02190_まずは「ミエル化」。数字と計画を言語化しなければ再生は始まらない

「何とかなる」。

再生の現場でこの言葉が出たとき、私は必ず数字を求めます。

「何とかなる」
は、
「何ともならない」
からです。

経営危機は、感覚や気合では乗り切れません。

再生の第一歩は、ミエル化──すなわち現状を数字で可視化することです。

PL(損益)、BS(財産)、資金繰り(週次・日次ライン)、そして未来シナリオ。

この4点を揃えて初めて、現状と危機と打ち手が一望できます。

ここで重要なのは、数字を並べるだけで終わらせないことです。

どの資産を守るのか、どの負債を削るのか、誰が・いつ・何をやるのか。

これを言葉にする。

言葉にするからこそ、計画は現場を動かす力を持つのです。

実例を挙げます。

J社は赤字が膨らんでいたものの、PL・BS・資金繰り・未来シナリオを1枚にまとめ、取引先と金融機関に提示しました。

批判も出ましたが、根拠が明示されていたため議論は前進し、スポンサー探索につながりました。

交渉は早期にまとまり、再生の道を確保できました。

一方、K社は、PLと資金繰りを別々に見ていたため、黒字感覚のまま資金を失っていきました。

取引先や金融機関との打合せは終始和やかにみえましたが、PLしか示せず、資金の尽き方も打ち手も不明瞭でした。

結果、取引先の不安は高まり、交渉そのものは整いませんでした。

J社とK社、差を生んだのは業績ではなく、現状のミエル化と、未来の打ち手を一枚で整理した資料でした。

現状を正しく示すこと。

これを抜きに再生は始まりません。

多くの経営者が頭では理解しています。

問題は、
「ミエル化」
そして
「言語化」
という行動に移せるかどうか、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02189_法的整理の使いどきは早期。「もう少し頑張れる」は会社を潰す

「もう少し頑張れる」。

この言葉ほど危険な判断はありません。

経営の現場で使われるとき、それはすでに遅れている兆候です。

再生において最大の敵は、遅延です。

資金が尽きる直前では、スポンサー探索も事業譲渡も分社化も消えます。

選択肢は机上から消え、資金繰りに追われるだけになります。

だからこそ、基準を決めておくことが不可欠です。

・手許資金の残存週数が社内基準を割ったとき
・主要借入のリファイが不成立になったとき
・売上上位顧客の解約が続いたとき

このいずれかが発生したら、即座に顧問弁護士と財務の専門家を同席させ、任意の打ち手と法的手続を並べて比較する。

ここでの判断を1日遅らせれば、その分だけ価格と時間の不利を背負います。

実例を挙げます。

H社は資金残高が4週を切った時点で早期にスポンサー探索へ舵を切り、事業譲渡と雇用維持を両立させました。

一方、I社は資金の尽きを認めず、決断を遅らせた。

資金ショート直前に制度に駆け込んだが、引き受け先は見つからず、清算に傾いた。

差を生んだのは業績ではなく、判断のタイミングでした。

結論は明白です。

法的整理の使いどきは、資金が尽きる直前ではなく、もっと早期にあります。

経営を守るのは“前向きな気持ち”ではない。

数値に基づき、止めるべきときに止める決断です。

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02188_法的整理は禁じ手ではない。遅延と不備が会社を追い込む

「法的整理は最後の手段だから、できれば避けたい」。

多くの経営者がこう考えます。

しかし、この理解は誤りです。

法的整理の本質は清算ではなく再生です。

裁判所の制度を使い、債権関係を整理し、時間を確保するための正規の手続です。

任意の交渉では行き詰まった場面で、秩序を回復するために用意された仕組みです。

禁じ手ではありません。

誤用と遅延こそが致命傷を招きます。

遅れれば遅れるほど、条件は悪化します。

金融機関も取引先も
「もう持たない」
と判断した瞬間に引きます。

判断を遅らせれば、支援者も選択肢も消えます。

実例を挙げましょう。

D社は
「続けたい」
に囚われ判断を遅らせ、手続の初回説明でも根拠資料を示せなかった。

その結果、条件は一気に不利となり、残された道は限られました。

一方、E社は早期に法的整理を選択し、事前に事業価値の核と守るべき雇用を整理していた。

スポンサー候補との調整も進んでおり、再建の道を確保できました。

差を分けたのは損益ではなく、タイミングと準備でした。

結論は明白です。

法的整理は怖れるものではない。

怖れるべきは、先送りと不備です。

必要なのは、早期に判断し、制度を正しく使い切る覚悟です。

経営を守るのは
「気持ち」
ではなく、手順と決断です。

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02187_逆粉飾は経営の裏技ではない。経営者を直撃する違法リスク

