02057_弁護士チェック依頼における設計図の重要性とコスト選択

弁護士の関与割合と相談者の経済的な負担は、トレードオフの関係にあります。弁護士としては、まず方向性を確認し、見積もりを設計することになります。

A 基本的なプロジェクト設計と最終仕上がりチェックのみを弁護士が担当し、実行を相談者が行う。
この場合、相談者の時間と労力の負担は増しますが、費用は比較的低く抑えられます。

B プロジェクト設計、実施、レビュー、ファイナライズの全てを弁護士が担当し、相談者はプロジェクト設計や施行の過程で浮上する選択肢をジャッジし、仕上がりを確認するだけでよくなります。
この場合、相談者の時間や労力負担は軽減されますが、費用は高くなります。

「こちらで文章を書きますので、そのチェックを弁護士の目から見てアドバイスがほしい」
というリクエストに対しては、
「チェック」
の意味を定義することから案件を進める必要があります。

「チェック」
の定義については次の2つがあります。

(1)設計図があるので、その設計図どおりに施工がなされているかを監理してもらいたい。
(2)設計図はなく、その作成も考えていないので、適当に何か形にしたものを作ってみるので、その感想やコメントをもらいたい。

もし(1)のまともな依頼要請であれば、前提として
「設計図」
すなわち課題対処上の方針を含めたプロジェクト設計図を相談者側で準備する必要があります。

この種の文書対応には次の5段階があります。

(A)状況と自身を取り巻く環境を理解し、課題もアプローチも把握し、うまく表現する術も持っている。
(B)状況と環境を理解し、課題もアプローチも把握しているが、うまく表現する術がない。
(C)状況と環境を理解し、課題も把握しているが、アプローチがわからない。
(D)状況と環境は理解しているが、課題がよくわかっていない。
(E)状況と環境を理解しているつもりだが、社会的観点や客観的認識が不得手で、独善的で混乱している。

たとえば、前述の
「(1)設計図があるので、その設計図どおりに施工がなされているかを監理してもらいたい」

「2日間という短期間で、弁護士に軽負荷(=低コスト)で立証のみ求める」
というオーダーであれば、相談者が(A)のレベルを十全に備えていることが前提です。

(A)のレベルを備えているなら、以下のようなプロジェクト設計図があるはずです。

(a)前提たる状況認識:事実をバイアスなく掌握している。
(b)危機管理の方向性や相場観、環境把握:問題の認識や評価を行い、相談者の立ち位置や見え方を把握している。
(c)目標の設定:具体的な未来図や目標を設定している。
(d)課題の把握抽出:現状とゴールの間にある課題をすべて発見・抽出・特定している。(e)課題への対応上の選択肢抽出:文書を作成する上での方向性を意識し、自己努力で可能な方法論をすべて出している。各方法論のメリット・デメリットやカニバリ(共食い)の有無も考慮している。
(f)選択肢の採否判断:以上の選択肢を基に、結果に責任を負う意思と能力のある人間を選択している。

「正解はなく、最善解しかない」
という状況においては、試行錯誤し、選択を行い、状況を観察するしかありません。

うまく行けばゴールに達しますが、失敗した場合は試行錯誤、ゲームチェンジ、新たなプロジェクトの立ち上げなどを行い、最終的に、諦めるか納得するまで続けます。

以上のような設計図がない場合は、弁護士としては、
「(2)設計図はなく、適当に形にしたものを作ってみるので、その感想やコメントをもらいたい」
という趣旨と理解し、
「こちらで文章を書きますので、そのチェックを弁護士の目から見てアドバイスがほしい」
という相談者のリクエストには、“駄目出し”を行うことになります。

しかし、“駄目出し”といっても、カウンターパートの思考や基準点に立ち、思考実験を行うことで、相談者が新たな情報を得て知的向上が図れるので、その限りにおいては意味がある、といえましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02056_法律トラブル解決のための事実経緯とりまとめの重要性

