01015_企業法務ケーススタディ(No.0335):商標権をとられてしまった! もはや、これまでじゃ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百七の巻(第107回)「商標権をとられてしまった! もはや、これまでじゃ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
抜無(ヌケナシ)物産株式会社のグループ会社 抜無ドラッグ
吉本・堀・アンド・ジャニー法律事務所

商標権をとられてしまった! もはや、これまでじゃ!
当社では、半世紀前から売り出している巾着型の使い捨てカイロが商標権未登録であることに気づき、商標出願をすることになりました。
同じタイミングで、商品名の使用差し止めを求めた内容証明郵便による通知書が届きました。
相手のいうとおりにすると、商品名変更と、それに伴うパッケージや宣材や販促グッズの変更、プロモーションプランの修正等で3億円程度かかるうえ、店に並べられるのは需要シーズンが終わる4月ごろになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:商標権とは
商標とは、商品やサービスの識別標識であり、目印です。
新商品を売り出す際、新規の名前で勝負するよりも、すでに著名になっているネーミングをもじったり、類似するロゴやマークを使った方が、販売数において顕著な差が出ることは容易に理解できます。
しかし、マネされたり、パクられたりした本家本元としては、本来売れるはずのものが売れなかったり、あるいは、エセ商品のクレームが寄せられたりすることもあり、踏んだり蹴ったりの状態になります。
このように、取引社会において重要な機能を担い、また、それ自体重大な経済価値を有する可能性がある、商品やサービスにつける
「マーク」
「ネーミング」
を、一定の要件と手続の下、確固たる財産権として成立させ、これによって、取引秩序を守ろうとする法システム、商標法が誕生しました。
この法律に定められた要件・手続の下、商標について、財産権として成立するのが
「商標権」
という知的財産権です。
ちなみに、商標には、文字、図形、記号、立体的形状やこれらを組み合わせたものなどのタイプがあるほか、2015年4月から、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標および位置商標についても、商標登録ができるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:取得までと取得後の効力
商標権を取得するのはなかなか面倒で大変です。
「ユニークで識別性のあるネーミングや目印等でなければダメ」
「すでに同一または類似の商標の出願がされていたら先のものが優先される」
など各種要件面がクリアできそうであれば、願書に適切な記載をして、特許庁に出願して、権利として登録されるように手続きをすることになります。
特許庁の審査の結果、要件が充足していないと判断されると、不合格(拒絶査定)となる場合もあります。
晴れて合格(登録査定)し、一定の費用(登録料)を支払うと、商標権を有する商標として商標登録原簿に登録され、商標権という権利が発生します。
商標登録がされると、権利者は、指定した商品やサービスについて登録商標を独占的に使用できるようになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:先使用権
設例の場合、
「先使用権」(商標法32条、他者の登録商標であっても、その商標出願前から、同一または類似の商標を使っており、かつそれが周知となっている場合に、引き続き自己の商標を使うことが認められる権利)
を抗弁として対抗し、先方の主張を駆逐する方法を考えた方がよさそうです。
先使用権成立のためには一定の要件を充足する必要がありますが、半世紀前から普通に使っているのであれば、十分検討に値します。

助言のポイント
1.商標権はじめ知的財産権は、所有権などの古典的な物権と比べて、権利の存立基盤としては脆弱であり、制約が働く契機が満載。
2.「そんな無茶な、殺生な!」といった状況になるようであれば、権利自体を潰したり、範囲を制約したり、法律が用意している抗弁の成否を検討しよう。法律をよく読んで、相手の主張を封印したり減殺したりする方法を検討すると、意外と逃げ道が見つかったりする。
3.相手方の商標権出願前から使っている周知の商標があれば、先使用権をもって対抗できる。相手の主張する権利に気圧されて、無条件降伏する前に、しつこく法律を読んで、対抗手段をひねり出そう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01014_企業法務ケーススタディ(No.0334):就業規則の変更手続? 適当にやっておけ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百六の巻(第106回)「就業規則の変更手続? 適当にやっておけ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 従業員全員

