02125_倒産寸前の会社を守る弁護士チームとは? 名前ひとつで会社の未来が変わる

倒産が目前に迫った会社では、会社の命運を左右する
「ガバナンス」
を誰が握るかが重要になります。

そのために、相手へのけん制として弁護士を募ることは、一手として非常に有効です。

ここでいう
「相手」
とは、単に会社を狙う外部の第三者だけではありません。

たとえば、企業価値が落ちたタイミングで買収を狙う投資ファンドや競合企業など、会社の資産や事業を安く手に入れようとする外部の存在もいます。

しかし、それだけではなく、銀行や金融機関などの債権者が、貸付金の回収を最優先し、会社の存続よりも清算を選ぼうとするケースもあります。

さらに厄介なのは、倒産処理を生業とする弁護士や会計士(いわゆる「倒産村」)が、会社の再生ではなく、スムーズな倒産処理を進めようとするケースです。

彼らの視点では、会社を救うよりも
「いかに整理するか」
が優先されることが多いため、経営本部が望む形の再生とは異なる方向に舵を切られる可能性があります。

だからこそ、
「倒産村の傘下ではない」
弁護士を募ることが、前提条件となります。

ここで問題になるのが、弁護士チームの名称です。

一般的に
「リーガルアドバイザリーボード」
と聞くと、高い視点から助言をするだけの組織のように思われがちです。

しかし、アドバイスだけでは会社は救えません。

例えば、火事が発生したときに、現場で
「このままでは燃え広がるぞ」
「あそこの消火器を使うといい」
などとアドバイスをするだけの人がいたらどうでしょうか。

もちろん、助言はありがたいですが、実際に消火器を手に取り、火を消す人がいなければ意味がありません。

もっと厄介なのは、
「じゃあ、手足は手前どもが動かします」
としゃしゃり出てくる人たちの存在です。

彼らは、一見すると実務的に動いているように見えます。

しかし、その動きの裏には、会社を助けるどころか、逆粉飾騒ぎを引き起こし、気がつけば葬儀屋のように会社を倒産処理してしまうケースが少なくありません。

こうした事態を防ぐためには、名称からして明確に
「助言するだけではなく、実務に関与するチーム」
であることを示す必要があります。

その意味で、
「リーガルサポートコンソーシアム」
という名称がふさわしいのです。

チームの名称は、単なる呼び名ではなく、その組織の役割や方針を示す大切な看板です。

名前ひとつで、会社の未来が変わることもあります。

この局面では最も重要になるのは、実務的な弁護団を組織することであり、その名称は、
「リーガルサポートコンソーシアム」
がふさわしい、ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02124_経営者視点で考える組織の最適化_企業法務弁護士が提案する改革のヒント

企業経営において、適切な人員配置は非常に重要です。

役割が明確でバランスよく配置されていれば、業務はスムーズに進み、生産性が向上します。

しかし、企業が成長するにつれて、無駄が増えたり、業務の偏りが生じたりすることも少なくありません。

最近、ある企業の組織体制を精査する機会がありました。

その企業では、スタッフの業務を次のように分類していました。

1 プロデューサー
2 ディレクター
(以上、マネージャー職)
3 プランナー
4 デザイナー
5 エンジニア
6 アドミニストレーター
7 作業員

この分類をもとに人員配置とコストを分析したところ、組織のバランスが大きく崩れていることが分かりました。

人員もコストも過剰である一方で、重要なポジションを担うべき人材がほとんどいなかったのです。

組織のバランスが崩れた原因とは

まず、企業の意思決定や業務の指揮をとるプロデューサーやディレクターがまったくいませんでした。

さらに、IT部門においても、技術の基盤を支えるエンジニアが不在でした。

これでは、企業全体の方向性を決めたり、技術的な課題を解決したりする力が弱くなってしまいます。

また、企画職であるプランナーは経営本部が担っていました。

しかし、本来、経営本部は企業全体の戦略を考えるべき組織です。

企画業務まで兼務してしまうと、現場での実行力が弱くなり、組織の機能が不十分になってしまいます。

アドミニストレーターについても、役割があいまいでした。

企業の運営を支えるバックオフィス業務は重要ですが、その機能が中途半端になっているため、経営のサポート体制が不十分になっている印象を受けました。

さらに、デザイナーはすべて子会社に任せており、本社にはいませんでした。

デザイン業務を外部に委託するのは合理的な判断のように思えますが、本社と子会社の間で業務の切り分けがうまくできていないため、指示や調整に手間がかかっている状態でした。