「逆粉飾、できますか」。

儲かっている会社を、意図的に赤字に見せかける。

通常の粉飾決算と真逆のこの発想は、裏技ではなく、ただの違法行為です。

逆粉飾を行えば、金融商品取引法・会社法・税法のいずれにも抵触します。

その瞬間に、経営者個人の責任が直撃します。

追徴課税や課徴金だけでは終わらない。

損害賠償、刑事責任、そして金融機関・取引先からの信用失墜。

一度の違法が、事業全体を奈落へ引きずり込みます。

「再生のための一時的な調整だから大丈夫」という理屈は通りません。

目的が何であれ、虚偽の数字を出した時点で法違反です。

逃げ道はありません。

では、経営者が本当にやるべきことは何か。

第1に、逆粉飾の禁止を明文化し、役員会の誓約事項に組み込む
第2に、会計処理の判断を二重の承認ルートで確認し、根拠資料を必ず残す
第3に、在庫・引当金・収益認識といった高リスク科目を定期的に点検する

この3点を守るだけで、不正の芽は大幅に摘めます。

さらに重要なのは、問題が発覚したときの初動です。

修正仕訳、再開示、関係者への通知、責任の明確化――是正手順を事前に定め、迅速に動く準備を整えておく。

「隠す」
のではなく
「正す」。

これが組織の持続性を守る唯一の道です。

結論は明白です。

逆粉飾は、経営の延命策でも、裏技でもない。

ただの違法行為です。

経営者に残されるのは2つの選択肢しかありません。

数字を操作して一瞬を稼ぎ、すべてを失うか。

現実を直視し、制度の正面から再生の道を選ぶか。

答えは自明です。

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02186_法的整理の可否は損益では決まらない。債務超過と資金繰りで決まる

「黒字だから法的整理は無理」。

それは誤りです。

法的整理の可否は、黒字かどうかの損益ではありません。

債務超過の有無と、資金が尽きる速度、この2点で決まります。

会計は、一定期間の成果を示す道具にすぎません。

法は、いま・この時点での支払能力と財産状態を問います。

軸が違う以上、PL(損益計算書)の数字がいくら整っていても、不十分です。

PLの黒字に安心し、BS(貸借対照表)と資金繰りを見ない。

この誤った優先順位が、再建の選択肢を狭めます。

実務でやるべきことは単純明快です。

・資金繰りを週次で把握する。可能なら日次まで精緻化する。
・純資産を月次で検証する。

この2つを継続すれば、危険水域に入るタイミングが見えてきます。

さらに、任意対応から法的手続へ切り替える条件を、役員会で数値基準として決めておくこと。

これを議事録に残し、全員が拘束される形にすることです。

実例をあげると、同じ業種、同等程度の規模のA社とB社がありました。

当期黒字のA社は売掛金の回収が遅れ、支払日に現金が不足しました。

この時点で倒産法上の基準に接近し、金融機関との交渉は一気に不利になりました。

一方で、小幅赤字のB社は純資産が厚く、資金の持ちも確保されていたため、スポンサー探索と部分譲渡を同時に進められました。

差を生んだのは損益ではありません。

資金と純資産の運転でした。

要するに、見るべきは損益ではない。

手許資金の残存週数と純資産の厚みです。

判断は非情なほど単純です。

法的整理の入口は、損益ではない。

債務超過と資金繰り――この2つで決まります。

だからこそ、PLの良い数字に酔わない。

資金と純資産の現実に目を凝らす。

これが、再生を左右する唯一の運用です。

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02185_黒字=安全という誤解。PLとBSを突き合わせて判断せよ