就業規則の変更手続? 適当にやっておけ!
当社では、人事制度の大改革を進め、給与体系を年功序列型から能力主義へと変更しようとしています。
相談した社労士からは、
・今回の就業規則変更等は労基署に届ける必要がある
・届出にあたっては、職場の組合か代表者から署名押印をもらうように
・当社には組合がない場合は、従業員で選挙をして代表者を選んでもらい、その代表者と話し合うように
と、いわれました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:就業規則とは
一般に、就業規則とは、
「使用者が従業員の労働条件や服務上の規律などを定めたもの」
と定義されています。
企業がカネを払い労働者が労働を提供する、すなわち、企業の指揮命令に従って労働サービスを提供する取引を基本内容とする労働契約の内容が、就業規則に記載されているのです。
労働基準法でも、常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則を定めることが義務づけられ、また、就業規則で定めた労働条件は、その事業場における労働条件の最低条件としての効力を持つ、とされています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:就業規則の不利益変更
就業規則の
「不利益」
変更については、原則これが適用される労働者全員が同意することが望ましいが、全員が同意しないものであっても、
「合理的なもの」
であり、所定の法定手続きを踏んだものであれば、反対する労働者も拘束する、という取扱いです。
このロジック(就業規則不利益変更法理)の背景哲学としては、
・企業側は、労働契約法第16条によって解雇(一方的な契約解消)が絶望的にできない状態にある
・すなわち、企業側としては、
「この(新たな)就業規則に不満であれば、クビにするから、とっととやめろ」
といえない状態にある
・とすると、就業規則も変更できない、解雇もできない、というのであれば、あまりにも企業側にとって酷
・他方で、ムチャクチャな就業規則に変更し放題、というのも解雇権濫用を戒めた労働契約法16条を空洞化させる
ということで、判例・実務としては、
「合理的な不利益変更であれば、反対する労働者をも拘束する」
という妥協の産物を作り上げ、事態収拾基準を立てた、といえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:何が「不利益変更」か
就業規則が労働者に不利益に変更された場合、企業側としてはどんなに不合理な変更であっても自画自賛しますし、労働者側としてはどんなに合理的な変更であっても認められない、と争うことになり、結局、一義的な基準を定めることなどできるはずもなく、結果、合理・不合理の判定は、変更内容の中身そのものもさることながら、外形的にみてどのように適切かつ慎重に協議を踏まえて議論されたか、という点で判断することほかなかろう、というのが現在の一般の考え方です。
現実問題として、就業規則の変更手続きとしては、労働基準法によって、労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合、これが存在しない場合は労働者の過半数の代表者)の意見を聴いた上でおこなうべき(同法第90条第1項)、とされていますので、企業側にこのプロセスを実質的・実体的にきちんと踏ませることを通じて、変更合理性の担保とさせよう、という取扱いです。
すなわち、労働者の代表者ときちんと話合いの場を設け、相手の意見に耳を傾け、もっともな反論については説明し、必要な妥協や調整を行う、ということを通じて、合理的な変更を基礎づけよう、という狙いです。
なお、労働基準法が求めているのは、
「労働者の意見を聴くこと」
であり、
「同意を得る」
「意見に従う」
ということではありませんので、労働者側が不合理な意見に固執し、企業側の合理的な意見にも耳を貸さず、いわば
「話にならない」
状態であれば、妥協や同意はできなかったが
「意見は十分聴くだけ聴いた」
ということで不利益変更に踏み切ってもやむを得ない、と考えられます。

助言のポイント
1.就業規則の変更は、企業側のイニシアチブで可能であるが、労働者に不利益を与える変更には、労働基準法のほか、就業規則不利益変更法理によって、各種制約が課されている。
2.就業規則の変更には、労働者の代表の意見を聴取する必要がある。必ずしも、意見に従ったり、言いなりになる必要はないが、きちんと噛み合う議論をしておかないと、「就業規則の不合理な変更」と後でいわれる危険性がある。
3.労働者代表者の意見をロクに聴かない、労働者の意見聴取手続も代表者選出すらしない就業規則の勝手変更をしても、反対する労働者に従わない理由を与え、会社を揺るがす人事の混乱を招くことになるから、注意しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01013_企業法務ケーススタディ(No.0333):移転価格の恐怖!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百五の巻(第105回)「移転価格の恐怖!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘商事株式会社グループ シンガポール現地法人 NADESHIKO, PTE.LTD.
脇甘商事株式会社 ライフアンドヘルス事業部 課長 撫腰 太郎(なでごし たろう)

