01144_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>不祥事等対応法務(フェーズ4B)>(1)「企業の法令違反行為に起因する有事」における2種類のケース

企業の対外的信用に影響を及ぼすような法令違反の事態が発生した場合としては、2つのケースが考えられます。

1つは、企業が自らのビジネスジャッジメント(経営判断)としてリスクテイクした事業分野において、ある程度予測していたリスクが、具現化するケースです(事前想定リスク実現型有事)。

もう1つは、適正な内部統制システムを構築し不祥事予防を徹底したものの、企業内従業者の暴走等により不祥事が発生し、企業が予期せざる形で法令違反行為に関与し、このことに起因して有事に至るケースです(想定外リスク発生型有事)。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

運営管理コード:CLBP123TO123

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01143_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(4)対応のポイント>裁判官に書面を読んでもらうための工夫>主張設計の方法

事実を述べる際には、
「具体的な事実を、客観性がある形で、あるいは相手が争いようのない形で呈示」
していくと、裁判官としては非常に事案を認識しやすい、ということになります。

明らかに相手が否定するであろう事実をことさらに挑発するような形で主張することは、紛糾の原因になるだけで、時間とエネルギーの無駄ですし、裁判官もあまり良い印象を持ってくれなくなります。

訴訟上の重要な争点は別として、言い分を述べていくときには、客観的証拠(公的な文書や相手の自認文書)が残っている事実や相手が認めざるをえない事実を丁寧に拾いながら、客観性を保ちつつ文書として構築していくと、無用な紛糾が避けられますし、裁判官も審理を進めやすくなり、歓迎されます。

この点で一番効果的なのは、相手方作成の文書の相手方が自認している事実を巧みに引用しながら、全体として相手方が認めない結論を導き出すというもので、日常生活では
「揚げ足取り」
等と呼ばれる方法です。

すなわち、空手において拳を相手に向けて押し出すような形で、自己の主張を威嚇しながら声高に叫んでみたところで、相手は反発するだけで
「そんなの所詮あなたが勝手に言っている事実であって、私の認識とは違う」
と言われるだけです。

ところが、合気道において相手の攻撃してきた手をつかんで相手の勢いをそのまま利用しながら攻撃を加えるが如く、
「相手が認めている事実や相手も争いようのない客観的な事実を拾い出し、合理的なロジックを使いながら、自分の誘導したい結論を導く方法」
は、相手としても応戦しにくくなる上、
「ロジックの合理性だけを検証すれば足りるので、審理が全体的に効率化される」
という点において、裁判所にとっても歓迎されます。

とはいえ、詭弁ともいえるような無茶なロジックを多用し過ぎると、かえって紛糾が拡大し、裁判所から嫌われます。

揚げ足取りを行う際は、
「裁判所も納得するような穏当にみえるロジック」
を用いて主張を構築することが必要です。

運営管理コード:CLBP122TO122

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01142_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(4)対応のポイント>裁判官に書面を読んでもらうための工夫>要件事実を意識した主張

裁判官の頭の中では、全ての事実を同じ意味において認識することはしません。

裁判官は、常に、
「紛争解決を導く上で必須あるいは本質的な事実」

「そうでない事実(=決定的とはいえない事実)」
についても
「重要なもの(事件を解決する上で考慮すべき事実)」

「不要なもの(全くどうでもいい事実)」
という形で事実を階層化して認識していきます。

「紛争解決を導く上で必須あるいは本質的な事実」
を、法曹界の業界用語で
「要件事実」
などといいますが、提出文書においては、このポイントを押さえることが必要です。

その他の事実(業界用語で「間接事実」ないし「事情」と呼ばれる事実です)についても、無論、重要なものを中心に述べていくわけですが、ここで押さえておくべきことは、
「重要かどうか」

「社会常識や当事者の経験や認識から重要と感じられるかどうか」
と必ずしもイコールではない、ということです。

すなわち、事件解決に重要かどうかは、あくまで
「『学歴社会の頂点に立ち、俗世の芥から隔絶した静誰な生活を送っている裁判官の経験則』からみて重要かどうか」
ということです。

弁護士の中には
「依頼者の主観に基づく重要性認識」
に振り回され、全くどうでもいいことを延々議論し、裁判官をウンザリさせることを平然となさる方がいらっしゃいます。

