00822_法令管理業務としての法務関連情報の収集整理1:法務関連情報収集・整理(規制環境インテリジェンス)の重要性

企業法務活動、すなわち法務安全保障活動の本質は、法務リスクヘの対応ということに尽きます。

リスクヘの対応が適正になされるためには、まずは、法務リスクの発見・予見・特定が迅速になされなければなりません。

このような点から企業法務活動を行うに際しては、法令環境・規制環境についての正しい情報の保有が大前提になります。

国家安全保障においても、CIAやMI6といった安全保障リスクに関する情報収集と分析(インテリジェンス)が非常に重視されのと同様、企業がリスクをうまく制御しつつ企業活動(金儲け)をより効率的に、より大規模に、より安全に、より短期に行えるようにするために、法令環境や規制環境その他の法務リスクの情報収集や分析やその潮流の変化を俊敏に捉えることが重要となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00821_特殊な専門法務分野を所管する特別部署

企業によっては、取り扱う法務課題によって、(一般)法務部のほかに特別の法務管轄部門(特殊専門法務担当部門)を設ける場合があります。

無論、このあたりの組織設計は任意ですが、法務部とこれら専門法務所管部門との所掌責任の分担や指揮命令系統は明確にしておく必要があります。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

運営管理コード:CLBP37TO37

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00820_法務担当者の活動概要

法務担当者は、法務責任者(法務マネージャー、法務部長あるいは最高法務責任者)の指揮の下、法務担当者(あるいは法務セクション)限りの内製化業務として、あるいは顧問弁護士(契約法律事務所)といった外注先からの支援を得たり協働したりすることで、各種企業法務活動の実務、すなわち、
法令管理における各種調査活動、
文書管理、
契約法務(取引法務)、
コンプライアンス法務(内部統制システム構築・運用法務)、
経営サポート法務、
戦略法務等といった後方支援活動的法務活動を実践していきます。

また、顧問弁護士(契約法律事務所)が実施する、民商事争訟法務(契約事故・企業間紛争対応法務)や不祥事等対応法務(企業の法令違反行為に起因する不祥事等対応法務)について、各活動の支援(証拠の収集や調査の補助)及び外注管理(予算管理・品質管理・納期管理・使い勝手管理に加え、既存の顧問弁護士が任に耐えない場合における代替調達・競争調達)を行います。

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00819_法務担当者に求められる資質

法務スタッフに求められるべき資質としては、基本的な法的知識、提案能力、説明能力、バランス感覚があります。

正確に定義すると
「教育や実務上の経験を通じて、最終的に、前述の『法務責任者(法務マネージャー)に求められるべき各資質』を獲得すると期待されるに足りる潜在能力」
ということになります。

無論、法務セクションというチームの一員として、法務責任者(法務マネージャー)の指揮命令の下、チーム全体のパフォーマンス向上に貢献するというのが主なミッションとなりますので、
「部下としての基本的なわきまえができていること」
が前提となります。

法務担当者といえども、その前に企業人です。

「企業人として基本的に実装しておくべき、報連相をはじめとした企業組織運営支援に関する各業務スキル」をきちんとわきまえていることが重要な前提となることはいうまでもありません。

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00818_企業の特徴と生態

仕事とは、頭脳や体を使って
「対象」
に働きかけ、
「対象」
にとって有用なものを創りだし、それによって
「対象」
から賃金を得る活動をいいます。

そして、一般のビジネスパースンの場合、
「奉仕対象となっている顧客」
が、企業ということになります。

要するに、企業人の生業は、仮想顧客、すなわち、企業に対して有用なサービスを創出して提供し、対価をもらうことで成立します。

お客様は神様であり、神様のことをよく知らずに、神様に奉仕することはできません。

この点から、よりよい仕事、すなわち、よりよい内容や提供スタイルで顧客により喜んでもらうためには、顧客を知らなければなりません。

仕事を通じて奉仕する対象である
「企業」
ですが、
「営利を目的として計画的・組織的に活動する経済主体」
と定義されています。

日本においては、企業のほとんどは会社組織となっており、また、会社組織の大半は株式会社の形態を取っています。

したがって、ここでは、
「企業とは概ね株式会社のことを指す」
という前提の下、
「企業人として奉仕すべき対象となる唯一無二の顧客である企業」
の特徴と生態を解説してまいります。