相手方:
国税庁

移転価格の恐怖!
シンガポールに現地法人を設立したものの、苦戦しているとのことで、本社に支援要請がきました。
担当者がいうには、子会社を助けられる上に本社の税負担も軽減されるとの話です。
今期売上が4倍増で法人税もそれなりになるところ、現地子会社への卸値を安くすると、その分本社の利益は減り法人税も下がり、仮に子会社が儲かったとしてもシンガポールでの税率は日本に比べてはるかに低いためグループ全体でみると節税になる、というのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:国税当局を激怒させる理由
当社とシンガポール現地法人を、経済的総体として捉えた
「グループ全体」
でみると、身内のようなものであり、当社が商品を高く卸そうが正価で卸そうが、それ自体に問題はありませんし、取引自由の原則という点からしても、誰にいくらで売ろうが商売の自由の領分であり、国から何かいわれる筋合いはなさそうです。
しかしながら、日本の国税当局からすると、到底容認できない話で、徹底的に弾圧すべき、ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:移転価格って何?
わが国は、海外現地法人等恒久事業拠点に対して、高く売るべきものを安く卸したり、廉価のものを高額で仕入れたりする取引を、
「価格を恣意に移転させて、日本国の税務当局の徴税権を侵害するもの」
として、これを一定の要件の下、税務上認めない法制度(移転価格税制)を採用しています。
前提として、問題になるのは、日本の企業が現地法人等恒常的進出拠点を作って海外進出するケースで、問題の背景には、
「各国において、税率が一律ではない」
ということも、大きく影響しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:租税特別措置法第66条の4
移転価格税制の根拠とされる条文は、租税特別措置法第66条の4にあります。
わかりやすく翻訳すると、
「子どもや親戚や身内やからゆうて、無茶苦茶な条件で取引しても、税務当局としては、そんな姑息で卑怯なやり口、認めまへん。
みかじめ料計算する上では、独立企業間価格に引き戻してやらせてもらいますさかい」
ということです。
悪質な仮装隠ぺい行為があったりすると、重加算税や脱税犯扱いなど、されかねません。

助言のポイント
1.海外現地法人等との取引の際、経済合理性がない、説明ができない、異常な価格設定をして、日本で納める税金が安くなる? そんなふざけた話を税務当局が笑って許しくれるはずはない。
2.海外現地法人等との取引にあたっては、移転価格税制をしっかりスタディし、日本の税務当局の徴税権を侵害するような、税務当局からみて「みかじめ料をちょろまかす不届き者」と誤解される形になっていないか、検証しよう。
3.移転価格税制上、税負担を違法不当に逃れた、と判断されると、追徴課税のほか、延滞税、過少申告加算税、さらには、悪質な場合、重加算税や脱税犯としての問擬もあり得る。また、数年にわたる取引が積み重なると、額も大きく会社の存立に関わる大事になる危険性もあるから、しっかりとした対応が必要。

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01012_企業法務ケーススタディ(No.0332):証人尋問前にすでに勝負がついとるだと!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百四の巻(第104回)「証人尋問前にすでに勝負がついとるだと!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
株式会社ビッグマウス 社長・創業株主 大口 洞雄(おおぐち ほらお)

証人尋問前にすでに勝負がついとるだと!?
上場を目指すベンチャー企業に投資したところ、そのベンチャー企業社長は自分の株式を身売り先に引き取ってもらいカネを手にした一方で、当社が投資した株は二束三文となりました。
そこで当社は訴訟を提起しましたが、なかなか厳しい情勢です。
裁判官からは、尋問直前に具体的な条件を含めた和解の打診がありましたが、証人尋問での大逆転劇を狙う当社は蹴り飛ばしたのでした。
社長は、隠し玉の証拠である相手の前妻と前前妻とそのまた前の妻からの陳述書、愛人を三人囲う証拠写真、違法カジノに出入りしている様子、立ちション写真を提出すれば、裁判官も当社の正義に気づくはず、と息巻きます。 

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:民事裁判における裁判官の仕事のやり方
裁判官はたくさんの事件を抱え、過酷なノルマが課され、成績管理がされています。
裁判官は、膨大な記録を速読して瞬時に事件の見通し(「事件の筋」)を立て、その見通しに従って事件を処理し、当事者の言い分や証拠を調べながら、高裁や最高裁でひっくり返されないように理屈を固めていきます。
いったん立てた事件の筋を変えてしまうと、思考経済上マイナスですし、仕事が停滞するもとになるため、民事裁判においては、
「事件の筋」
は事件の初動段階で確立され、その後、変更されることはまずありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:証人尋問はただのセレモニー
民事訴訟においては、事件の筋は証人尋問開始前にほぼ決まっており、実際のところ、ほとんどの場合、尋問はセレモニーにすぎないといえます。
弁護士会主宰のセミナーでの民事裁判官のアンケートで
「証人尋問の後で心証が変更することはありますか?」
との問いに7~8割近くの裁判官が
「尋問が終わっても心証の変更をすることはない」
と回答した状況が報告されたことから考えるに、
1 民事裁判官は証人尋問前に心証を決定している、すなわち、
「どちらを勝たせるか」
を決めた上で尋問に臨んでいる、ということ
2 大抵の事件において、証人尋問は、裁判官に何か新しい事実を発見させる場ではなく、すでにわかっている事実を確認する場である、ということ
3 裁判においては
「尋問前に提出している文書の証拠が乏しければ、どんなに尋問でがんばっても無駄」
ということなのです。

