01942_法務課題解決プランが複数同時に進行する弊害とトップの役割

企業が、ある法務課題について、顧問弁護士に支援を依頼し、具体的行動を計画・準備・着手し、顧問弁護士が代理人として対処している最中に、企業内にて、不協和音が生じることがあります。

ほとんどの場合、ある取締役(責任役員)が不安や不満を発し、複数の取締役(責任役員)に伝播し(あるいは、根回しらしきものが行われ)、進行中(フェーズが変わったとはいえないようなタイミング)に、プラン変更をトップに迫り、トップが押し切られる形でプラン変更を決意する、というような場合です。

言い出しっぺの取締役(責任役員)は、独自の方法、独自の手法、独自のネットワークでの解決を試みます。

他方で、トップは、顧問弁護士に対し、事をなすにあたって挨拶をしておくという意味合いで、
「進行中のプランに並行する形で、別プランも進めようと思う」
「進行中のプランに並行する形で、別プランを進めるが、どうだろうか」
と、連絡をすることもありましょう。

たいてい、別プランの手法等が顧問弁護士に明らかにされることは、ほとんどありません。

相談を受けた顧問弁護士としては、その手法が適法・適正である限りにおいて、特段、許否についてコメントを差し上げるものではありません(手法等が明らかにされないとなると、コメントのしようもありません)。

そして、別プランの手法等が奏効し、法務課題の解決に一歩近づいた(あるいは近づいたように見えた)としても、ガバナンス実務のテクニカルな問題として、手続き等の各種の純法的課題や事務課題が出来することは、容易に想定されます。

そのような法的課題対処においては、(もちろん、法的に適正妥当であることが前提ないし条件とはなりますが)法技術介入の要素ないし契機が存在しますし、その限りと前提においては、顧問弁護士独自の資源動員と、その成果による成功・不成功という事態が確認されます。

したがって、顧問弁護士としては、

・本件については、純粋な法的事案、独立の事案として、継続して遂行する
・別プランの試みについては、その詳細を知らされていないことからも、顧問弁護士は関知できないし、その適否についても、何らコメントできないし、適正性等を保証するものではない(詳細が知らされていないのであれば、意見すら形成できない)
・単純な一般論として、今後、事案全体をより複雑にする可能性も否定できないので、この点に留意していただきたい、とのコメントを提示せざるを得ない

という形で、態度を整理することとなります。

しいて言えば、法務課題の解決は、正解や定石なき営みであり、いってみれば、ゲームであり、ギャンブルです。誰が、どのようなモノサシ(前提リテラシー)を用いて判断するかによって、結果が変わってきます。

トップが右往左往し、プランが複数同時に進行するのは、
「船頭多くして船山に上る」
「役人多くして事絶えず」
となりかねない、ということは確実に言えます。

結局のところ、蓋然性に依拠するあらゆる事象や課題について、最終決断を行い、失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役となるのは、企業経営者以外にはいない、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01941_オーナー経営者が弁護士起用の前に留意すべきこと_その2_役割分担設計

弁護士の起用については、その役割分担設計が、カギをにぎります。

弁護士の側にたってみる(弁護士視点)と、留意すべきことが明瞭となるでしょう。

たとえば、オーナー経営者が弁護士に対して
「契約書の文言の違いを教えてほしい」
と、助言を求める場合があります。

それは、交渉ごとの、作戦環境評価解釈のごく一部である契約書の文言の違いを求めているということであり、作戦全体の協議では、ありません。

整理すると、オーナー経営者の求めた助言は、
「作戦環境の認識・評価・解釈、適用されるべき作戦原理(交渉ごとのアーキテクチャ・ロジック・ルール)、作戦目標の設定、障害課題の抽出、選択肢の創出、プロコン分析、遂行方針の決定、遂行」
のすべてを、依頼者であるオーナー経営者本人の権限と責任で実行する前提で、依頼された弁護士は、
「作戦全体の協議に応じる必要はなく、個別課題の部分最適に徹すればよい」
ということを意味します。

ですから、弁護士としては、作戦全体の協議を求められているわけではないので、余計な口を挟むことなく、
「作戦環境評価解釈のごく一部である契約書の文言の違い」
に対して端的に答えるだけ、という役割になります。

さて、ここで、弁護士として困るのは、(法務専門家でない)オーナー経営者本人がとりあえずやってみて、うまくいかなかった場合に、突然、弁護士に
「ここから先は頼んだ」
とバトンタッチする、という場合です。