1 企業の特徴

では、企業すなわち株式会社は、どのような特徴をもっているのでしょうか。

株式会社は、通常の人間と違って、姿・形がありません。

「株式会社は法人である」
などといわれますが、法人とは、自然人(我々通常の人間)とは異なる、
「バーチャル(仮想上の)人間」
です。

法人には、人の集合体(社団法人)と財産の集合体(財団法人)の2種がありますが、いずれも、
「自然人ではないものの、財産的基礎があるので取引社会に参加させても、自然人と同様に取引失敗の責任を負わせることが可能である」
という特徴があります。

そこで、これら人の集まり(社団)や財産のカタマリ(財産)について、一定の要件を備えたものを
「本来の人(ヒト)とは異なるが、“法”律上、“人”と同等に扱ってやろう」
とし、
「“法”“人”」
として扱うこととしたのです。

2 企業の生態その1・意思決定

次に、企業の生態を見てまいります。

まず、企業は、自然人と違い、それ自体意思をもたない存在ですので、適当な方法で意思を決定し、また、その決定した意思の内容を誰か適当な自然人(代表者)を通じて
「法人の意思」
として表明してもらわなければなりません。

無論、法人の代表者を誰にするか、ということについても適当な方法で決定しておかなければなりません。

このように、企業においては、代表者を決めたり、その意思内容を決めたり、という活動が必要になります。

企業のこのような生態は、毎年6月末ころ多く観察できます。

株式を公開している株式会社(いわゆる上場企業)は、毎年3月末に決算期を迎え、その3ヶ月以内に定時株主総会を開催します。

「株主総会において企業は何をしているか」
というと、企業の方針を決定し、当該方針を実施する人間(取締役)を選出しているのです。

企業のオーナーである株主全体の方向性が一致していれば問題ないのですが、総会を撹乱させることを目的とした特殊な株主の方(総会実務の世界では「特殊株主」と呼ばれますが、日常用語でいう「総会屋」の方です)や、“ホニャララファンド”や“ホニャララパートナーズ”のように
「総会で元気よく発言される株主の方」
がいらっしゃる会社においては、このプロセスでモメることになります。

そして、企業のこのような生態に関連・派生して、モメ事に対応するお仕事が必要になります。

すなわち、企業においては、企業の意思決定が円滑に行われるようにするために様々な仕事をしていく部署が必要になりますが、多くの企業では
「総務部」
というところがその種の仕事全般を担っています。

ときどき、
「企業の意思決定が円滑に行われるようにする」
ために総会屋にお金を渡したりする総務部の方もいらっしゃいますが、これはご法度とされており、たまにバレて逮捕されたりすることがあります。

3 企業の生態その2・経営資源の調達と活用

経営の基本方針やこれを実現する代表者や執行者が決まって、内部統治体制(ガバナンス)が整った企業は、次の段階として、経営資源を調達し、あるいは調達した経営資源を活用する、という活動に移行します。

ここにいう経営資源とは、よくいわれる、ヒト(労働力)・モノ(設備や原材料)・カネ(資金)のほか、第4の経営資源といわれるチエ(技術・情報・ブランド)が挙げられます。

すなわち、企業は、資本を募ったり融資を得たりしながら資金を調達し、集めた資金で労働者を雇い入れたり設備や原材料を購入し、これらを活用して製品や商品を作り出したりサービス提供体制を整えたりします。