当事者の方は
「自分の言いたい事は全て言ってもらってスッキリした」
と感じ、弁護士も
「どうだ! 見たか!」
としたり顔ですが、フタを開けてみると、無残な敗訴判決になっている場合が少なからずあります。

したがって、常に、事件の経緯や背景を語るときは、
「裁判官目線で、裁判官の嗜好に合わせて、適度に行うこと」
が必要です。

運営管理コード:CLBP121TO121

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01141_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(4)対応のポイント>裁判官に書面を読んでもらうための工夫>“法曹禁止用語”

一般のビジネスパースンの方からは意外に思われるのですが、弁護士は事実を語るのであって、相手を非難するのが活動の本質ではありません。

裁判所としても、事実に基づいてどちらかの当事者を勝たせるのであって、人間性や雰囲気や印象によって勝ち負けを決めているわけではありません。

その意味では、書面に
「不当」
「非常に公平を欠く」
「誠実とはいえない」
「明白に虚偽といえる」
「明らかに矛盾する」
等派手な修飾語を書きつらねられても、裁判官には全く通用しません。

裁判官としては、
「何時、誰が、どこで、どのようなことを、何回した」
から
「不当」
というのか、評価の根拠となるべき事実を知りたいのです。

裁判官の中には、当事者の書面から修飾語を、意識の上で墨塗りして読む人もいると聞きます。

しかし、死ぬほど忙しい裁判官にいちいち墨塗りする手間をかけさせるのもよくないので、
「評価の根拠となる事実を書かず、華麗な修飾語やレトリックで相手を非難し、書き手の弁護士と当事者だけが悦に入っているような文書は、原則NG」
と考えておくべきです。

実際
「訴訟によく勝つ弁護士の文書」
を読みますと、主観的な印象や評価が全く書かれておらず、客観的な事実だけを拾っただけのシンプルな文書で、全体として拍子抜けするほど素っ気ない書きぶりです。

ですが、そういう文書ほど、裁判官にとっては、スッと事実関係が頭に入ってきて、知らない間に頭の中が
「書き手のシナリオ」
で染め上げられてしまうものなのです。

評価の根拠となる事実で
「相手方が争いえないもの」
を丹念に積み上げ、相手方を非難する形容詞を一切使わずとも、相手方の行動の不当性が文書全体として滲み出てくるような文書こそが、
「訴訟において勝てる文書」
といえます。

運営管理コード:CLBP120TO121

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01140_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(4)対応のポイント>裁判官に書面を読んでもらうための工夫>10頁の原則

提出書面については
「適度な文書ボリューム」
というのが存在しますが、これは、概ね裁判所提出用の推奨書式に基づき作成された書面で10頁といわれています。

ちなみにこの
「裁判所提出用の推奨書式」
にいう
「1頁」
とは、A4横書き・12ポイントの文字で37文字×26行=962文字を指します。

訴訟当事者からすると言いたいことは山ほどあるのでしょうが、高度な専門性を持つ知的財産権訴訟や複雑な会計上の議論等を含む商事紛争を別とし、通常の契約事故・企業間紛争に関する訴訟であれば、だいたい10頁もあれば相当な情報量になるので、これ以上書くと裁判官が読まない(読んだとしても、ポイントを絞りきれず、認識が希薄になる)可能性が出てきます。

ですので、ある程度複雑な事象説明でも、提出書面1通につき、10頁以内に収めることが推奨されます。

実際、著者が体験したある事件で、事件の引き延ばしを図る相手方が300頁にわたる書面を提出し
「これに反論してみろ」
と威嚇的に要求してきたことがありましたが、この事件の裁判長は
「ま、過ぎたるは及ばざるが如し、などといいますから、あまり量が多いと、私たちが理解できないことがありますよ」
と笑いながら相手方代理人を窘(たしな)めていました(なかなかユーモアセンスのある裁判官です)。

そして、主張書面としてはシンプルでソリッドなものとしておき、詳細は図(チャートやマトリックス)や年表、別紙で表現する、という方法も有効な場合があります。

運営管理コード:CLBP119TO120

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01139_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(4)対応のポイント>裁判官に書面を読んでもらうための工夫