結果として、本社には半人前のアドミニストレーターと、大量の作業員がいるだけという状況になっていました。

重要な意思決定をする人材が不足し、専門的な業務を担う人もいない一方で、作業員だけが増えてしまったのです。

これでは組織としての効率が悪く、コストも無駄にかかってしまいます。

オーナー経営者の本音と組織改革の必要性

この状況を受け、オーナー経営者は
「本部の人数を徹底的に効率化し、余剰人員を新規事業に回したい」
と考えました。

経営者として、企業を成長させるためには、無駄なコストを削減し、戦略的な人員配置を行うことが不可欠です。

そのため、組織改革を進めるのは当然の流れといえます。

では、具体的にどのように組織を見直せばよいのでしょうか。

企業法務弁護士が果たす役割

このような場面で、企業法務弁護士の視点が重要になります。

弁護士の仕事というと、契約書のチェックや法律トラブルの対応が中心だと思われがちですが、それだけではありません。

経営者の視点に立ち、組織の課題を抽出し、解決策を提案することも、企業法務弁護士の大切な役割の一つです。

例えば、以下のようなアプローチが考えられます。

1 人員配置の最適化
組織体制を見直し、不足しているプロデューサーやディレクター、エンジニアを補強する一方で、不要なポジションを削減します。
これにより、組織全体のバランスを整えます。

2 業務プロセスの整理
業務の重複をなくし、経営本部と現場の役割分担を明確にします。
これにより、意思決定のスピードを上げ、組織の機能を最大化できます。

3 コスト削減と資源の再配分
余剰人員を新規事業へシフトさせ、企業の成長戦略に沿ったリソース配分を行います。

4 法的リスクの管理
組織改革に伴う労務問題や契約の見直しを行い、法的なリスクを未然に防ぎます。

企業が組織改革を行う際には、人員削減や再配置に伴い、労務トラブルや法的な問題が発生することもあります。

だからこそ、経営戦略と法務の両面からアプローチできる企業法務弁護士の存在が、経営者にとって強力なサポートとなるのです。

まとめ:組織改革は企業の成長のチャンス

今回のケースでは、企業の組織体制を見直すことで、大幅な効率化とコスト削減が可能であることが分かりました。

組織のバランスが崩れたままでは、無駄なコストがかかるだけでなく、意思決定の遅れや業務の停滞を引き起こすリスクがあります。

経営者が
「組織を変えたい」
と考えたとき、それを実現するための戦略的なアプローチが求められます。

その際、企業法務弁護士が果たす役割は大きいです。

ただ法律を扱うだけでなく、経営の視点を持ちながら最適な解決策を提案できる弁護士こそが、これからの企業経営に必要とされる存在なのではないでしょうか。

組織改革は、単なるコスト削減ではなく、企業の成長を加速させるための大きなチャンスです。

適切な戦略と専門家のサポートを活用しながら、最適な組織づくりを進めていくことが重要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02123_法律の解釈は、立場によって変わる—経営の判断軸をぶらさないために

ビジネスの世界では、どの選択肢を取るかによって、同じ法律でも解釈が変わります。

これは、商売の値付けの考え方に似ています。

たとえば、老舗の製造業が新商品を開発し、価格を決めようとしているとしましょう。

営業部門は、
「まずは市場に出しやすい低価格で勝負すべきだ」
と考えます。

一方、財務部門は、
「利益率を確保するために、高めに設定すべきだ」
と主張します。

同じ商品、同じコストでも、どこに重点を置くかで
「適正価格」
の解釈は変わります。

法律も同じです。

ある企業にとって
「この条文は有利に働く」
と思っていたものが、別の立場から見ると
「逆に不利になる」
とも言えます。

だからこそ、
「何を優先するか」
を明確にすることが重要なのです。

さて、ある企業Aでは、3つの課題がありました。

1 A社がB社のガバナンスを握ること
2 C銀行の責任をあいまいにすること
3 B社を再生させること

A社のオーナー経営者は、2や3も重要ではあるものの、
「絶対に達成しなければならない条件
とは考えていません。

もちろん、可能な範囲で努力はするものの、最も重要なのは1である、という認識です。

しかし、経営本部では、3つすべてを同じ優先度で進めようとし、顧問弁護士とは別に新たに外部弁護士まで起用しました。

一見すると慎重な対応のようですが、本当にそれでA社の目的は達成できるのでしょうか?