弁護士側からすると、途中から、
「作戦全体についてよろしく」
ということで、はじめて聞く内容を伝えられ、そこには弁護士が認識していた交渉ごとの実体・仕組みとはまったく異なる交渉経過が記されている、というようなことなのです。

そして、このケースは、現実には少なくありません。

むしろ、現実は、規模の小さな会社組織であればあるほど、多いのです。

たとえるなら、
・「索敵と敵情視察だけしてきて報告せよ、作戦構築は口出し無用」と厳命され作戦協議から排除されながら、戦局不利となったら参謀総長と全体指揮を任される状況
あるいは、
・最高級の食材を、料理経験のない人間の適当な仕込みで途中まで仕上げた得体のしれない料理を、うまくいきそうにないから「後は任せる」と3ツ星シェフが言われるような状況
です。

「ことの発端から、タブーや遠慮なき、自由な議論を求められ、その上で、作戦に関与する」
というならさておき、議論にタブーや遠慮が求められ、また、個別最適の論点のみ聞かされるような状況で、失敗したら途端にスケープゴートにされる、というのは、弁護士としては愉快ならざる状況であり、仕事の道義としてもどうだろうか、ということなのです。

「契約書の文言の違い」
の1つとっても、弁護士との役割分担設計が明確になされなければ、結果として、カネ・時間という資源がどんどん費消され、オーナー経営者が願う結末にたどり着く可能性が限りなく低くなるのは当然、となるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01940_オーナー経営者が弁護士起用の前に留意すべきこと_その1_弁護士の関与のあり方

有事における法的な交渉は、その実体も仕組みも、すべて、複雑な形式知と経験に基づく暗黙知で構成されており、素人がタッチすると、たいてい失敗します。

有事における法的な交渉において、プロ(弁護士)の介入は早期なほどよい、というのは鉄則です。

ですから、有事が発生すると、多くの企業は、弁護士を起用します。

さて、弁護士を起用する前に、オーナー経営者がすべきことがあります。

それは、
「弁護士の関与のあり方」
について、オーナー経営者自身が態度決定することです。

弁護士の関与が
1 企業の利益の実現やリスク・損害の逓減・排除なのか、
2 企業の中にいる特定の方々の立場やメンツやプライドやメンタリティを健全に維持することなのか、
は、重要な論点となり得ます。

当然のことながら、弁護士は、倫理上も道義上も(2ではなく)1を優先する、という立場を固持します(し、それは、長い目でみれば、クライアントの利益に適っています)。

要するに、弁護士は、作戦協議において、禁忌も遠慮も一切無用で、ただひたすらに、作戦原理に基づいて1を優先して交渉事をすすめていきますが、その過程で、
「それは、あまりにも峻烈すぎるのではないか」
「相手方は、今までの取引先なのに」
「このことが、噂となって他の取引先にも広がったら・・・」
と、法務の専門知見の欠如した管理職が、あらぬ心配を口にし始め、その挙句、
「その表現では相手方を刺激しすぎるのではないか」
「もう少しやわらかく交渉した方がいいのではないか」
「社長、本当に、あの弁護士のやり方でいいと思っているのですか」
「このやり方をすすめるのであれば、私はついていけません」
などと、妥協論を唱え、弁護士のやり方を批判することが、(会社の規模や形態・業種にもよりますが)少なくありません。

オーナー経営者が、1を優先させて、管理職の意見を退ければ、作戦目的は達成できるでしょう。

しかし、オーナー経営者が、2を優先させて、管理職の意見を聞き入れ、弁護士のやり方を退けると、内部による利敵行為に足を引っ張られることとなり、作戦目的の達成はなし得ません。

平時では、
「そんなの当たり前だ」
「何を今さら」
「そんなことは、わかっている」
と一笑に付されれそうですが、有事においては作戦目的達成のカギとなるほど、1・2の論点は重要性を帯びてくるのです。

有事における法的な交渉の成否は、オーナー経営者が
「弁護士の関与のあり方」
についてどれほど理解しているかにかかっている、といっても過言ではありません。

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01939_有事の際の心得_弁護士とのコミュニケーション