訴訟においては、訴状、答弁書、準備書面という形で訴訟の進行に応じて様々な書類を裁判所に提出します。

法律家は、複雑な事象を難解に表現した大量の文書に常に接しているため、速読に長けており、裁判官も例外ではありません。

ですが、
「速読に長けたスーパーマン」
である裁判官といえども、仕事として義務感で遂行するからこそ複雑な事象を難解に表現した大量の文書を読むことをするわけで、このような文書を長時間読まされることが苦痛なことには変わりありません。

訴訟事件というのは、過ぎ去ってしまったことを、不明確な記憶や、曖味な証言、決定的ではない資料を頼りに、相互の主張が食い違う事実の存否を言い争うものであり、事件に利害のない裁判官にとっては当該事件の書類には
「関心も興味もないことが大量に書いてある」
と映ります。

裁判官にとって、
「自分に関心も興味もない、つまらないことが延々書いてある長文」
を読めというのは、上記のとおり非常な苦行であり、紛争当事者やその代理人が裁判官に求めていることは要するにそういうことです。

裁判官はお客様、お客様は神様
であり、
「『訴訟において言い分を書いた書面を提出するということ』は、『尊い神様に苦行を強いている』のと同じである」
ということですので、
「『自己の事実認識』という競合商品を売り込むセールスマン」
である弁護士としては、神様・お客様とも擬すべき裁判官を、少しでも苦行や負担から解放させてあげるよう努めることが必要となります。

要するに、
「言いたいことを、言いたいだけ、言いたいように書きつらねる」
という書面作成方針は、
「神様・お客様」
である裁判官の印象を非常に悪くするわけであり、後日、
「崇り・注文見合せ」
ならぬ
「敗訴判決」
が下されることになります。

逆に、少しでも楽に読んでもらうため、提出文書に工夫や配慮をしておくと、心証獲得面でよい結果が出る可能性につながります。

訴訟弁護士は、裁判に勝つため、あるいは和解交渉を有利に進める環境を作るため、それぞれ独自の方法で、提出書面に
「読ませる工夫」
をしているようですが、筆者が裁判所提出書面作成上、注意しているポイントをいくつか紹介します【01140】【01141】【01142】【01143】 。

運営管理コード:CLBP118TO119

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01138_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(4)対応のポイント>裁判官が早期に争いのある事実についての認識(心証形成)ができるよう協力する

裁判官には、事件当初から、事件の背景や全体像を詳細に理解してもらうことが重要です。

裁判官は多くの事件を抱え、常に時間がありません。

そのような多忙な裁判官にとっては、企業の生死を決するような重大な契約事故・企業間紛争や商事紛争であっても、一般的な民事事件と同じ
「どうでもいい、ロクでもないトラブル話」
の1つに過ぎません。

絶対的な訴訟遂行の権限と事実認定・法解釈判断権限を有している裁判官に、
「どうでもいい、ロクでもないトラブル話」
を聞いてもらうわけですから、よほど要領よく話をしないと、話の全体をわかってもらう前にうんざりされてしまいます。

多数の事件を抱え、常に時間に追われる裁判官は、少しでも早く事件の全体像を把握したがっています。

そして、一度把握した事件の全体像は、 よほどのことがない限り、修正したりしません(事件の全体像を何度も変遷させると、時間の無駄につながりかねません。このようなフィロソフィーは「思考経済」「訴訟経済」などと表現されます)。

したがって、事件は後半ではなく、初動段階が勝負になります。

この段階で、いかに裁判官に効率的に事件の全体像を示すかが、企業にとって勝敗を決するポイントになります。

弁護士によっては、事件の初動段階では、過剰主張を忌避する観点から、最低限の要件事実に関する主張にとどめておいて、最終段階になってから大量の主張や証拠を提出し詳細な議論を大々的に展開する、競馬でいう
「差し馬」
のような弁護活動を好む方もいます。

しかし、事件後半から巻き返そうとしても、裁判官はすでに心証を形成してしまっており、最終段階で提出された書面等はほとんど読んでいない(あるいは逆に粗探しの材料を提供するだけ)という場合が多く、
「差し馬」
型戦略は定石から外れたものと言わざるをえません。

要するに裁判官は、
「食が細い美食家」
と同じであり、前菜で料理の腕を判断してしまいます。

前菜で手を抜くと、メインやデザートでいかに美味しい料理を作っても、いい評価がもらえない、ということにつながります。

いずれにせよ訴訟は、
「差し馬」
型ではなく、
「先行逃げきり」
型の戦略を採用すべきであり、初動段階で充実した主張を展開し、重要な証拠を提出し、裁判官が早めに事件の全体像をつかめるよう誠実に協力することが、訴訟遂行上必須の対応となります。

