産をめぐる処理にトラブルが発生し、裁判になって、負けて、全てを失った方は、異口同音にこういう言い方をします。

「自分は何も悪いことをしていない。相手を信じただけだ。常識にしたがっただけだ。なのに、なぜ、財産を失い、破滅することになるのだ」
と。

「相手に信じた」こと、
「常識に従った」こと、
それが諸悪の根源です。

「それまで経験したことのない事業や取引や非常識なまでに高額の財産をめぐる処理」
において、相手を信じたらおしまいです。

「それまで経験したことのない事業や取引や非常識なまでに高額の財産をめぐる処理」
において、常識を働かせたら死ぬだけです。

他人はすべて信じない。

自分以外の他人は一切信じず、他者の悪意を予測しつつ、他者の愚考や愚行を想定しつつ、非常識であっても、怒られても、睨み返されても、合理的に考え、自分の頭で考え抜いた予測や想定を披瀝する。

当然、喧嘩になる。

喧嘩になった場合も当然想定しておく。

そして、後で行う喧嘩を先にやっておく。

先に
「目先の波風」
を立てておかないと、後から津波に襲われます。

「それまで経験したことのない事業や取引や非常識なまでに高額の財産をめぐる処理」
においては、
「自分以外の他人は一切信じず、他者の悪意を予測しつつ、他者の愚考や愚行を想定しつつ、非常識であっても、怒られても、睨み返されても、合理的に考え、自分の頭で考え抜いた予測や想定する」
ことだけが破滅から救い、未来を創り出します。

自分でやり切る自信がなければ、弁護士や専門家を雇えばいい。

なんとなれば、
「ビジネス社会においては、カンニングあり」
なのですから。

優れた人ほど、他人を信じませんし、常識を無視しますし、目先の波風を立てることや、後でする喧嘩を先にしておくことを厭いません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01985_企業法務ケーススタディ(No.0372):契約期間中に内容変更のあった契約を、当初の契約どおり2年で終了できるか

【企業法務でありがちなケース・情景】

2年契約で結んだ契約でしたが、思ったように効果が出なかったので、2年で終了しようと考えていました。

なお、契約期間中に、相手の都合で契約内容に変更がありましたが、いつの間にか、契約内容変更の時点からさらに2年という契約になっており、契約相手から契約は続く、と言われてしまいました。

そもそもなぜこういうことが起こったのでしょうか?

こういうケースで、なんとか当初の契約どおり2年で終了させることは可能でしょうか。

【畑中鐵丸弁護士の助言・アドバイス・御指南】

「相手の都合で契約内容に変更があり」
ということですが、そこで、変更した契約にハンコを押しているはずです。

おそらく、契約内容変更の際に、変更された契約書か、あるいは変更の覚書をよく読んでいなかったことが原因です。

契約は、認識していたこと、思いこんでいたこと、想定していたことは無意味で無価値であり、書かれたことがすべてです。

変更されたときに押印したのが覚書だろうが、確認書だろうが、どんなライトでカジュアルなタイトルであっても、契約書と同等の効力があり、上書きされた場合、直近の契約書に書き換わります。

一般に、ビジネスパースンは、契約書を読むのが苦手です。

甲とか、乙とか、出てくると、ブラックアウト(視力喪失)になる方もいらっしゃいます。

あるいは、契約書をみると、南妙法蓮華経とか、摩訶般若波羅蜜と、同程度にしか理解できない、とおっしゃる方もいます。

まだ、そういう形で、素直にギブアップしてもらえればいいのですが、
「バカと思われたくない」
「体面にかかわる」
「俺は学歴はなくても、知性はある」
という意地とプライドで、読んだふり、知ったかぶりをして、
「よく理解できていません」
ということを言わないまま、署名押印する人もいます。

最悪なのは、契約書を読んでも理解できないとき、契約書を作成した契約相手の説明を聞いて、納得する場合です。

泥棒にカネを預けるような危険な行為ですし、絶対推奨できません。

なぜなら、契約相手は、無知な人間や、理解していない人間や、字や文書をよく読めない人間に、本当のことを言う必要はないからです。

美しい誤解はそのままに、そっとしておく、のがビジネスの世界のルールです。

読まない奴が悪い、相手を信頼した奴がアホ、大事な契約をするのに時間を惜しみ、手間を惜しみ、署名したことが命取りになる、それだけの話です。

「どうすれば良かったのか!?」
と言われそうですが、まず、
「自分は契約書を読む能力がない」
「(契約書は)李白や杜甫の五言絶句の漢詩にしか見えない」
ということを素直に認めることが最初です。

また、自分で読めなければ、がんばって時間をかけて読む必要はありません。

ビジネスの世界では、カンニングは推奨される行為です。

部下で契約書を読める人間、部下も読めなければ、顧問弁護士なり依頼した弁護士に、
「この意味不明な呪文ないし暗号は一体なんて書いてありますか」
ということをカネを払ってカンニングすればいいだけです。

あと、カンニングする場合、“誰にカンニングさせてもらうか”は大事です。

契約の相手の助言は絶対聞いてはいけません。

嘘は言わないでしょうが、本当のことや、自分たちに不利なことまで言う義務はないので、有害なノイズしか聞こえてきません。

いずれにせよ、変更の際の上書きが有効になっているので、
「初の契約どおりにしろ」
というのは寝言扱いになっている可能性が大きいです。

あとは、契約書に書かれた相手の義務の不備や未完成の点があればそれを持ち出して、期間満了を待たずに、契約解除を主張して、途中解約扱いとして、合法的に契約料金を踏み倒す。