有事の際、弁護士は、
「目的優先、効率重視、無駄な儀礼軽視」
のコミュニケーション に徹し、クライアント側からすると腹立たたしいほどわかりやすく現実を伝えます。

それは、 ひとえに
「長期的にはクライアントの利益」
のためであり、 (クライアントの)課題や対処事項、その方向性を適正にするためにほかなりませんが、 なかには、
「わたしはクライアントです(もっと丁重に扱われるべき存在です)」
「ここまで無能扱いされるとは心外です(現実をみせないでください)」
「もっと礼儀をわきまえた言い方をしてください(もっと丁寧にやさしく言ってください)」
と、 激怒する方も少なくありません。

弁護士としては、クライアントが望むのであれば、
「目的優先、効率重視、無駄な儀礼軽視」
ではなく、
「目的後退、儀礼優先」
として、ジェントルで、エレガントなコミュケーションを図る方針に大転換することも可能です。

わかりやすくいえば、クライアントが望むのであれば、弁護士は、 腹立たたしいほどわかりやすく現実を伝えるのではなく、ふわっと曖昧でクライアントの耳に心地いい会話に大転換することも可能です。

しかし、その瞬間、クライアントは、
「時間」

「機会」
を喪失し、結果として、利敵の結果を生み、長期的にはクライアント自身の利益を大きく損ねる結果になり得ます。

すべてはトレードオフといえましょう。

クライアントは、
「何を優先させたいのか」
を、よくよく
「思考」
し、
「選択」
しなければ、事態の改善・解決に向かってすすむことはできない、ということです。

厳しいようですが、これが現実なのです。

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01938_相手とケンカをする際のアクションプランの整理

ケンカをする際、相手方によって、アクションは変わります。

弁護士としては、アクションは、4つに整理できると考えます。

アクションプラン1
相手方を「常識が通用するマトモな組織である」との前提で、ジェントルに、エレガントに、良識を以て、おだやかに交渉する

アクションプラン2
相手方を「常識が通用するマトモな組織ではない」との前提に立ちつつも、「有力な権力者の威光を以てすれば、相手方はこれにひれ伏し、改心し、常識が通用するようなマトモな組織に矯正する」との前提で、有力な権力者を動かす

アクションプラン3
相手方を「常識が通用するマトモな組織ではない」との前提に立ちつつも、「弁護士が出てくれば、弁護士の威光にひれ伏し、改心し、常識が通用するようなマトモな組織に矯正する」との前提で、特に、具体的な圧力を明示せず、とりあえず対話をするため、弁護士を動かしてみる

アクションプラン4
相手方を「常識が通用するマトモな組織ではない」との前提に立ちつつ、また、「有力な権力者の威光も、弁護士の威光なども、まったく意に介さないし、相手方には常識が一切通用しない」との前提で、裁判所への提訴を所与として、その準備をしつつ、また、具体的準備状況をちらつかせつつ(具体的な圧力明示)、弁護士を通じた交渉(対話)を行い、頓挫すれば、ただちに訴訟に移行する

アクションプラン1や2であれば、弁護士は要りません。

アクションプラン3や4となると、相応にコストがかかります。

そして、アクションプラン4となれば、相応にコストがかかるうえに、コストを上回る期待値はどうか、といいますと、弁護士として冷静なエコノミクスの分析をしても、その結果については、実際は、腹の立つような結果となることが少なくありません。

どのようなアクションを選択するにせよ、
感情を優先するか
勘定を優先するか
このジレンマをきちっと解消しないまま、相手とケンカをすすめ、
「事件」
に突入することは、さらに不幸が大きくなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01937_紛議になったら、まず整えるべき体制

紛議になれば、本格的に調査・解明を進める
「体制」
を整えることとなります。

それは、資源動員を柔軟にすることと、調査権限を弁護士に付託すること(オーソライゼイション)による、調査を円滑化にすることを目的とします。 

1 調査体制の整備
1)プロジェクトオーナー
2)プロジェクトマネージャー
3)事務局長
4)対策本部顧問

2 計画策定
1)予算
2)時間(期限とそこに至る工程)
3)稼働体制・協力体制に関する調整

3 方法論
1)証拠の入手と整理
2)相関図を含むリストの作成(登記簿謄本などオープンソースとして入手可能な関連資料も)
3)取引等の全記録の抽出
4)(3)のカテゴライズ(ホワイトなのか、グレーなのか、ブラックなのか)
5)推定を含め全容の解明

