00030_企業法務ケーススタディ(No.0005): 取引先が危なくなった場合の債権回収法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
太平洋商事 社長 太平 洋(おおひら ひろし、56歳)

相談内容:
今日は、ちょっと不景気な相談に乗ってください。
実は、当社が2次卸となって、オフィス用事務機器を仕入れさせていただいています、グローバル物産さんという1次問屋さんがあるのですが、
「グローバル物産はどうやらヤバそうだ」
という情報が入ってきたんです。
いえ、私の友人のコンサルタントが、グローバル物産さんとお付き合いのある大手文具メーカーの社長さんとゴルフに行ったそうなんですが、その際、
「グローバルから支払のリスケを要請されて何度か応じているが、我慢の限界だ。
大規模な手形のパクリ被害に遭い、不渡り回避のためにあの手この手を尽くしているらしいが、そろそろ縁を切ろうと思っている」
ということを漏らしていたとのことなんです。
当社は、当初信用がなかったもので、取引開始にあたって、保証金として1千万円ほど差し入れていました。
取引規模の拡大に伴い、保証金額は3千万円ほどになっております。
さらに、先月、実際はおそらく手形事故の処理のためだと思いますが、グローバル物産社長から倉庫設備の増強のための協力という名目で2千万円の借金を求められ、これに応じてすでに支払いました。
よく、
「あぶない取引先とは付き合うな」
なんていうじゃないですか。
とはいえ、このまま手をこまねいてみておくわけにはいきませんし。
どうしたらいいですか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:究極の債権回収法としての相殺
破綻した会社から、無担保の債権を回収することはまず不可能と考えた方がいいでしょう。
債権回収の努力に相手が応じてくればいいですが、
「無い袖が振れない」
ような相手が回収に協力してくれることは期待できません。
そうなると、強行手段を取らざるを得ません。
強行策というのは、
「法律に基づく回収」

「法律によらない回収」
の二者択一となりますが、後者は、要するに窃盗や強盗や恐喝や監禁等の犯罪的手段を行使するわけです。
いかに債権回収のためとはいえ、こんなことをしたら反対にこちらが牢屋に放り込まれます。
「法律に基づく回収」
といっても、やることは保全処分や本案訴訟ぐらいですが、それなりの時間とエネルギーとコストを要しますし、また、手続をやっているうちに取引先債務者が破産や民事再生をしてしまえば、徒労に帰します。
ここで、債権回収におけるテクニックとして知っておいていただきたいのは、
「相殺は唯一かつ最高の債権回収方法」
ということです。
そのためには、
「あぶない取引先とは付き合うな」
ではなく、
「あぶない取引先からはどんどん掛けで物を買って、反対債権を作って、相殺のチャンスを増やせ」
というのが正しい行動となります。

モデル助言:
とにかく、グローバル物産さんの商品在庫を掛けで買いまくってください。
決済は2カ月後くらいにしておきましょうか。
破綻したら、商品在庫に回収に遅れた債権者などがうじゃうじゃ群がったり、グローバルが二重譲渡とかしたりして、債権者同士の綱引き問題(対抗問題)になる可能性があります。
ですので、引渡しも早急に完了しておいてください。
法律上、占有改定というあいまいな方法でも対抗力は認められますが、トラブルを回避する意味でも、トラックを手配して現実に引き取ってしまった方がいいでしょう。
グローバル物産さんとの商品取引基本契約や金銭消費貸借契約を拝見しますと、グローバル物産に信用不安が生じた場合、契約解除や弁済期の前倒しを求められます。
法律上、こちらは、債権者として、グローバル物産の決算書謄本を徴収できますから、商品引取後これを徴収して財政状況・財産状態を分析し、さらにその他の情報も裏付けを取ってグローバル物産が信用不安であるという客観的証拠を揃えてください。
商品在庫を5千万円分超になるまで掛で購入した後、商品取引基本契約を解除するともに、こちらの保証金や貸金の弁済期を到来させ、購入代金とこれらの債権を相殺してしまいましょう。
とにかく、スマートにやることです。
金属バットもって交渉に行ったり、社長を監禁して保証書にサインさせるなんてのは絶対ダメですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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