02072_請求放棄は裁判における実質的な「敗訴判決」

「請求放棄」
という訴訟手続きの終わり方は、表面上は自ら裁判を取り下げる形を取っていますが、実質的には
「敗訴」
に等しいといえます。

これは、裁判に負けたという事実を暗に認める行為であり、
「勝ち目がない」
「もう戦い続ける意味がない」
との判断から行われる場合がほとんどです。

ですから、請求放棄は単なる裁判からの
「手引き」
ではなく、
「私たちは間違っていました」
との意を含んだ行動と言えるでしょう。

このような形で訴訟が終わる背景には、裁判所からの
「強い勧告」
があった可能性が高いでしょう。

裁判所が
「このままでは敗訴判決が出る」
と告げ、続けることで
「無様な姿を晒すことになる」
と諭すように進言することがあります。

つまり、事実上の
「敗訴」
を予告されたといっても過言ではありません。

特に、もともと訴えを起こした側が
「詐欺だ」
「横領だ」
と騒ぎ立て、激しい主張を繰り返していたにもかかわらず、最終的には自ら請求を放棄する形で訴訟を終えたような場合、弁護士が相手方の弁護士から何らかの圧力を受けて
「そろそろ依頼者と縁を切れ」
と説得に回り、請求放棄に至った可能性も考えられます。

いわゆる
「無能な味方は敵よりも怖い」
とも言える状況で、依頼人(訴えを起こした側)の立場はどんどん悪化していったのかもしれません。

さらに、請求放棄には深刻な波及効果も生じます。

つまり、
「訴えを起こした側の主張は虚偽だった」
「相手方の主張が事実だった」
と周囲からも見なされるようになります。

訴訟の争点自体が
「訴えを起こした側の虚偽」
であり、相手方の主張が正しかったことを、最終的に証明する形となってしまうのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02071_企業法務ケーススタディ:弁護士のつかいかた_弁護士に対する明確な指示の重要性

<事例/質問>

ある交渉案件について、
「当方が多少の条件面での不利を我慢しても、時間優先で早期に講和したい」
という方針のもと、弁護士をつかって、すすめてきました。

そうしたところ、相手方が折れてきました。

そこで、社内で強気にすすめることにしようかと、弁護士に相談したところ、弁護士は、何やら不満顔です。

こんなことで、足踏みしていると、不利に傾くことになりかねません。

社長は、
「そんな弁護士は変えろ」
と言い出す始末です。

何が悪かったのでしょう。

どうしたらいいでしょう。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

交渉の方針として
「早期講和を優先する」
方向で進めてきたものの、相手方が歩み寄りの姿勢を見せたため、急遽
「強気に進めるべきか」
と社内で議論が起こったのですね。

しかし、ここで弁護士が不満顔を見せたのは、
「指示変更が曖昧なままで進めるのはリスクが高い」
と判断したためです。

弁護士にとって、交渉方針や戦略を明確に示されることは非常に重要です。

急な判断変更が発生した場合、特に
「戦局や情勢判断に基づく方針の変更」
には、クライアントからの具体的な指示が必要です。

曖昧な意向や推察の余地のある指示の下では、弁護士としては、戦略上のリスクを一方的に引き受けることが難しいためです。

もしこうした場面で足踏みしてしまうと、交渉は思わぬ方向に進んでしまいかねません。

そこでクライアントが行うべきことは、次の2つの選択肢のうちどちらを優先するかを、弁護士に文書で明確に示すことです。

1)要望を再優先し、時間がかかっても交渉条件の達成を目指す
2)時間を優先し、多少の交渉条件の妥協を許容する

もし、指示が不明確であったり、指定した期限までに指示が示されなければ、弁護士としては
「1)要望を再優先し、時間がかかっても交渉条件の達成を目指す」
従前の方針を保持せざるを得なくなります。

これは、結果としてクライアントの利益を守るための対応にもつながります。

弁護士に
「黙示の意向を察してほしい」
など、解釈に余地があるような要求をされる方も時折いらっしゃいますが、こうした曖昧な指示のもとで進めることはリスクが高く、弁護士としても責任転嫁や非難を避けるためにも、明確な方針指示をお願いしたいところです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02070_弁護士の役割とクライアントの協力体制その2_「総括と振り返りと反省」の必要性

