00374_株式を公開していなくても金商法が適用される場合

金融商品取引法(金商法)は、金融市場における取引が適切な情報に基づき公正に行われるようにするため、金融市場というインフラを用いる企業に厳格な情報開示を求めています。

金商法は、
「金融市場というインフラを用いる企業」
すなわち、株式公開企業を主な規制の対象とし、当該企業に適切な情報を開示することを要求しています。

株式公開企業にとっては、金商法違反を犯すと刑事罰・行政処分に加え上場廃止というペナルティが課される可能性があることから、金商法は
「“御家おとり潰し(=上場廃止)”にならないようにすべき、死んでも守るべき法律」
として重要視されています。

この意味では、
「ウチは未公開会社だから、金融商品取引法は関係ない」
と断言できそうな気がします。

とはいえ、金商法は、
「上場会社向けに限って適用され、株式を公開していない会社には一切適用されない」
というものではありません。

金融商品取引法は、個人投資家等を保護するため、金融商品について幅広く横断的なルールを規定する法律でもあり、すべての会社が発行できる株式の取引を規制しているため、一定規模以上の非公開会社の増資や新株予約権発行に関しても規制を及ぼします。

すなわち、未公開会社であっても、発行価格の総額が1千万円を超え、かつ、50名以上の者を相手方として、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行う場合などには、有価証券通知書や、有価証券届出書の提出をすることが義務づけられる場合があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00373_「勘違い」「アテが外れた」「想定外」を理由に取引をキャンセルするには?

私法の世界では、
「人は自らの意思に基づいた約束にのみ拘束される」
というのが原則です。

この原則に照らせば、
「勘違いによる契約」
は、自分が思ったこととは違うわけですから、
「自らの意思に基づいた約束」
とは言えませんので、その人はその契約に拘束されないことになります。

そこで、民法95条本文は、
「法律行為の要素に錯誤があったとき」、
つまり、
1 その勘違いがなければ契約を締結しなかったといえる場合で
2 通常人の基準からいっても(一般取引の通念に照らしても)その勘違いがなければ契約を締結しなかったことがもっともであるといえる場合には
「錯誤による契約」
として無効となる旨が規定されています(錯誤による無効)。

ところで、契約自体には何の勘違いもないが、契約内容とは別個の背景事情や動機や目論見や皮算用が狂ったこと場合、契約には何らの
「錯誤」
もないので、どんなにひどい勘違いがあっても、契約相手からすると
「知ったこっちゃない。契約キャンセルなんて、とんでもない」
という話になります。

このように、
「契約の内容自体には勘違いがないものの、契約しようと思った背景事情に勘違いがある場合」

「動機の錯誤」
と言います。

そして、判例は、
「動機の錯誤」
について、勘違いしてしまった者と契約の相手方との利益を調整するため、
「その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となった場合」
には契約が無効になるとしています。

背景事情や動機や目論見や皮算用が契約の相手方に(黙示的にでも)表示されていた場合には、契約が無効となりえますし、キャンセルを主張し得る可能性が出てきます。

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00372_M&Aや事業提携等において、「名板貸」責任が発生する具体的場合

名板貸人は、どのような場合に、名板貸人の責任を負わされることになるのでしょうか。

自らの意思に基づいて約束を交わしたわけではない名板貸人に、私的自治の大原則を修正してまで、本来他人であるはずの名板借人が勝手に背負った債務まで弁済させるという重い責任を発生させるわけですから、それなりの要件が要求されます。

すなわち、
1 虚偽の外観の存在(名板借人による商号の使用)
2 当該外観への信頼(第三者が名板借人を名板貸人であると信じたこと)
3 当該外観作出についての名板貸人の帰責性(名板貸人が自己の商号を使用して事業を行うことを自ら許諾していたこと)
という要件が必要となります。

たとえば、
2の第三者が名板貸人と名板借人とが別の業者であることを知っていた場合や(悪意)、
普通なら誰でも気付けた状況なのに気付かなかったような場合(重過失)には、
第三者側の落ち度ですから、名板貸人に責任は発生しません。

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00371_M&Aや事業提携の際に発生する名板貸リスクとは?