このように本格的な
「調査体制」
を整えないと、 時間ばかりを費消させ、また、資源の効率的運用という点でも顕著なマイナスが生じかねません。

調査のやり方といった方法論もさることながら、遂行資源を
「体制」
として組織的に整備し、
「時間資源」
をもスケジューリングしながら管理して進める、ということです。

そして、
「調査」
が終われば、その次に、
「調査認定」、
それから、
「各種訴訟提起」
という流れとなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01936_訴訟提起されそうな気配を察知したときの選択肢

訴訟されそうな気配を察知したら、すぐさま応戦体制を敷く、ということもありましょうが、ケースによっては、
1 何もせずに、訴えられるのを待つ
2 相手に対して、裁判例を示して、牽制を加える
という戦略もあります。

2は、訴訟を進める上で(相手方に)重大な障害にぶち当たることを予知させることで、訴訟提起を断念させる方向への誘導が可能となります。

ここでいう
「(相手方に)重大な障害」
を、細かくみていきましょう。

裁判例をみた相手方弁護士からすると、訴訟に難航が予知され、長陣になった上に、最後に敗訴を食らうことも想定され、赤字事件化しかねません。

そこで、相手方弁護士としては、赤字覚悟で事件を引き受けるよりも、(相手方本人に対し)着手金を高めに設定したり月額費用を追加するなどの措置を取るでしょう。

それは、相手方本人にとっては、訴訟コストが跳ね上がることを意味します。

「訴訟に難航が予知」
「長陣」
「敗訴」
は、すなわち
「訴訟コストの大幅アップ」
を意味するだけでなく、
「こんなはずではなかった」
「話が違う」
と、相手方において、弁護士サイドと本人サイドとの内部抗争を誘発することになりますし、訴訟提起を断念させる方向への誘導が可能となります。

こちらとしては、
「いいことづくめ」
といえるのです。

ただし、以上の戦略は、顧問弁護士の手腕(交渉力)に依拠することを忘れてはなりません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01935_トラブル解決のための段取り

トラブルを法的に解決するためには、次のような流れで、段取りを組んでいくこととなります。

1 トラブル解決を行う上での基本的前提の共有

トラブルを解決するには、
「日常空間」
とはまったく異なる
「ビジネス空間」、
さらには、
「ビジネス空間」
よりも特異度の顕著な
「リーガル(有事・法的紛争)空間」
における、基本的な空間支配プロトコルを知らなければなりません。

そのうえで、弁護士は、クライアントに対し、3つの各空間における
「トラブル解決のアーキテクチャ」
「トラブル解決のロジックやルール」
を、事例に即して伝えます。

2 具体的な落とし込みの検討

クライアントのリテラシー実装を前提として、行動対処計画(「トラブル解決のアーキテクチャ」「トラブル解決のロジックやルール」に即応し、最適化したトラブル解決プラン)の具体的落とし込みを検討します。

3 行動計画の立案・提示し、予算計画や動員計画をたてる

・クライアントにおいて対処する事柄
・弁護士が準備して、クライアント名義で対処する事柄
・クライアントと弁護士が共同して対処する事柄
・弁護士がクライアントの代理人として対処する事柄

といった形で、それぞれの状況対処課題について最適な行動計画を立案し、提示し、予算計画や動員計画を詳らかにして、対処していくこととなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01934_予防法務の大切さ_現状総括

プロジェクト責任者が、企業トップに対し、
「現在の状況については結果的にはそこまで悪い状況ではないと考えていますが・・・」
などと前置きしながら報告をする場合、 たいていは、状況は悪化しています。

悪化、すなわち不快な状況にいたるには、

ゲーム空間の構造、論理、秩序、ルールの理解の不全
状況認知の不全
状況評価の不全
状況解釈の不全
展開予測の不全
ゴールデザインの不全
課題抽出の不全
対処行動選択肢抽出の不全
実行上のミス

等、実に様々な失敗の連鎖があるはずです。

そして、
「現在の状況については結果的にはそこまで悪い状況ではないと考えていますが・・・」
と言うプロジェクト責任者の、その認識ないし解釈そのものが
「不全」
となっている可能性があります。

企業トップが、不快な状況を変えようと、ゲームチェンジを行うのであれば、
「経路遮断」
を前提に、 現状総括をしなければなりません。

プロジェクト責任者が、どの部分から病巣部位が始まっているのかを認識していない状況では、自己保存バイアスが働き、
「経路依存」
が顕著となり、小手先のゲームチェンジとなって、また、より悲惨な失敗にいたるからです。