「儲かっているから大丈夫」。

この言葉ほど、経営判断を鈍らせるものはありません。

PLが黒字でも、BSが痩せていれば会社は危険域にいます。

評価益や為替差益で一時的に数字が整っても、それは偶発的な要因の結果です 。

たとえ話をすれば、健康診断の前日にだけ暴飲暴食を控え、翌日からまた元の生活に戻るのと同じです。

検査値は一瞬だけ改善しても、内部の状態は何も変わっていない。

「一瞬の整合」
を健全性の証拠と勘違いすれば、致命的な結果になります。

法的現実はもっと冷徹です。

会社が存続できるかどうかを決める要素は、たった2つ。

債務超過の有無と、資金が尽きる速度。

それだけです。

見かけの黒字に安心して、BSの損傷を放置する。

この順番の誤りが、倒産を現実に変えます。

経営者がまずやるべきことは、PLとBSを同時に検証する体制を整えることです。

利益の出方と、資産・負債の質を、同じ基準で測り切ること。

そして、PLの
「良いニュース」
をBSの
「悪いニュース」
で相殺していないか、冷徹に点検することです。

黒字は
「安心」
ではありません。

黒字は、経営者に突きつけられた
「検証の出発点」
にすぎないのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02184_法的整理とは何か_禁じ手ではない、最後の正攻法

法的整理は「終わり」ではない

「法的整理」
と聞いただけで、経営者の多くは顔をしかめます。

倒産、破綻、廃業。

頭の中がすぐに“終わり”のイメージで埋まってしまうからです。

しかし、これは誤解です。

法的整理の本質は
「事業再生」
であり、
「破壊」
ではありません。

裁判所の制度を使って債権関係を整理し、利害調整を公正に進める。

その結果として、時間を確保し、再建の前提条件を整える。

これが法的整理の役割です。

法的整理は「裏技」ではなく公式ルート

任意交渉だけで全債権者の同意をまとめるのは、現実には難しい。

一部の債権者が強硬に反対すれば、話は止まります。

合意が崩れた局面で、裁判所の手続により一斉に整理する。

これが法的整理です。

「裏技」
でも
「禁じ手」
でもありません。

制度を通すからこそ、債権者間の不公平を是正できる。

雇用、主要取引先、事業価値。

私的交渉では守り切れない領域を、手続の枠内で守る設計が可能になります。

病気と同じ、早期発見・早期治療が効く

経営も、早期発見・早期治療が鉄則です。

「もう少し頑張れる」
は、行き詰まりの警告です。

資金が尽きてからでは、制度の効果は限定的になります。

早めに構えるからこそ、スポンサー探索、M&A、事業譲渡、分社化などの選択肢を並行で走らせる余地が残るのです。

資金ショート直前での、任意対応から法的整理への切り替えは、価格・条件・時間いずれもが不利になります。

法的整理は再生のための手続

法的整理の目的は、価値を残すことにあります。

・守るべき核(事業、雇用、主要取引先)を特定し、保全・移管・再編の順番を設計する。

・この作業を、制度の手続に沿って実行可能な形に落とす。

これが実務です。

感情や見栄で判断を先送りすれば、価値は失われます。

一方で、事前準備が揃っていれば、手続の初動が安定し、関係者の理解も得やすくなります。

初動で整えるべき「準備パック」

1 まず、数字のミエル化を最優先にします。

・PL(期間の成果)
・BS(財産状態)
・資金繰り(週次・必要により日次)

この3点に加え、
・再建シナリオ1枚(誰が・いつまでに・何を)

合計「3枚+1」のミエル化を最優先に。

2 次に、関係者の整理です。

・主要債権者の一覧と立場
・担保・保証の状況
・重要取引先・重要契約の継続条件
・退職・雇用維持の方針

これらを1枚ずつ短く言語化しておく。

3 さらに、外部パートナーの役割分担を決めます。

・顧問弁護士、FA(または再生アドバイザー)、会計・税務、広報
・初動の窓口、意思決定の経路、対外説明の手順を一本化する

ここが曖昧だと、最初の数日で混乱が生じます。

任意から法的へ──切替の判断軸

任意再建で前に進めるなら、それに越したことはありません。

ただし、次の条件を満たせないときは、法的ルートの検討を議題化します。

・手許資金の残存週数が社内基準を下回った
・主要銀行の借換え・条件変更が不成立
・主要顧客・供給先の解約や取引縮小が連続

この3点のいずれかで、取締役会に
「制度選択の会議」
を立ち上げる。

数字で線を引き、感情で判断しない。

ここが再生の分岐点になります。

制度選択の考え方(一般論)