助言のポイント
1.大量の事件を抱え、時間がなく、ノルマに追われる裁判官は、文書だけでほぼ事件の勝敗の方向性を決めていることが多い。また、裁判の初期に描いた事件のイメージや勝敗の想定帰結は、ほぼ変更されない。
2.書証が整っている事件では、証人尋問はただのセレモニーか、敗訴当事者へのガス抜き程度にしか扱われていない可能性がある。書証が揃っている事件で、尋問で不利を挽回する逆転劇は、ほぼ皆無、と心得よう。
3.ただ、書証が出来上がった経緯のデタラメさや、書証の文言と実際発生した現実との齟齬や矛盾点や解釈運用上の難点を丁寧に突き、書証の信用性や効能を減殺することは可能。裁判官の心証をぐらつかせて、有利な和解条件を勝ち取ろう。

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01011_企業法務ケーススタディ(No.0331):あの裁判官は正義というものをわかっとらん!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百三の巻(第103回)「あの裁判官は正義というものをわかっとらん!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
株式会社大洞家(オオボラケ)企画 大洞家 福男(おおぼらけ ふくお)
裁判官

あの裁判官は正義というものをわかっとらん!
当社は、昨年、あるプロジェクトについて、野心的な提案を予算内で積極的に出してきた中堅の代理店に依頼したところ、実施内容は提案書とはあまりにかけ離れたものでした。
激怒した社長は、残金支払を拒否し、すでに支払った費用の返還と心痛の慰謝料も含めた損害賠償を求め、東京地裁に訴えを提起しました。
ところが、裁判長には主張にケチをつけられ、渋くしょっぱい態度をとられ続けた挙句、尋問後に出てきた和解案は、到底容認できない内容です。
「裁判所には拒否通告を送る。
これであの裁判官も少しは頭が冷え、まともな和解案か判決を書いてくるだろう」
と、社長はいいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:民事裁判に「正義」は関係ない
裁判所の一般的な考え方として、
「民事裁判においては、原告・被告、それぞれのエゴがあるだけで、正義という普遍的概念は無関係」
という前提認識があるようです。
そもそも民事裁判は、
「法律上の論争や見解の対立や意見の相違が発生すれば必ず訴訟を提起しなければならない」
というものではなく、裁判を起こすも起こさないも、起こす側の自由です。
さらにいえば、訴えを起こしておきながら裁判を終わらせても(請求の放棄)差し支えありません。
国家賠償や公害や薬害、大企業のリストラや不祥事といった公益や正義の問題が含まれている民事問題もあるにはありますが、いかに公益や正義が含まれていたとしても、
「民事訴訟」
というゲームプラットフォームで、裁判を適切に機能させるためには、
「ゼニカネ、権利や義務、さらに法的立場」
といった私的問題に還元していくことが必須の大前提になります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「正義」を叫ぶことの危険性
民事裁判の世界では、
「書かれざる、一般的な取扱いルール」
と考えるような不文律がいくつかあります。
「言い分はあっても、証拠がない。
これを『ウソ』という」
「契約があっても、契約書はない。
この約束は『妄想』と判断される」
「記憶があっても、記録がない。
この場合、当該記憶にかかる事実は『なかったもの(マボロシ)』と扱われる」
「常識など通用しない。
法律は常識に介入しない。
さらにいえば、法は常に、法を知り、法を狡猾に活用する、非常識な人間の味方である」
「日本の裁判所は、常に加害者に優しく、被害者に過酷である」
などなどです。
設例の場合、事態を放置し、途中までの契約代金を漫然と払い続けた当社が、“しょっぱい対応”をされたとしても、それが絶対的に間違いとはいえません。

助言のポイント
1.民事裁判においては、正義はなく、エゴの衝突があるだけ。民事訴訟において、「正義」を連呼しても、裁判所を辟易させるだけ。
2.「言い分はあっても、証拠がないと『ウソ』扱いされる」「「契約があっても、契約書はないと『妄想』と判断される」「記憶があっても、記録がないと『マボロシ』と扱われる」といった、民事裁判の不文律をわきまえておこう。
3.事件の紛争解決について独裁的権力を有する裁判所相手に、「正義」という名の安っぽいエゴを振り回し、ケンカを売るなど、言語道断。裁判所の相場や本音が大体把握できたら、現実に合わせて目標変更するなど適切なゲームチェンジをして、うまく切り抜けよう。

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01010_企業法務ケーススタディ(No.0330):共有持分取引の闇!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二の巻(第102回)「共有持分取引の闇!?」をご覧ください 。