法律専門家の意見や評価が欠けたまま交渉が進められ、暗礁に乗り上げそうだと判明したとたん、弁護士に相談するケースは、実は少なくありません。

その場合、弁護士として、クライアントと交渉関係やプロジェクトの進行を円滑にするために、必須の前提と考えるのは、

1 交渉前に形成された状況や不利な立場となる判断をくだした経緯を、クライアントがどの程度反省し総括できるか

2 問題解決のために「正解」を求めるのではなく、(弁護士が)考え抜いた戦略を正しく理解し、複数の選択肢からベストな対応を、いかに柔軟に考えられるか

3 有事の対応として、チームの構成や運営方法を正しく理解しているか

4 稼働工数について仕事になる程度に(弁護士が損しない程度に)費用が頂戴できるか

5 (弁護士がやる気の出る程度に)適切なインセンティブが設定されているか

ということです。

特に、裏方で助言を行う場合、弁護士は、リスクを勘案の上で選択肢を提示することとなりますが、
・唯一無二の選択肢を信じこんで、その実現にすべてのリソースと勝機を注ぎこむ、というものではなく、
・(相手の出方によってめまぐるしく変遷が予定される)状況と限られた認識と情勢分析能力と不確実な未来予測能力を前提として、「最善の選択を選び、うまくいかなったら、経験値によって、少し賢くなった頭脳をもって、立ち戻り、よりマシな選択や、その際に浮上した新たな修正選択肢を加えて、検討と実施を続ける」という最善解模索アプローチを前提として、
選択肢の形で提示します。

弁護士の重要な役割のひとつは、判断の幅を広げることです。

常識にとらわれない極論やアングルや時間軸や空間軸を一変させた考え方を含め、より広汎な選択肢の形で提示することが、クライアントの意思決定に資するものと考えます。

多様な選択肢を提案するには、判断の前提となる事実認識と情報は不可欠であり、過去のディールの議論をすべて把握し、評価・意見の欠落部分を補完するために、すべての資料分析・必要に応じたヒアリングが必要となります。

もちろん、そのためには、時間的冗長性は必要不可欠であり、クライアントの理解がなければ、前にすすみません。

さて、社会科学を用いて問題を解決する、という手法を取る際、
「人間の想像力や、状況認識能力には、限界があり、常に不完全である」
という前提に立ちます。

言葉を変えると、法律問題を解決する際は、常に、
「不完全な情報と、不完全な能力を前提に、不十分な選択肢を、不完全に選択する、ということの連鎖」
で、最善解に近づけていくことになります。

それには、うまくいかないことが判明した時点で、
「総括と振り返りと反省」
が必須のプロセスとなるのです。

「反省」
には、倫理的な意味や、非難の要素を含みません。

「いかに反省できるか」
は、
「いかに最善解に近づけるか」
ということになります。

「一切、反省しない」
「というか、そもそも反省が許されない」
ということになると、
「正解か破滅か」
という二者択一に陥ります。

情報が不足した状態では効果的にサポートできないのと同様に、
「総括と振り返りと反省」
がなければ
「正解か破滅か」
に陥り、すなわち、失敗のリスクが増大する、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02069_弁護士として、リスクの特定と初期対応の基本的な考え方

リスクとは何かを正確に把握し、その性質や大きさを特定・提案することが重要です。

その上で、そのリスクが顕現しないようにするための予防ないし改善する合理的方策を、クライアントに提示して、実施することになります。

リスクや目的をどう捉えるかによって、選択肢は変わってきます。

たとえば、
「道義的なリスク」

「法的なリスク」
とでは、選択肢は異なります。

それだけではなく、提示されたクライアントの反応も全く違ったものになります。

「道義的に、マナーやエチケットの面で後ろ指を刺されるリスクがありますよ」
と説明されたクライアントは、そのアドバイスを無視するか、軽視する傾向にあります。

他方で、
「これを行うと、刑務所に行くことになります」
と言われると、クライアントは、助言どころか弁護士に判断に仰ぎます。

ここで重要なのは、
「何を目的として」
という前提を、まずは、きちんと確定・確認することです。

そのうえで、
「大事を小事に、小事は無事に」
という考え方で、予防策や改善策を適切かつ具体的に提示することです。

既に発生したリスクについては、根本的な改善策を含みます。

何を最優先するかによって選択する対策が異なることは、理解できないクライアントも少なからずいます。

事件の性質によっては、即座の応対を求められることもありますが、その場合でも、弁護士として、クライアントにしっかり確認をとる姿勢が求められます。

まずは、
「所内で協議確認しますが、さしあたって、お急ぎということであり、担当の一次判断ということでご承知おきいただく前提で、コメントないしご助言申し上げます」
という留保がありうべきでしょう。

