00844_ビジネス活動・営業7:現代のB2C営業(2)徹底した「女子供」目線で企画・実行する

「営業には誠実な努力が大事だ」
といわれますが、何事も、方向性を誤り、無駄な努力を重ねても意味がありません。

では、
「B2C営業を行う際、どのような努力の方向性をもつべきか」
という点ですが、営業あるいはその企画・計画を練る上では、
・入手しやすさ(価格や購入方法の簡便さ等)
・クオリティ(品質や機能)
・刺激・目新しさ
いずれを目指す場合も、
「女子供」の目線
をもって磨き上げることが重要です。

一般に
「女子供」
というコトバ
は、女性や低年齢の方々に能力を蔑視するコトバとして忌避されます。

しかし、現実を重視するマーケティングにおいて、モラルや形式にとらわれて、ジャッジを誤ることこそ避けるべきなので、あえて、この
「女子供」
という言葉
で解説します。

「女子供」
という言葉
は、
「相手が、女子供だから、この勝負、ちょろいもんだ」
という形で、ディスるときに使われるのが一般的な用法ですが、マーケティングにおいては、
「女子供」
は強敵です。

最強です。

「女子供」
の対極にあるのが
「オッサン」
ですので、これと比較しながらお話しましょう。

「オッサン」
は、何事も我慢します。

あきらめます。

目先の人間関係に波風立てるくらいなら、カネを払ってすまそうとします。

それだけの時間的経済的余裕があります。

恥とか外聞とかあるので、騒いだりしませんし、文句も言いません。

情実が通用するのでしつこく食い下がると不要なモノでも買ってくれます。

ところが、
「女子供」
は我慢しません。

イヤなものは、イヤ。

つまんないものは、つまんない。

古臭いものは手に取ることはおろか、見向きする時間ももったいない。

0.5秒で判断し、一度、NGを出したら、2度と振り向いてくれません。

一度拒否したにもかかわらずしつこくアプローチすると、
「ストーカー」扱い
され、嫌悪感が増すだけで、逆効果です。

だから、手強いのです。

「こんな方々の注意を惹き、商品やサービスを知ってもらい、財布を開かせ、買っていただく」
ことを実現するための苦労は並大抵ではありません。

BtoC営業を展開する上で失敗するのは、
「女性や子どもたちの目線」
に立たず、
「オッサン」
の頭と感性で考えるからです。

「女子供」
をバカにせず、むしろ、
「営業活動の合理性を検証する上で、ストレステストの最強のカウンターパート」
として、その感性や行動をつぶさに観察研究することが、現代のBtoC営業には求められるものといえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00843_ビジネス活動・営業6:現代のB2C営業(1)すべての品はコモディティ(日用品)化する

営業については、
コンシューマー向けの営業活動(Business to Consumer、BtoCあるいはB2Cなどといわれます)と、
法人向け営業や企業間取引営業(Business to Business、BtoBあるいはB2Bなどといわれます)とで、
基本的なロジックや活動スタイルが異なりますので、2つに分けて解説していきますが、B2C営業をまず取り上げます。

「すべての商品はコモディティ化する」
という命題があります。

無論、サービスも同様、すべて日用品化し、陳腐化していく運命にあります。

衣食足り、モノやサービスがあふれ、消費者の目が肥え、究極にワガママになった現代において、
「フツーのものをフツーに作って、フツーの値段で、フツーに売ろう」
としても、消費者にそっぽを向かれ、早晩倒産してしまいます。

結局、
・入手しやすさ(価格や購入方法の簡便さ等)
・クオリティ(品質や機能)
・刺激・目新しさ
のいずれか又はすべてにおいて、消費者の支持を得ない限り、モノやサービスは売れないのが現代です。

すなわち、営業活動においては、
「怠慢を戒め、以上のすべての要素を常に改善されるよう、たゆまぬ努力をするしか企業が生き残る道はない」
というのがシンプルな結論です。

商品やサービスを、
「値段が高く、入手が面倒くさく、品質や機能も陳腐なままで、長い時間同じものを売っている」
ような怠け者の企業は市場からとっとと退場を命じられます。

逆に、品質や価格において常に消費者の支持を得られるように改善を続けていき、また、リニューアルや新商品や新サービスを恒常的に提供し続けることができる企業は生き残ります。

よく、デフレでモノが売れない、などという声が産業界から聞こえます。

じゃあ、
「インフレになったから、昭和時代のように、モノがバカスカ売れるか」
というと、そんな甘い話にはなりません。

アベノミクスで市中にカネがあふれ、貨幣価値が下がりましたが、
「若い世代が新車を争うように買ったり、高級レストランでバンバン飲み食いする」
なんて景気のいい話は寡聞にして知りませんし、今後、インフレが進んでも、そんな事態にはならないでしょう。