とはいえ、きちんと調べた上で主張すべきことは大前提であり、依頼部門担当者のいい加減な話を鵜呑みにして客観証拠を精査せずに根拠のない議論を展開するのは大変危険です。

依頼部門担当者の話がころころ変わったり、後から様々な証拠が提出され客観証拠との矛盾を露呈したり、釈明に窮したりすると、挽回が不可能な状況に陥ります。

また、高度な戦略になりますが、訴訟の相手方に前半で好きなように言いたいだけ言わせて、訴訟後半から相手の主張と矛盾する客観証拠を大量に提出してそこで心証を逆転させる方が効果的な場合もあります。

無論、このような例外もありますが、裁判官によっては、一方当事者にとって小気味のいい逆転劇も、時間の浪費でありうんざりであると感じる人も相当多くいらっしゃると思われます。

民事訴訟とは、裁判官を顧客として、原被告双方が
「自己の事実認識」
という競合商品を売り込むセールス合戦であり、プレゼンテーション・コンテストです。

この観点からすれば、あらゆる訴訟上の戦略は、
「『お客様であり、神様である裁判官』の事実把握の負荷を少しでも軽減してあげる」
という“顧客第一”の発想に基づかなければなりません。

運営管理コード:CLBP116TO118

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01137_民商事争訟法務における対応の基本・ポイント_納期厳守

民事訴訟法改正を契機として、民事訴訟実務が大きく変化し、法改正後約四半世紀を迎え、このような変化もすでに実務運用として定着してきました。

企業の民商事争訟法務(契約事故・企業間紛争対応法務)に関しても、当然このような変化に対応することが求められます。

民事訴訟法改正による実務の大幅な変化という点もふまえ、企業として契約事故・企業間紛争に起因した民商事訴訟に関わる場合における訴訟対応の実践的なポイントを述べていきます。

訴訟弁護士といっても、民商事訴訟法改正により大幅な権限を付与された裁判所からみれば、
「裁判所というお役所に出入りし、『入札受注』ならぬ、『判決』という結果を欲する外部の業者」
と同じです。

「出入りの業者“風情”」
が納期を遅らせたら出入禁止になってしまうのと同様、弁護士にとって裁判所が指定した主張書面や証拠提出の納期厳守は絶対です。

訴訟を遂行する上では、様々な課題(言い分の整理や言い分の裏付けとなる証拠)の提出が要求され、その全てについて納期が設定されます。

例えば、
「いついつまでに、この点を調べてこい、この点について主張内容を整理しろ、こういう証拠があれば出せ」
という具合に裁判所から要請されます。

また、法廷や弁論準備室でのやりとりは時間が限られていますので、期日での時間を効率的に使うためには、議論の素材である主張や証拠は事前に提出しておくべき必要があります。

この観点から、課題提出期限は、弁論期日等出頭日の1週間前等の前倒しで設定されますが、無論これも納期厳守が求められますし、仮に納期が維持できないようであれば、いわゆる報連相(報告・連絡・相談)を行い、事前に対応を協議しておく必要があります。

訴訟遂行上、納期厳守や遅れた場合のフォローなどは、単純なことですが、少しでも裁判官の心証をこちらに有利に運ぶためには重要です。

民事訴訟法改正前から活動されている弁護士の中には、この種の期限遵守にルーズな人もいますが、基本的にこういう弁護士は裁判官に嫌われます。

そして、
「期限も含め、約束というものは、全て厳守すべし」
という生来的気質を有する裁判官が当事者の生殺与奪を握っていることも考えれば、裁判官に嫌われることは訴訟対応戦略としては推奨できません。

この点は、控訴審における控訴理由書提出期限についても同様です。

ルーズな弁護士の中には、
「控訴理由書提出期限は一種のガイドラインに過ぎないから、控訴理由書提出期限に遅れたからといって却下はされない」
などとうそぶき、平然と控訴理由書提出期限に遅れて提出する方もいらっしゃいます。

しかし、前述のとおり、
「時間にルーズな弁護士が裁判官から嫌われる」
という前提は、
「書かれざるルール」
としてきっちりと把握しておくべきことは当然です。

そもそも、裁判官という人種は、どんな人種でしょうか?