当方:
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相手方:
和気有(ワケアリ)不動産

共有持分取引の闇!?
都内の一等地にある土地建物の持ち分50%が驚きの低価格で買える、という話が持ち込まれ、社長は、
「今日中に何が何でも買う」
と鼻息が荒い状態です。
そこで、法務部長は、午前中に詳細を確認し、社長がランチミーティングの間に、司法書士に電話して電子申請で登記し、同時に振込送金、と手配の段取りをします。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:所有は単独独裁がイチバン。共有は悪夢
所有権を持つ者は、所有物を使おうが、貸して賃料を得ようが、売り払おうがまったく自由で、取引そのものについては基本的に一存で決められます。
ところが、複数人で行う共有となると、非常に面倒な状況に陥ります。
土地を共有した場合、土地全部を勝手に売り払うことができない(他の共有者の権利を侵害する)のはもちろんのこと、土地の利用形態を変更したり、土地の上に乗っている建物を勝手に建築することなどもできません。
建物が共有の場合、他の共有者に無断で勝手に住み始めるとトラブルになりますし(合意が成立し、応分の費用精算できれば別)、大規模な改造をしたり、取り壊して建替えなどすれば、それは他の共有者の所有物(共有物)を勝手に壊しているのと同じであり、裁判沙汰になります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:共有状態の解消
「共有」
は、不動産を所有する人が遺書を書かず亡くなり、相続人が複数いて、相続協議がまとまるまでの間、法定相続分に従って持ち分が相続されることにより生じることがあります。
そして、よくあるのが、結婚した夫婦が不動産を買う際、妻の父親が頭金を支援し、夫と妻の父親の共有、という形に落ち着くケースです。
婚姻関係が円満な間はいいのですが、離婚するようなことになると、夫と妻の父親が共有し、さらに、夫のローンがまだ残っていて銀行の抵当に入っているうえ、買ったときより不動産価格が下がって、何が何だかわからない状態に陥る、ということもあります。
また、稀なケースで
「高級物件の持ち分が、破格の安さで買える、オイシイ話」
という触れ込みに乗せられ、意味もわからずに、持ち分を買い取り、知らない誰かさんと共有状態になった、という話です。
法律上、分割(現物分割や代償分割等)をしたり、分割話がつかない場合は競売にかけ売得金を持ち分に応じて取得、というような手続も用意されていますが、これらの手続を遂行するには、多大な時間とエネルギーを要します。
特に、不動産の場合、他の共有者においてセンチメントバリュー(感情的・主観的な思い入れによる価値)に対する感受性が大きいと、経済合理性に基づく冷静な議論が不可能となります。
そして、モメている間も、固定資産税はとられますし、第一、資金が塩漬けになり、かつ勝手に自由に邸宅を使えるわけでもなく、経済的には、愚の骨頂です。

助言のポイント
1.所有と共有は異なる。配偶者や恋人の共有や、自宅の風呂やトイレが共同利用になるのと同様、「共有」は、法律上大きな制約があり、「共有持分」は経済的には無価値と心得よう。
2.2分の1の共有持分だから、半分が時価、などと安易に考えないこと。共有状態解消に、気の遠くなるような時間とコストとエネルギーが必要になる。
3.支配する物を用いて経済的かつ効率的に成果を得るためには、単独で独裁的に絶対的自由な支配を持つべき。単独所有以外の物権は、権利などではなく、将来のトラブルの種であり、時間とカネの無駄を生む、疫病神という面があることも心得よう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01009_企業法務ケーススタディ(No.0329):M&Aは気合で競り勝て!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百一の巻(第101回)「M&Aは気合で競り勝て!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
ウエステッド・ホーム・センター社(ウエステッド・ホーム社)

M&Aは気合で競り勝て!
当社で、ある会社をM&Aで傘下に収める話が持ち上がりました。
法務部長は、つり上がっていく金額、時間的切迫性のあるデューデリジェンス、よくわからない手形の裏書きの出現、サービス残業の噂、買収後の保証提供など、リスクに懸念を示しますが、社長は、
「買うためにはあらゆることを前向きに検討せよ」
と、躍起になっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:日本企業の不得意中の不得意科目「M&A」
M&Aは、いってみれば、買い物と同じです。
「本当に必要な良い物を、焦っていないときに、安く買う」
というのが買い物における賢い戦略です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:M&Aはなぜ失敗する?
「買いたい」
という強い願望が先行し、この願望が強力なバイアス(認識の歪み)となって
「価格の合理性に関する検証」
を怠らせ、
「買いたい気持ちがある以上、多少高くても、値段は安いと信じる」
といった愚劣なジャッジの末、経済合理性に反する買い物を敢行するのが、買い物慣れしていない日本企業のM&Aプレースタイルです。
「感情で決めて、理屈で正当化し、相手のペースに振り回され、引くに引けず、最後は意地になってどこまでも高値交渉に付き合う」
という、
「買い物では、最もやってはいけない、愚かな購買行動」
に走るのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:M&Aで失敗しないためには
M&Aは、手段であって目的ではありません。
金儲けという目的にとって有益である前提で、安ければ買うし、あまりに高くて金儲けどころか逆にカネを失うようであり、また、別の代替手段がより廉価で効率的であれば、そちらを検討するだけです。