さらに、研究開発や情報収集を通じ、技術、ノウハウやブランドを創造・確立するとともに、企業経営の様々な局面でこれらを活用していきます。

このように、企業は、さまざまな経営資源を調達・活用しながら、製品・商品やサービス提供体制という形で、企業内部に付加価値を創出し、蓄積していくことになります。

ただ、
「付加価値を創出し、企業内部に蓄積する」
というだけでは企業活動としては不完全といえます。

企業は、次の段階として、自己の内部に蓄積した付加価値をキャッシュに転化させるための活動を行うことになります。

4 企業の生態その3・営業活動

「自己の内部に蓄積した付加価値をキャッシュに転化させる」
という企業の生態ないし活動は、一般的に営業活動と呼ばれます。

なお、会計の世界では、
「営業活動によって、企業内部で格納されている商品在庫やサービス提供体制が、キャッシュに変わっていくプロセス」

「収益の実現」
と定義したりします。

営業活動によって、
「商品等がカネに転化し、そのカネが再び、経営資源として活用される」
というサイクルが生まれますが、この循環的な生態を繰り返すことにより、企業は継続して発展していくことになるのです。

ところで、営業活動は、営業ターゲットの属性によって、B2BとB2Cの2種に分類されます。

B2Bとは、“Business to Business”の略称であり、企業間取引、あるいはコーポレートセールス(ホールセール)を指します。

これに対して、B2Cとは、“Business to Consumer”の略称であり、消費者向営業、あるいはコンシューマーセールス(リテール)を指します。

このような分類がなされるのは、上記2種の営業は、採用される戦略・戦術も、活動の上で服すべき規制も、まったく異なることに基づきます。

すなわち、B2B営業においては、
「潜在顧客基盤が少ない反面、取引規模は大きく、また緻密で論理的な購買行動を取る顧客に対する活動」
という特徴があり、このような特徴に適合した戦略・戦術が採用されることになります。

また、規制面では、B2B営業においては企業間の反競争行為(競争阻害行為)を禁止する独占禁止法が目を光らせることになります。

他方、B2C営業においては、
「低廉な取引価格と、感情的で衝動的な購買決定をする不特定多数の顧客」
を前提とした戦略・戦術(マスマーケティング)が採用され、また、規制面では、消費者契約法や特定商取引法に代表される消費者保護規制が働くことになります。

5 企業の生態その4・決算、会計報告及び納税

企業は、以上のように、
「ヒト・モノ・カネ・チエという経営資源を調達・活用して商品等といった形で内部に付加価値を創出・蓄積し、これら付加価値を営業活動によってカネに転化させ、さらに転化したカネを再び経営資源として活用する」
という循環的な生態を永遠に続けて成長を遂げていきます。

とはいえ、以上のようなプロセスが
「途切れることなく、ダラダラ続く」
というわけではありません。

企業の活動は一定の期間毎に区切られ、その活動内容が会計的に記録され、整理されていきます(期間損益計算)。

このような計算の結果は、経営成績(P/L)・財政状態(B/S)という二元的切り口で表現されて、投資家や債権者に整理して報告されるとともに、産み出された利益の中から一定割合の税金を税務当局に納める、ということが行われます。

このように、
「一定の期間毎にその活動の成果が整理され、利害関係者(ステークホールダーズ)に報告する」
というのも企業の特徴的な生態といえます。

初出:『筆鋒鋭利』No.049、「ポリスマガジン」誌、2011年9月号(2011年9月20日発売)
初出:『筆鋒鋭利』No.050、「ポリスマガジン」誌、2011年10月号(2011年10月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00817_企業人としての業務スキル11:関係構築をする、交渉する

1 前世紀における関係構築術

前世紀、すなわち西暦2000年ころまで、ビジネスの世界では性善説が優勢で、
「取引相手をとことん信じる」
ということが企業間の関係構築理念として推奨されていました。

前世紀の産業社会は、“ガイシ系”も“ホリエモン”も“ホニュララファンド”もおらず、
「顔なじみ」
だけの牧歌的なムラ社会であり、信頼こそがムラ社会の唯一の秩序基盤であり、ムラの長(監督官庁)や庄屋(業界団体の顔役)がムラの秩序に睨みを効かせていました。

ムラの民は、お互いを信頼していれば、楽しく生活ができていたのです。

2 今世紀における企業間関係構築のあり方

ところが、世紀の境目のあたりから、
「インフレ経済を前提とした高度成長時代」
から
「デフレ経済を前提としたモノ余り、低成長時代」
に突入し、日本の産業社会に顕著な変化が訪れました。