これは、老舗の町工場が経営再建を進める際の判断に似ています。

たとえば、業績不振に陥った製造業が立て直しを図るとします。

社長は
「とにかく技術力を磨いて競争力を高める」
ことを最優先にすると決めました。

ところが、経営企画室は
「それも大事だが、銀行との交渉も、設備投資も、ブランド戦略も全部同時にやるべきだ
と主張します。

確かに、どれも重要な要素ではあります。

しかし、すべてを完璧にこなそうとすると、結局どれも中途半端になりかねません。

ここで考えるべきなのは、A社が本当に達成したいのは何か、という点です。

もし
「B社のガバナンスを握ること」
が最優先事項なのであれば、
「第3の弁護士の起用」
は、その目的と矛盾する可能性があります。新たな弁護士が入ることで、方針がブレたり、交渉の主導権が曖昧になったりするリスクも考えられます。

将棋で言えばA社が狙うべきは
「相手(B社)の大将を詰める」
ことです

それなのに、
「小駒もできるだけ多く取ろう」
と動きすぎると、本来の狙いがぼやけてしまいます。

顧問弁護士としては、
を明確にし、それに最適な戦略を選ぶよう助言しました。

「A社が本当に達成したいこと」
を決定するのは、経営本部でも、弁護士でもありません。

それは、オーナー経営者なのです。

法律は、立場によって解釈が変わります。

だからこそ、
「どの立場から見るか」
を明確にしなければ、判断を誤る可能性があるのです。

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02122_企業法務ケーススタディ:仕入れ先の見直しはボイコットか?独占禁止法の観点から考える

<事例/質問>

全国展開している外食チェーン3社の代表として相談させていただきます。

現在、当社を含む3社は、食材の仕入れ先として食品卸A社とB社の2社と取引しています。

しかし、近年の仕入れコストの上昇や供給の不安定さにより、仕入れ体制を見直す必要性が出てきました。

特にB社に関しては、価格の柔軟性が乏しく、供給の安定性にも課題があるため、今後の取引を継続すべきか検討した結果、B社との取引を停止し、より条件の良いA社とのみ取引を継続する方針を決定しました。