江戸時代においては
「連座制」
なんて制度があり、自分に責任がなくても他人のケツを拭かされるということが当たり前のようにありましたが、近代法制においては
「人は自らの意思に基づいた約束にのみ拘束される」
というのが基本的な考え方であり、
「自らが合意したものでない限り、他人が勝手に締結した契約に拘束されることはない」
というのが原則です(私的自治の原則)。

とはいえ、取引社会を円滑にするためには、この原則を貫くと不都合な場合があり、
「取引社会において紛らわしい外観が存在し、これを信頼して取引してしまった第三者が損害を被ろうとしている場合、外観作出に責任のある者がケツを拭くべき」
とのルール(「外観法理」といいます)が登場しました。

たとえば、会社法第9条は、
「自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社と取引しているものと誤信した第三者に対し、商号使用の許諾先である他人とともに連帯して、その取引によって生じた債務を弁済しなければならない」
と規定しています。

「自社と誤解されるような紛らわしい商号の使用を許したのはテメエなんだから、商号使用者の不始末はテメエがとれよな」
というわけです。

なお、
「自己の商号の使用を他人に許諾すること」

「名板貸(ないたがし)」
と言い、商号使用の許諾元を
「名板貸人」、
許諾先を
「名板借人」
と呼びます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00370_職務発明を企業のモノにするためのハードル

企業が職務発明を自社のモノとして専有するにはいくつかハードルがあります。

まず前提として、職務発明に該当するためには、
1 企業等に雇用される従業員が、
2 その業務の範囲内において行った発明で、
3 現在または過去の職務に属する発明である
必要があります(特許法35条1項)。

当該企業等に雇用されていない委託先の別会社の従業員が発明しても職務発明とはいえませんし、製薬会社の従業員が
「高性能モニター」
を発明しても
「業務の範囲内の発明」
ではありませんし、また、製薬会社の人事担当が
「ガンの特効薬」
を発明しても
「現在または過去の職務に属する発明」
ではないので職務発明には当たりません。

「職務発明」
に該当すると、企業としては、タダで当該発明を実施する権利を取得します(特許法35条1項、通常実施権)。

ですが、その権利では、発明をした従業員が他社に実施を許諾し、類似製品が販売されたときに、これを差し止めることまではできません。

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00369_職務発明制度

特許を受ける権利は、発明を自ら行った者(発明者)に与えられるのが原則であり、法人は発明者にはなり得ないとされています。

したがって、当該発明を自ら行った者が特許申請を行い、特許権を取得するのが通常です。

しかしながら、発明はその技術が高度であればあるほど多大な費用が必要となります。

そして、通常、企業などに所属する従業員などは、所属先の研究設備等を最大限に利用して発明を行うわけですから、もし、法人が当該発明を使用できない、特許権を取得できない、とするならば、莫大な費用を投じた企業等は、投資に見合った収益を得ることができなくなってしまいます。

そこで特許法は
「職務発明」
という制度を設け、ある発明が職務発明に該当する場合には、発明者たる従業者と使用者の双方に一定の利益を付与し、両者の利益調整を図っています。

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00368_裁判所から、突然、債権差押命令が送られてきた場合の対処法

債権差押えとは、債権者が、債務者のもっている債権を、裁判所の命令をもらって強制的に取り上げ、そこから未払分を払わせる手続のことをいいます。

例えば、金融業者が、債務者に対して公的に証明されている売掛債権(裁判所の判決や公正証書で存在が明らかになっている債権)を有してるにもかかわらず、債務者が四の五のいって支払わないときに、債務者の銀行預金(銀行に対する預金債権)を強制的に召し上げるのが、債権差し押さえ手続です。

ここで、金融業者が差し押さえをする銀行は、自分が借金を負っているわけではないのですが、債務者が有する預金債権の関係では債務者となりますので、
法律上「第三債務者」
といわれます。

なお、預金債権を差し押さえる場合には、通常、銀行の支店名まで調査、特定しなければならず、これを捜し当てるのが難しい場合があり、金融業者は、債務者が勤務先に対して有する給料や報酬などの債権を差し押さえる場合があります。

債権差し押さえ命令を受領すると、第三債務者は、債務を弁済することが禁止されます。

差し押さえを無視して債務を支払ってしまっても、差し押さえ債権者から取り立てを受けた場合には、差し押さえ債権者に対してももう一度支払わなければなりません(二重弁済リスク)。