助言のポイント
1.M&Aなど、主婦の買い物と同じ。「いらんもん買わへんし、いるもんでも値切り倒すし、粘って粘って粘り倒しても値切れんようやったら、買うのやめて、帰って、別の機会を待つ」という大阪のオバちゃんのメンタリティで臨むこと。
2.M&Aそのものは、単なる金儲けの手段で、それ自体には意味がない。無茶苦茶安く買いたたいた後、どうやって活用して、のれんをとっとと償却し、償却後、シビれるくらいバカスカ儲けるか、という観点を忘れない。
3.「買いたい」という強い願望が先行すると、この願望が強力なバイアスとなって「価格の合理性に関する検証」を怠らせる。「買いたい気持ちがある以上、多少高くても、値段は安いと信じる」といった愚劣なジャッジの末、経済合理性に反する買い物を敢行すると、大やけどを負う。
4.ヒートアップしそうになったら、冷静になって、「たかがM&A」くらいの気持ちで、入れ替わってしまった「目的と手段」を巻き戻して、メンタルをリセットしよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01007_企業法務ケーススタディ(No.0327):ゴミ株主をたたき出せ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十九の巻(第99回)「ゴミ株主をたたき出せ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
粕尾 阿沙流(かすお あさる)ファンド
株主 御根田 揉太郎(ごねた もめたろう)

ゴミ株主をたたき出せ!
当社は、M&Aで傘下に収めた会社の少数株主に頭を抱えています。
株を売ってほしいとお願いしたところ、
「5億円じゃないと、ビタ1株売らん」
の一点張りで、少数株主権を使って、毎週、内容証明や訴状を送ってよこします。
社長は、相手の言い値で手を引け、と弱気になっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:ゴーイング・プライベート(上場企業の非公開化)
ゴーイング・プライベート(Going Private)とは、上場企業(Public Corporation)が自らの意思で積極的・戦略的に非上場化し非上場企業(Private Company)になる、というものです。
具体的には、株式公開買付け等により、自己株式を除く、流通している発行済株式の取得を図り、上場廃止を申請して行います。
上場企業から非上場企業になるのは、メリットを上回るデメリットがあるからです。
金融商品取引法上の監査、法定開示、各種IR、株主や銀行、取引所への説明、株主総会での説明、監査法人対応、株主代表訴訟に、敵対的買収等々。
TSUTAYA、ワールド、ポッカコーポレーション、チムニー、吉本興業、コンビ、結構な数の会社がゴーイング・プライベートしています。
中には、すかいらーくや西武やマクロミルのように、いったん上場廃止して、また上場し直す、という会社もあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:買収で株式を取得し損ねた分の少数株主をどうするか
買収の際に100%株式取得をしようとする場合、創業オーナーがTOBで流通している発行済株式を買い戻すのであれ、ファンドと組んで買い戻すのであれ、ファンドあるいは事業会社が新たなオーナーとなるべくTOBで株式を取得するのであれ、株主全員が快く応じてくれるというわけではありません。
株主代表訴訟をはじめとする少数株主権は株主の下に留保されますし、さらにいえば、100%の株式を持つ単独の株主なら株主総会すら開催しなくていいものを、1人でも株主が別にいれば、いちいち株主総会を開催しなければならず、これをサボると、総会決議不存在を理由に、チクチクいじめられます。
そんなこともあり、少数株主をどうにかこうにかして追い出したいという要望が、買収した新オーナー側に湧き上がりますが、少ない株式であっても、個人の財産です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:スクイーズアウト戦略
会社法の種類株式制度を駆使して認められるスクイーズアウトといわれる戦略があります。
具体的なプロセスとしては、
1 定款変更により、種類株式発行会社に変更し、普通株式を全部取得条項付普通株式に転換する
2 会社が、前記に伴い、全株取得する
3 その際、
「多数派株主には一株以上となるが、少数株主に対しては全員の持株を糾合しても一株に至らないような端株」
となるよう対価設計する
4 以上のプロセスにより、
「今や、議決権を完全に喪失した状況に陥った少数派株主」
から、適当な額で、端数となった株式を買い上げる
というものです。
ダークサイド面についても解説しておきましょう。
会社が提案した買取対価に満足しない株主から株式買取請求等がなされた場合、裁判所が会社提案の対価の妥当性を審理することになり、裁判所が判断する価格が会社提案のものを上回ると、実施コストが上昇することになります。