この決定によって、B社から訴えられるリスクはないでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

本件については、独占禁止法上の
「ボイコット」
に該当する可能性があるため、慎重な対応が求められます。

ボイコットとは、
「正当な理由がないのに特定の事業者との取引を拒絶し、または取引内容を制限すること」
を指します。

ボイコットには
「共同ボイコット」

「単独ボイコット」
があり、特に複数の事業者が共同で特定の業者を市場から排除する場合は、共同ボイコットとして違法になる可能性が高くなります。

違反と認定された場合、排除命令、課徴金、取引の強制継続命令、損害賠償の請求などのリスクが発生します。

ただし、本件は、法律上の立て付けをどう整理するかが重要です。

要するに、取引停止が
「不当な排除」
ではなく
「経済合理性に基づく選択」
であることを明確にすれば、法律上のリスクを回避または減少できます。

具体的には、以下のような進め方が考えられます。

まず、A社とB社に対し、現在の取引条件ではコストが高すぎて利益が確保できず、事業継続が困難であることを説明します。

そして、
「より安定した供給体制の確保」

「仕入れ価格の引き下げ」
などの条件変更を提示し、受け入れられない場合は、
「外食チェーンとして一部の食材を直仕入れする」
という選択肢を打ち出します。

当然ながら、A社とB社はこの要求に反発し、取引が一旦終了する流れになります。

その時点で外食チェーン側は
「一部の食材を直仕入れする」
と公表し、市場に向けて情報を発信します。

ところが、その直後にA社が独自に外食チェーン側と接触し、新たな取引条件で取引を再開することになります。

この際、A社と外食チェーン側の間で合意した新たな取引条件(価格や供給量など)は公表しません。

結果として、B社は
「A社が外食チェーンの提示した条件を受け入れた」
と認識し、そのまま取引が停止される流れとなります。

重要なのは、
「B社を排除するために取引をやめた」
のではなく、
「適正な取引条件を提示し、それを受け入れた企業と取引を継続した」
という形を作ることです。

これにより、ボイコットではなく
「取引条件の見直しによる市場の適正化」
として説明することができます。

ただし、本件の進め方については慎重に検討する必要があります。

具体的には、以下のステップを踏むことが望ましいでしょう。

0 対策チームの組成
1 プロジェクトの詳細把握
2 リスクの特定(法令、類似事例の調査)
3 回避策の選択肢抽出と長短所の分析
4 関係先とのすり合わせ
5 市場の反応観察
6 訴訟リスクが高まった場合の対応策検討

このようなアプローチを取ることで、独占禁止法違反のリスクを回避しつつ、外食チェーン側が望む最適な仕入れ体制を構築することが可能となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02121_雇用は結婚と同じ。始めるのは簡単、別れるのは大変。

雇用関係は、結婚と似ているとよく言われます。

最初は
「この人と一緒に働きたい!」
と思って契約を交わしますが、いざ関係を解消しようとすると、思った以上に手続きが厄介だったり、相手が納得しなかったりして、スムーズに進まないことが多いからです。

たとえば、恋愛なら、気持ちが冷めたら
「ごめん、別れよう」
と言えば、それで終わるかもしれません。

しかし、結婚となると話は別です。

結婚生活がうまくいかなくなって
「もう無理だから離婚したい」
と思っても、相手が同意しなければ簡単には終われません。

慰謝料や財産分与、親権など、さまざまな問題が絡んできます。

雇用も同じです。

最初に契約するときは簡単ですが、いざ辞めてもらおうとすると、
「なぜですか?」
「納得できません」
「不当解雇だ!」
「そんな話は聞いていない!」
とトラブルになりがちです。

特に、問題社員ほど辞めたがらないものです。

会社にとっては痛手ですが、本人にとっては
「居心地が良い場所」
を手放したくないわけです。

だからこそ、最初が肝心です。

「この契約は、ずっと続くものではない」
「更新は確約されていない」
ということを、最初から明確にしておくことが重要です。

社員に
「ずっと働ける」
と思わせないことが重要なのです。

先日、顧客から依頼された雇用契約書をチェックしたところ、契約更新について曖昧な表現がありました。

企業側の意図としては
「更新は確約しない」
つもりだったのでしょうが、文面だけを見ると、社員側が
「当然更新されるものだ」
と思い込む可能性があるものでした。

こうした曖昧さが後々の揉め事を生むのです。

たとえば、賃貸契約をするときに
「2年契約ですが、更新は貸主の判断次第です」
と明確に書かれていれば、
「ずっととここに住める」
とは思いません。

しかし、
「原則更新」
と書かれていたら、
「普通に更新されるんだろう」
と期待するでしょう。

雇用契約でも同じで、
「ずっとここで働ける」
と、更新の期待を持たせ”ない”ことが大切なのです。

雇用は結婚と同じで、始めるのは簡単ですが、終わらせるのは難しいものです。

だからこそ、最初の契約段階でルールを明確にしておくことが、後々のトラブルを防ぐカギになります。

トラブルを防ぐためには、契約書の文言をしっかり作り、曖昧な期待を持たせ”ない”ようにする――これが、会社を守るための大切なポイントなのです。

雇用関係も、
「契約するのは簡単、解除するのは難しい」
という前提を忘れずに、慎重に進めることが大切です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02120_契約書の曖昧な一文がトラブルの火種に。「書いていないこと」もリスクになる。

先日、顧客から雇用契約書のチェックを依頼されました。

契約書を確認してみると、契約更新に関する記述が少し曖昧な表現になっていました。

企業側の意図としては
「更新は確約しない」
つもりだったのでしょうが、文面だけを見ると、社員側が
「当然更新されるものだ」
と思い込む可能性があるものでした。

こうした曖昧な契約書が原因で、後になって
「そんなつもりじゃなかった」
「言った・言わない」
と揉めるケースは少なくありません。

企業側は
「更新はしないつもりだった」
と主張し、社員側は
「ずっと働けると思っていた」
と反論する――どちらの言い分にも一理あるように見えてしまうのが厄介なところです。