もう少し詳細に分析してみます。

「裁判官(書記官を経由した簡裁判事を除く)」
という属性をもつ集団は、中央省庁のキャリア組と肩を並べるほど、東大法学部卒占有割合が高く、しかも、その圧倒的大多数を占める東大法学部卒の裁判官は、官僚と違って、司法試験に20代前半くらいに合格しており、かつ、司法研修所の成績も相応の好成績を修めている、という方々です。

おそらくそういう方々は、小学生から以来ずっと、宿題なり課題なりレポートなり、およそ提出期限とか納期とか言われるものは、すべからく期限遵守してきて、それが人生の基本と考えているようなタイプの人種です。

そうでないと、東大に合格したり、司法試験を若い時分に、高い成績順位で合格したりできませんし、研修所も好成績を取れませんし、裁判官になりたくても、任用当局(最高裁事務総局)からお声がかかりません。

憚りながら、筆者自身が、そういう経歴スペックに近似した経歴を持ってしまっているので、裁判官の思考や感受性は、
「(是非は別として、)理解できるか理解できないか」
と言われれば、よく理解できてしまいます(なお、理解はしていても、弁護士稼業をしている関係で、周囲にそれを期待するほど幼稚ではありません。在野の弁護士を四半世紀もしていると、
「世の中のほぼすべてがいい加減でだらしない方々である」という現実を認識できる程度には世情に通じています)。

とはいえ、弁護士といっても、いろいろな方がいらっしゃり、
「東大に合格できず、司法試験に合格はするものの、『若い時分に、高い成績順位で合格』することが叶わず苦節○年でようやく合格し、司法研修所でも好成績を取れず、裁判官になりたくても、そのはるか以前の段階で、任用当局からお声がけされる対象から外れてしまっており」
という形で、弁護士以外の選択肢が事実上存在しない状況で、当然の進路として弁護士となったような方もいます(「『東大に合格し、司法試験を若い時分に、高い成績順位で合格し、研修所も好成績を修め、裁判官に任官しないか、と任用当局からお声がかかる』というタイプの法曹」が優れていて、「そういうプロファイルを持っていない法曹」がダメだ、と言っているわけではありません。単純に、「弁護士という属性をもつ集団ないし組織の中も、細かに観察すれば、様々な経歴上の偏差が有意かつ顕著に存在する」という事実ないし現実を指摘しているだけであり、他意はまったくございません)。

弁護士の中にも、
「『東大に合格し、司法試験を若い時分に、高い成績順位で合格し、研修所も好成績を修め、裁判官に任官しないか、と任用当局からお声がかかる』というタイプの(裁判官の経歴ないしバックグラウンドと近似する経歴等を有する)弁護士」
もいるのでしょうが、他方で、そういう
「裁判官の経歴等とは“真逆”の経歴等」
を有する弁護士の方々もおります。

そして、後者の中には、(すべてとは言いませんが)
「およそ提出期限とか納期とかいわれるものは、すべからく期限遵守してきて、それが人生の基本」
という裁判官の思考や感受性が全く理解できない方々もいらっしゃるかもしれません(裁判官の思考や感受性が理解できても「それがどうした。そんなの関係ねえ」とうそぶく弁護士の方もいるでしょう。思考や感受性が理解出来て対応の必要性・有用性が理解できても、生来のだらしなさが災いして、対応が困難、という弁護士の方もいらっしゃるのかもしれません。実際、控訴期限徒過で少なくない数の弁護士が懲戒処分を受けている事例を目にしますと、改めてこのような分析の正しさを実感します)。

しかしながら、
「小学生から以来ずっと、宿題なり課題なりレポートなり、およそ提出期限とか納期とかいわれるものは、すべからく期限遵守してきて、それが人生の基本と考えている」
ような裁判官がもつ基本的・原則的な思考や感受性を基本とすると、
「『時間を守らない、守れない、ルーズな人間』は、ゴミや汚物と同じように認識、評価される」
ということになると思われます。

このことは、是非は別として、立場を交換して、想像すれば容易に理解されるところです。

「裁判官の感受性を想像しながら、裁判官の目線で『弁護士という属性集団』を観察した場合に内面に投影される心証の風景ないし状況」
を描写すると、(裁判官の目からみれば)経歴上の偏差が有意かつ顕著に存在しており、よく言えば
「多士済々」
もっと率直に表現すると
「スペックは様々で、『その中には、同じ法律家とは認めたくないような、極度にいい加減な連中も相応にいる蓋然性』もある、玉石混交の集団」
ということになるのかもしれません。