弁護士が加わったとしても、認知が歪んでいる責任者と、ロジカルな戦略を議論したところで、時間と労力の無駄になりかねません。

「現状総括すら困難であり、認知支援を」
と、企業トップが弁護士に相談するのであれば、非法律的案件として、
「現状総括DD」
を依頼することとなります。

企業にとっては、それすら、お金と時間を垂れ流すことになりますが、まずは現状の総括をしないことには、ゲームチェンジなど行えないのです。

こまめに顧問弁護士と連携をとり、フェーズが変わるごとに現状総括することは、予防法務に通じます。

「虫歯が広がってから虫歯の治療をはじめるよりも、虫歯にならないようにこまめに歯をメンテナンスすること」
に照らし合わせると、わかりやすいでしょうか。

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01933_株式市場が単なるカジノとは違って、産業経済的に大きな意味をもつ理由

株式市場に参加する方は、そこで、儲けることを企図しています。

誰も、損をするつもりで参加しておらず、売りであれ、買いであれ、長期保有であれ、短期売買であれ、現物であれ、信用であれ、参加者全員は、儲けようと思って、株式市場に参加しています。

その意味では、株式市場は、カジノや賭場、競馬場や競輪場と同じ性質をもっています。

日経新聞や会社四季報は、いってみれば、投資家にとっての競馬新聞や競馬ブックと同じ意味合いをもちます。

私は、競馬はやりません。

何十年も前に友人に連れられて京急だかモノレールだかに乗って競馬場に行って、馬券を買って、レースを観たことはあります。

ですが、何が楽しいのかまったくわからず、それ以来、まったく競馬とは接点がありません。

駅の売店や、コンビニに行くと、競馬新聞とか、競馬ブックといった競馬ファンのための新聞が置いてあるのを目にします。

これら特殊な新聞は、一見して読む気が失せるくらい小さい字で、暗号や記号や呪文のような難解で判読不能なデータがぎっしりつまっており、競馬に興味のない私にとっては、まったく用のない新聞です。

ですが、競馬をやる人にとっては、大事な情報源のようで、
「(こう言っては失礼ですが、)普段、本とか新聞とかあまり読まなさそうなオジサンたち」

「徳川埋蔵金の在り処を示した地図」
「ナチスの隠れた財宝が隠された場所に導く暗号文」
を見るかのように、買って手にした瞬間、目を皿にして必死に読んでいる姿をみかけます。

もし、競馬に興味のない私が、
「競馬新聞とか競馬ファンとかを、きっちり読んで、理解しておけ」
と言われると、とんでもない苦役となります。

理解が困難ということもさることながら、競馬をやらない私にとって、無意味で無価値で無用なデータを目にすることそのものが、とんでもなく退屈で苦痛です。

他方、私は株や指数先物といった投資活動はやっています。

無論、暇つぶしのゲーム感覚で、お小遣い稼ぎの趣味程度ですが。

私にとって、日経新聞や日経ベリタスは、日々刻々と変化する投資に関する貴重な情報がぎっしりつまっており、新聞が届けられたらすぐに目を通します。

最近では、ネットで朝4時には紙面更新されますので、早く起きたときなどは、新聞取りに行かなくても、ベッドの中でスマホでブラウズできたりもしますし、非常に便利になっています。

市場の動向や、市場に影響を与える政治動向や事件や騒動、また、これらイベントがどのように関連し、影響を与えあって、どのようなインパクトをもたらすか、といった、事象解明に関する解説記事を含め、毎日、ほぼすべてに目を通します。

競馬ファンが競馬に興じる際に、予測の根拠となる最新のデータや解析結果を強い興味をもって追い求めるのと同様、私も、日経新聞から、強い興味と探究心をもって、情報を入手し、読解に努めます。

年配のサラリーマンの方が、若いサラリーマンに
「社会人になったら、日経新聞くらい読まなきゃ」
と諭す姿を見かけることがあります。

いや、普通、読まないでしょ。

大学出たばかりで、企業社会も経済も知らず、投資にも縁がない、社会人1年生にとって、日経新聞など、競馬をやらない私にとっての競馬新聞と同じです。

「社会人になったから」
という理由だけで、経済に縁のない人間にとっての無意味な暗号や記号や呪文な羅列のような
「日経新聞を読め」
というのはあまりにも無理があります。

