00504_辞任取締役の登記が、残存した状態で放置された場合、辞任取締役は取締役としての責任を負担するのか?

辞任登記が未了になっていたにすぎず、
「不実の登記をした」
わけではない場合、真実選任された取締役とは異なる者を取締役として登記した場合と異なり、辞任取締役が既に取締役でないとは知らなかった人に対し、辞任取締役が、
「自分はもはや取締役ではない」
と主張することはできるのでしょうか。

裁判所は、
「株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、特段の事情がない限り、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、取締役としての責任を負わないものというべきである」
としています。

つまり、辞任登記が未了であるにすぎない場合、積極的に異なる登記をした場合と異なり、積極的に取締役として契約に立ち会ったり、社内で依然取締役として会議に参加したりしていたなどの事情がなければ、辞任取締役はすでに取締役を辞任していると主張することはできるので、辞任取締役は取締役としての責任をとる必要はないのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00503_企業情報を公示する登記が事実と違った場合の取扱

登記とは、不動産登記や商業登記等さまざまなものがありますが、これらの登記はあくまでも、権利関係等を公示、つまり公に明らかにするためのものであり、登記に書かれていることがそのまま真実となるものではありません。

そこで、真実会社の取締役と登記上の取締役が一致しないこともあるのです。

しかし、
「登記に書かれている事項=真実」
ではないという事実が、社会の常識となれば、登記を信じる人はいなくなり、登記の存在価値もなくなってしまします。

そこで、会社法908条2項は
「故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない」
と規定しています。

つまり、わざと、もしくはかなりうっかり、真実選任された取締役と異なる者を取締役として登記した場合、真実の取締役を知らない人に対し、本当の取締役を取締役であると主張することはできないとされているわけです。

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00502_ノウハウ(営業秘密)を法的に保護するための段取り・プロセス

特許庁に登録していないノウハウでも、特許権と同様にすべてが保護されるのかというと、そうではありません。

不正競争防止法によって、差止請求等ができるのは、ノウハウが一定の要件を充足する場合、これが不正競争防止法上「営業秘密」に該当するものとされ、同法2条6項によって
「取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為」
が不正競争とされるからです。

「営業秘密」
に該当するかどうかは、

1 非公知性
2 有用性
3 秘密管理性

の3つの要件によって判断されます。

つまり
「世間に知られていない、商売に使うことのできるノウハウで、秘密としてちゃんと管理されているもの」
に限定して、これを不正競争防止法上保護しようと考えているわけです。

裁判所では、特に
「秘密管理性」
が認められるか問題になるケースが多く、
「当該情報が、客観的に秘密として管理されていると認識できる状態にあることが必要であり、具体的には、
1 当該情報にアクセスできる者が制限され、
2 アクセスした者に当該情報が営業秘密であること
が認識できるようにされていることが必要である」
とされています(東京地裁判決2000<平成12>年9月28日)。

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00501_特許とノウハウの違い

近年、
「知的財産」
という概念が広まり、キャラクターやブランド名等を勝手に使用すると、差止請求や損害賠償請求をされる危険性があることをご存じの方も多いでしょう。

知的財産とは、知的財産基本法2条により
「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう」
と規定されており、キャラクターやブランド名のみならず、企業のノウハウも知的財産に含まれます。

そして、例えば、発明については、特許庁に登録することによって
「特許権」
として保護されるようになりますが、特許出願をすることによって、1年半後に自動的に発明の内容が公開されてしまいます(特許法64条1項)。

自社のノウハウを特許庁に申請しなくとも、重要なノウハウが不正に利用されてしまった場合、不正競争防止法によって差止請求や損害賠償請求をすることができます(不正競争防止法2条6項、3条、4条)。

したがって、特許権としてではなく、ノウハウとして自らの会社が開発した技術等を保護していく方が自社の利益を追求できる場合もあるのです。

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00500_「将来債権譲渡契約後、発生した債権に譲渡禁止特約が付いていた場合」の債権譲渡の有効性

未発生の債権についてまで、片っ端から担保に取るというのはあまりにやり過ぎで、担保に取られる債務者(担保提供者)側に不測のリスクを負わせるとも考えられます。

将来債権の譲渡があった場合、債権譲渡時には譲渡債権は発生していないわけですから、当然譲受人は、債権者と債務者がどのような契約を締結するかなど知る由もありません。

この点につき、東京地裁平成24年10月4日の裁判例では

「債権の譲渡禁止の特約についての善意(民法466条2項ただし書)とは、譲渡禁止の特約の存在を知らないことを意味し、その判断の基準時は、債権の譲渡を受けた時であるところ、本件請負報酬債権に譲渡禁止の特約を付する合意がされたのは、被告が本件請負報酬債権を譲り受ける契約を締結した後のことであるから、本件請負報酬債権の譲渡当時の被告の善意について論ずることは不可能であって、無意味というほかない。
したがって、本件債権譲渡契約により被告が本件請負報酬債権を取得したとは認められない」

と判断しています。

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00499_将来債権を譲り受けたり、借金のカタに取り上げる場合の注意点