従来までの大量消費(販売)を前提とした大量生産が不要となり、効率的大量生産を支えてきた監督官庁の保護育成も業界同士の横のつながりも機能不全に陥りました。

また、規制緩和が行われ、外資や新規ベンチャーの参入が促されます。

産業社会は、品質と価格による能率競争を前提に、縮小しつつあるパイを苛烈に奪い合う競争社会に突入したのです。

加えて、
「監督官庁と企業、あるいは企業同士が、イチャイチャ、ベチャベチャすること」
も公務員倫理法違反あるいは談合と呼ばれるようになり、このような親密な関係が徹底的に排除される時代が到来し、ムラの秩序は崩壊しました。

官僚主導により企業同士が鉄の結束を誇っていた日本の産業界は、
「“阿吽の呼吸”を相手に期待していると、問答無用で斬って捨てられる」、
そんな仁義なき競争社会に変わり果て、かくして、業界“協調”時代が業界“競争”時代にシフトしていきました。

具体例を挙げますと、かつて
「健全な経済発展のためには必要なもの」
という論調まであった談合(談合の当事者は、「談合」という言葉を忌避し、「業界協調」という言葉を使いますが、言葉を変えたからといって違法性が払拭されるわけではありません)ですが、リーニエンシーという密告奨励制度まで整備され、仲間同士の裏切りが次々に起こり、カルテルや談合の摘発件数は増加の一途を辿っています。

3 産業社会における性善説の終焉

少なくなりつつあるパイを奪い合うために企業として徹底的に現実的思考・行動を追求することが求められる現代、
「性善説」
という前世紀の考え方を維持する企業は、市場から放り出されます。

以上のような時代の変化をふまえますと、企業間の関係構築のあり方としては、性悪説が大前提となります。

すなわち、交渉過程においては、言質を取られない限り、相手方は常に耳に心地よいウソを平然とつく可能性がありますし、最終的な関係構築においても
「契約書に書かれていないことは、すべてやっていいこと」
という品のない法的理屈を前提に、約束を反故にしたり、信頼を裏切る行動に出る危険があります。

したがって、交渉の場面では
「相手が口でペラペラしゃべっていることは文書にしない限り信用しない」、
文書化する際においても
「“やりたくなければ書いておけ。書いてなければ、何をされても文句は言えない”という理屈を前提に、事細かに禁止事項や規制事項を書き連ねる」
ということが必要になってきます。

日本においては、契約書とは、
「良好な関係と輝かしい将来への期待を相互に宣言し、不幸な事態の想定を忌避した儀礼的な文書」
と考えられていた節があります。

これは、言霊思想に基づき、結婚の際に破綻を示唆・暗示するものを
「忌み詞(いみことば)」
として徹底的に排除する考え方に基づくものなのかもしれませんが、このような契約書ではイザというときにまったく機能しません。

他方、
「Prenup(夫婦財産契約)等結婚前に離婚の際の清算合意書を取り交わす文化」
が存在する欧米においては、契約書とは、関係破綻を視野に入れた、法的危機管理における有効な道具たる法的証拠として
「不愉快な事態がより多く書いてあった方が優れている」
と考えられており、現代の企業社会ではこちらの欧米流の合理的契約文化が主流になりつつあります。

このように、企業間の関係構築や交渉の場においては、
「相互に信頼し合って、良好な関係構築をする」
のではなく、今や、
「良好な関係構築をするために、相手をトコトン信用しないこと」
が求められるようになっています。

「関係構築をする、交渉する」
という仕事を進める上では、以上をきちんとふまえておかなければなりません。

初出:『筆鋒鋭利』No.048、「ポリスマガジン」誌、2011年8月号(2011年8月20日発売)

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00816_企業人としての業務スキル10:改革する、改善する(3)「改革」や「改善」のダークサイド(改革や改善は必ず誰かを損をさせ、傷付ける)を知っておく

6 「改革や改善」は必ず誰かを損させる

「改革や改善」
という仕事を行う際、注意しなければならないのは、
「改革とは必ず誰を損させるものである」
「改善を行うと、必ず誰かを傷つける」
という、改革や改善のダークサイドともいうべき、負の本質です。