助言のポイント
1.買収会社に少数株主を残したままにすると、いつも足を引っ張られ、大胆な経営改善ができないし、買収した意味がなくなる。
2.ただ、買収した後、株式買い取りに応じない少数株主がいる場合、スクイーズアウト戦略を検討すること。
3.スクイーズアウト戦略は、会社法のスタディと、スマートな戦略実施が求められる。経験あるプロを交えて、堅実に実行し、確実に少数株主を排除すること。
4.スクイーズアウト戦略で、最終的な端株買い取り対価で揉めることはあるが、トラブルがあっても、最後は立ち退き料の調整の話、カネの問題。ここは揉めるのを恐れず、正面突破で果敢に乗り切り、後は、カネで処置する覚悟で強気で行こう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01008_企業法務ケーススタディ(No.0328):破産のどさくさに紛れて、再建資金を持ち出せ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年7月号(6月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百の巻(第100回)「破産のどさくさに紛れて、再建資金を持ち出せ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)

相手方:
社長の友人 骨剃 鉢太郎(こつそり ぱちたろう)
妻の瓶子(がめこ)

破産のどさくさに紛れて、再建資金を持ち出せ!
社長の、古くからの友人が破産に陥ったようです。
社長は、感情の赴くまま適当な話をして、事態を悪化させそうな勢いです。
「破産といっても、生活や再建資金を、こそーっと、持ち出すもんじゃ。
あれやこれやをやりながら、涼しい顔して、破産して、ほとぼりが冷めたら、復活すりゃええんじゃ」

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社の倒産って何?
倒産とは、会社がゴーイング・コンサーン(企業は永遠に存続するという論理的前提)を喪失した状態を表す言葉で、法律用語ではありません。
倒産状態に陥った会社は、債権者の協力を得て(売掛や貸付について泣いてもらって)再建するか(=民事再生や会社更生)、そのまま法人として死ぬか(=法人格消滅の儀式としての破産等)、のいずれかの選択をすることになります。
商売がうまくいっていても、入出金のタイミング、すなわち、カネの後先が反対になってしまい、黒字であっても倒産する、ということもあります。
借金がかさむ(債務超過)、資金繰りが回らない(支払不能)、あるいはその双方によって、企業は死に体(倒産状態)に陥ります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:じゃあ、「破産」ってどういうこと?
破産は、お葬式とよく似ています。
葬儀屋さん(破産申立弁護士)、葬儀会場(破産裁判所)、お坊さん(破産裁判所の裁判官)、粛々と形見分けをする弁護士さん(管財人)という登場人物が、それぞれの役割を遂行していきます。
破産という法的手続を選択すると、
「私有財産制」
が制限され、破産開始後は、管財人が、破産会社ないし破産者の財産を管理することとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:直前の財産隠しは犯罪?!
破産直前に、本来債権者への形見分けの原資となる財産を、隠したり、譲渡代金等の名目で知り合いなどに預けるようなズル全般を、詐害行為といいます。
詐害行為を行った場合、これを発見した管財人は、行為を無効として、財産の取戻しをしていくことになります。
個人の場合、免責が受けられなくなり、破産をしても借金はチャラにならず残ったままとなり、再建が困難になります。
この種の財産隠し等は、犯罪とされることです。
詐欺破産罪あるいは(民事再生の場合)詐欺再生罪といった刑事罰が整備されていますが、懲役10年以下、と結構重い刑罰です。
破産法違反ほう助という犯罪類型も存在し、犯罪者の仲間入りになる危険が生じる、ということです。

助言のポイント
1.倒産状態に陥った場合、債権者に迷惑をかけて立ち直るのが「民事再生」「会社更生」、そのまま経済的に死亡して鬼籍に入ってしまうのが「破産」、と整理しておくこと。
2.破産や民事再生等、裁判所のご厄介になり、法的な倒産処理をする場合、事前に「ズル」や「インチキ」をして財産隠しをするのは、ご法度。いろいろ奇策や戦略を提案する外野もいるが、これらはすべて、最後の最後に、バレてエライことになる。
3. 詐害行為が発覚したら、民事再生は強制的に破産に移行することとなるし、破産しても免責は受けられず借金はチャラにされない。さらに、詐欺破産罪、詐欺再生罪、ほう助罪と、おっかない刑事罰もある。実際、逮捕、起訴、有罪判決を受けた例もあるから、甘く考えない。
4.破産になったら、策を弄さず、ジタバタせず、粛々と、有り金全部差し出して、クビを洗って、お上に従うのが吉。下手な策を弄すると、犯罪者になる危険もあるので、心しておくこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01006_企業法務ケーススタディ(No.0326):脱税? 節税? そんなに違いある!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十八の巻(第98回)「脱税? 節税? そんなに違いある!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
不動産会社 ギロッポン・カンパニー 代表  脇甘 鶏知留(わきあま けちる、社長の甥)