私がもし
「あなたも、大人になったんだから、競馬新聞くらい読まないと」
と言われたら、感覚遮断して無視します。

私ならこう言います。

「社会人になったら、勉強と思って、FXでも指数CFDでもいいから、マーケット環境と紐づく投資をやってみたら? 最初は、勘で適当にやったらいいよ。そのうち、欲が出て、儲けたい、損を避けたい、と思ったら、自然と勉強したくなるから、そうなったら、日経新聞とか読んでみたら。より深く、投資を楽しめるよ」
と。

要するに、何のメリットも意味も価値も脈略も目的もなく、
「経済を勉強しろ」
「日経新聞を読め」
という指示は、
競馬に興味のない私に
「競馬新聞や競馬ファンをがんばって読め」
というのと同じ指示であり、プロジェクトの設定と構造において、本質的な無理があるのです。

構造上、本質上の無理がある、ということは、
「降りのエスカレーターを昇れ」
というのと同様、一過性の実現は可能であっても、持続可能性がなく、そのうち破綻します。

経済学とは、私なりの理解で言えば、
「一定の地域ないし社会集団において、限られた資源をうまく活用して、そこにいる連中全員を、食わせ、幸せにする、あるいは、当該地域ないし集団をリッチにする」
というゲームミッションを達成するための、ゲーム戦略の体系です。

「集団構成員が、おのおの欲の赴くまま、市場における交換を通じて、富を増殖する自由なゲームに興じさせれば、構成員が豊かになり、国全体もリッチになる」
という戦略の流派があったり、
「市場が失敗することもあるから、集団構成員に好き勝手にさせるのではなく、大きな破滅に至らないように、ちょいちょい政府がお節介をした方がいい」
という流派があったり、
「集団構成員に勝手なことをさせたら、絶対大きな破滅に至り、うまくいかない。政府が完璧な計画を策定し、構成員の自由を否定して、徹頭徹尾、政府の指示どおりさせた方が、皆が幸せになる」
という流派があったり、また、最近では、
「今まで、集団構成員は、皆、『頭がよくて、合理的な行動をする』と思っていたが、意外と、馬鹿ばっかだし、アホなことばかりやってる。『なんだかんだ言って、結局、皆、バカばっか』という前提で社会システムを設計した方が、最適な資源配分や国富増大が可能となる」
という流派が出てきたりしています。

しかし、こんな
「ゲーム戦略の体系」
をガチで学ぶ必要性があるのは、ゲームプレーヤー、すなわち、当該地域を支配するエスタブリッシュメントである、日銀関係者か政府関係者くらいです。

したがって、日銀に入ろうとか、国家公務員総合職試験に合格して、財務省や経済産業省等にでも入ろうというなら、経済学は必要であり重要ですが、それ以外の仕事につくなら、経済学、
「一定の地域ないし社会集団において、限られた資源をうまく活用して、そこにいる連中全員を、食わせ、幸せにする、あるいは、当該地域ないし集団をリッチにする」
というゲームミッションを達成するためのゲーム戦略の体系を、必死こいて学ぶ必要性は乏しいです。

もちろん、
「日銀行員や公務員を目指さないなら、経済学の勉強は不要」
とまでは断言しません。

すなわち、派生的・副産物的な使い方として、経済学の考え方を使ってビジネス課題を解決することは可能ですし、前述のとおり、投資家がマーケットの行く末を予測する際、政府や中央銀行の行動の意味や動機や背景を分析する際の説明原理としても有用性があるからです。

「『別に、日銀に行くわけでもなく、公務員を目指しているわけでもなく、経済学を使った課題解決をするようなプロジェクトとの関係ない人間』に、趣味や教養やたしなみとして、『経済原論を学べ、金融論を勉強しろ、財政学、公共経済学、国際経済学、国際貿易論、国際金融論を勉強しろ、日経新聞を読め』などと説教臭く指示すること」
は、
「競馬をやらない私に競馬新聞を読め」というのと等しい、
持続不能に陥ることが明らかな、無意味な苦行を強制しているのと同じです。