改革や改善が劇的であればあるほど、損や迷惑を被る人の数が多くなり、かつダメージの度合い大きくなるものです。

歴史上、改革や改善で大失敗したのは、織田信長やナポレオンやケネディーです。

彼らの行った事業あるいは行おうとした事業は、いずれも斬新で進歩的で有意義でしたが。

しかし、
「改革とは、結局、誰かを不幸にするものである」
という単純な仕組を知らなかった彼らの末路はいずれも悲惨極まりないものとなりました。

「お前らは損したり、傷ついたり、社会機能上抹殺されるかもしれないが、そんなことは知ったことか。勝手に死んでろ。こちらはこちらの都合で、改革や改善をどんどん進めるから、黙って従え」
という権力的というか暴力的に改革・改善を進めた挙げ句、抵抗勢力による妨害や抹殺に遭遇し、政治生命や本当の命まで奪われました。

斬新で進歩的で画期的で、社会を変革するような大規模な改革や改善であれば、当然ながら、損をしたり傷ついたりする人間はそれこそ数万、数十万、数百万人規模にのぼります。

多勢に無勢という言葉がありますが、どんなに強力な武装組織をもっていても、数万、数十万、数百万人規模の集団や勢力を敵に回して、勝てる道理がありません。

以上をふまえると、改革や改善を上手に完成させる局面では、権力的・暴力的に断行することは避けるべきで、結局、
「改革によって損をするであろう人間」
に対して、

(1)損を被るべき人に対して何らかの形で損失の補填を行うか、
あるいは、
(2)損を被るべき人に損をしないようにみせかけて騙す、

といういずれかの対策を取るべき必要が出てきます。

「お前の存在は不要となったので、経済的に、あるいは社会的に抹殺させてくれ。ところで幾らほしい。言ってみろ」
と言って、ふんふん頷いて適正な補償額を答えるような人間は古今東西皆無です。

法外な補償額を答えるか、そもそも
「経済的に、あるいは社会的に抹殺されること」
を良しとせず、我武者羅に抵抗するでしょう。

というわけで、成功した改革や改善の多くは、
「(1)損を被るべき人に対して何らかの形で損失の補填を行う」
という
「馬鹿正直な方法」
によらず、
「 (2)損を被るべき人に損をしないようにみせかけて騙す」
という
「狡猾で陰険な方法」
に基づき、改革や改善を邪魔する人間を排除しています。

「日本史上最大の社会改革事業」
であった明治維新についてみてみましょう。

明治維新を実務面で遂行したのは、後に
「維新の元勲」
と呼ばれる薩摩長州藩等に所属する一部の下級官僚たちでした。

「維新の元勲」たち
は、
「維新という事業を進めていく上では、江戸幕府のみならず、自らが属した藩や士族階級そのものも邪魔になるので、解体するべきである」
ということは明確に認識していました。

しかしながら、彼らは、このことは一切明らかにせず、逆に、所属する藩にあたかも
「維新によって、単純な支配交替が生じ、薩摩藩や長州藩及びこれらの藩に属する士族たちが、それまで栄華を極めていた江戸幕府に替わってオイシイ思いができる」
かのような錯覚を与え続けました。

薩摩藩出身の大久保利通は、同郷の盟友である西郷隆盛さえ騙し続けたのではないか、と思われる節があります。

いずれにせよ、
「元勲」たち
のクレバーさは図抜けています。

そして、最終的には、藩や士族たちが
「江戸幕府を倒した。これで、我が藩が我が世の春を謳歌できるぞ」
などと夢見心地の状態で惚けている間に、廃藩置県によって藩そのものを消滅させてしまい、事態に気付いて騒いだ士族連中もすべて葬り去り、明治維新という改革・改善事業をなし遂げたのです。

明治維新は、
「『江戸幕府以外の諸藩』が、『江戸幕府』を滅ぼした戦争(内戦)」
という構図と、
「『“江戸幕府以外の諸藩”の一部下級管理職』が、『“江戸幕府以外の諸藩”のボヤボヤしていたオーナーや上司たち』をまるごと滅ぼして自分たちの政権を確立したクーデター」
という構図を併せ持っています。