もし不備や未完成がなければ、言いがかりでも因縁でもなんでもつけて、あるいは、あら捜しをして、あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、裏技、反則技を使って、契約終了の理由を構築して、紛争状態に持ち込んで、妥協や譲歩のノリシロを作って、最後は手打ちする、というところでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01984_試用期間明けから意図的なサボタージュと考えられる行動を続ける社員がいる状況とは

従業員が、(言や策を弄して)業務上疾病との認定を得ると、会社としては、会社に来ない人間に対して長期間相当な金銭提供をせざるを得ません。

さて、中途で入社した男性社員が、試用期間あけから、意図的なサボタージュと考えられる行動を続けたケースがありました。

男性社員は、いろいろ理由をつけては会社に来ようとせず、かといって、退職するわけでもありません。

病院通いをほのめかすものの診断書を出すわけではなく、また、言外に、
「こんなに不調になったのは会社のせいだ」
と言わんばかりの状況です。

男性社員には、上司としての女性社長と年下の部下しかいないため、パワハラはおろか、仕事は当該社員の専権で行われているのに近い状態で、接点も乏しく、意図を感じざるを得ないサボタージュのような推定が成り立つ状況です。

当該社員は、弱者を装っていますが、その行動だけを拾っていくと、明らかに、常識や理性を共有せず、去就を明らかにすることなく、法の限界を知悉しつつ、合法的に会社に居座り続け、会社の資源を消耗させ続ける態度を取っており、十分タフと評価できます。

会社側から相談を受けた弁護士は、会社側から詳細を聞き取りしたうえで、課題整理と選択肢抽出をします。

無論、選択肢は完全ではありませんし、
「状況を、低コストに、短時間に、打開させ、一挙に相手をひれ伏させる魔術」
のような都合のいい選択肢は、ありません。

要するに、正解はなく、選択肢のどれもが不満足な要素を含む不完全解しか存在しません。

しかも、最善解に辿り着けそうだが、その手前に、リスクやコストや資源消耗が立ちはだかる、厄介な選択課題です。

誰も最善の選択を教えてはくれませんし、それ以前に、知りません(弁護士ですら知りません)。

弁護士ができる支援パッケージは、せいぜい、

・可能な限り多くの選択肢を抽出すること
・当該選択肢に「客観的かつ冷静に」プロコン評価を加えること(プロジェクトーナーの顔色を伺ってバイアスやフィルターやセンチメントを加えず、プロとして、経験と知識に基づき、シビアに提示する)
・どんな選択肢であれ、きちんとした選択をプロジェクトオーナーが行った限り、当該「(不完全な)選択肢」を、正解は無理でも、最善解に近づける努力をする
・状況が変わったり、プロセスが進捗して、さらなる選択肢が浮上してきたり、環境が変化すれば、さらなる選択課題に向き合って支援を深掘りしたり、ゲームチェンジに対応する

ということです。

そもそも、この状況は、
採用は自由だが、一旦採用したら、どんなに問題社員でも、定年まで居座られる」
という法現実をふまえず、安易・安直に採用したトップのミスが、足を引っ張り続けている状況です。

有耶無耶に放置すると、(会社の規模にもよりますが)会社存続に関わるほどの大問題といっても過言ではありません。

昨今は、法の限界を知悉しつつ、“合法的に会社に居座り続け、会社の資源を消耗させ続ける”、この種の悪質な企業への攻撃が増えている、という社会背景があります。

会社としては、強い気構えで対処すべき必要があります。

この打開するのは、トップであるプロジェクトオーナーしかいません。

選択の権限と責任は、トップであるプロジェクトオーナーにあるのですから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01983_英文契約の対処課題

英文契約を取り交わす場合、いくつかのレベルに分類されている不安や悩みが生じるものと考えられます。

そして、それは以下のような段階をおって、課題が精緻化・特定されます。

1 (外国語で書かれてあるため)言葉がわからず、何が書いてあるかわからない

2 (言葉はわかるが)意味がわからない

3 (言葉や意味は理解できるが、概念や状況を共有できず、経験を前提として理解できる事柄について経験がないため)状況や環境を具体的にイメージしたり理解することができない

4 (言葉や意味はわかるし、状況や環境も理解できるし、状況や環境が我が身に及ぼす影響も解釈し一定の理解はできているが、)理解している事柄が、本当にそのような理解で差し支えないかどうか、確認してほしい

さらに、前段階としては、取引の合理性を確保する前提として、

A)取引を具体化(ミエル化)する【正常性を前提とした具体化】

B)具体化された取引の耐性検証する(時間や状況を変更してもなお目的合理性を維持しうるか、また、仮に耐性を喪失するとすれば、どのような担保を以て安全保障とすることが可能か)【病理性を前提とした具体化】

C)以上により具体化された取引内容を言語化する

D)取引内容を記述する【タームシートレベル】

E)取引内容を契約文書化する(ここから、契約文書化のプロセスとして意識され、遂行される。受け手側の場合、上記フローでレビュープロセスを完成させていく。)

というプロセスが前置されます。

海外取引では、

・取引内容そのものの十分な合理性検証
・取引内容そのものの十分な病理性検証(ストレステスト)
・相手方提示契約書の言語解読のみならず意味理解に至る十全なご理解・解釈
・相手方提示契約書記述内容について、概念や状況を共有でき、経験を前提として理解できる事柄についても十分な経験値において把握しており、契約に記述された抽象的内容が、すべて状況や環境を具体的にイメージしたり理解したりすること
・以上の理解については、二義を容れず具体的かつ明確なレベルで認識できており、コンファームやバックアップレビューも特段必要と感じないこと

という前提において、取引を進めていくことです。

そのためにも、前段階としての(A)~(D)や、1~4の検証を十全に行うことです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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