・民事再生(民事再生法)
事業の継続を前提に、債務の減免や弁済計画で再建を目指す。
経営陣が継続関与しやすく、中堅・中小で用いられることが多い手続です。

・会社更生(会社更生法)
大規模で債権者や担保が複雑な場合に適合。
更生管財人の下で計画を進める色合いが強く、統制・統一処理を重視します。

・特別清算・破産(会社法・破産法)
清算型。
価値の残し方は限定的だが、利害関係の整理を迅速に進める選択肢です。

どの制度にも利点と制約があります。

会社の規模、負債構造、資産の質、継続価値、関係者の構図。

これらを並べて、最適解を選ぶことです。

関係者とのコミュニケーション設計

手続の前後で一番のリスクは、情報の錯綜です。

外部向け・社内向けに、短い説明文を事前に用意しておくことです。

・目的
・今後の運営
・雇用・取引の継続方針
・問い合わせ窓口。
この4点を簡潔に伝えるだけで、初期の不安は大きく下がります。

説明責任は、法的整理の成否を左右します。

「なぜ今なのか」
「何を守るのか」
「いつまでに何をするのか」
この3点を、数字と期限で言い切る準備をしておくことです。

よくある失敗と回避策

・資金ショート直前まで先送りし、スポンサー探索の時間を失う
→ 早期に残存週数の基準を定め、下回った段階で制度検討を開始する

・初動の役割分担が曖昧で、意思決定が遅れる
→ 窓口・決裁・対外説明の担当を事前に文書化する

・数字の土台が曖昧で、債権者・取引先からの質問に詰まる
→ 「3枚+1」を最低限のパッケージとして常備する。

結論──禁じ手ではなく、最後の正攻法

法的整理は、終わりではありません。

遅らせれば効果が薄れますが、準備を整えて適切な時期に使えば、会社を守る有力な手段になります。

経営を守るのは
「裏技」
ではなく
「制度」
です。

そして、数字に基づく判断と、制度を使う決断力なのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02183_「逆粉飾」はあり得るか?_違法な裏技に手を染める前に知るべきこと