契約違反や不法行為、規制違反などで法律相談を受けた場合、弁護士は、相談者の意向を踏まえ、裁判外での解決を図るための交渉環境を整備します。

具体的には、相手に対して攻撃的な質問を行い、後の法的手続きで相手に不利な事実を引き出す戦略が取れるかどうかを慎重に検証します。

この検証には、厳密な証拠までは要求されないものの、少なくとも事実関係の確定が必要です。

特に、事態を迅速に進展させたい場合は、なおさら事実経緯の整理が重要となります。

事実を確認せずに感情的に主張しても、相手に対して効果がないだけではなく、逆にトラブルを悪化させるだけです。

法律的な主張を成立させるには、論理の流れが必要です。法律実務においては、次のような三段論法が基本です。

1 事実がある
2 その事実がルールに反する
3 その結果、法的に非難されるべきであり、ペナルティが適用される

このように、すべての主張は事実に基づかなければなりません。

たとえ事実が存在しても、この論法の起点となる事実が曖昧なままであれば、法律上の主張は成立しません。

事実が曖昧であったり、頭の中にあるだけで整理されていなければ、主張自体が無効になるということです。

事実を明確にアウトプットしない限り、事実が存在しないのと同じことになるのです。

この事実確認のプロセスを省略して感情的に相手を非難するだけでは、子どもが
「お前の母ちゃんでべそ!」
と言っているのと変わりません。

事実経緯の整理には、5W2H(Who, What, When, Where, Why, How, and How Much)を明確にすることが求められます。

事実経緯を5W2Hに基づいて整理することは確かに手間で面倒ですが、これを怠れば、法は一切助けてくれません。

例えば、
「2週間前の昼食を誰とどこで、何を食べ、いくら払ったか」
を思い出すような作業は煩わしいものです。

しかし、事実の喚起と文章化(テキスト化)のプロセスを経なければ、事案は一歩も前進しませんし、無意味な綺麗事を並べた感情的な言い分だけでは、裁判所で
「何が事実で、どのように法律が適用されるのか」
が不明瞭になります。

結果的に、法律実務の世界では
「黙ってろ」

「泣き寝入りしろ」
という厳しい現実が待っています。

不愉快で困難な状況であっても、その現実を理解し、その理解の上に早急に行動するしかないのです。

法的な問題を解決するためには、事実経緯がいかに役立ち、今後どのように活用されるのかを理解し、相談者と弁護士が共有できるかどうかが、今後の活動の成否を左右すると言っても過言ではありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02055_企業法務ケーススタディ:利益相反に直面した弁護士の選択

<事例/質問>

大手食品グループの○○社の中で、とても大切な役割を担っていた●●社が、
「自分たちでやっていく」
と言って、○○社から離れることを決めました。

○○社は
「●●社がいなくなると、グループ全体の結束が乱れてしまう」
と心配しています。

そのため、何とかして●●社が離れないようにしたいと考えています。

さて、これまで○○社からの依頼で●●社が困ったときに手助けをしてきた弁護士は、今では●●社とも契約を結んでおり、両方の会社をサポートしています。

このような状況で、弁護士が○○社を助けて●●社の離脱を止めることはできるのでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

弁護士は、これまで○○社の要請に応じて●●社が抱える法的問題の解決を支援してきましたが、現在は●●社とも顧問契約を結んでいます。

このような状況では、弁護士職務基本規程に基づく
「利益相反禁止」(弁護士職務基本規程 第25条)
が適用されます。

依頼者間に利益相反が生じる場合、弁護士は一方の依頼者の利益を損なう可能性があるため、双方の関与が禁止されています。

また、仮に●●社との顧問契約を解除したとしても、過去に●●社に対して行った業務が影響するため、
「継続的利益相反」(弁護士職務基本規程 第27条)
が問題となります。

過去の依頼者との関係でも利益相反が生じる可能性があるため、完全な中立を保つことが難しいのです。

この
「継続的利益相反」
の規定により、弁護士は過去の関与があった依頼者との関係でも、新たな依頼を受ける際に慎重な対応が求められます。

結果として、法と倫理を重んじ責務を全うする弁護士としては、○○社と●●社のどちらにも助言を行わず、
「好意的中立」
という立場を取ることが唯一の選択肢となります。

この
「好意的中立」
とは、依頼者のいずれか一方に肩入れせず、公正かつ公平な対応を維持する姿勢を意味します。

具体的には、要請があれば、弁護士は必要に応じて、利害が独立した他の弁護士を紹介することになります。

以上は、あくまで、○○社が●●社に対して喧嘩をする、という前提においてです。

もし、両者が、和解交渉をしたい、という要望があり、そのコミュニケーションサポートをする、ということであれば、弁護士が
「どちらにも加担せず、どちらにもメリットのある和解交渉の行司役・調停者」
として行動することは、●●社の了解を得る前提で、可能です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02054_内容証明郵便が届いたときの対処

