01025_企業法務ケーススタディ(No.0345):M&Aでうまく売り逃げたはずが・・・

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年12月号(11月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十七の巻(第117回)「M&Aでうまく売り逃げたはずが・・・」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘バッテリー株式会社
華装(カソウ)電子 華装 熱盛(かそう あつもり)

相手方:
印旛沼(インバヌマ)燃料工業社(「インネン社」)

M&Aでうまく売り逃げたはずが・・・:
事業の整理をと、不採算になっている子会社を売却しましたが、買主側から
「騙された、カネ返せ」
と、訴えられそうです。
リスクについてはデューデリで開示した資料に入っていたし、相手も了解済みのはずです。
相手は、話が違うと騒いで買収を反故にするとかいいつつ、買収代金を一部返金させようという魂胆でしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:M&Aの本質
M&Aの本質は
「株式まるごとお買い上げ」
で、その最も難しいところは、
「株の値段」
に正解がなく、いくらで買うのが有利で、いくらで売るのが正しいか、皆目わからない、という点です。
DD(デューディリジェンス:買収監査)や評価やレプワラやクロージングと、何やら難解そうな儀式がずらずら出てくるのは、
「対象物も値段も何が正当かよくわからず、しかも大抵、せかされた状態で取引をする」
ことにまつわる不安や不信を払拭するため、各種ステップを設けることによって取引の合理性と適正さのフィクションとして機能しているのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:売主の思惑、買主の思惑
会社の実体を知っているのはなんといっても売主で、買主は取引開始以前にはまったく情報がない状態(情報非対称)です。
買主は、この非対称状態を是正するため、自らの時間とエネルギーとコストで情報を入手し、短期間に分析評価し、取引によって損失を被らないよう株式価値を算定していかなければならず、圧倒的に不利ですが、M&A実務の形成・発展過程で、DD、バリエーション(価格算定)、表明保証条項(representations and warranties:通称「レプワラ」)が、対抗手段が用意されるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:表明保証の役割
表明保証とは、売買当事者間等において、売主が買主に対して契約目的物(株式譲渡の場合は株式)に関連する事実について、取引時点において
「売主が表明した事実が真実であり、かつ、正確であることを、買主に対して保証する」
ということを契約内容とすることです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:売主の悲劇・サンドバッキング
売主は、買収後、表明保証にまつわる解釈や運用を巡り、買主から
「お前の提供した情報に嘘が混じっていたのであの取引はナシだ、カネを返せ」
と逆撃を食らう可能性があります。
買主側が、売主による表明保証に違反があることを知りながら取引を終え、その後、当該表明保証の違反に基づき売主に対して補償請求することを、サンドバッギング(sandbagging)といいます。
現在のM&Aの実務においては、サンドバッギングを巡る、売主・買主間の紛争が表に出てくるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:裁判例
「アルコ事件」(損害賠償等請求事件:東京地裁平成18年1月17日判決)
では、裁判所は表明保証条項違反を認めた上で、買主の悪意・重過失も否定し、売主に約3億円の賠償を命じました。
「太陽機械製作所対山一電機事件」(損害賠償請求事件:東京地裁平成23年4月19日判決)
においては、裁判所は
「買い手は常に注意せよ(caveat emptor)」
を高らかに宣言し、買主の補償金請求を認めませんでした。
M&Aについては、売主は、売った後から、買主から因縁をつけられたり取引をキャンセルされたり、賠償金や補償金を請求されるリスクがあり得ます。
リスクを念頭におけば、DDにおいて、出すべき情報はすべて徹底的に出しておくことが推奨されます。
とはいえ、情報を洗いざらい出したからといって安心はできません。
取引時点において、買主が表明保証違反があったと認識しても、なおも、補償金を要求する場合があり得るからです。
アンチ・サンドバッギング条項を挿入しておき、この種の話を断ち切っておくことが推奨されます。

助言のポイント
1.M&Aの売主といっても、安心はできない。取引終了後、買主から「表明保証違反あり」を理由にサンドバッギングされ、損害や補償金を請求されるおそれがあるから、安穏とできない。
2.とにかく、DDにおいては、嘘はご法度。正しい情報を、正直に伝えること。正確な客観情報を相手に提供している限り、裁判所も、「どう解釈するかは買主の責任、買主のリスクなので、表明保証違反なし」として救済してくれる可能性がある。
3.アンチ・サンドバッギング条項を盛り込んで、「買ったけどこんなはずじゃなかったから、売主に因縁つけてやれ」という買主からの攻撃を封印してしまおう。
4.裁判になっても、諦めない。表明保証違反の有無、損害の発生、因果関係、すべて、しつこく、徹底的に争って、有利な和解を勝ち取ろう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01024_企業法務ケーススタディ(No.0344):タックスヘブン(?)で脱税しまくり天国じゃ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十六の巻(第116回)「タックスヘブン(?)で脱税しまくり天国じゃ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
国際派税理士 摂津 贅太郎(せっつ ぜいたろう)