「先生、“逆粉飾”って、できませんかね……?」

ある経営者が、真顔でこう言いました。

通常の粉飾は
「黒字に見せる」
こと。

その逆、つまり
「儲かっているのに、わざと赤字に見せる」。

それが“逆粉飾”です。

たしかに、倒産を成立させるために
「黒字に見えるのは不都合だ」
と考えれば、逆方向の小細工を思いつく人がいても不思議ではありません。

しかし、それはもう、ビジネスの世界ではなく、犯罪の世界に片足を突っ込んだ発想なのです。

経営者が逆粉飾を口にする理由

「なぜそんなことを?」
と思う人もいるでしょう。

ところが、現場では、切羽詰まった経営者からこの言葉が飛び出すことが、実際にあるのです。

資金繰りが行き詰まり、取引先や銀行からの圧力が強まる。

「法的整理」
という選択肢がちらつく。

しかし、PL上は黒字に見える。

「黒字なのに倒産はできないのか」
そんな誤解をした経営者が、
「なら赤字に見せればいい」
と短絡的に考えるのです。

心理的には理解できます。

出口を求めて焦るあまり、違法でも裏技でもいいから逃げ道を探したい。

その“追い詰められた心理”こそが、逆粉飾という危険な言葉を引き寄せるのです。

逆粉飾は違法

答えはシンプルです。

逆粉飾は違法。絶対にやってはいけません。

金融商品取引法。
会社法。
税法。

いずれから見ても、逆粉飾は不正会計=犯罪行為です。

もし実行すれば、粉飾決算と同様に刑事罰や課徴金の対象になり得ます。

税務署から追徴課税を受け、取引先や銀行からの信頼も一撃で吹き飛びます。

最悪の場合、経営者個人に刑事罰が科され、多額の追徴課税に追われることになります。

事業を守るどころか、経営者自身を破滅させます。

裏技どころか、禁じ手ですらない。

それは“自爆スイッチ”にすぎません。

逆粉飾が招く現実的なリスク

逆粉飾を実行すれば、経営者は次の四重苦に直面します。

第一に、刑事罰。
虚偽記載は有価証券報告書や計算書類への犯罪行為となり、経営者個人が責任を問われます。

第二に、課徴金・追徴課税。
利益操作は税務処理の不正となり、莫大な追加負担がのしかかります。

第三に、信用失墜。
金融機関、取引先、監査法人、従業員・・・。
一度でも虚偽が露見すれば、取引は止まり、連鎖的に経営は崩れます。

第四に、再建不能。
数字を改ざんした会社を、誰が救済しようと考えるでしょうか。
スポンサーも投資家も離れ、再生の舞台すら失われます。

本当にやるべきことは何か

焦った経営者ほど、安易な小細工に手を伸ばします。

しかし、やるべきことは真逆です。

1 違法を排除する

違法な発想を最初から候補から外す

2 事実を正しく開示する

赤字を作ることではなく、赤字の理由を説明すること

3 制度の正面玄関から入る

任意整理、事業再編、M&A、必要なら法的整理・・・正規の制度ルートで出口を探す

経営を救うのは
「嘘」
ではありません。

救うのは
「数字」

「言葉」
です。

数字を正しくミエル化し、事実を言語化する。

それを未来への行動計画としてカタチ化する。

これが再建への唯一の道筋なのです。

経営者に問われるのは、法務リテラシー

危機に直面したとき、経営者は自らの法務リテラシーを試されます。

逆粉飾という誘惑に抗えるかどうか。

そこにこそ、経営者としての本当の力量が現れるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02182_黒字倒産という“幻想”_PLとBSを同じ机に置け