内容証明郵便など、この種の通知が届いた場合、相手のペースに乗せられないことが重要です。

まず、土俵に上がらないことが大切です。

土俵に上る前に、リングにケチをつけて無効試合だと騒ぎ、場外乱闘を始めることが肝要です。

また、時間的に切迫した状況に追い込まれた場合でも、慌てず、時間的な余裕を確保する方策を考える必要があります。

焦ると、人間はアホになってしまうからです。

たとえ弁護士であっても、
「あと3時間で地球が滅びる」
と言われたら、自分を制御できず、どんなバカことをしでかすか、わかりません。

それほどまでに、切迫感と時間的余裕が人間の理性に与える影響は大きいのです。

時間的余裕を失うと、どんなに理性的な人でも、愚かになって、最悪の状況に陥る可能性があります。

相手が
「焦れ」
と言ってきたら、こちらは
「のんびりやろうぜ」
と切り返す。

これが交渉の基本です。

事件への対処方針は別途、優先順位を整理し、資源の配分と動員を設計する必要がありますが、内容証明郵便などについては、ひとまず応急処置として書面を出すことで対処できます。

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02053_機密漏洩_その2

競業と機密漏洩は、法的議論において異なるフェーズとして扱われるべき問題です。

たとえば、■■社が始めたビジネスが、▲▲社の競合として軌道に乗っている場合を考えてみましょう。

▲▲社としては、■■社のビジネスが機密漏洩によるものとしか思えないほど極似していると主張しても、それが必ずしも機密漏洩を伴うとは限りません。

裁判所に訴え出ても、この点を■■社側の弁護士が
「たとえ競業が行われていても、それが必ずしも機密漏洩を伴うとは限らない」
と主張することは十分に考えられます。

具体的には、
「関連会社である□□社は、■■社に対して機密を積極的に漏洩した事実はなく、単に資金やデータ、プログラムを提供しただけである」
といった主張が考えられます。

さらに、□□社が様々なクライアントと取引するのは通常の業務であり、その中で■■社も他の顧客と同様に公平に扱っているという見解です。

このような主張に対して、▲▲社側がもし機密漏洩があったと主張するなら、その証拠を具体的に示す必要があるでしょう。

こうした法的交渉や裁判では、非常識に見える主張であっても容認される場合があります。

反論が不十分であれば、逆に主張した側が無責任な攻撃を行ったと見なされる可能性もあります。

要するに、非常識ながら法的に認められる手法も存在し得るのです。

そのような手法に対するカウンターロジックを構築することは可能ですが、最終的に裁判で勝訴しない限り、▲▲社の不利な状況は解消されません。

その間、▲▲社に対して支払いが停止されたり、時間と資金面での困難に直面することがあります。

このように、法的な攻撃においては、理論や理由だけでなく、時間と資源の管理も重要な要素となります。

そしてもう1点。

▲▲社側が法律相談をした弁護士から受けた助言、
「訴訟提起は何とか可能だが、勝ち切るのは難しいと考えられる」
という点を、▲▲社としてどう評価するか、ということです。

「勝たなくてもいいし、■■社に負荷をかけて牽制すればいい」
というのであれば、副次的な効果を期待して、戦略上、その作戦に取り組む価値があると考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02052_機密漏洩_その1

機密漏洩については、裁判所や紛争実務の専門家の間では
「単なる愚痴」
として捉える傾向があります。

長年の研究や製造を通じて培われた技術や、巨大企業の根幹を支える高度な知識が関わるケースでは、裁判所もきちんと評価します。

しかし、ほとんどの中堅・中小企業間の紛争で機密漏洩が問題となっても、裁判所は
「犬も食わない、猫もまたぐ」
といった程度の口喧嘩と見なすことが多いのです。

裁判所が機密漏洩を真剣に取り扱うためには、被害者側は、その
「機密」
が、
・具体的に何の情報で、
・それが価値があり特異なものであるかを明確にし、
・もしそのように重要なものであれば、それに相応する管理や保全がなされていたか、
を示さなければなりません。

また、それにも関わらず漏洩した場合、
・どのような経緯でそれが可能になったのか、
・例えば「ルパン三世」や「キャッツアイ」のような泥棒でも雇わなければ成し得なかったのか、
・そしてそのような事態が起こったにも関わらず、新聞を賑わす刑事事件になっていないのはなぜか、
などを説明する必要があります。

そうでなければ、
「おそらく曖昧で適当な関係の下で、いい加減なビジネスをしていたら寝首をかかれた、裏切られた、というような痴話喧嘩がこじれたものだろう。それは自己責任、自業自得であり、裁判所に持ち込まれても『どっちもどっち』としか言えない」
このような裁判官の心の声が聞こえてきそうな
「紛争形態」
と見なされるでしょう。