相手方:
国税庁

タックスヘブン(?)で脱税しまくり天国じゃ!:
社長は、税理士から聞きかじったタックス・ヘイブンという方法で、税金の安い香港に子会社を作り、税金を軽くしようとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:税金はどこまで追っかけてくるのでしょう
経済活動がグローバル化してきたことを背景に、多国籍企業が
「国家の課税権が原則として自国にとどまる」
という原則を利用して、租税回避行動を企図するようになりました。
これを受けて、さしたる産業もないひ弱な国家や地域が、税負担を少なくし、それら企業を受け入れる、といういびつな状況が出現しました。
こうした企業の租税回避行動を自国が見逃すはずはなく、何とか課税しようと試みます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:ヘブン? 脱税天国?
タックス・ヘイブンは、税金という
「暴風雨」
から逃れたい者が停泊し、課税を回避する場所という意味から生まれた言葉で、
「経済活動の実体がない企業の設立を認め、無税ないし軽課税であって、秘密保護法制により租税や金融取引に関する情報が出てこない国ないし地域」
を指しています。
1998年、OECD租税委員会がまとめた
「有害な税の競争」
報告書の中でタックス・ヘイブンの判断基準が示されました。
1 まったく税を課さないか、名目的な税を課すのみであること
2 情報交換を妨害する法制があること
3 透明性が欠如していること
4 企業の実質的活動が行われていることを要求しないこと
著名なものとして、バハマ、ケイマン諸島、シンガポール、香港などが挙げられます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:税金逃れを見逃さない対策税制
税収の流出を防止するため、特に先進国において、タックス・ヘイブン対策税制
「外国子会社合算税制(CFC:Controlled Foreign Company)税制」
というものが登場します。
わが国における歴史は意外に古く、租税特別措置法において、1978年に導入されています。
基本的な考え方は、タックス・ヘイブンに所在する子会社に留保されている所得の一部を、本国の親会社の所得にカウントして課税するというもので、本国の親会社は子会社分を自国とほとんど同じ税負担として負うことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:対策税制の抜け道
外国子会社は、法律上は
「外国関係会社」
といい、外国法人のうち、発行済株式総数の50%超を日本の親会社が保有している会社をいいます。
こうした子会社であれば、ほぼ日本の親会社と同等に考えてよいという建付けで課税が行われます。
しかし、日本の親会社が50%超の株式を保有している場合であっても、現地のヒト、モノ、カネ、行政サービス、インフラなどを全面的に利用し、現地の会社として経済活動が完結している場合、実体は現地の会社といえるため、その現地に対して納税義務を負うべきといえます。
こうした場合、タックス・ヘイブン対策税制においても、例外措置が認められ、経済活動基準を満たせばタックス・ヘイブン対策税制の適用対象外となります。
具体的には、
1 事業
2 実体
3 管理支配
4 非関連者又は所在地国
に細分化されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:抜け道は抜け穴か?
特に争いになるのは、3の管理支配基準についてです。
最二小判平成4年7月17日(その第一審である東京地判平成2年9月19日)という裁判例では、管理支配基準を満たさないとしました。
子会社である以上、完全な独立はあり得ない一方、その事業の管理、支配及び運営を自ら行う必要がある、という相反する要件も満たさねばなりません。
結局のところ、適用除外を得るハードルはかなり高いといえましょう。

助言のポイント
1.課税権は、原則、国家内にとどまるものであるが、徴税したい国はどこまでも追いかけてくると心得よう。
2.タックス・ヘイブンに会社を設立しても、対策税制で課税されるリスクは残る。適用除外となる基準①事業、②実体、③管理支配、④非関連者または所在地国を熟知することで、租税回避できる可能性はある。
3.とはいえ、国も徴税に必死なので、基準に該当するかを争って課税処分、訴訟で争うという手に訴える可能性があり、争われた場合、これを突破するハードルは高いため十分注意しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01023_企業法務ケーススタディ(No.0343):残業代? いらん、いらん、うちは年俸制じゃから!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十五の巻(第115回)「残業代? いらん、いらん、うちは年俸制じゃから!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
経営コンサルタント 司保利 尽須(しぼり つくす)