契約書は、普段はただの紙切れですが、トラブルが起きたときには、会社と社員の双方を守る盾になります。

しかし、その盾が曖昧な表現で作られていたら、いざというときに役に立ちません。

たとえば、家を建てるときに
「地震に強いかどうかは、まあ大丈夫なはず」
と適当に設計したら、大地震が来たときにひとたまりもありません。

契約書も同じで、
「まあ伝わるだろう」
と思って適当に書くと、いざ問題が発生したときに会社のリスクとなります。

特に雇用契約では、最初に社員が
「この会社で長く働ける」
と期待してしまうと、契約終了時に
「話が違う」
と揉めやすくなります。

だからこそ、
「更新は確約しない」
ということを明確に記載し、余計な期待を持たせないことが重要なのです。

契約書は、書いてあることだけでなく、書いていないことも問題になります。

「普通はこう解釈するだろう」
という前提に頼るのではなく、誤解の余地を残さない形で文章を作ることが、後々のトラブルを防ぐカギになります。

曖昧な契約書は、将来の火種になりかねません。

だからこそ、最初にしっかりチェックしておくことが大切なのです。

特に、契約書作成や契約書チェックを弁護士に依頼せず、社内ですべて対応しがちな中小企業では、このような事例が少なくありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02119_企業法務ケーススタディ:出向か転籍か?社員配置の課題とA社・B社の分離性を保つポイント

<事例/質問>

A株式会社の正社員のうち3~4名が、4月以降、株式会社Bの業務に就く予定です。

この際、A株式会社の社員として在籍したまま出向の形を取ることを考えていますが、以下の2点について懸念があります。

1 A株式会社と株式会社Bが一体とみなされるリスクについて
出向という形を取った場合、外部から見てA株式会社と株式会社Bが実質的に一体の企業であると判断されるリスクはないでしょうか。
特に、健康保険証の提示を求められた場合など、A株式会社に在籍していることが明らかになる場面が考えられます。
会社としては、両社を明確に分離した形にしたいと考えていますが、出向の形を取ることでこの分離が損なわれる可能性はあるでしょうか。

2 出向における労働契約上の問題について
出向の手続きを進めるにあたり、労働契約上の問題が発生する可能性はありますか。
出向に関して社員の同意を得る必要があることは理解していますが、どの程度の手続きを踏むべきでしょうか。
また、転籍の手続きは煩雑であるため、できれば避けたいと考えていますが、長期的に見た場合の最適な対応策についてもご意見を伺いたいです。

以上について、先生のご見解をお聞かせいただけますでしょうか。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

リスク管理において最も重要なのは、リスクを特定し、整理して分解・検証することです。

今回のケースでは、A株式会社の社員を株式会社Bに出向させる際に、
1 両社が一体とみなされるリスク
2 労働契約上の問題という2つのリスクが考えられます。

それぞれについて整理し、対応策を検討します。

1 A株式会社と株式会社Bが一体とみなされるリスク

この点については、あまり心配する必要はないと考えます。

そもそも企業間の関係は、単に社員の出向だけで決まるものではありません。

企業の結びつきは、ガバナンス、ヒト、モノ、カネ、知的財産(チエ)、営業、経理など、さまざまな要素によって成り立っています。

例えば、株式会社BがA株式会社から製品や部品を仕入れている場合、一定の関係性は不可避です。しかし、それだけで両社が一体とみなされるわけではありません。

ガバナンスの面で独立性を確保し、役員の兼任や資本関係に慎重に対応していれば、通常は問題になりにくいでしょう。

ヒトの部分についても、出向という形態自体は一般的に行われているものであり、メーカーが販売会社に社員を応援派遣するケースも珍しくありません。

特に、短期間の出向であれば、企業の独立性が損なわれる可能性は低いと考えられます。

そのため、短期的には出向の形をとり、長期的には新規採用や出向者の転籍を検討するのが現実的な対応策でしょう。

2 出向における労働契約上の問題

出向を行う際には、社員の同意を得ることが重要になります。

そもそも社員が同意していれば、法的な問題はほとんど生じません、

ただし、出向の手続きには一定の煩雑さが伴います。

就業規則に出向に関する規定があるかを確認し、個別の同意書を準備するなど、事前の準備が必要です。

以上の点を踏まえると、現実的な対応としては、以下の手順を取るのが望ましいでしょう。

(1)短期的には 出向という形で対応し、出向契約を適切に締結する。
(2)長期的には 新規採用や出向者の転籍を検討し、徐々に株式会社Bの社員としての体制を整えていく。