逆に、
「何とかします」
「何とかしなければ」
というような脳内環境を無自覚にもつ弁護士には、クライアントは不安を感じ、
「こんな弁護士には絶対に頼らない」
と、思いかねません。

このように、リスクの特定、予防策の提案、そしてその実行には、冷静で論理的なプロセスが必要です。

クライアントの立場を重視し、信頼を得るための対応ができる弁護士こそ、結果的にクライアントから認知性を高めることができるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02068_弁護士の役割とクライアントの協力体制その1_「最善解模索アプローチ」

弁護士として、クライアントとプロジェクトとの関係を構築する際に重要視している点がいくつかあります。

まず、弁護士が関与する前に生じた不利な状況に対して、クライアント自身がどの程度反省し、その原因を整理して総括しているか、ということです。

これに加えて、弁護士のアプローチである
「正解探求ではなく、最善解を模索する」
という考え方をクライアントが十分に理解しているか、ということが重要です。

また、有事に対応するためのチームの構成や役割、運用の在り方についても、クライアントが理解することが重要です。

弁護士としては、問題が発生した際に迅速に対応できるよう、適切な体制チームを整えます。

そのためにはクライアントも、チームの構成や役割分担についてしっかり理解していなければなりません。

そうでなければ混乱が生じ、スムーズな対応ができなくなるからです。

さらに、弁護士が提供するサポートについて、クライアントが費用面でも適切な負担をできるかどうかも大切です。

弁護士は、リスクを十分に勘案した上で、現状に基づいた選択肢を提案します。

この際、リスクが
「存在しない」
と仮定するのではなく、リスクが常に潜在的に存在していることを前提にした選択肢となります。

弁護士は、都度、腹案をクライアントに伝えることもありますが、最終的な意思決定はクライアントが行うべきものです(弁護士が意思決定を代理するのは、かえって無責任となります)。

そのため、クライアント側も十分な情報を整理して弁護士に提供し、共に判断環境を整えていくことが求められます。

判断環境の構築は、主に資料分析やヒアリングにて行います。

このプロセスでは、唯一無二の選択肢にすべてのリソースを投入するのではなく、状況に応じて最善の選択肢を選択し、もしうまくいかなかったた場合には、その経験からさらに賢明な判断を行い、よりましな選択肢や新たな修正案を加えつつ、次のステップを考える
「最善解模索アプローチ」
が基本となります。

このアプローチは、状況の変化に応じて柔軟に選択肢を変える必要があり、クライアント側からすると、まどろっこしく感じることもあるでしょうが、状況不安性を考慮し、相手の動きに合わせて柔軟に対応していくことで最善解に近づくことができます。

また、戦略的な意思決定のフェーズにおいては、弁護士としては、常識にとらわれない極論やアングルや時間軸や空間軸を一変させた考え方を含め、より広範な選択肢を提案することがクライアントの意思決定に資するものと考えており、これが誠実な対応と心得ております。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02067_企業法務ケーススタディ:特許侵害訴訟_現状の整理と問題点の認識

<事例/質問>

特許出願をしたところ、特許庁から拒絶理由通知書が届きました。

拒絶理由が解消されるべく、手直しと反論をすることにしました。

手続補正書で権利範囲を修正することに加え、さらに、その補正によって拒絶理由を解消したことを意見書として提出しました。

しかし、再度、絶理由通知書が届きました。

今度は、前回の通知とは異なる新たな理由が示されました。

今回の新たな比較的理由は、前回とは異なり、主に明細書に関するものです。

そうこうしているうちに、競合のB社が、わが社の特許に抵触するような製品を販売しはじめました。

そこで、B社に対して訴訟を起こしましたが、B社は特許庁に特許無効審判という暴挙にでました。

わが社は、特許の訂正審判を請求する一方で、裁判でもやり取りが続くことになりました。

裁判所は、わが社の抗弁が筋違いと考えているように感じられますし、特許庁の訂正審判の手続は、なかなか進まず、まるで時間稼ぎをしているようにも感じられます。

どうも特許庁と裁判所の判断が一致しないようで、わが社は混乱し、今後の対応に慎重にならざるを得ません。

どうしましょう? と言う前に、何がどうして、どうなったら、こんなことになったのでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