顧客の欲求・現実・価値に真摯に向き合い、方向性を誤らず、誠実な努力を重ねることによって、営業活動が成功する。

実につまんない話ですが、これが営業という仕事のすべてです。

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00842_ビジネス活動・営業5:営業は根性論ではなく、科学的かつ具体的な営業指示へ

大日本帝国海軍連合艦隊司令長官であった山本五十六は、
「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」
と言ったそうです。

海軍のような指揮命令系統が整備されていて、最終目標が
「敵をより多く殺戮する」
という単純明快な組織ですら、このような状況です。

ましてや
「人にモノを買わせる」
という複雑で小難しいミッションを遂行しなければならない企業においては、海軍以上に現場への指示を、合理的で、細かく、具体的で、再現性を持たせるようにしないと組織は動きません。

ハウステンボスを建て直したH社の社長が建て直しの苦労話を披露していた際、
「『10%売上げを増やせ』という指示を出しても、現場には理解できない。現場への指示は明快で具体的であるべきだ。そこで『移動であれ、会議であれ、作業するのであれ、話をまとめるのであれ、10%スピードアップをしてくれ。1時間かかっている会議は50分で終わってくれ。お遣いに行くときは歩いていかずに自転車を使ってくれ。こういう細かいところも含めて全てスピードアップをしてくれ』という指示を出しました。そうしただけで、売上が劇的に改善された」
ということを言っておられました。

このように、営業上の復活を遂げ、生き残る企業(ハウステンボスの場合、「生き返る企業」ということになりますが)は、精神論、根性論ではなく、
「現場に対して確実に伝わる、現実的で合理的な指示」
が行われることが多いようです。

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00841_ビジネス活動・営業4:営業は「気合」から「サイエンス」に

低成長でデフレーションが顕著な現代においては、営業は、データと科学で緻密に戦略をたて、細かいことにこだわる戦術によって行うことが求められます。

一例を申しあげますと、

売り上げ=
(潜在客数×来店率×成約率×平均客単価)+
(来店客数×リピート率×リピート成約率×平均リピート客単価)

として計算されます。

売り上げを伸ばすには、潜在客数を増やすか、来店率を上げるか、成約率を上げるか、平均客単価を上げるか、リピート率を上げるか、のいずれかの方法によるしかありません。

すなわち、「売り上げが低迷している」という状態を改善するのであれば、
1)平均客単価が減少しているのか、
2)成約率が悪いのか、
3)来店率が悪いのか、
4)リピート率が下がっているのか、
5)潜在客数が減少しているのか、
6)そもそも市場自体が構造的に縮小傾向にあるのか、
等を分析した上で、それぞれに原因に対して有意となるべき合理的な手段を構築し、遂行すべきなのです。

原因を分析し、原因に対して有意な対策となるべき組織目標を設定し、KPI(キー・パフォーマンス・インディケーター)を設定し、組織に賞罰基準その他ゲームアレンジを行い、サイエンティフィックに組織が自律的にKPIをクリアする方向で営業組織運営改革をすべきです。

いたずらに、
「気合」「根性」
と叫んだところで時間とエネルギーの無駄です。

科学的なアプローチを行って合理的な手順や段取りで進めていかない限り、営業はまともに機能しません。

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00840_ビジネス活動・営業3:「平成以降の営業」=「もはや気合、根性だけでは売れない時代の営業」

昭和から平成に時代が変わるあたりから、冷戦が終了し、世界市場が単一化し、供給が過剰になりはじめ、日本国内においては社会が成熟し、デフレ・低成長時代になり、モノ余りが顕著になっていきました。

そうなると、
「フツーのものをフツーに作れる」
というのは希有でもなんでもなく、
「ビミョーなものを、イジョーな安価で作れる中国に簡単に負ける」
ことを意味するような時代になったのです。

こんな時代の到来とともに、日本企業は、フツーのものを大量に作れば、フツーに在庫が積み上がり、フツーに会社が死んでしまう時代になったのです。

また、消費者規制が強化されるようになり、気合で売ろうとすると、逆に特定商取引法違反で逮捕される時代が来たのです。

その意味で、気合、根性、精神論で営業を展開する企業は、
「すでに20ないし30年ほど時代遅れの経営を行っている」か、
「特定商取引法に無視ないし軽視した経営を指向している」か、
のいずれかまたは双方である、といえます。