後者のクーデターという側面は、歴史においては明確に述べられていませんが、
「損を被るべき人に損をしないようにみせかけて騙す」
というセオリーに忠実に則って行われたものであり、維新という改革・改善事業を完成させる上で非常に有意義なものでした。

以上のとおり、改革や改善は単なる思いつきさえ出されば終わりというものではなく、
「既得権者の効果的排除という生臭い点まで意識しながら進めなければならない」
ということもよく認識しておく必要があります。

初出:『筆鋒鋭利』No.047、「ポリスマガジン」誌、2011年7月号(2011年7月20日発売)

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00815_企業人としての業務スキル9:改革する、改善する(2)「改革案」や「改善案」を創出する(ひねり出す)

5 「改革や改善」案を創出する(ひねり出す)

「改革や改善」
といった仕事を進めていく上では、
「どういう改革課題を選定するか」
という前提をクリアするのがそもそも大変ですが、ここを何とかクリアし、無事
「改革や改善」
という仕事のテーマが選定できたとしましょう。

「改革や改善」
の遂行を命じられた人間は、次に
「(設定された)課題を克服するための具体的アイデア(ブレークスルー方法)が思い浮かばない」
という障害に直面します。

この種の“ひらめき”というものは個人差があり、ぽんぽんアイデアが出る人もいれば、まったくアイデアが出てこない人もいるようです。

では、どうしたら、“ひらめき”をうまく創出することができるのでしょうか。

発明の瞬間を描いたドラマや映画をみていますと、
「人里離れ、孤独に研究を続ける主人公の発明家が、資料が乱雑に積み上がった、みるからに雑然したデスクの上で煩悶としていたところ、天啓に撃たれるが如く、突然偉大な発明をひらめく」
といった場面が出てきます。

しかし、これは、
「天才と呼ばれる一種の異常者が、人類社会を変えるような特異な発明を行う」
という場合に限定して当てはまる話です。

「凡人の勤め人が、金儲けを効率化するようなアイデアを捻り出したり、工場現場において操業方法を工夫して品質を向上させる方法を創出する」
という卑近なアイデア創出に関しては、経験上、ゴミ屋敷のような乱雑な場所からは生まれてこないようです。

ビジネス上の改革・改善方法を創出プロセスは、
「『ビジネス上のゴールを達成しうる可能な限り多くの合理的選択肢』を丁寧に拾い出していき、これらの長所短所やコスト分析を理性的に整理・分析し、うまく行かない場合、当初の選択肢抽出の範囲を広げていく」
という陳腐なプロセスを地味に繰り返していくことによって生まれます。

このような退屈な作業を繰り返し行う中で、思考が純化・短絡化されていき、課題を効率的に解決する新たなプロセスが必然的に導き出されます。

思考の純化・短絡化が、他者とのコミュニケーションの中で行われることもあります。

ブレインストーミングや、あるいはまったく関係のない第三者に意見を求めたことがきっかけとなって、他者から課題に対する別の視点が提供され、これによって、思考の純化・短絡化が一挙に進み、新たな選択肢が創出されるという場合です。

以上のいずれのケースにおいても、課題を整理したり、関係者と課題共有をしたり、自分の置かれている状況を他者に説明したり、といった
「解決方法創出のための前提環境の整備」
が必要となります。

無論、
「関連データや情報も整理せず、他者とも一切コミュニケーションを取らない状況において、混乱したデスクやこんがらかった頭脳の中から、突然、トンデモないアイデアを思いつく」
という場合があるかもしれません。

しかしながら、SF小説や推理小説のトリックとは違い、ビジネスや工業製品開発におけるアイデア創出現場においては、
「一般人のドギモを抜く、驚愕のアイデア」
といった趣のものは、商業上あるいは採算上まったく価値がなく、むしろ有害であるような代物が多いといえます。

世界的時計メーカーであるセイコーを創業した服部金太郎は、こういったそうです。

「すべて商人は、世間より一歩先にすすむ必要がある。ただし、ただ一歩だけでよい。何歩も先にすすみすぎると、世間とあまり離れて予言者に近くなってしまう。商人が予言者になってしまってはいけない」