これにより、リスクを最小限に抑えながらスムーズに人員の移行を進めることができます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02118_企業法務ケーススタディ:架電時の録音は任意?証拠価値と実務リスクを検討する

<事例/質問>

わが社では、コンプライアンス強化の課題として、法人のお客様やビジネスパートナーに確認したい事項が出てまいりました。

電話をかけて確認することにしました。

その際、念のために録音したいと考えています。

録音はトラブル時の証拠として有効だと思いますが、
「事前の同意がない録音は証拠価値が低下する」
という意見もあります。

また、こちらから電話をかける際に
「録音します」
と言うと、先方との会話がぎこちなくなり、必要な情報が得られにくくなるリスクを懸念しています。

法のリスクと実務上のメリット・デメリットのバランスについて、ぜひご意見をお聞かせください。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

1 録音の証拠価値と法的リスク

結論から言えば、相手に無断で録音を行っても、民事上の証拠としては十分に価値があります。

よほどひどいケース(例えば、プライバシーが最も高いとされるピロートークなど寝室での会話)でもない限り、民事には違法収集証拠排除法則の適用はない、と解されています。

ただし、実務的なリスクとして
「秘密録音は違法だ」
と先方からクレームを受ける可能性はゼロではありません。

2  一般的な告知のトレンドと今回のケース

近年では、
「会話品質の向上を目指して録音をさせてもらう場合があります」
という告知を行っている企業も多く見られます。

しかし、それは、顧客からの問い合わせ電話の場合であり、今回のように
「当社から確認のために顧客に架電する」
ケースでは、事前に録音を告知すると相手が警戒し、必要な情報が得られにくくなる可能性があります。

3  結論:実務上のリスクはあるが、録音自体は許容範囲

今回のケースでは、録音しないことでトラブル発生時に証拠を確保できないリスクの方が大きいと考えられます。

無断録音を行ったとしても、法的には特に問題視される可能性は低いと考えられ、許容範囲といえましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02117_企業法務ケーススタディ:顧問弁護士に相談できないケースとは?クライアント同士の紛争と弁護士倫理

<事例/質問>

当社は、□□機械と共同で新しい部品の開発を進めていました。

両社で技術情報を共有しながら試作を重ね、最終段階に入ったところで、□□機械から突然「やはり自社単独で開発を進める」との連絡がありました。

それだけでなく、当社が提供した技術をもとに□□機械が特許出願をしていたことも発覚しました。

当社の立場としては、協力関係を前提に開発を進めていたため、□□機械のこの行動は到底納得できるものではありません。

法的措置について相談したいと思いますが、□□機械もまた先生の顧問先ですよね。

しかも、先生を当社に紹介してくれたのは□□機械という経緯があります。

このような場合、どのように相談すべきでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

まず、大前提として、相手方の会社が当事務所の顧問先であるため、倫理的な観点から、顧問先の会社社長の承諾を得る必要があります。

これを怠ると、後に当事務所が懲戒を受けるリスクが生じる可能性があります。

当事務所では、クライアント同士が紛争となった場合、以下の方針で対応することを基本としています。

このような場合、考えられる選択肢は4つあります。

1 相手方の同意を得たうえで相談を受ける
2 同意が得られない場合は、双方の相談を回避する
3 ただし、中立の立場で仲裁の場を提供し、後見的な形で話し合いをサポートすることは可能
4 もし上記の対応が難しい場合は、それぞれに適した弁護士を紹介する(初回の1時間の相談料については、当事務所が負担するなどの調整を行う。ただし、実際の案件を受任する際の費用については関与しない)

具体的な対応策として、次の3つが挙げられます。

(1) 顧問先の会社社長の同意を得る
(2)当事務所が仲裁人として関与する
(3)他の弁護士を紹介する

相談者が、どの方法を選ぶべきかは、□□機械との関係や今後の事業戦略も踏まえて慎重に判断する必要があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02116_契約チェックからトラブル対応まで!顧問弁護士の役割と活用ポイント