メタファーを使い、簡単に状況を整理してみましょう。

相談者をA社、競合をB社とします。

A社は、奉行所その1(特許庁)に私設関所(特許)申し出た

奉行所その1(特許庁)は私設関所(特許)を許可した

私設関所破りの不届き者(B社)登場

A社は、私設関所破りの不届き者(B社)の処罰を、別の奉行所その2(裁判所)に申し出た

不届き者(B社)は、
「そんな、関所(特許)なんぞ、もともと認められないもの。天下の公道を歩いて何が悪い。何が、関所(特許)だい、このすっとこどっこい!」
と反論

別の奉行所その2(裁判所)は、
「その方らの申し出、それぞれにごもっともじゃのお。ま、すぐには決めれんのお。難儀じゃのお。ほれほれ、もそっと、議論を尽くしてみい」

不届き者(B社)は、奉行所その1(特許庁)に、
「お奉行さん、あのA社の私設関所(特許)、そもそも、お許しなさること自体、おかしいでしょ。お奉行様、目が節穴じゃあ、ござあせんか。お免状のお取り消しを」
と申し出た

私設関所設置者(A社)は、
「確かに、調子に乗って、本来認められる広さを超えて、たいそう広い範囲に関所を作っちまいました。へえ、分際はわきまえておりますです。はい、お奉行様。関所は、もう少し、慎み深く、せせこましく、小さくしますので、何卒、よしなに」

奉行所その1(特許庁)は、
「その方(A社)の申し出、わしゃ知らんし、受け入れん」

別の奉行所その2(裁判所)が、
「これ、A社よ。何やら、関所、関所と、えらい剣幕で申し出ておったが、どうやら、その関所とやら、果たして、どうやら、何がしかの手違いがあり、もめているようじゃのお・・・・・・奉行所その1(特許庁)の方でも何やらいろいろと策をろうじておるようだが、ま、それはそれ、これはこれ。当方では、当方にて、そのようなごつい関所が果たして、公儀の判断として、市井の民のそなたらに開設を許すべきかどうか、ま、公儀としての考え方で判断するだけじゃな。ま、奉行所その1(特許庁)でのゴタゴタも、斟酌せんではないが、ま、ゆるりと、拝見するかの」

A社は、
「奉行所その1(特許庁)様、ひらに、ひらに、ひらに~。まあ、そう、つれない態度で、そっけなくされず、まあ、手前どもの話を、よーく聞いていただけませんか。確かに手前どもの申出書に、やや曖昧な記述がございましたが、それにはふかーいワケがございまして、ま、膝詰めでよーくご説明させていただければ、きっと、きっと、きっと、お奉行様にも、かーんたんに理解いただけるかと・・・・・」

これで、かなり、状況がみえるようになったのではないでしょうか?

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02066_10日間という先方が一方的に設定された期間にしたがうべき理由はない、とするカウンター・サンプル