経験の浅い弁護士が
「これはひどい、訴えましょう。絶対に勝ちます」
と、当初は勢いよく訴え出るケースがありますが、これは単に、裁判所の実情や相場観を知らない無知・未熟からくるものです。

最終的に、そのような弁護士は依頼者の信頼を失い、
「着手金泥棒」
と罵られることになります。

そのような愚劣な営業トークに振り回されない方が賢明です。

守秘義務違反=ただの寝言、愚痴

というのは、経験豊富な知財弁護士の相場観です(無論、デフォルト設定上の相場観であり、例外もありえます)。

同様に、コピペやパクリも、デッドコピーケースでない限り、違法性を立証するのは難しく、独立して違法認定される可能性は低いです(コメダ珈琲事件は、むしろ、かなり踏み込んだレアなケースです)。

白黒はっきりしない混戦状況の場合、担当する弁護士は経験則から様々な推測をしますが、確実なことは言えません。

正解や定石がない中で、試行錯誤しながら最善解、現実解を見つけるためにゲームチェンジを繰り返す、不安定なプロセスとなります。

最終的には、クライアントがビジネスや利益・リスクを考慮しながら態度決定課題として、果断に判断を下すしかありません。

ただし、競業先に加担していたり協力していたり、あるいは機密漏洩した本人が主体で関与していることが明確である場合、その事実が裁判所の判断に被害者側に有利に働く可能性もあります。

要するに、機密漏洩に関する争いにおいては、機密の定義と特定、保全の方法や管理体制をしっかりと根拠づけて議論しなければ、裁判所は
「どうせ愚痴や寝言だろう」
という偏見・前提認識を持ちますので、被害者側にとって
「相当難易度が高い」
争いになるということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02051_法的対処プロジェクトに対する姿勢

当事務所が弁護費用を提示する際、その金額がクライアントの予算を超えている場合には、以下のように説明いたします。

1 法的紛争の本質

ほとんどの法的紛争には
「正解も定石もない」
という点が特徴です。

特定のルーティンケース(明確な借用書を前提とした債権回収や、手続きが確立された倒産処理)を除き、各ケースは独自の展開を持ち、それに対応する唯一無二の解決策は存在しません。

状況認識、状況判断、相手の出方、裁判所の反応、そして最終的な展開予測まで、全てが予測と選択の連続です。

2 状況認知と判断

我々弁護士は、以下の要素を認識し、解釈し、展開推移を予測します。

(1)状況の認識と危険の認知
(2)ケアすべき課題
(3)相手方や裁判所の感受性とリアクションの予測

この
「正解も定石もない」
ゲームにおいて、可能な限り広範囲の選択肢を提供し、その選択に基づいて最善の方針を追求します。

ただし、我々が正解を知っているわけでもなく、定石を把握しているわけでもありません。

むしろ、クライアントには、我々の慎重で保守的な判断が
「度を越すくらい慎重」
と映ることが多いですが、これがしばしば正確であると感じています。

3 高い見積もりの理由

慎重で深刻な状況認識と判断は、より多くの資源を必要とし、それが費用に反映されます。

これは、クライアントの安全を最大限に守るための措置です。

しかし、クライアントがもっと簡単で低予算な解決策を選びたい場合、その意向も尊重します。

我々は、クライアントに選択肢を提供し、予算内で最善を尽くすことを誇りとしています。

4 選択の自由と責任

弁護費用の見積もりは、当事務所の状況認識に基づく1つの提案に過ぎません。

最終的な判断はクライアントが行うものであり、その選択に対して我々は全力で対応します。

たとえば、”Bー29”を撃墜するための”対空ミサイル”を提供いただければ、それを運用して最大限の効果を追求します。

しかし、”竹槍”しか用意できないのであれば、それを使って最善を尽くします。

ただし、論理的・構造的に不可能な命題を提示される場合、その結果責任もクライアントに帰属します。

5 予算策定プロセス

予算策定は、クライアントの判断材料を提供し、協議を重ねながら進めます。

初期段階では、保守的な見積もりを提示し、そこから予算を削る形で進める方が、効率的で現実的です。

このプロセスを通じて、クライアントに多くの選択肢を提供し、その中から最適な解決策を見つけ出すことに重きをおいています。

5 結論

提案した弁護費用は、当事務所の経験と論理的な予測に基づくものです。

最も保守的で重篤な状況認識を前提としたプランから、クライアントの選択に応じた柔軟な対応を行います。

法的対処プロジェクトには正解も定石もなく、すべては選択課題です。

我々はクライアントの選択を尊重し、その選択に基づいて最善を尽くしますが、結果の責任はクライアントに帰属します。

この点を理解いただき、共に最善の解決策を追求していくことを望みます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02050_企業法務ケーススタディ:外国転売を疑う大量購入者への対応策