相手方:
当社 従業員

残業代? いらん、いらん、うちは年俸制じゃから!?:
「働き方改革」
という好機を逃す手はないと、社長は考えました。
当社でも、賃金体系に年俸制を導入し、あらかじめ見込み時間外手当込みの賃金を固定しておけば、残業代を払わなくてすむ、というのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:ヒトとモノの区別のつかないニッポン株式会社
厚生労働省が毎年発表する統計によると、わが国の事業場の9割近くが労働法を遵守していない、いい換えれば、
「ヒトとモノの区別がつかず、ヒトをモノのように扱っている」
前近代的組織である、といえてしまう実体が存在します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:時は「ヒト」なり
労働(雇用)契約とは、この世でもっとも貴重な資源である時間を労働者が切り売りし、それを使用者が買い上げる性質を有しています。
労働契約という取引は、労働者の人生をカネで召し上げるという本質から、厳格な取引ルールによって規制すべき、というのが労働法規の大原則なのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:労働時間の原則と例外
「時間内」
労働時間は法第32条で定められ、法定労働時間といわれます。
「労働者に、週40時間を超えて、労働させてはならない」
「労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」
と定められています。
原則あるところ例外あり、で、労働法第36条による、いわゆる三六協定を締結することで、経営者は残業をさせてよいのです。
ただし、第37条による割増賃金すなわち残業代を支払う必要があります。
支払わなかったら送検され、起訴され、最悪前科がつきます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「例外の例外」、残業代を支払わないでいいレアな状況
さらなる例外として、残業代すら支払わなくてよい場合があります。
管理監督者(法41条)がそれに当たります。
そして、純然たる労働者に関しては、次の3つのカテゴリーに当てはまれば、残業代なしで働いてもらうことができます。
1 事業場外労働(法第38条の2):外回りの営業マンや旅行会社の添乗員のように、職場外に出ずっぱりで労働時間を算定しにくい者は、所定労働時間労働したとみなし、会社は残業代を支払わなくてよいとするものです。
2 専門業務型裁量労働制(法第38条の3):研究職、新聞記者、雑誌編集者、デザイナー、放送局のディレクター、大学教授、弁護士など、決められた時間に労働するのになじまない職種や、業務遂行を労働者の裁量に大幅に委ねる必要がある場合に適用されます。
3 企画業務型裁量労働制(法第38条の4):企業中枢で企画立案などの業務に携わるホワイトカラー労働者を想定しています。
以上、いずれも、相応の合理的理由のある場合に限って、厳格な要件充足を前提として認められるものであり、安易に認められるわけではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:年俸制ならコミコミプランでいけるっしょ!
「みなし残業代月○時間分込」
という契約も存在しますが、残業時間が見込時間をオーバーした場合は法37条が適用され、使用者には残業代の支払義務が生じます。
労使間で基本給と残業代をごっちゃにした給料を支払うような年俸制を利用して残業代の支払いを免れるのは不可能といっているのです。
なお、第37条に違反した場合は、労働者への残業代および同額の付加金の支払い(要は未払分の倍額を支払わされます)に加え、6か月以下の懲役、30万円の罰金もセットです。
また場合によっては、派手に報道される等レピュテーションリスクもあります。

助言のポイント
1.労働契約には、時間という人生にとって貴重な資源を労働者から買い上げるという性質がある。だから、厳格な取引ルールによって規制すべき、というのが労働法規の本質。この本質を実現すべく、行政当局も司法当局も裁判所も一致団結して労働者に寄り添っていることを理解しよう。
2.「年俸制」などと銘打ったところで、所詮は、基本給+残業代の問題に還元される。サラリーマンの年俸制は、プロスポーツ選手の年俸制とはまったく別物と考えよう。
3.裁判で残業代支払いが認められたら、同額の付加金という、結果して倍額の支払いが発生する上に、懲役+罰金というお仕置きやマスコミに叩かれる可能性も漏れなくついて来るので、十分に注意しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01022_企業法務ケーススタディ(No.0342):海外独禁法の恐怖(4)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十四の巻(第114回)「海外独禁法の恐怖(4)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘社長の甥 グループ会社 脇甘アメリカ 社長 脇甘 亜米太郎(わきあま あめたろう)

相手方:
アメリカ司法省

海外独禁法の恐怖(4)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?:
米国司法当局が捜査を開始した場合の対処法について、犯罪人引渡条約も踏まえつつ、具体的、現実的、戦略的にみていきましょう。
グアムに向かった社長が、韓国・仁川空港で足止めを食っていたところ、法務部長から連絡がはいりました。
「現地の弁護士によると、制裁金100ミリオンドル(約100億円)を払えば和解して事件を終了してやってもいい」
と当局から持ちかけられたそうです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:司法取引も絶望的に不利な立場
逮捕・拘束されてしまった場合に登場するのが、司法取引です。
罪を認めて制裁金を支払う、という趣の交渉が本質です。
制裁金を支払うことを条件に、DPA(Deferred Prosecution Agreement:訴追延期合意)やNPA(Non-Prosecution Agreement:不訴追合意)を当局との間で締結すると大半の者は刑事訴追を免れます。
一部の役職者については、
「カーブアウト」
といって、刑事訴追を受けること(有罪判決が出れば刑務所に入れられる)を当局から求められることがあります。
ただ、これもどれだけ制裁金を払うか(あるいは、渋るか)によって微妙に変わってくるのです。
独禁法違反等の連邦犯罪の場合、
「1本」
の単位が
「100億円(100ミリオンドル)」
という相場観です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:シカトすればいいじゃん?!
米司法当局の捜査権や司法権は日本には及ばないことから、米国に行かないようにして無視するという対応も、第一次的には有効といえます。
問題となるのが、米国以外の第三国に入国・滞在する場合です。
第三国が米国と犯罪人引渡条約を結んでいる場合、その第三国で逮捕・拘束される場合があります。
また、日本でも、国際捜査共助法に基づいて、日本の捜査機関が米政府の要請に応じ、代わりに捜査するという制度があります。
2006年6月には日米刑事共助条約が締結され、国際捜査共助手続を利用する動きがさらに進んでいますし、犯罪人引渡条約も存在します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:“穴熊作戦”はどうだ?
“抽象的・論理的”には、
「日米間には犯罪人引渡条約があるので、米国で犯罪嫌疑が生じたり起訴されたりすると、日本国内に逃げ帰っても安穏とできず震えて眠るほかな」さそうですが、
米司法当局が
「日本国内で穴熊を決め込んでいる犯罪人」
の身柄を“具体的・現実的”に手に入れるには、時間・手続にハードルが高い、といえます。
設例についてですが、そもそも、グアムは米国領内ですから、身柄拘束されかねません。