債権差し押さえは、目に見えない
「債権」
というものを相手にするために、債権者としては、本当に債権があるのか、あったとしても、誰のものなのか確信が持てません。

従って、差し押さえが成功したのであれば、さっさと次の手続を開始し、失敗したのであればさらに別の方法を検討するなどする必要があります。

そこで、法律は、
「差し押さえられた債権に関する情報を、差し押さえ命令受領後一定期間内に申し述べなさい」
と第三債務者に対して要求できる制度を定めました。

これが
「陳述催告」
と呼ばれるものです。

ところで、第三債務者と債務者との間に親密な関係がある場合には、通謀して、第三債務者が虚偽の陳述を行う可能性があります。

そこで、民事執行法147条2項は、
「故意又は過失により、陳述をしなかったとき、又は不実の陳述をしたときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」
と規定し、バレたら、差し押さえ債権者に損害賠償を請求されることになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00367_国や独立行政法人と取引する企業が、ある日、突然、会計検査院に乗り込まれるリスク

日本国憲法第90条は
「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない」
と規定しており、これを受けた会計検査院法第20条は
「会計検査院は、日本国憲法第90条の規定により国の収入支出の決算の検査を行うほか、法律に定める会計の検査を行う」
と規定しています。

このように、国の会計が会計検査院検査の対象となるのはもちろんですが、会計検査院法は、会計検査院が必要と認めるときには、
「国が直接又は間接に補助金、奨励金、助成金等を交付し又は貸付金、損失補償等の財政援助を与えているものの会計(例:日本放送協会の会計)」
「国が資本金の一部を出資しているものの会計(例:日本郵政株式会社の会計)」
なども検査ができる旨を定めています。

さらに、2005(平成17)年の会計検査院法の改正で、
「国もしくは国が資本金の二分の一以上を出資している法人の工事その他の役務の請負人もしくは事務もしくは業務の受託者又は国等に対する物品の納入者のその契約に関する会計」、
すなわち、国などに対し、業務サービスなどを提供する業者や、備品などを納入する業者などの会計内容に対しても検査を行えるようになりました。

前記改正により、会計検査院の検査は、官庁などに出入りする文具品などの納入業者らにも及ぶこととなり、会計検査にとっては検査遂行上、大きな武器を手に入れることになりました。

会計検査院は、会計検査院法に基づき、会計検査院の検査を受けるものに対し、帳簿、書類その他の資料若しくは報告の提出を求めたり、関係者に質問したり、出頭を求めることができますし、必要な場合には会計検査院の職員を派遣して、実地検査をすることもできます。

会計検査院の検査を受けるものは、このような検査に対し、
「これに応じなければならない(会計検査院法25条、26条)」
とされいます。

しかし、会計検査院は捜査機関ではありませんので、捜索や差押さえといった強制捜査はできません。

また、検査に従わなかったとしても罰則が課されるわけではありませんので、不必要な検査や過剰な検査に関しては、きちんとした理由を述べてお断りすることも不可能ではありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00366_インサイダー規制がトリッキーに作用するストックオプション取引

ストックオプションの権利を行使して株式を取得する場合については、
「厳格な手続きが予定されており、投資家による市場への信頼喪失が発生しない」
という理由で、インサイダー取引に該当しないものとされています(金融商品取引法166条6項)。

ただ、
「ストックオプションがインサイダー取引にならない」
のはあくまで、
株式取得面に限ってのこと
であり、
重要事実を知った者が公表前にストックオプションで取得した株式を売却
したりすると、当該売却行為にはインサイダー取引規制が及ぶことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00365_インサイダー取引が規制される理由・背景

金融商品取引法(旧証券取引法)は、
「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする(第1条)」
という目的を実現するため、詳細な規定を設けています。

株価は市場において形成された客観的で公正な企業価値を反映するものであり、このような期待があるからこそ、投資家は市場を信頼し、資本主義が健全に機能することになります。

その意味では、市場における株価は、正確な情報に基づき、自由かつフェアに評価されたものでなければなりません。

反対に、
市場における株価形成のプロセス自体が歪められたり(相場操縦)、
株価形成の際に虚偽の情報が混入したりすること(開示における虚偽記載)、
さらには、
「一部の者だけが正しい情報を持つ結果、本来あるべき企業価値とは離れた株価が形成されること(インサイダー取引)」
も、投資家の市場に対する信頼を失わせ、資本主義という制度そのものを破壊しかねない悪質な行為と考えられることになります。

このような点から、金融商品取引法は、インサイダー情報による取引を違法視し、刑事罰や課徴金の制裁など厳しい制裁を科しています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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