そのような認識前提からすれば、
「裁判官目線での観察・評価として、納期や期限を守れないような弁護士を、ゴミや汚物のように嫌悪する」
という事態の発生も、蓋然性としては大いにあり得るものと考えられます。

もちろん、
「納期や期限を守れないような弁護士を、ゴミや汚物のように嫌悪する」
という顕著な嫌悪感・忌避感が生じても、
「天皇陛下と同様、普通は感情や心証を表さない、ポーカーフェースの裁判官」
としては、そのような感想や印象を口に出して、ストレートに、情緒豊かに表現するようなことはなさいません。

そんなことをしても
「納期や期限を守れないような、(裁判官の心象風景として)ゴミや汚物なみに嫌悪しているだらしない弁護士」
が改心して態度を改めるとは想定しがたいですし、第一、そんなことをしても無駄で無意味であり、無用かつ不用意に敵を作るだけです。

ただ、口に出さないからといって、
「納期や期限や約束を守らず、忌避感や嫌悪感を生じた」
という事実がなくなったわけではなく、しっかりと心証に影響し、しっかりと後で報復されることはあり得ます。

要するに、
「そんなだらしない弁護士の言っていることがまともな主張である、という経験上の蓋然性は絶無である」
という考えの下、当該(だらしない)弁護士に不利な心証を形成して、
「当該経験則を前提とした思考経済・訴訟経済に即した心証形成(別名:予断と偏見)」
を前提に、当該弁護士に対して、後で、報復よろしく敗訴判決を食らわして、忌避感情や嫌悪感を清算すればいいだけですから。

そもそも裁判官は、
「江戸の敵をスマートかつエレガントに長崎で討ち、後は知らんぷり」
ということをやってのける
「(当該事件に限って、という限定はつくものの)中世封建国家の専制君主並の絶対権力」
をもっており、小言や苦言をちくちくいわずとも、ポーカーフェースでやり過ごし、あとでじっくりとその権力を適正に行使して、目にもの見せてカウンターを食らわせれば、いいだけなのです。

ただ、
「天皇陛下と同様、普通は感情や心証を表さない、ポーカーフェースの裁判官」
も、ときには、この
「納期や期限や約束を守らず、忌避感や嫌悪感を生じた」
ことを口に出して、苦言を呈することがあります。

私個人としては、理解できます。

そりゃ、裁判官も人間ですから、あまりにもだらしなくていい加減な人間のどうしょうもない行為をみたら、小言や苦言が口をついて出る、ということもあるでしょう。

引用開始==================>
橋下さん、多忙はわかるが…裁判長苦言
事件発言控訴審

山口県光市の母子殺害事件の被告弁護団への懲戒請求をテレビ番組で呼びかけた橋下徹弁護士(現大阪府知事)が、被告弁護人を務めた弁護士4人へ1人当たり200万円の支払いを命じられた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が16日、広島高裁(広田聡裁判長)であった。
 広田裁判長は、橋下氏側が控訴理由書の提出期限を過ぎたうえにこの日までに3通に分けて提出し、さらに4通目があると予告したことについて、「多忙なのはわかるが、(橋下氏は)代理人を立てているのだから提出は可能だったはずだ」と苦言を呈した。
 民事訴訟規則で控訴理由書の提出期限は控訴から50日以内と定められている。
 橋下氏の本来の期限は昨年11月27日だったが、橋下氏側は12月12日までの延長を申請し、1通目を同日提出。2通目は今年1月6日、3通目は第1回口頭弁論のこの日に出した。

(朝日新聞DIGITAL 2009年2月16日22時7分配信)より
<==================引用終了

上記事件ですが、予想通りの展開として、橋下側は、(控訴理由書提出期限に遅れ、苦言を呈された)控訴審で敗訴しました。

他方、橋下氏は、この事件を最高裁に上告し、最高裁では逆転勝訴しています。

「結果として勝ったからいいじゃないか」
というのは、後知恵によるあまりに単純で幼稚な見方です。

高裁で、もっと真面目にやっていたら、高裁段階でも勝訴した可能性は高く(最高裁でひっくり返るような要素が内在してわけですから)、何も
「土壇場も土壇場の、最高裁に至ってようやく大逆転劇」
という、
「(勝率が数%以下の)危なっかしい勝ち方」
をせずとも、もっと安心して勝ちが取れた筋の事件で、無駄に星を落とした、という見方もできます。