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00839_ビジネス活動・営業2:「昭和の営業」=「気合、根性だけで営業が何とかなった時代の営業」

最近では、中東における緊張状態が連日報道されていますし、ウクライナにおける代理戦争のようなロシアとEUとの暗闘状態が垣間見えたりしますが、今から、30年から40年ほど前までは、米ソが世界を舞台にして一触即発のガチの睨み合いの真っ最中でした。

本格的な殴り合いはないものの、今にも殴り合いがはじまりそうな、みていてハラハラするようなガンの飛ばし合いを、
「冷戦」
などと呼んでいました。

このように世界が緊張状態のまっただ中にある中、アジアにおける西側世界の
「代貸し」ないし「若頭」的地位にあった日本
は、
アメリカという「組長」
の庇護の下、
「フツーのものをフツーの値段でフツーに作れる」
という稀有な工業国家として、
「世界の工場」
の地位を築き上げました。

経済はインフレーション傾向にあり、作っても作ってもモノが不足し、作ればすべてモノが売れる時代でした。

現在のように、マーケティングだの営業戦略だの細かいことをグダグダ考えなくても、気合を入れれば、なんとか需要家がみつかり、あとは押しの一手で在庫を持ってもらうことができる、そんな時代でした。

そういう時代においては、能書きたれるよりも行動こそが重要で、まさしく営業は気合であり、根性だったのです。

この時代、売上とは、
「営業マンの数×1人当たり売上」
で計算されました。

いかに多くの営業マンを採用するか、そして、いかに営業マンを働かせるか、が重要だったのです。

しかし、1989年、ベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終了し、世界市場が単一化し、供給が過剰になりはじめました。

そして、東欧諸国や南米や中国が競争に参入し、圧倒的な価格競争力で
「世界の工場」
という地位を日本から奪取しにかかります。

加えて、日本国内においては社会が成熟し、デフレ・低成長時代になり、モノ余りが顕著になっていきました。

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00838_ビジネス活動・営業1:営業の意義・重要性

「ヒト」
「モノ」「カネ」
「情報・技術・ノウハウ」
といった各経営資源を調達・運用した企業は、企業内部に
「商品在庫や役務提供のための設備・人員等」
という形で付加価値(未実現収益)を蓄積していきます。

次に、企業は、営業・販売活動によって、これら付加価値(未実現収益)を収益として実現していくことになります。

商品をカネに変質させることを、一般用語では、
「営業」
といいます。

すなわち、どんなに立派で高機能の商品でも、売れるべき期間売れずに長く売れない状態が続けば、不良在庫として、事業活動上も税務上も邪魔なものとして企業に害を与え続け、それでも売れなければ、陳腐化・品質低下し、ただの廃棄物(ゴミ)となります。

サービス提供施設も同様です。バブル期前後に出来たテーマパークの中には、客が来ないし、ショバ代(固定資産税)は取られるわ、邪魔だわ、不気味だわ、と社会的には有害物であり、壮大なオバケ屋敷兼ゴミ屋敷となってしまうものもありました。

ゴミなら捨てればいいのですが、最近では、うっかり廃棄物の捨て方を間違うと、産業廃棄物処理法違反で書類送検される世の中です。

このように、企業にとって、営業活動は、もっとも重要かつ意義ある活動として考えられます。

なお、営業活動の成果として、商品がカネに変わり、この
「カネ」
が経営資源となって、ヒトやモノやチエを生み出す原資になり、最後は、また商品となり、カネに変わり、というサイクルを繰り返す。

これを、小難しい言葉で
「営業循環」
などと表現したりします。

このような循環を繰り返す中で、企業は拡大再生産を繰り返し、企業価値を高めていくのです。

いずれにせよ、企業にとっては営業活動がもっとも重要です。

顧客を発見し、顧客の
「欲求、現実、価値」
を理解し、特定し、これに適合する形で、自社の商品やサービスを提供していく。

アホではできない高度に知的なチャレンジです。

実際、企業においては、デキる人間ほど営業に回されます。

よく、テレビドラマ等では、営業マンというと、できないサラリーマンの典型例のように扱われますが、実際の企業社会においては、営業部隊がもっとも発言権をもっており、事業会社の社長は、営業のトップが就任する例がほとんどです。

ただ、営業のあり方も、日本の社会構造や産業界の変化に伴い、大きく変質していることも事実であり、そういう状況も踏まえないと、仕事をうまく進めることはできません。

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00837_戦略法務としての経営サポート法務(意思決定支援法務、企画法務、提言法務ないし提案法務)の実践例