競馬が好きそうだけど、純文学や哲学書や学術書とか絶対読まなさそうなオジサンも、競馬新聞とか競馬ブックは真剣に読みます。

考えようによっては、競馬新聞も競馬ブックも、一見して読む気が失せるくらい小さい字で、暗号や記号や呪文のような難解で判読不能なデータがぎっしりつまっています。

競馬をやらない一般人にとって、この特殊な文字や記号の羅列が盛り込まれた新聞を読むのは、マルセル・プルーストやミシェル・フーコーを読んだり、IPS細胞に関する学術論文の読解に匹敵するくらいのリテラシーとエネルギーが必要となります。

「欲や興味というのは、すさまじいエネルギーを生み出す」
ということをしみじみ感じます。

「純文学や哲学書や学術書とか絶対読まなさそうなオジサン」
をして、
「これに匹敵する難解なデータが詰まった抽象的な文字が踊っている新聞」
に没頭させる情熱と探究心とリテラシーを身につけさせるわけですから。

人間、年齢や立場に関係なく、生きている限り、欲はあるはずであり、金に興味のない人間はいません。

その意味では、
「投資で金を増やす」
という活動について、適切な誘導の下、きちんとエントリーさえできれば、その奥深さに魅了される可能性は高いと思います。

話はかなり脱線しましたが、
・ある観察においては、株式市場は、カジノや賭場、競馬場や競輪場と同じ性質をもっている
・同様に、日経新聞や会社四季報は、投資家にとっての競馬新聞や競馬ブックと同じ意味合いをもっている
ということが言えそうです。

となると、次の疑問として、
「株をやるのも、カジノをやるのもあまり変わりないなら、なぜ、政府関係者や日銀が、しかめっ面して、株価、株価と、株式市場のことを気にかけるのか?」
というものが出てきます。

確かに、株式投資も公営ギャンブルも同じであれば、株のことと同様に、競馬の勝ち負けのことももっと報道の光をあてても良さそうです。

あるいは、
「株なんてギャンブル」
「株式市場参加者は、昼間からボートレースにうつつを抜かす正体不明の中高年と変わらないし、株のことだけ取り立ててニュースになるのは意味不明」
という言い方もできそうです。

しかしながら、株式市場と賭場とは、公益性という点でまったく違います。

株式市場は、
「金儲けを目論む山っ気の多い参加者」
に対する
「公益ギャンブル」
として開設されているのではないのです。

もちろん、
「金儲けを目論む山っ気の多い参加者」
も排除せず、歓迎しています。

しかし、株式市場が世に存在する理由は、
「資金をうまく活用して、真っ当に成長する企業に、正しく、効率的に資金が提供されることを通じて、経済が発展する」
という点にあり、産業社会を発展させる公共インフラとして極めて重要なものなのです。

カジノやパチンコや公営ギャンブルやヤクザの賭場がなくなっても、産業社会はなくなりません。

他方で、株式市場がなくなったり、機能不全に陥ると、産業社会、ひいては資本主義経済が成り立たなくなります。

日本中、いや、世界中から、できるだけ多くの
「金儲けを目論む山っ気の多い参加者」
に参加してもらい、正しい情報が、偏りなく、速やかに情報が行き渡る形で売買してもらい、適正な株価が決定され、このことを通じて、企業に提供されるべき資金が競争的かつ効率的に行き渡ります。

効率的に行き渡った
「カネ」
を得て、企業は
「ヒト」
「モノ」
「チエ(開発資金に基づく研究開発)」
を実装し、成長します。

そして、成長性のない企業、成長を諦めている企業、資金を無駄に溜め込んでいるだけの企業、資金の使い方が賢くない企業、問題を起こして儲けより損失が多く今後の成長ないし維持が危ぶまれる企業、統治がデタラメでまともな組織運営が行われていない企業などは、株式市場で低い評価しかされず、そういうダメ企業には
「カネ」
が行き渡らなくなり、ついには、市場から退場させられます。

また、情報に虚偽があったり、情報の伝播に偏りがあったり、ズルやイカサマやインチキが横行すると、市場が歪み、資金における適材適所が維持できなくなり、
「ヒト」
「モノ」
「開発資源」
が効率的に行き渡らなくなり、経済システム全体が機能不全に至り、最後には国が滅びるのです(これは大げさな言い方ではなく、ソビエト連邦は、「ヒト」「モノ」「カネ」「開発資源」が効率的に行き渡らなくなり、最後には破綻しました)。

以上のような点から、株式市場が、
「金儲けを目論む山っ気の多い参加者」
に金儲けゲームの場を提供するものでありながら、 単なるカジノとは違って、産業経済的に大きな意味をもつ理由があるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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