会社の顧問弁護士は、契約のチェックからトラブル発生時の対応まで、企業の法的な安全を守る重要な役割を担います。

その業務は、大きく
「日常的な法務サポート」

「トラブル対応」
に分かれます。

たとえば、企業経営を船の航海にたとえると、顧問弁護士は
「海図を読む専門家」
です。

普段は、安全なルートを確認し、危険を避けるアドバイスをします。

しかし、嵐に巻き込まれたり、座礁しそうになったときには、適切な回避策を講じ、最悪の事態を防ぐ役割を果たします。

1 日常的な法務サポート(平時の業務)

顧問弁護士が企業の経営に深く関わる場面の1つが、契約書のチェックです。

契約書はまず、企業内の担当部署が作成し、それを法務部門が確認します。

その後、顧問弁護士が法的な視点からバックチェックを行い、問題がなければ最終決裁へと進みます。

ただし、顧問弁護士が判断するのは
「契約が法律的に適切かどうか」
のみです。

契約内容が会社にとって本当に有利なのか、ビジネスとして妥当なのかといった
「経営的な合理性」
のチェックは、別途、経営本部が行います。

これは、医師が
「この薬は厚生労働省の基準をクリアしているか」
を確認するだけで、実際に患者に処方するかどうかは、症状や体質を考慮する別の判断が必要になるのと同じです。

2 トラブル対応(緊急時の役割)

企業が経営を続けていると、法的なトラブルに直面することもあります。

その際の顧問弁護士の役割は、トラブルの性質や緊急性に応じて変わります。

(1)事件発生時の初動対応

・緊急性が高い場合は、企業の担当者が直接顧問弁護士に連絡を入れます。
たとえば、突然の刑事事件や重大な訴訟リスクが発生した場合などです。

・それ以外のケースでは、まず法務部が状況を整理し、
「5W2H(いつ、誰が、どこで、なぜ、どのように、いくらの問題があるか)」
の情報をまとめ、24時間以内に顧問弁護士へ報告します。
その後、トラブルの深刻度に応じて、24時間以内から5営業日以内を目安に相談を進めます。

(2)法的選択肢の整理と分析

トラブルに対して少なくとも3つの視点から対応策を検討することになりますが、顧問弁護士は、その助言を行います。

・一般企業目線(ビジネス的にどの選択肢が最適か)
・法律専門家目線(法的に何が可能か、どのようなリスクがあるか)
・オーナー経営者目線(会社の方針や経営リスクを考慮した選択肢)

それぞれの選択肢にはメリット・デメリットがあります。

経営陣の判断が難しい場合や、オーナー経営者から依頼があれば、顧問弁護士はそれらを整理し、経営陣が判断しやすいようにアドバイスを行います。

(3)意思決定のプロセス

トラブル対応の最終的な判断は、案件の規模や影響度に応じて変わります。

顧問弁護士は、企業の意思決定をサポートし、適切なルートで進めるよう助言します。

・売掛金の回収など、比較的少額(●00万円以内)でビジネス上不可避なトラブルは、企業の法務部長が決裁します。顧問弁護士は、依頼があれば、その際の法的リスクを説明し、必要な手続きをサポートします(場合によっては有償となります)。

・●00万円以上の案件や、少額でも事業の根幹や風評リスクが関わる場合は、取締役会や経営本部が判断します。顧問弁護士は、求めに応じて、選択肢を整理し、それぞれのリスクを明確に伝えます(場合によっては有償となります)。

・会社の存続に関わる重大な事件や刑事事件の場合は、オーナー経営者への報告が必要になります。
ここで重要なのは、
「稟議決裁のルートを守ること」
です。
顧問弁護士は、依頼があれば、本部長を通じてオーナーに正式な報告が行われるようサポートし、ショートカットや非公式ルートによる混乱を防ぎます。

3 まとめ

顧問弁護士の役割は、単に法律相談に応じるだけではありません。

企業の経営判断を法的な側面からサポートし、トラブルの未然防止や危機管理を担う重要な存在です。

企業経営は、航海のようなものです。

日々のルート確認(契約チェック)をしながら、安全な航行を続けることが大切です。

そして、もし嵐(トラブル)が起こったときには、経験豊富な専門家(顧問弁護士)のアドバイスを受けながら、最適な舵取りをする必要があります。

日常の予防と緊急時の的確な判断。

その両方を支えるのが、顧問弁護士の役割なのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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