助言のポイント
1.捕まったが最後、悪名高い司法取引が待っている。逮捕・拘束された人質の解放と引換えに「1本=100億円」レベルの制裁金が控えているから、注意と警戒を怠らないように。
2.制裁金で全部チャラ!…と思ったら大間違い。当局は「カーブアウト」で最終的な人柱を求めてくる。誰がしかは刑務所に入ることを覚悟しなければならない。
3.とはいえ、司法管轄権は他国に及ばないのが原則。サピーナがきても、起訴されても、慌てるな。穴熊作戦と遠隔・土下座外交も検討すること。ただ、米政府が日本の捜査当局に協力要請したり、犯罪人の引渡しを要求してくる可能性もあるので、穴熊戦法も絶対的とはいえない。
4.何はともあれ、疑いをかけられないのが最善策。サピーナが届いてから慌てるのではなく、そもそもカルテルを疑われないような社内体制の整備や従業員教育の徹底を図ろう。

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01021_企業法務ケーススタディ(No.0341):海外独禁法の恐怖(3)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年8月号(7月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十三の巻(第113回)「海外独禁法の恐怖(3)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘社長の甥 グループ会社 脇甘アメリカ 社長 脇甘 亜米太郎(わきあま あめたろう)

相手方:
アメリカ司法省

海外独禁法の恐怖(3)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?
実践編として、米国の捜査機関(捜査当局や司法当局)の捜査手法について、みていきましょう。
法務部長は、社長にはワシントンの司法省行きは諦めるよう諫言し、そして、脇甘アメリカにはスキャンダルや特別背任罪に問われかねない証拠を隠滅するよう指示をメールで出しました。
社長は法務部長を諫言を受け入れ、行き先を変更することにします。
サイパンやグアムに視察出張に出かける、と言い出しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:アメリカからの赤紙「サピーナ」
捜査の手始めとして、米司法省の申立に基づき、米裁判所から
「サピーナ(subpoena)」
が、企業の海外の出先機関に送付されます。
その内容は、概略、
「いつからいつまでにカルテルが行われたことが疑われる。だから、その間の関連文書をすべて提出されたい。また、証人喚問も行うので出頭に応じられたい」
というものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:泣く子も0.5秒で黙過酷な捜査
強制的な証拠開示手続、
「ディスカバリー(discovery)」(合衆国法典第28編1782条)
は、連邦地方裁判所は利害関係人の申立等によって裁判で用いることになる資料の提出を求める(文書提出命令を発する)ことができるというものです。
提出を求める資料はかなり広範でボリュームも相当、企業の担当部署の仕事がしばらくストップするくらい負荷が課せられます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:ムチャぶり提出要求
要求事項は、会社概要に始まり、カルテルを疑われている関連部署の組織図、カルテルが疑われる取引に関与した者や、その上司まで含めた氏名・役職等の情報開示、そして、取引に関する文書やメールのやり取りといった電子データ、社内でのチャットや電話の通話記録などもすべて提出することが求められます。
契約書、協定書や覚書といった、カルテルの合意が示されている文書だけでなく、そこに至るまでの会議の議事録、果ては、メモやノート、図、表、グラフ、写真、マイクロフィルム、ICレコーダーの録音等、音声までもが提出対象になります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「サピーナ」がわが社にやってきたら
弁護士と協議しつつ対応するのはもちろんですが、該当資料を発掘するために専門業者を雇う必要も発生する場合があります。
「サピーナによる文書提出命令」
への不協力(例えば、文書の改ざん、破棄、電子データの削除)は、それだけで司法妨害として刑事罰、しかも重罪(フェロニー:felony)に問われるからです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:本当に怖いのは提出した後
提出された資料に基づいて証言録取(デポジション:deposition)という手続きが行われます。
証人に宣誓をさせた上で、面前に三脚に乗せた小型カメラを設置し録画しながら、凄腕の弁護士が証言の矛盾点などを突いていきます。
客観的事実に反する証言や、少しでも矛盾点が出たら偽証罪として刑事罰に問われます。
実体的にみて
「本当に罰すべきカルテルがあった」
ことによって処罰されるのではなく、形式的にみて
「単純に矛盾した発言をした」
だけで処罰されてしまうところに、偽証罪の恐ろしさがあります。
実際に、自動車用部品の価格カルテル事件において、名だたる企業が制裁金を課され、12名が逮捕・拘束までされた、との報道があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点6:油断を突くような捜査手法も
サピーナに基づく強制捜査前に、捜査機関が任意で従業員に事情聴取する
「ドロップイン・インタビュー」
で、
「まだ強制捜査に入ってないから」
と、当局からインタビューを受けた従業員が不用意な供述をしてしまい、知らない間に決定的な証拠をつかまれてしまう場合もあるのです。