<事例/質問>

ある客が、店舗に来店し、外国にいる知り合いらしい人とやりとりをしながら、製品を大量購入しています。

同じものを大量購入しているわけではなく、数個ずつ購入していますが、あらゆる商品を購入していきます。

もし、外国での転売をしているなら、抑止する方法はあるでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

売買契約は当事者間の意思の合致が必要であり、基本的には誰にモノを売るかは自由です。

したがって、単純に
「売らない」
という選択肢も考えられます。

例えば、
「当店では、○○点以上のお買い上げはご遠慮いただいております」
といった対応が考えられます。

ただし、法律上のリスクとして、独禁法違反
「単独の直接取引拒絶」
があります。

公正取引委員会ウェブサイトによれば、売主が独自の判断で特定の相手に対して販売を拒否することは、原則として独禁法違反にはなりません。

しかし、市場における有力な事業者が競争者を市場から排除するような場合には、独禁法違反となる可能性があります。

例えば、以下のような状況です。

・Aと競合する製造業者(輸入業者)Xがいる。
・Aは、自分の商品を売る相手BがXとも取引することを嫌がり、Xの市場成長を阻止したいと考える。
・AはBに対して
「Xと取引するなら、うちの商品は売らない」
と言う。
・BはXから商品を買いたいが、仕方なくAに従う。

このような状況であれば、独禁法違反の可能性が生じます。

そのような事情がない限り、原則として
「誰にモノを売るのかは自由」
となります。

しかし、定価で購入している客から
「なぜダメなのか」
「不合理だ」
とネット上で騒がれるリスクもあります。

その場合に備えて、次のようなストーリーを準備しておくことをおすすめします。

1 当店の商品は非常に少量で、多種多様な品揃えをしています。
2 商品の回転率が早く、見逃すと同じ商品に出会えないことが多いです。
3 多くのお客様から「あの商品はもうないのか?」と問い合わせを受けますが、いつも「もう売れてしまいました」と謝っています。
4 しかし、一部の方が当店の商品を大量に購入し、その後、オークションサイトなどで定価以上の価格で販売している事例がいくつか発見されています。
5 一般のお客様は「あの商品を買おうか迷っている間に他の人に買われてしまい、後で高値で売られているのを見て悔しい思いをする」という状況に陥っています。
6 当店は、そのような転売目的での大量購入者よりも、一般のお客様を大事にしたいと考えています。

このような背景説明を準備しておくことで、転売抑止の正当性を示すことができます。

業界の慣習やお客様の傾向を考慮し、最も納得しやすいストーリーを作成することが重要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02049_有経営者の有事対応:混乱から抜け出すための指針

経営者が直面する有事の状況において、
「いきなり、問題が一気に押し寄せてきた」
と相談に来ることは少なくありません。

このような状況では、混乱した頭脳で思考停止に陥り、時間を無駄にしてしまうことが多いです。

特に、事業承継した社長(創業者の長男)が直面する問題は複雑で、多岐にわたります。

例えば、

・創業者の高齢による経営への悪影響
・アルバイトの大量退職
・従業員のストライキの兆し
・組合との対立
・事業承継直後の会社状況の把握不足
・受注抑制によるその場しのぎ
・親族株主からの会社清算の圧力
・業界環境の悪化と将来の不透明感

これらの問題に対して、社長は
「適当なところで会社を縮小もしくは操業停止しよう」
と考えることもあります。

しかし、ステークホルダーと
「闘わないで縮小清算」
する方法があるかどうか悩むことも多いです。

このような状況下で、経営者が混乱から抜け出すためには、まず
「環境認識ないし原理理解」
を改善する必要があります。

環境認識と原理理解の改善

1  全員の希望を叶えることは無理 

有事において「全員に全ての希望を叶える」という状況は不可能です。これは歴史的にも経験的にも証明されています。
「家族を円満に崩壊させることなく、負債を増やさず、財産を守る」
というのは妄想です。