事後において株主による責任追及の可能性が大きい経営上の意思決定(言い換えれば、株主の権利等に影響を及ぼす可能性が大きなプロジェクトであるM&Aや特定のファイナンス等)においては、当該意思決定の合法性・合理性が徹底して確保されるべき必要があります。

このような場合、企業経営陣としては、法務サイド(法務セクションや顧問弁護士)を招聘し、経営意思決定においてどのような規制等が存在するのかを確認させます(法令管理)。

その上で、法務は、
「第三者委員会等の外部の意見を聴取する機関を設置・運営し、特定の経営意思決定の合理性・合法性について意見を徴求すべきである」、
「その際は、委員会の独立性に疑義が呈される場合があるので、日弁連のガイドラインや東証の関連規員1に配慮しながら設置運営すべきである」
といった知見を提供することになります。

また、例えば、特定の企業と事業パートナーシップを締結し、共同で事業を進めるという場合、法務サイドとしては、
「提携形態について、生産提携、販売提携、ジョイントベンチャー、M&A等がある」
「M&Aを実施する場合、株式買取、合併、事業譲渡等がある」
という形で様々な選択肢があることを情報として提供し、より精緻で合理的な経営判断ができるよう支援していくことになります(もちろん、これにとどまらず、合法性に関しては、独占禁止法上の企業結合規制に関するリスクを提示することも法務による経営サポート法務活動として重要です)。

持株会社の設立、敵対的買収防衛策の導入、ESOP制度(従業員持株制度)構築、新事業立ち上げ、海外進出といった、企業にとって重要な政策意思決定や事業企画については、検討段階から法務セクションが参画し、合法性や合理性確保の観点から、積極的に知見を提供していくことになりますが、これが経営サポート法務といわれる法務活動となります。

以上のほか、SPC(特定目的会社)を用いたオフバランススキームやデット・エクィティ・スワップ、デット・デット・スワップ等、会計技術と会社法とが融合した技術性の高いプロジェクトや、企業組織再編税制の適用を前提としたM&A等、会計と税務と法務とが融合した経営戦略の構築・遂行にあたっても、事業構築早期の段階から法務担当者や弁護士が討議に参加して進めていくことになりますが、このよう事業の進め方も、経営サポート法務活動の1つと考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00836_戦略法務としての経営サポート法務(意思決定支援法務、企画法務、提言法務ないし提案法務)の登場と発展の経緯

コンプライアンスという言葉がありますが、21世紀に入って降って湧いたように登場し、その後、事あるごとに使われるようになってきた法務活動における重要なキーワードです。

「コンプライアンス」
とは日本語に訳すと
「法令遵守」
という意味になりますが、法令を守るのはある意味当たり前といえば当たり前です。

ここで、
「何故、法令遵守を経営課題としてわざわざ認識しなければならないのか」、
「それほど日本の企業は法令を遵守していない不届きなところが多いのか」、
よく考えれば不可思議です。

まず、
「日本の企業は法令を遵守していない不届きなところが多いのか」
という点については、YESといわざるを得ません。

労働白書にて、労働基準監督官による事業所調査を行った際の結果が統計データとして公表されていますが、これによると、毎年、国内の事業所において、労働関連法規(労働基準法や労働安全衛生法等)の違反率は概ね7割で推移しており、業種によっては8割以上もの割合で労働関連法規違反が発見され、指摘されています。

日本では、どの会社も労働関連法規を平然と無視して操業している、といえます。

また、金融業界では金融検査なるものが定期的に行われていますが、
「検査をしても違反が一切なかった」
という金融機関はほぼ皆無であり、多かれ少なかれ違反を指摘されているのが実態です。

金融機関というと、いかにも
「法律はきちんと守っています」等
と涼しい顔で営業していますが、結構著名な金融機関が実は悪質な違反行為を行っている、などということは日常茶飯事のようで、これが金融検査で露見し、長期間の業務停止処分を受けることもあるようです。

比較的管理がしっかりしているはずの金融業界がこの状況ですので、その他の業界における業法その他各種法令の遵守状況もだいたい想像がつきます。

以上のとおり、日本の産業界においては、法律をすべてきちんと守って健全に経営を行ってきたというよりも、
「見えないところで適当に法令を無視しながら、バレたらバレたでなるべく事が大きくならないようにしながら、日々発展している」
という一面があるのです。

ところで、前世紀においてもそれなりに企業不祥事が発生しその度に大々的に報道されていましたが、
「コンプライアンス」
という言葉が取り沙汰されることはありませんでした。