助言のポイント
1.「サピーナによる文書提出命令」は広範かつ膨大。改ざん・隠ぺいは司法妨害として、それだけで刑事罰に問われる可能性があるから、隠ぺいなどもってのほか。
2.文書提出命令に対応できた後も、デポジションなど難関が続き、日本の感覚で適当なウソをついて逃れようとすると司法妨害という別の重罪を犯したことになり、逮捕・勾留される可能性がある。実際に日本人エリートビジネスマンが収監された例もある。注意が必要。
3.捜査が始まったら、ウソやごまかしや証拠の隠匿、改ざんはご法度。こんなことをやると、司法妨害をどんどん重ねるだけで、どツボにはまるだけ。センシティブなコミュニケーションは、弁護士と相談しつつ、秘匿特権を最大限活用して、うまく立ち回ろう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01020_企業法務ケーススタディ(No.0340):海外独禁法の恐怖(2)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十二の巻(第112回)「海外独禁法の恐怖(2)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘社長の甥 グループ会社 脇甘アメリカ 社長 脇甘 亜米太郎(わきあま あめたろう)

相手方:
アメリカ司法省

海外独禁法の恐怖(2)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?
脇甘アメリカの社長が逮捕されたそうです。
当社社長は
「何かの手違いだ、話せばわかる」
と、予定を変更してワシントンに行こうとします。
日本企業の独禁法抵触行為について、なぜ米国の当局がいきなり出張ってくるのでしょう。
具体的には、どういった摘発が行われているのでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:法律の「ナワバリ」
法律は、社会のルールという性質上、人間や企業の行為を制約します。
刑法に違反すれば、罰金や懲役を科されますし、民法に基づいて裁判を起こされ敗訴して強制執行をかけられれば、財産を召し上げられます。
このように、法律は、ある種、暴力装置としての側面を有しているため、いかなる人、いかなる場所で法律が適用されるかについては、主権国家が独自にコントロールするという仕組みになっているのです(「属人主義」「属地主義」などといいます)。
要するに、各地域の主権国家が、それぞれの
「ナワバリ」
で、それぞれの
「掟」
を定め、他国の干渉を排除して、規制運用しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「ナワバリ」にも例外はある
何ゆえ、米国の独禁当局が、ときに、
「ナワバリ」
を飛び越え、日本企業を摘発したりできるのでしょうか。
日本では、
「法の適用に関する通則法」
という法律があり、米国の各州法においてもロングアーム法というものがあり、ミニマム・コンタクト(最小限の関連)があれば、その州法を適用するという規定があります。
これらの法律は、日本法と外国法、あるいは米国の州法が抵触する場合における、どちらの法を適用するかのルールを定めています。
これらはいずれも、民法のような私法に関する規定で、独禁法のような取締法規には当てはまりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「効果理論」
「効果理論」
とは、スタートとゴールがかけ離れていても、因果関係が何とかつながっていれば、処罰を行う考え、といえます。
独禁法に照らし合わせていうと、
「他国でカルテルが行われた場合でも、その結果、自国民が高値の商品をつかまされて損するなら、自国の法律で他国のカルテルを罰するのもOK!」
というものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:米国反トラスト法
日本の独禁法に相当するものを、米国では
「反トラスト法」
といい、
「シャーマン法」
「クレイトン法」
「連邦取引委員会法」
という関連法規の総称をいい、次のように所管、規制となっています。
1 シャーマン法:司法省が所管、カルテルなどの取引制限や私的独占を規制
2 クレイトン法:司法省とFTC(連邦取引委員会)が共同所管、企業結合などを規制
3 連邦取引委員会法:FTCの所管、不公正な競争方法などを規制

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:摘発の真相
反トラスト局は、日本企業にサピーナ(召喚令状)を送りつける場合、日本本社ではなく、米国内の出先機関に送付します。
これは、刑事罰の適用が規定されているサピーナを日本の領土内に何の断りもなく送ることは、日本国に対する主権侵害になりかねないからです。
したがって、米当局から出頭要請を受けた事実を知っても、日本にとどまっている限り、普通に生活できますし、アメリカンポリスや連邦捜査官やCIA局員に手錠をかけられ連行されることもありません(日本当局が、米当局の召喚令状を、米当局に代わって執行する、という判断がされれば別ですが、これはかなりレアです)。

助言のポイント
1.法律の世界は、ビジネスと真逆。グローバル化に思いっきり背を向けていて、スーパードメスティックであるという原則を理解すること。
2.この原則ゆえ、基本的には、法律に1個の国際ルールはない。国家間における法律の適用は、暴力団の「ナワバリ」と同じと考えよう。
3.とはいえ、「効果理論」という、ある意味ムチャな理屈で、日本国内で日本企業が犯したにすぎないドメスティックカルテルが、海外当局からグローバルに摘発される可能性があることを頭に叩き込もう。

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01019_企業法務ケーススタディ(No.0339):海外独禁法の恐怖(1)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十一の巻(第111回)「海外独禁法の恐怖(1)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘社長の甥 グループ会社 脇甘アメリカ 社長 脇甘 亜米太郎(わきあま あめたろう)