つまり、
「個人の妄想の中で生み出された独りよがりの突拍子もないアイデアは、産業社会においては使えない」
ということなのです。

いずれにせよ、机上も頭の中も乱雑になっているとますます混乱しますし、他者とコミュニケーションを取らず独善的に妄想を募らせるだけでは、あり得べき解決方法創出から遠ざかってしまいます。

ビジネスにおいて
「改革方法や改善方法」
を探求する方は、ドラマや映画の天才発明家の真似をすべきではありません。

むしろ、情報やデータを常に整理整頓し、クリアな頭で考えられる環境を作り、あるいは課題や関連情報を常に客観化して他者から様々なアイデアや意見を得られる状況を作ることが、目の前の課題を解決する方法をひねり出す近道といえるのではないでしょうか。

初出:『筆鋒鋭利』No.046、「ポリスマガジン」誌、2011年6月号(2011年6月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00814_企業人としての業務スキル8:改革する、改善する(1)改革や改善の課題選定

1 「改革や改善」という仕事の重要性

「改革や改善」
をできない企業は、激変する環境に適応できず、太古の恐竜のように絶滅させられます。

企業が生き残る上で、社内において
「改革や改善」
といった仕事を継続的に進めることはきわめて重要です。

また、サラリーマン本人にとっても、
「何時でも余人を以て替えられるような、ルーティンしかできない」
となると、地方に飛ばされたり、不景気になると真っ先にクビを切られます。

その意味では、
「改革や改善」
という仕事を効果的に進めることは、企業にとっても、ビジネスマンにとっても生き残る上できわめて重要であり、関心がある事項といえます。

2 「改革や改善」という仕事は苦手科目

しかしながら、ビジネスマンの方で
「改革や改善」
が苦手という方は非常に多いようで、この種のタスクを命じられるとたいていの方は憂鬱になられるようです。

一般に、そこらへんの勤め人が日々行っている
「仕事」
なるものの正体は、よく観察すると
「作業」
レベルのものに過ぎません。

作業のやり方を根本から変えたり、作業そのものをなくすような新たな仕組みを構築したり、といった劇的な付加価値を生むような仕事を行っているビジネスマンは圧倒的に少数です。

人間の頭脳は保守的にできている上、現在の詰め込み型の学校教育においては、小さいころから百マス計算とか漢字書き取りとか
「余計なことを考えず、目の前の単純作業を全力で取り組め」
という形での洗脳を長期間行っているため、平均的日本人は、
「柔軟な発想で仕事そのものを変えてみろ」
と言われても自然と思考が停止してしまうのです。

「改革や改善」
という仕事を遂行する上では、小学校以来延々と脳に刷り込まれてきた
「盲目的に目の前のルーティンを効率的にこなすことに集中せよ」
という奴隷労働的美徳から解放され、真の知的活動をする必要があるのです。

3 「改革や改善」課題の選定

「改革や改善」
というタスクを遂行する上で最初に衝突する困難は
「そもそも改革課題や改善テーマがまったく思い浮かばない」
という事態です。

この症状は、
「昔から存在するルーティンは、それなりの理由があって現在も使用されているのであり、したがって合理的なものである」
という思い込みが障害になっているものと考えられます。

しかしながら、ルーティンの中には、すでに意味を失っているものや、
「もはやその存在自体が効率性を阻害している」
という類のものも多数あります。

「改革や改善」
のテーマは、
「ルーティン課題自体を否定してみる」
という考え方から生まれてくることが多いのです。

すなわち
「もしこのルーティンがなかったら、どうなるか?」
という発想によって、ルーティンをより効率的なものに変質させたり、別の新たなルーティンに置き換えたり、ルーティンの順序を変更することにより劇的な効率改善を生むアイデアが出てくるのです。

小学校以来優等生だった人はこの種の思考が苦手なようです。

他方、
「小さいころからレポート課題や宿題が大嫌いで、この種の『人生に役に立たない代物』がなくなることを願い、常に回避する方法や手を抜く方法を考えてきたような小ズルイ人間」
は、
「改革や改善」
系の仕事で劇的な成果を上げることが多いようです。