工事代金債権や賃料債権等、未発生であるが、将来生ずる可能性が高いものを
「将来債権」
といいます。

将来債権は、発生するか否か不安定な債権であることから、債権譲渡契約を締結した段階では、その譲渡が現実的なものとなっていないとも考えられます。

しかし、このような不安定な将来債権であっても債権譲渡をすることは可能とされています。

裁判例においても
「将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時において、右債権発生の可能性が低かったことは、債権譲渡契約の効力を当然に左右するものではない」
としています(最判平成11年1月29日)。

ところで、契約における債権に譲渡を禁止する特約を付けることができ(民法466条2項)、将来債権が生じるような継続的な契約関係の多くには、このような譲渡禁止特約が付されています。

この点、譲渡された債権に譲渡禁止特約が付いていたとしても、譲受人が譲渡債権に譲渡禁止特約がついていたことを知らなかった場合、特約があったことを譲受人に主張することはできないとされています(民法466条2項ただし書)。

つまり、当該債権の譲渡禁止特約について、
「調べてもわかんなかったんだし、そんな勝手な取り決め、知るわけねえじゃん」
という状況であれば、特約にかかわらず、譲受人は債務者に請求することができるわけです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00498_外国判決を用いて日本で強制執行する場合の段取り・プロセス

日本では、民事訴訟法第118条の要件を充足する外国の判決であれば、特別の手続を必要とせずに
「承認」
されます(自動承認)。

つまり、外国の判決書であっても、自国の判決と同等であると
「承認」

「執行」
することができる、とされています。

民訴法118条によると
「外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
1 (略)
2 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
3 (略)
4 (略)」
と規定されています。

2について、最高裁判所は、
「(1)『敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達』とは、外国と締結した条約に定められた方法を遵守しなければならない」
とし、また、
「(2)『これを受けなかったが応訴したこと』とは、被告が防御の機会を与えられ、かつ裁判所で防御の方法をとったことを意味する」
としています(最判平10.4.28)。

その上で、香港での裁判において原告側の日本人弁護士が、日本に在住する被告に訴訟書類を直接交付した場合、
「外国と締結した条約に定められた方法を遵守していないから、
(1)には当たらないが、
裁判に出席して争っているので、
(2)には当たる」
という判断をしています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00497_外国での判決を使って日本で強制執行する際のハードル

自己の権利を実現する場合、債権者が実力で権利を実現するという自力救済が原則として認められておらず、
「判決→強制執行→権利の実現」
といったプロセスで権利実現がなされるシステムが採用されています。

この手続は、司法権という国家主権が行使される場面ですので、国家間の問題をはらみます。

ここに、
「他国の司法機関が下した、他の国の法律を前提に、当該言語で書かれた判決書」
があるとしましょう。

当該判決書はその国では有効ですが、別の国においては、そんな
「よくわからない法律に基づいてくだされた、よくわからない言語で書かれた判決書」
という意味不明な紙切れがあっても強制執行を行うことはできず、無視されるだけです。

しかし、
「日本人が、外国で不正な行為をしても、日本に帰ってくれば、相手方は必ず、アウェーである日本でしか裁判は提起できない」
というのも不公平ですので、
「一定の条件が整えば、外国の裁判所による判決に基づいて、日本国内で強制執行できる」
とされています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00496_無権限の取締役と取引した場合でも取引を有効と主張できる場合

表見取締役が締結した契約は、会社の代表者が締結した契約と同様の契約として、会社はその契約から発生する義務を履行しなければなりません。

ただし、会社法354条が適用されるためには、
「権限のないことを知らなかった」場合
でなければなりません。

一口に
「知らなかった」
といっても、
「権限のないことを知らなくて当然」
「うっかり知らなかった」
「どう考えても権限があるとは思えないのに、どうして信じてしまったの?!」
と、さまざまな程度や理由があります。

権限のないことを知らなかった理由によって、契約を成立したことにして保護してあげる必要性は異なるので、
どんな状況でも信じたもん勝ち!
っていう訳ではないんですね。

会社法354条にはその理由、程度については明記されていません。

そこで、
どの程度の「うっかり」
であれば保護されるのかというと、代表権のないことを知らなかったことにつき第三者に重大な過失があるとき以外はOKというのが最高裁判例の理屈です。

つまり、ヤバいシグナルがビンビン出ているにもかかわらず、アホな考えで権限がないことを調べなかったような場合には、知っていたのと同じと考えて、そんな、ボーッと生きているウッカリさんは保護しません、ということなんですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00495_代表権限をもたない取締役と取引した場合のリスク

原則、代表取締役が選定されている場合、その他の取締役には代表権はありません。

代表取締役を定めている会社で、代表権のない平取締役が会社を代表して契約を締結したとしてもその売買契約は成立していないのが原則です。

その場合、買主は、売主に対して売買の対象物を引き渡すように請求することはできません。

しかし、会社法354条は、会社が、代表取締役以外の取締役に対して、社長や副社長といったような株式会社を代表する権限を有すると思わせるような名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、権限のないことを知らなかった者に対してその責任を負うとしています。

このように会社が代表権を持たない平取締役に
「社長」「副社長」
といったエラそうな名称を付す場合がありますが、そのような実態と違ってエラそうな肩書を持つ平取締役を
「表見(ひょうけん)取締役」
といいます。

そして、当該表見取締役が締結した契約は、会社の代表者が締結した契約と同様の契約として、会社はその契約から発生する義務を履行しなければなりません。

ただし、会社法354条が適用されるためには、
「権限のないことを知らなかった」
場合でなければなりません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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