相手方:
アメリカ司法省

海外独禁法の恐怖(1)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?
アメリカ司法省から子会社に
「SUBPOENA」
が届きました。
子会社が、現地で、日本でいうところの独禁法違反の疑いがあり、調査するので一切合財の文書提出や証人喚問に応じよ、という内容だそうです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:他人事ではない米国当局による摘発
昨今、検察や公正取引委員会(以下、「公取委」)によるカルテルの摘発が活発になっています。
海外に目を転じても、当局によるカルテルの摘発は活発で、特に、米司法省反トラスト局から、日本企業が狙われるケースが多いようです。
米国政府の意図は不明ですが、自動車部品カルテルでは、名だたる企業に、軒並み百億円単位の課徴金が課されています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:そんなに独占がイケナイことなの?
独占禁止法(さらに縮めて「独禁法」)は、
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」
の略称です。
「企業に、怠けたり、八百長したり、ズルしたりせず、休むことなく、延々と、かつ、とことん競争させる」
というのが法の狙いです。
市場に一人しかいない状態でそもそも競争が観念できない状態(独占)が出現した場合や、販売者が結託して価格を固定(カルテル)した場合、さらには
「大きなプレーヤーによる零細事業者への一方的で暴虐的な振る舞い」
によって競争の前提が損なわれるような場合、消費者は高くて粗悪なモノを押し付けられ、しかも、それが長期間にわたって是正されない危険が生じます。
市場メカニズムが重要なのは、適正な自由競争、すなわち価格競争と品質競争を通じて、一般国民に、
「安くてエエもん」
を迅速・適正に提供させ、国を豊かにしよう、という国民経済の基本が関わっているからです。
このため、独禁法という強烈な取締法規を厳格に運用し、カルテルその他の反競争的行為を規制、弾圧することにより、正常な市場メカニズムを確保し、一般国民の利益を保護しようとしているのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:消費者が食いモノにされるメカニズム
企業は儲けるために消費者に買ってもらえるようなモノを作る、消費者はモノを気に入った時に財布のヒモを緩める、この営みが繰り返されることで、マーケットに生き残るモノは
「安くてエエもん」
に収斂されていきます。
ダメな商品・サービス・提供企業が淘汰され、革新的な商品・サービスをひっさげた新規参入が促され、国全体の経済力が自律的に強靭化されていくというのが、本来の資本主義のあるべき姿です。
しかし、暴虐的なまでに大きなプレーヤーが登場すると、有利な立場を利用し、品質改善や値下げに投じるべきコストを、消費者に押し付け、粗悪なモノを売り付けるようになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:本家本元のシビレルほど厳しい法規制
欧米では、独禁法あるいは反競争法は、日本では想像できないくらい、法も運用も厳しいのです。
刑罰もシビアですし、罰金も半端ない、というわけです。

助言のポイント
1.前門の公取委、後門の反トラスト局。日本国内におけるカルテルにすぎないとしても、海外当局から狙われることがある点を頭にインプットすること。
2.自由競争・資本主義国家の国是は、あくまで「トコトン競争」。独禁法は、未遂・既遂・予備・思想を含め、競争を回避する行為や状況を弾圧すべく、厳しく目を光らせているぞ。独禁法は、「企業を死ぬまで競争させて、安くてエエもんを社会に提供させ、国を豊かにするための法律」という本質から理解しておくこと。
3.独禁法の本家本元は欧米。巨大企業の反競争的な弊害も半端なく、その苦い経験から、日本とは段違いに規制も取締運用も厳しい。日本と同じ、などと考えると、足をすくわれる。甘く、軽く考えず、正しく恐怖し、適切にビビりながら、しっかり対応すること。

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01018_企業法務ケーススタディ(No.0338):役員登記ほったらかしのペナルティー!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十の巻(第110回)「役員登記ほったらかしのペナルティー!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
裁判所

役員登記ほったらかしのペナルティー!
裁判所から、役員の重任の登記が遅れたということで、
「過料決定」
という通知が届きました。
「毎回登記するなんぞ、ムダ以外の何ものでもないから、異議の申立てをする」
と、社長はいいます。 

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:そもそもなぜ登記が必要か
会社には、顧客、従業員、銀行、仕入先、納入先といったさまざまなステークホルダーがいます。
特に、BtoB取引を行うステークホルダーにとって、相手方の経営者がどんな人物かは与信管理を行う上で重要事項です。
そこで、会社法では、当該役員に何らかの変更事項が生じた場合には、登記をするように義務づけ、法務局へ直接間接にアクセスしさえすれば、誰でもその会社の経営陣の現況がわかるようにすることで、安心して商取引ができるようにしているのです。
ここで重要なことは、登記は、
「登記すべき事柄を生じた者が、速やかに、きっちりと登記を行う」
という前提が確保されていないと機能しない、という点です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:再任の場合も登記が必要
役員が就任した場合には、登記が必要です。
そして、再任(法律的には「重任」という)の場合も再度の就任といえることから、登記が必要になります。
登記のたびに登録免許税がかかり、変更申請には手間もかかり、司法書士に代行してもらうと、都度、費用がかかります。
そして、再任の場合であっても登記を怠ると、過料というペナルティーが発生するのです(会社法976条)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:過料? 科料?
「科料」
とは、刑法などに規定された刑罰です。
刑事訴訟法が適用され、対象者は
「被告人」
と呼ばれます。
科料を科すには、原則的に、裁判所が被告人を呼び出して裁判を行う必要があります。
過料とは、
「法律違反だけど、刑法で罰せられるほどへヴィーじゃないちょっとしたミスに対するペナルティー」
という性質のものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:過料はある日突然やってくる
過料は
「行政罰」
というカテゴリーに分類され、非訟事件手続法という法律が適用されます。
対象者は
「被審人」
と呼ばれます。
過料を科すには、裁判所に呼び出さずに決定してしまってよい場合があります。
その結果、通知が、ある日突然やってくるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:払わなかったらどうなる?
過料の支払いを怠った場合、税金を滞納した場合と同様、最悪、強制執行で差押えられることもあり得ます。
ただ、やむを得ない理由でどうしても登記ができなかったという場合を考慮して、登記が遅れたことについて
「特別の理由」
がある場合には、1週間以内に限って異議申立ができることになっていますが、よほどでない限り、異議申立は認められないと考えてよいといえましょう。