これは、優等生が陥りがちな
「目の前の課題を疑ってはならない」
という固定観念に拘束されない自由な思考があるからかもしれません。

いずれにせよ、ビジネス社会では、
「課題をうまく処理できる」
というのはたいしたスキルではなく、
「課題そのものにおける課題を見つけることができる」
「新たな課題を発見することができる」
「課題そのものをなくすことができる」
能力の方が重要とされるのであり、このような能力が改善や改革の前提として機能するのです。

4 「改革や改善」課題発見・選定テクニック

企業における改革や改善の課題を見つけるのは、実は、それほど難しくありません。

企業活動というのは、突き詰めれば、金儲けです。

より低コストで、より短期間に、よりラクに、より無駄なく・漏れなく・効率的に、より安全に、より大きなカネを儲けること。

これが企業の存在意義であり、企業という生き物の生存本能ともいうべき活動テーマです。

そして、このような企業活動をよりよきものに改善したり改革したりするということは、すなわち、
「より低コストで、より短期間に、よりラクに、より無駄なく・漏れなく・効率的に、より安全に、より大きなカネを儲ける」
ための思考の営みということになります。

以上の企業活動の改革・改善の方向性を分解すると、

(1)入ってくるカネ(収入)を増やす
(2)出ていくカネ(支出)を減らす
(3)時間を節約する
(4)手間を節約する
(5)安全保障を強化する

のいずれかに尽きます。

そして、この(1)ないし(5)はたいていトレードオフ関係に立つことが多く、そこに計略の妙が潜んでいます。

すなわち、カネを増やそうとすると、リスクのある事業のためにカネを支出しなければならず、そうなると、支出が増え、安全保障が損なわれます。

時間を節約したり、手間を省略したりすると、品質が低下し、収入が損なわれかねません。

この種の問題は、絶対的正解や絶対的均衡値があるわけではなく、企業は、その時、その時の企業の資源の冗長性によってアンバランスな偏りをもちながら、前進します。

例えば、カネが余っているときに、積極的に、新規事業を立ち上げたり、違う業種のM&Aをやってみたりして、カネを増やすための種まきをしていきます。

そうしているうちに、不況になり、手元が寂しくなり、事業や経営資源をリストラをしていく、といった具合です。

改革や改善をするには、企業を取り巻く環境や内部の経営資源の冗長性等を勘案しながら、

(1)入ってくるカネ(収入)を増やす
(2)出ていくカネ(支出)を減らす
(3)時間を節約する
(4)手間を節約する
(5)安全保障を強化する

のうちの、どのテーマが時宜に適っているか、を考えながら、課題選定をしていくことになろうと思います。

初出:『筆鋒鋭利』No.045、「ポリスマガジン」誌、2011年5月号(2011年5月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00813_企業人としての業務スキル7:評価する

「評価」
という言葉の意味は
「値打ちを定める」
というものですが、
「値打ち」
などといったものは人により様々であり、正解があるわけではありません。

要するに、
「独断と偏見によるでっち上げ」
を上等な言葉で飾ると
「評価」
という仕事になるのです。

「評価」
という仕事を苦手にする人というのは、要するに、
1 物事をデッチ上げるための勇気がない、
あるいは
2 デッチ上げるための表現技術に乏しい、
のいずれかまたは双方の特徴を備えた人間ということです。

言い換えれば、
「無駄に誠実で控え目な人間」
であり、企業社会においては
「使えない人間」
あるいは
「使いたくない人間」
といえます。

仕事のデキる人間は、以上のような
「評価」
という仕事の本質をよくわかっており、上司から
「どういう結論をデッチ上げてほしいのか」
「デッチ上げの際、どういうロジックが好まれるか」
ということを事前によく確認します。

そして、デキる人間は、眉一つ動かさずに
上司の好みに合わせた
「デッチ上げ」
ができ、
これを
「客観的評価」
と臆面もなく言い切ることができるのです。

初出:『筆鋒鋭利』No.044_2、「ポリスマガジン」誌、2011年4月号(2011年4月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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