「先生、うちは儲かっています。黒字です・・・それでも倒産できますか?」

先日、ある経営者からそんな相談を受けました。

ふつうに聞けば意味不明です。

黒字なら安全、そう信じている人が大半でしょう。

ところが、この質問は珍しくない。

むしろ現場では、よく耳にします。

そもそも「黒字=安全」という前提が、幻想にすぎません。

損益計算書(PL)は過去の成績表。

貸借対照表(BS)は会社のいまの体力測定。

この非対称を理解していないと、経営の足元をすくわれます。

黒字=安全、という甘い毒

「儲かっているから大丈夫」。

この言葉ほど、経営を鈍らせる甘い毒はありません。

PLで黒字を示しても、BSで債務超過なら、その黒字は砂上の楼閣です。

たとえば為替差益や資産評価益。

数字の上では利益が計上されても、それは一過性の“幻の黒字”にすぎないことがある。

健康診断の前日だけ食事を控えて数値を整えても、病気そのものは何も変わっていないのと同じです。

会社の生命線を決めるのは、PLの利益ではありません。

資産と負債の質。そして資金が尽きる速度。

つまり「支払いに耐えられるかどうか」。

その一点です。

PLとBSを同じ机に置く

黒字倒産を避ける第一歩は、PLとBSを同じ机に置くことです。

PLの
「利益」
が本物かどうかを、BSの
「資産・負債」
で裏打ちする。

資産は換金性があるのか。

簿価だけが膨らんでいないか。

負債の返済スケジュールは、キャッシュの実態と合っているか。

良いニュースを悪いニュースで相殺し、残った芯が何かを確かめる。

これを怠ると、
「黒字なのに倒産」
という典型コースにまっしぐらです。

資金繰りという“いま”の現実

黒字倒産の正体は、資金繰りの破綻です。

資金繰りは、週次で十分な会社もあります。

取引の回転が遅く、売上や支払いが週ごとにしか動かない会社です。

だが、日次で追わなければ危うい会社もあります。

たとえば、毎日の入出金の振れ幅が大きい会社。

現金残高に余裕がなく、一日でもズレればショートする会社。

キャッシュの細いベンチャー。

仕入の支払が先に立ち、売掛金の回収は遅い――この構造を抱える会社も典型です。

こうした会社は、日次残高まで追わなければ、たとえば
「木曜で資金が尽きる」
という資金ショートの現実に気づけません。

「売上は伸びているのに現金が増えない」。

この相談の裏には、資金繰り設計の歪みがあります。

売掛の回収条件が甘い。

仕入の支払い条件が厳しい。

在庫が滞留している。

投資のタイミングが前倒しすぎる。

どれも珍しいことではなく、日常的に起きていることです。

黒字倒産の典型パターン

売上の伸びに浮かれて運転資金の需要膨張を見落とす。

大量仕入の前払いでキャッシュを干上がらせる。

投資回収が遅れて金利負担が静かに体力を奪う。

与信管理が甘く、売掛が回らない。

これらは黒字倒産の典型パターンであり、決して例外ではありません。

だから、PLの見映えを先に作るのではなく、BSを守る設計に寄せる。

ここを逆にする経営は、必ずどこかで転びます。

いま確認すべき“3枚+1”

危うい会社には、必ず次の4枚を求めます。

1.PL(期間の成果)
2.BS(財産の質)
3.資金繰り(週次・日次ライン)
+未来シナリオ1枚(誰が・いつまでに・何を、の行動計画)

この4枚がそろうと、
「現在地」
「危険水域」
「打ち手」
が一望になります。

数字をミエル化し、言葉に落とし、文書にし、行動にカタチ化する。

「債務超過」と「資金ショート」の見分け方

債務超過とは、資産より負債が大きい状態です。

貸借対照表(BS)の問題であり、会社の財務構造が崩れていることを意味します。

資金ショートとは、明日の支払いができない状態です。

資金繰りの問題であり、手許資金が尽きたことを意味します。

債務超過であっても、資金繰りが回っていれば再建の余地は残ります。

しかし資金ショートを起こした時点で、会社は即座に行き詰まります。

だから資金の“時間”を買うことを、最優先にしなければならないのです。

支払条件の再交渉、不要資産の売却、在庫の圧縮、投資の凍結。

要するに、資金ショートを防げるかどうかで、会社の生死が決まるのです。

黒字倒産を遠ざける“線引き”

「もう少し頑張れる」
は、
「もう遅い」
の婉曲表現になりがちです。

だからこそ、トリガーをあらかじめ決める必要があります。

手許資金が〇週間を割ったら、役員会で危機対応モードに切り替える。
主要銀行での借換え交渉が不成立になったら、直ちに資金繰り再設計を検討する。
主要顧客の解約が〇件連続したら、事業の収益モデルを見直す。

数字で線を引き、実行できるかどうかが、黒字倒産を遠ざける鍵になります。

結論──黒字は免罪符ではない

黒字はあなたを守ってくれません。

守ってくれるのは、数字の点検です。

PLとBSを同じ机に置き、資金繰りを日次で追い、未来シナリオを一枚に描く。

その上で、資金の“時間”を買う工夫を常に検討する。

黒字倒産は特別な事件ではありません。

経営のありふれた過ちの延長にある現実です。

防ぐ方法も、特別な技術はいらない。

数字を見て、ルールを決めて、止まるべきときに止まる。

それだけで、大半は避けられるのです。

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02181_方便は戦術その1_弁護士の“二面性”を読み誤るな

法務の現場では、あの手この手が飛び交います。

ときには奥の手、場合によっては反則技すれすれの演技や方便。

その代表例のひとつが、
「弁護士の二面性」
です。

今回は、一見すると
「ずる賢い」
ように見える弁護士の行動の裏側にある、プロとしての思考と戦術についてお話しします。

弁護士が「怒るフリ」をする理由

たとえば、取引先との交渉や、銀行案件で難しい状況に直面したとき。

相手から不利な条件を突きつけられた場面で、弁護士が突然、語気を強めることがあります。

「この条件は、到底のめない。こんなふざけた話は飲めるか!」

そんな言葉が飛び出したとき、これは本気の怒りだと思いますか?