助言のポイント
1.役員の再任であって、メンバーに実質的な変更がなかったとしても、法律的には「重任」なので、登記申請が必要になることを忘れないように。
2.社内で役員の選解任や株式譲渡など、登記に関係しそうなことが発生したら、条件反射的に、登記申請を思い浮かべよう。
3.ポカを見逃してくれるほど、お上は甘くない。単なるミスで登記の申請が漏れたのなら、「無駄に争う」などというアホな考えは捨て去り、さっさと納付して、事態を早期に収束すること。そして、これを教訓として、役員任期を長くするか、登記を毎回適時に行い、漏れや抜けをなくそう。

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01017_企業法務ケーススタディ(No.0337):ワシに逆らうヤツは島流し! さもなくば、クビじゃ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年4月号(3月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百九の巻(第109回)「ワシに逆らうヤツは島流し! さもなくば、クビじゃ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 社員 清水 清(しみず きよし)
清水 清の妻 女性民間環境研究家 清水 清子(しみず きよこ)

ワシに逆らうヤツは島流し! さもなくば、クビじゃ!
当社は新聞紙面を賑わす事件を起こしてしまい、しかもそのネタは、社員の家族が新聞社に持ち込んだとあって、当該社員を僻地へ転勤させる辞令を発令したところ、当該社員は転勤先に行かないどころか、そのまま本社に出勤し続けています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:配置転換
「配置転換」(略して「配転」)
とは、従業員の職務内容または勤務場所が長期間にわたって変更されるものをいいます。
いわゆる
「転勤」
のことで、部署間の人数調整や適材適所の配置、異なる勤務場所での経験を通じた社員の能力向上等を図る目的で、戦後、終身雇用を前提とした日本企業において採用されてきた制度です。
近年では、転勤のない
「エリア型総合職」
を導入する企業が増え、また、働き方改革が進む中、職種を限定した
「ジョブ型正社員」
も導入されるなど、社員の働き方は変化してきています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:配転命令権
1 使用者は、かなり自由に、柔軟に、部署替えや転勤を命じる権利が認められている
「転勤命令が正当な人事権の行使といえる限り」
社員には従う義務があります。
しかし、使用者側が正当と考える場合であっても、社員が転勤の不当性を主張し、これに応じないことがあります。
この場合、社員への転勤命令が法的に無効であれば、会社はその命令に社員を従わせることはできないのです。
2 配転命令(転勤の辞令)が有効とされるための要件
就業規則が転勤を想定した形になっていて、入社の時点で
「この仕事しかやらない」
「転勤はなし」
という特別な取決めがない、という要件の充足によって転勤命令は法的に有効性を持ちます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:配転命令権の濫用
裁判例では、社員(原告)は、転勤がある会社(被告)に新卒として採用され、8年間大阪近辺で勤務していました。
この社員に対し、会社は神戸営業所から広島営業所への転勤を内示しましたが、社員は家庭の事情を理由にこの内示を拒否しました。
続いて、会社は、名古屋営業所への転勤を内示しましたが、社員はこの内示にも応じませんでした。
そこで、会社が就業規則の懲戒事由に該当するとして社員を懲戒解雇したところ、社員が転勤命令と懲戒解雇の無効を主張して提訴しました(東亜ペイント事件、最判昭和61年7月14日)。
この事件において、最高裁は、
1 業務上の必要性が存しないとき
2 転勤命令が不当な動機・目的をもってなされたとき
3 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
には、転勤命令が命令権の濫用にあたるとしました。
配転命令権の濫用については、裁判でよく争いになります。
婚約者との別居が生じる転勤命令(川崎重工業事件)、単身赴任が生じる転勤命令(帝国臓器製薬事件)、大阪現地採用の労働者への東京転勤命令(チェースマンハッタン銀行事件)、研究所移転に伴う北九州から千葉への転勤命令(新日鐵事件)。
これらの裁判例では、単身赴任や遠隔地転勤にすぎないのであれば、通常甘受すべき程度を超えない(転勤命令は有効)と判断されました。
他方、メニエール病に罹患した従業員に対する1時間40分の通勤を要する事業所への転勤命令(ミロク情報サービス事件)、重症のアトピー性皮膚炎の子を養育する共働き夫婦の夫に対する東京から大阪への転勤命令(明治図書出版事件)、病弱者を複数抱える(躁うつ病の疑いがある長女、発達障害の次女、体調不良の両親)社員への転勤命令(北海道コカコーラボトリング事件)。
これらの裁判例では、本人や家族の健康状態に問題があるにもかかわらず、こうした点をあまり考慮せずに転勤命令を出した場合、その命令は無効と判断されました。
なお、平成13年に、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(通称「育介法」)26条において、育児、介護を行う労働者の配置に際しての、使用者の配慮義務が定められました。