高裁では、あまりのデタラメさや、ルーズさに激怒して(「天皇陛下と同様、普通は感情や心証を表さない裁判官」がわざわざ口に出して苦言を呈するのはよほどのことです)、事件の筋より、とにかく、嫌悪感や忌避感が先立って、報復の敗訴を食らわされた、という観察・評価も可能です。

とにかく、時機に遅れず、納期を守る、というのは、重要です。

また、最悪、納期を守れない場合も、そのような原因や背景を切々と訴え、いつになったらその納期遅延の原因が解消し、約束が果たせるか、現実的なリカバリー計画を策定して、弁解し、理解を得て、許しを請うような、謙虚、もっといえば卑屈に見えるくらい、可愛げな態度をみせるべきです。

特に、控訴審における控訴人側は、一審での負けを取り返す、チャレンジャーの立場ですから、控訴理由書提出期限の厳守は、絶対維持すべき基本的スタンスといえます。

運営管理コード:CLBP115TO116

運営管理カテゴリー:有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(4)対応のポイント>納期厳守

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01136_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(3)民事訴訟法大改正(1998年施行)

民事訴訟法大改正により、まず、一審裁判所(特に地方裁判所)の大幅な権限強化が図られました。

すなわち、この改正により最高裁が憲法問題等重大な問題しか取り扱わなくなったことで、三審制は実質的に二審制化しました。

加えて、それまで時間をかけて一審の焼き直し審理をしていた二審(高等裁判所)が、控訴審第1回弁論での即日結審を行うようになりました。

これは、一審の審理が充実したもので判決等も十分な検討をなされており、かつ控訴人側(原審に敗訴し、原審判断に不服を申立てる側)の不服内容に顕著な理由が認められない場合は、二審(高裁)は事実上審理を行わない、という実務が容認されたことを意味します。

その結果、民商事事件においてそれまで堅持されてきた三審制システムは、実際にはほぼ一審制となり、事実上の最終審を担う一審裁判所(地方裁判所)の判断の権威と権限は非常に大きなものとなりました。

これに加え、スピーディーな主張や証拠の提出の義務化(随時提出主義から適時提出主義へ)や証人尋間の集中実施等審理促進のための大幅な改正がなされ、訴訟進行に関する指揮権限に関しても、一審裁判所(地方裁判所)の権威と権限は著しく強化されました。

運営管理コード:CLBP115TO115

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

01135_有事対応フェーズ>法務活動・フェーズ4>民商事争訟法務(フェーズ4A)>(2)民事訴訟法大改正に至る経緯

契約事故・企業間紛争に関しては、法務担当者間あるいは弁護士間の裁判外での交渉を行い、それでも解決できなかった場合、裁判所や仲裁機関等の紛争解決機関での解決を行うことになります。

裁判所での民事訴訟システムに関しては、民事訴訟法の大改正(1998年施行)があり、この改正が民事訴訟実務に大きな影響を与えました。

すなわち、それまでの民事訴訟では、訴訟進行について裁判所に実質的な権限が与えられておらず、裁判所も事件に対して謙抑的に(控え目な態度で)接してきました。

その結果、従来の訴訟では、長期の時間を要し、原被告双方の代理人も、あまり時間のプレッシャーを感じることなく主張や証拠の提出ができ、その結果、紛争解決までのあまりの時間の長さに耐えきれなくなった側(たいていは原告側)が和解を申し出て、判決によらず解決する、といった現象がみられました。

また、長時間かけて一審での判決が出た後も、不服がある側が、高裁、最高裁と上訴して再度争い、解決に長時間を要するのが一般的でした。

このような状況が長く続く中で、やがて裁判所に未解決の民事事件が大量に滞留するようになり、司法が機能不全を起こすに至りました。

他方、事前規制社会から事後監視社会へ大きな社会変革がなされる上で、事後監視を担う裁判所での機能強化が求められるようになり、民事訴訟法大改正(1998年施行)により民事訴訟制度の抜本的な改革が図られるに至りました。

運営管理コード:CLBP114TO114

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所