相手方:
国税庁

脱税? 節税? そんなに違いある!?
社長の甥っ子が経営するベンチャー企業のところに税務調査がやってきたようです。
社長は、知らぬ存ぜぬでつっぱり倒せ、とアドバイスします。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:脱税と節税と租税回避と申告漏れ
脱税、節税、租税回避、申告漏れ。
これらの共通点である目的ないし効果は、平たくいえば、支払う税金をゼロにする、あるいは、少なくすることです。
しかしながら、これらは、方法、態様、法律や当局との緊張関係という点では、顕著な違いとなって表れます。
脱税は、法に触れるものであって(課税要件を充足するにもかかわらず税務当局に申告しない)、かつ、主観要件、つまり売上の除外、架空経費といった行為を、仮装隠蔽の意図をもって行うもので、無論、違法行為かつ罰則が適用される犯罪行為でもあります。
そして、節税は、税法で定められている各種特典や措置を活用して税の軽減を図るもので、法が予定し法が認めている税負担減少行為ですので、適法です。
租税回避は、(明らかに違法とは断定できないが)法が予定・想定していない税軽減行為であり、税負担を減少する効果を生じる取引で、あまり経済合理性が感じられない類いの行為です。
申告漏れは、脱税と同じく
「課税要件を充足するにもかかわらず税務当局に申告しない」
というものですが、脱税との違いは仮装隠蔽の意図がない、あるいは認定できないところです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:脱税とそれ以外の行為との決定的違い
脱税とそれ以外とでは顕著な違いがあります。
節税は問題ありません。
租税回避も
「法が予定していない」
というだけで違法と決まっているわけではないので、ある意味法の不備として議論すべきものであり、納税申告した側が厳しく非難されることはさほど多くありません。
申告漏れは、悪いといえば悪いですが、ある意味、誤解やミスやエラーによるものとして、指摘された間違いを認めつつ是正指導を受けて、自主的に修正、で十分といえば十分です。
しかしながら、脱税は、もはや国家と社会への挑戦であり、国庫から国の財産を横領するのと同様、笑って見逃すわけにはいきません。
したがって、発覚後納めるべき税額も特別に加算されますし(重加算税)、さらに、事と次第によっては、犯罪者としてその罪を裁かれ、最悪、刑務所で懲役刑を受けて、強力な矯正を実施されることもあり得ます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:税務調査と犯則調査
設例の場合、社長の体験した事案は、予告の上、税務調査官が来訪して申告漏れがないかどうかを任意の調査によって調べる手続きで、申告漏れの不備がみつかったので指導を受け、自ら修正申告して平穏に終了したものです。
行政目的での行政調査が行われたわけですから、ヌルいのは当たり前です。
他方で、脇甘鶏知留氏は脱税行為という犯罪が行われたとの高度の蓋然性を前提として、裁判所の発令した令状に基づき、査察部(マルサ)が行う、行政目的とは別の犯則調査目的(犯罪調査目的)での強制調査(ガサ入れ)であり、かなり厳しい状況です。
脱税については、ほ脱税額を原則的基準とした処罰運用がなされ、その基準は、
「ほ脱税額3000万円以上が告発基準とされ、基準を充足すると刑事告発され検察庁に送致される。
情状次第で不起訴か執行猶予をいただける。
ほ脱税額が1億円以上となると、実刑判決基準となり、執行猶予は期待できない」
といわれます。

助言のポイント
1.脱税と申告漏れと節税と租税回避。企業の税務においては似て非なる重要な概念。違いをしっかり理解しておくこと。
2.節税は問題ないし、租税回避は「見解の違い」を前提にいくらでも争える話。申告漏れも「知らずに、ついうっかり、やらかしちゃった、ミスやチョンボ」であれば、後で利子(延滞税)をつけて支払えば何とかやりすごせる。
3.仮装隠蔽による巨額な脱税をすると、そのペナルティは大変。重加算税に、刑事告発、脱税額によっては刑務所行き。もし万が一犯則調査に遭遇したら、不当ないいがかりは徹底して争うべきだが、身に覚えがあるなら、空気を読み、状況を理解して、正しく対応し、最悪の事態を避けること。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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