これは、すでに前世紀の遺物と化した、終身雇用制度や護送船団行政と関係があります。

すなわち、20世紀の時代、どの大企業も終身雇用制度が確立し、従業員は一生企業と付き合いを継続する家族ともいえる親密な関係を保っていました。

親が生業として悪さをしたり、不心得なことをしていても、その親の生業のおかげで日々暮らしている子供がこれを非難したり通報したりすることは考えられません。

企業の場合、子供ともいうべき立場は、従業員であり、不心得や悪さに加担し、実行しているのは従業員そのものですから、自らの行いを自ら否定して企業もろとも路頭に迷うことを選択するような奇特な人間は皆無です。

というより、そもそも、楽観バイアスや正常性バイアスが組織内に蔓延し、同調圧力も加わり、たとえ、客観的に観察すれば法令に抵触するような、品質検査不正や性能データの改ざんや、腐ったミルクや賞味期限切れの食材の利用、品質の偽装等を含む操業も、社内では誰も異常性を感じないごく普通の操業形態として認識していたため、法令違反として捉え得る契機すらありませんでした。

そして、法令違反の状況が外部に漏れるような事態に直面したとしても、なお、企業としては、それほど慌てなくて良い恵まれた環境がありました。

前世紀においては、企業にとっては、監督官庁こそが、法制定者であり、法執行者であり、紛争解決機関であり、神様であったのです。

監督官庁と緊密な関係を保っていれば、そもそも違反自体を逐一指摘されることはなかった(あるいは少なかった)のです。

万が一、違反が明るみになっても、監督官庁が
「何とかしてくれる」
という状況がありました。

企業の
「コンプライアンス戦略」
とは、法令や規制環境を調査することでも、法令遵守を徹底させるための教育体制やマニュアルを整備することでも、困った問題があれば弁護士に相談することでもありません。

前世紀における企業においては、
「何でも監督官庁によく相談する」
ことこそが
「コンプライアンス」
だったのです。

しかしながら、護送船団行政システムが終焉を迎え、徹底した規制緩和が行われました。

その結果、監督官庁の立場・役割は、
「法を制定し、解釈し、運用し、紛争を解決するオールマイティの神様」
から、
「法令を執行するという単純な役割(とはいえ、これが本来の役割ですが)」
に変質することになったのです。

反面、企業の負荷は増えました。

「何でも気軽に相談できる面倒見のいい神様」
がいなくなり、自前で法令を調べ、わからなかったらコストのかかる弁護士や法務部に聞き、さらに心配であれば面倒くさい事前照会制度(ノーアクションレター)を活用しなければなりません。

揉めごとが発生しても、気軽に課長や局長に面会して泣きつくことはできず、費用を支払って弁護士に弁護してもらわなければならなくなったのです。

役所の庇護から離れた企業は、
「法」
と正面から向き合うことが要求されるようになりました。

企業は、自らのコストで法令遵守や法に関連するトラブル一切を取り仕切ることが求められるようになったのです。

ここに至り、日本の産業界は、自らの費用と責任で、経営の合法性・合理性を確保する必要に迫られ、経営上の意思決定を行う上で、法務専門家(社内の法務マネージャー・スタッフや、顧問弁護士)の意見・判断を経由するようなプラクティスが生まれ、発展してきたのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00835_戦略法務としての経営サポート法務(意思決定支援法務、企画法務、提言法務ないし提案法務)の概要

経営サポート法務(あるいは意思決定支援法務、企画法務、提言法務ないし提案法務)とは、企業経営上の重要な意思決定における立案・審議(経営政策や経営意思決定や重要な事業企画の立案・審議)に参加し、企業の意思形成過程に関わる法律業務を指します。

すなわち、経営政策や経営意思決定、重要な事業企画の立案に際して、法的知見を提供し、各ビジネスジャッジメントに合法性・合理性を確保させることを通じて、経営政策や経営意思決定を支援する法務活動です。

具体的には、法務担当者や弁護士(社外役員や顧間弁護士あるいは契約法律事務所の担当弁護士等)が経営の企画・立案に参画し、経営上の意思決定に関与して意見を提供し、法務上の知見を経営政策に反映させます。

上場企業等では、社外取締役を選任することになり、当該社外取締役に弁護士資格をもつ実務法曹が選ばれるケースが多くなっています。

この取扱により、経営意思決定を行う場で、リアルタイムで弁護士から上程された各種経営政策決定課題についての合法性・合理性・合目的性のチェックを客観的に受審できることとなりますが、これも経営サポート法務の実践の一環と捉えることができます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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