「~~~~~~」
旨の常識では想定しがたい内容の内容証明郵便を受け取り、当方としても非常に困惑しております。

~~~~~との件について、突如、特段の法的根拠を示すこともなく、10日以内という短期の期間を区切った上で、
「連絡せよ」
などと要求されても、一般に期限内に対応することは困難を極めます。

まず、
「10日間」
という期限自体、貴方が一方的に設定したものであり、当方としては特段法的に拘束されるものではありませんので、したがって、貴ご主張の10日間との異常までに短期の対応期限については、こちらとしてはこれに応じる立場にはないということを先ずはご確認下さい。

当社としては、貴警告を受けましたが、彼我の事実認識や法令解釈に大きな隔たりがあるため、今後の貴方との交渉については、慎重な対応をせざるを得ないところです。

本件書簡記載のご主張については、一応の調査を開始いたしますが、貴職らが一方的に定められた期間内に回答すべき具体的な法的根拠が明示されていないうえ、その内容が調査に時間を要するものであるため、当該期限に従うべき理由はないと、判断しません。

通知人らといたしましては、一定の法令や義務に基づくものという趣旨ではございませんが、一定のお時間を頂いたうえで、本件書簡にかかる事項につき、検討させていただき、しかるべき対応をおってさせていただきます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02065_企業法務ケーススタディ:申込金返還問題への対応とリスク管理の指針

<事例/質問>

お客様より、申込金の返還を求めて、訴えを起こされました。

申込概要には、
「一旦納入された申込金は、いかなる事由であっても返金できません」
と記載していますし、お客様も申込書に署名しています。

しかし、お客様は、
「こちらには特別な事情が発生した。調べると他の会社では返金された事例があるので、返金してほしい」
と、主張しています。

どうすればいいでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

まずは、この種のリスク管理に対する姿勢・哲学・価値観をしっかりもつことが大切です。

1 決断すべき論題としては次のようなものがあります。

(1)カネの問題か、会社のポリシーに関わる問題か?

(2)目先の金額が、今後全ての問題を含んでいると考えているか?

(3)手を抜いて、適当に妥協して進めるか? それとも、時間・エネルギー・コストをかけてきっちりと進めるか?

2 論題を議論し選択肢を抽出しジャッジする上では、次のような知見や経験が参考になります。

あるコンシューマービジネスを行う会社では、以下のような方針で対応しています。

(1)たとえ目の前の事件サイズが小さくても、安易な妥協が、「あの会社は、少しクレームをつければ、トラブルとなって揉めるのを嫌がり、すぐに、妥協して、適当に払ってくれる」という風評になって広まり、それが大きな火種となって、たちまち、ビジネスそのものを破壊することをよく知っている。

(2)そのため、事件規模の大小にかかわらず、会社としての姿勢・ポリシーの問題として捉え、(たとえは適切ではないが)猫一匹殺すのに核兵器を持ち出すくらいの対応を行う。

(3)顧客A(この段階ではすでに会社に害をなす抗争相手)は、「ちょっとつつけばお金が得られるだろう」という安易な考えで戦をしかけたら、予想以上の強固な対応に直面し、「何もそこまでしなくても」というくらい、大部隊の正規軍にぼんぼん弾を打ち込まれた。
這々の体で逃げ出し、関与していた弁護士に対して、クライアント(顧客A)が「簡単に小銭稼げるいったじゃないの! こんなことになるなんて聞いてなかった!」と醜悪な内部対立に発展した。

(4)最終的に顧客Aは、「やっぱり、筋の通らないことを言ってもダメだな」と考え、また、弁護士(さらには、消費生活センター等を含む)も、「あの会社は、鉄壁で、安易な妥協はしないし、狙うなら、今度は、他所にしよう」と、認識し、以後、安全保障コストは大きく逓減した。

このような知見をもとに考えることができます。

あるいは、
「負荷のかからない選択をしておき、今後、『あそこはゆるいぞ』とコンシューマー間に噂が広まらないことを神に祈り、雪崩現象が起こったら起こったで、そのとき、対応する」
という常識的な選択肢もあります。

さて、
「最終的には紳士的に合意したい」
と考えるとしても、そこにいたるまでには、様々な方法が考えられます。

(1)最初から紳士的に交渉する。たとえ、相手が暴力的であっても、徹底して、下手に出てナメられる。いつかは、自然と相手も紳士的に合意をしてくれるだろう。

(2)暴力的なメッセージにはさらに強硬かつ暴力的に応答し、相手にこちらのパワーを認めさせた結果、威嚇と暴力の応酬の到達点として、「紳士的な合意」に至る。

弁護士としての経験から言えば、(1)よりも(2)の方が、合理的です(戦理にかなっている、という意味での合理性です)。

とはいえ、
・会社としての価値観
・会社のカルチャーや常識
・責任者の考え方
これらを踏まえて議論を進め、選択肢を抽出することになりますし、最終的には、責任者がジャッジをして方針を決める、ということになります。

最後に、弁護士の役割は次のようなものだと考えます。