目の前の有事を乗り越えるためには
「誰かの、一部または全部の利益」
を犠牲にする必要があります。

不平や不満をサンドバッグとして受け入れ、場合によっては反対派を粛清することも考慮しなければなりません。

2  ダメージコントロール 

有事にはダメージがつきものです。

陣羽織の汚れや刀の刃こぼれを気にしていては戦争はできません。

しかし、自分が死ぬことが確実なら戦争は辞めるべきです。

要するに、ダメージコントロールをしてジャッジすることが重要です。

制御するためには、ダメージや課題を具体的に特定し、明確にする必要があります。

「なんとなく怖い」

「なんとなくおそろしい」
という漠然とした恐怖感に基づいて行動すると、際限のない譲歩により制御不能な状態に陥ります。

3 選択肢への還元

「経営への悪影響」

「会社を縮小もしくは操業停止」
「立ちいかなくなる」
などの抽象的な表現は避けるべきです。

選択肢を豊富に持ち、それぞれの選択内容とそのプロコンを明確にすることが重要です。

選択内容やそこから見込まれる予測や帰結を抽象化せず、具体化することが必要です。

また、未経験の内容を選択肢に含める場合は、徹底的にスタディーすることが求められます。

総括

経営者が有事の状況で思考停止に陥らないためには、
「環境認識ないし原理理解」
を改善し、現実的で具体的な選択肢を見据えた判断を行うことが重要です。

全員の希望を叶えることが無理である現実を受け入れ、ダメージコントロールを適切に行い、具体的な選択肢を基に冷静なジャッジを行うことで、有事の状況を乗り越えることができます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02048_通販サイト立ち上げ話がキャンセル料問題に発展(教えて!鐵丸先生Vol. 60)

<事例/質問>

友人から紹介された方がネットに詳しいということで、通販サイトを立ち上げてみる、という話になりました。

ですが、あまりその方はそれほどネットや通販に詳しいわけではなく、どこかに外注して通販サイトを作るということになってきて、見積もりも桁が違うものが出てきました。

そこで、話を取りやめにしたいと言いましたら、逆ギレされて、キャンセルするにも迷惑料を要求されています。

どうも知り合いに弁護士がいるようで、モメたらすぐにでも裁判を起こす、と息巻いています。

ここは、穏便に済ませたほうがよいでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

このような場合、相手から
「訴える」
と言われると、驚いてしまうかもしれませんが、基本的には無視することが正しい対応です。

脅し文句に屈して相手の要求に応じると、無駄にトラブルが大きくなりかねません。

「どうぞ、訴状をお待ちしております」
と突き放す姿勢が最も賢明です。

なぜなら、実際に訴訟を起こすことは相手にとって非常に高いハードルがあるからです。

訴訟を提起する際には、まずその具体的内容を
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
する必要があります。

具体的には、
「いつ、誰が、どこで、どうして、どのようなことを行い、それがどのような法律要件に該当し、損害賠償請求権を生み出すのか」
を明確にすることが求められます。

また、賠償額をいくらに設定するかという問題もあります。

1万円、10万円、100万円、それとも1億円か。

賠償額が大きくなるほど印紙代も高くなり、費用がかさみます。

さらに、主張する事実に関する証拠を揃える必要があります。

証拠をどのように整理し、提出の準備を整えるかが非常に重要です。

この準備作業を独力で行うのは難しく、弁護士に依頼する場合、その費用も考慮しなければなりません。

また、仮に一審で勝ったとしても、相手が控訴すれば再び弁護士費用が発生し、最高裁まで争うことになればさらに費用が増します。

こうした疑問や課題が次々と浮かび上がり、それらをクリアするには莫大なコストと労力が必要です。

日本の民事裁判では賠償額の相場が低く、訴訟を起こしてもその費用を回収するのは難しいことが多いです。

このため、多くの人は最終的に裁判を諦めることになります。

相手が
「訴える」
と言った場合、
「どうぞ、訴状をお待ちしております」
と冷静に対応するのが最も賢明です。

相手が実際に裁判を起こす可能性は非常に低いため、恐れる必要はありません。

ただし、今後のトラブルを避けるためにも、事前にしっかりと契約内容を文書化し、相互に確認しておくことが重要です。

このように、相手の脅しに動じず、冷静に対処することが大切です。

事前の準備と冷静な対応が、トラブルを避ける鍵となります。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/83109

※「教えて!鐵丸先生」の収録は、上記Audeeのサイトの4番目のコンテンツ「コーナー:『教えて!鐵丸先生~エンディング』」で聴くことができます

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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