助言のポイント
1.従業員を転勤させるには、転勤命令権を就業規則に規定しておく必要がある。それだけでなく、勤務地限定や職種限定といった合意が従業員との間で個別に交わされていないかというチェックも怠らないように。
2.転勤命令権が就業規則に規定されていて、勤務地や職種を限定する合意がなかったとしても、転勤命令が命令権の濫用とされる場合がある。
3.濫用とされないためには、転勤命令が①業務上の必要性があり、②不当な動機・目的がなく、③社員側の事情を無視した「問答無用の、激烈ムチャぶり転勤」ではないといえるよう、辞令を出す前にしっかり整理しておくこと。
4.「育児、介護を行う労働者に対する使用者の配慮義務」については、裁判所から厳しくみられる傾向にあるので、該当する労働者を転勤させる際は、注意しよう。

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01016_企業法務ケーススタディ(No.0336):勤労意欲のある留学生にどんどん働いてもらえ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年3月号(2月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百八の巻(第108回)「勤労意欲のある留学生にどんどん働いてもらえ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
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相手方:
後回(アトマワシ)日本語学院 経営者 後回 学(あとまわし まなぶ)

勤労意欲のある留学生にどんどん働いてもらえ!
労働力不足に頭を悩ます社長に、日本語学校を買収した旧友から、
「わが校の留学生を使ってはどうか?」
という提案があり、働いてもらうことにしました。
言葉の面では確かに難はありますが、素直で、真面目で、給料については文句をいわない、生徒にとっても、仕事はできる、お金は貯まる、と良いことずくめです。
部長は、長時間労働させて事故等が起こるといろいろ問題も出るのではないか、と案じています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:入管法とは
「日本に住んで、働く」
ということは、外国の方にとっては無茶苦茶難易度の高い、スペシャルなことです。
まず、日本にくるには、旅券(パスポート)が必要になります。
旅券は入国に使えるだけで、日本に一定期間滞在するには
「お上からのお許し」
が必要になります。
当該在留資格は、出入国管理及び難民認定法(いわゆる入管法)によって、日本に滞在する目的ごとに分類して資格(「外交」、「報道」、「留学」、「家族滞在」といった27種類の在留資格)を付与されることが必要になります。
働くこと(就労資格)については、かなり制限的で、日本国内にて就労する資格については、個別具体的に就労資格の種類が規定されており、外国人は、日本国から与えられた在留資格以外の活動は行うことができない、というシステムになっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国人留学生の就労問題
学生の場合の在留資格は、
「留学」
というもので、長い期間、日本に滞在していい前提は、
「日本で勉強をする」
活動であり、当局から許可をもらって滞在している、ということです。
資格外活動としてアルバイトは認められていますが、
「学業の邪魔にならない範囲と程度」
という縛りが大前提になります。
この
「縛り」
が週28時間という制約で、絶対的なものです。
労働基準法とは、法の趣旨目的が異なりますので、労働基準法を遵守したから大丈夫、ということはありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不法就労助長罪
ある日本語学校の留学生を、法律上の上限時間を超えて働かせたとして入管難民法違反の罪(不法就労助長罪)を犯した、ということで、学校運営会社の社長が起訴され、懲役2年(執行猶予3年)、役員も懲役1年6月(執行猶予3年)の有罪判決、法人としての会社も罰金100万円を命じられる事件があります。
不法就労をした留学生も、刑事事件にはならないとしても、行政法上の不利益措置、すなわち、在留資格取消、強制送還、その後5年間入国不可、を食らうことも想定されます。
人手不足という過酷な現実に直面し、善意と違法性の意識の欠如も相まって、 知らず知らずのうちに、法令違反を犯してしまいがちなのが、この不法就労助長罪です。

助言のポイント
1.国際化の時代といいつつ、入国管理実務は、排外的で、外国人にとてつもなく厳しい。
2.滞在も長期となると当局は渋い顔をするし、ましてや、日本で働いて稼ぐとなると、非常にハードルが高い。逆に、「日本に住んで、働く」という日本人にとって当たり前のことが、外国人には無茶苦茶厳しく制約される事柄である、という前提の認識をもつこと。
3.留学生は、例外的措置として、1週間28時間を上限とする就労が認められているが、この例外措置や就労上限は、徹底して遵守されないと、当局のお叱りを受ける。目先の人手不足や、留学生の「もっと働きたい」という話だけを前提にすると、いつの間にか不法就労助長罪に問われかねない。よく注意すること。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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