・異なる考え方やプロセス、価値観を提示し、議論を深める
・選択肢を抽出し、プロコン分析をサポートする
・ジャッジされた結果、タスクやルーティンに還元され、その中で、支援できるものがあり、支援が求められれば、誠実にタスクやルーティンを全うする

これによって、うまくいけば喜ばしいことですし、うまくいかない場合は、失敗したジャッジの原点に回帰し、別の方法を試してみることになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02064_税務調査に備えるための専門家選び

弁護士や税理士などの専門資格を持つ人はたくさんいます。

経営者の中には
「専門家に任せさえすれば、大丈夫だろう」
と、楽観的に構える方が少なくありません。

しっかりとしたプロセスを踏んで税務調査に対応する経営者は少数派です。

多くの場合、専門家が単一の選択肢を
「これでいきましょう」
と提案し、それを鵜呑みにして、進めています。

専門家に任せておけば、 状況が一気に好転し
「未来が開ける」
という期待感を抱くことができます。

もちろん、その方法がうまくいけば、いいでしょう。

しかし、相手は日本最大の組織である国税当局です。

彼らは豊富な人と強力な権限を持っています。

成功する確率は低く、失敗すれば即座にゲームオーバーになることもあります。

特に、予想外の事態に備えていない場合は非常に危険です。

このような背景から、税務調査への対応力が欠けている専門家が多いのが現実です。

では、どうやって
「しっかりとしたプロセスを踏んで対応」
すればいいのでしょう。

そして、どのように税務調査への対応力を持つ専門家を選べばいいのでしょう。

以下のポイントを参考に、専門家を選ぶことをおすすめします。

1 情報提供の有無と質:
その専門家は、企業対税務調査対応の情報やリタラシーをどのように提供しているか?

2 ゲーム環境の知見:
税務調査の「ゲーム環境」を理解せずに放置すると、すぐにゲームオーバーになる可能性がある。
この環境について、書籍には載っていない知見を企業に提供できる専門家か?

3 現実的な目標設定:
実現可能な目標を設定し、しっかりと対応しているか?

4 冷静な課題抽出:
冷静かつ保守的に課題を見極めているか?

5 多様な選択肢の提案:
時間・コスト・労力という制約条件を考えながら、「唯一無二の選択肢」ではなく、「あの手、この手、奥の手、禁止手、寝技、小技、反則技」をひねり出すスタンスで、可能な限り多くの選択肢を提案しているか? 
その上で、各選択肢の長所と短所を比較するプロコン分析を行っているか?

6 フェアな選択と修正:
多様な選択肢の中から、公正に最適なものを選び出しているか?
また、選択が間違っていた場合に、再び選択局面に立ち戻り、時間経過による修正を加えて、選択肢を選びなおす、という試行錯誤を続けるような想定までしているか?

以上に対し、
「明快な回答を持っているかどうか」

「税務調査への対応力を持つ専門家」
を見極めるコツといえるでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02063_有事におけるコミュニケーションの文書化とその例外

有事においては、コミュニケーションを文書化することが鉄則です。

つまり、筆談で行うべきだということです。

しかし、例外もあります。

それは、証拠に残したくなくて、下劣でエレガンスに欠ける高潔な人格者にふさわしくないような暴力的なメッセージを発する場合です。

そのようなメッセージを外交のカウンターパートに送ることは、交渉プロセスの終結リスクや相手に被害者意識を与え、我々への報復を正当化させるきっかけとなるため、実際にはほとんど行われません。

例外があるとすれば、チームメンバー内において、次のような状況です。

・メンバーの認識や認知機能に問題があり、偏った認識により適切な判断ができない場合
・しかも、時間がなく、あるいは、機能改善のために十分な時間を費やすような時間的・経済的応報性が維持できない関係(つまり、切迫した状況で、時間的にも経済的にも余裕がない)
・メンバーの認知機能やバイアス、主観を改善するために、3年ほどの時間をかけてエレガントに対応する余裕がない場合
・メンバー本人も、早急に、根源的な問題点に到達したいと強く願い、厳しい現実に向き合う覚悟があると表明している場合(本心かは別として)。

このような場合には、時間と労力を節約し、コミュニケーションのチャンネルを迅速に切り替えるために、一時的に、あえて、
「証拠に残したくなくて、下劣でエレガンスに欠ける高潔な人格者にふさわしくないような暴力的なメッセージ」
を発することがあります。

これまでの経験では、クライアントから
「とにかく、根源的な原因を探り、ありとあらゆる打開策を検討したいので、タブーなき議論をしたいので、何でも話してくれ」
と言われ、その言葉を真に受けてしばらく話をすると、多くの場合、クライアントは次のように言います。

「何をいっても構わないが、本当のことだけは言わないでくれ。たいていのことは耐えられるが、真実に直面することだけは耐えられない」

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