実は、このような
「怒りの演出」
は、交渉上のツールとしてよく使われる技術です。

あえて感情をあらわにすることで、相手に
「この線は譲れない」
と思わせ、交渉の主導権を取り戻す。

そうした目的をもって、台本通りに“怒りの顔”を演じるのです。

つまり、弁護士の
「怒り」
は感情ではなく、戦術として設計されたものであることが少なくありません。

「二面性」は裏切りか、それとも職業倫理か

交渉の現場では、弁護士がまったく異なる言い方を相手ごとにしていることに気づくことがあります。

クライアントにはこう言う。

「大変なことになりましたが、ご安心ください。すべて私にお任せを」

ところが交渉相手には、まるで別人のように迫る。

「このままでは訴訟も辞さない。こちらにも覚悟がある」

このように、立場によってキャラクターを変えることは、弁護士にとって珍しいことではありません。

むしろ、それができなければプロ失格だと言っていい。

この二面性をもって、
「あの弁護士は二重人格だ」
「裏表がある」
と言うのは簡単です。

しかしながら、実務の現場では、そんな評価は意味を持ちません。

本当に問うべきは、
「その演技が何のために行われているのか」
という点です。

演技とは、手段です。

そしてその目的は、依頼者の利益を最大化することです。

言い換えれば、
「立場によって人格を使い分け、高邁な目的のためには方便を使うことを辞さない」
という行動様式を、
「二重人格の嘘つき」
と呼ぶこともできます。

それは職業倫理の否定ではなく、戦術家としての弁護士の矜持なのです。

 “息を吐くように方便を使う”というリアリズム

裁判所に対しては
「依頼者が愚かで困っている」
と嘆き、依頼者には
「裁判所は無能で怒鳴りつけてやった」
と伝える。

わずか数十秒で表情も言葉も切り替えながら、全体を前に進めるための“役割”を演じる。

これは嘘ではありません。

方便です。

そして、こうした方便の連続が、交渉という舞台の脚本を構築していくのです。

情報は、その使い方で、武器にもなり、隠れ蓑にも、なります。

相手に何を見せ、何を隠すか。

誰に何を言い、誰には言わないか。

その取捨選択が
「交渉の設計」
そのものなのです。

見抜くべきは、“発言”ではなく“行動”

とはいえ、問題もあります。

“方便”の域を超えた情報操作や隠蔽にまで及ぶ場合です。

たとえば、弁護士が特定の関係者とだけ結びつき、他の関係者から情報を遮断し、
「弁護士の同席がない限り会わせない」
とする。

それは、コントロールのフェーズに入っています。

ここまでくれば、もはや交渉ではなく、
「支配」
と言っても言い過ぎではありません。

こうなると、依頼者側は
「信じるかどうか」
の問題に引きずり込まれる。

「彼(弁護士)は板挟みになって苦しんでいるだけだ」
「本音は善意だろう」

そう思いたくなる気持ちはわからないでもありません。

とはいえ、
「板挟みで苦しんでいるだけ」
などという読みは、(弁護士の)情報統制を見逃すための“自己暗示”でしかありません。

「楽」
「逃げ」
「丸投げ」
と表裏一体です。

現実の動きは、この“(誤った)良識的な解釈”とは、全く別です。

法務の現場に必要なのは、良識よりも合理的推認

「もし信じて間違っていたらどうなるか」
「疑って間違っていたら何が起きるか」

冷静にリスクを比べれば、自明の結論が見えるはずです。

最悪のシナリオを防ぐために、演技を演技として見抜く。

そして、その上で行動する。

それが、企業法務のプロとしてのスタンスであり、経営者としての姿勢です。

明日から使える“方便読解”のチェックポイント

以下は、弁護士の二面性を見抜くだけではなく、企業法務におけるあらゆる交渉・意思決定に通底する
「構造読解の視点」
です。

・「この人は誰にだけ会わせないのか」を見よ
・「誰が情報の流れを握っているか」をマッピングせよ
・「発言が演出か否か」は、その後の“行動”で判断せよ
・「怒り・焦り・困惑」は、演技を前提に受け取れ
・「誰に何を言って、誰に何を言っていないか」を可視化せよ

こうした視点を持つだけで、情報空間の“主導権”はあなたの側に戻ってきます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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