00100_企業法務ケーススタディ(No.0054):カルテルの疑いを晴らせ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社名倉化学 名倉 懸壱(なくら けんいち、56歳)

相談内容: 
この前、
「原油高を考えるケミカル業界トップの会」
という新しく設立された業界の会合に出てきました。
当社は独自路線でやって参りましたし、私は業界の重鎮とは反りが合わないので、これまで業界のお付き合いはあまりしてこなかったのでが、このところの原油高はかなりひどい状況でして、業界全体としても何らかの取組が必要と考え、参加することとしたんです。
会合に来ていたのは10社程度。
参加者は社長クラスで、外資系証券会社の方のお話を聞くという程度のものでした。
無駄だったかな、と思っていたところ、反省会という名の食事会に誘われ、そこで、話題が価格カルテルの話になってきて、しかも、
「カバンの素材として使われる高品質のポリプロピレン材料の価格を一斉に値上げしよう」
なんて話になってきた。
ま、そりゃ、
「和を以て貴しとなす」
も重要ですが、今のご時世、カルテルが違法行為であることくらい、私でも知っていますよ。
こりゃいかん、と思い、早々に抜け出してきました。
そしたら、後日、会合参加企業が続々と値上げを始めたんです。
取締役会では、副社長が
「わが社は協定を結んでいないから、カルテル参加企業ではない。
『原油高で苦しかったので、かねてから値上げを考えていた』という理由で、わが社も便乗して値上げしましょう」
なんて言い出し、役員全員賛成しています。
とはいえ、心配なんで、取締役会では継続審議として、先生の意見も聞いてみようと思った次第なんです。
大丈夫でしょうかねえ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:不当な取引制限行為(カルテル)
独占禁止法2条6項は、
「事業者間の共同行為で、相互に当該事業者の事業活動を拘束するものであって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」
を禁止しています。
要するにカルテルや談合はイカンということですが、この
「イカンとされる理由」
がピンと来ないため、多くの企業がカルテルや談合に安易に手を染めてしまいます。例を用いて説明します。
オリンピックの100m競争をイメージしてください。
ある国が何がなんでも確実に金メダルを取りたいという場合、
(A)最終ランナー全員を当該国の国民にしてしまう
(B)最終ランナー同士の話し合いで当該国のランナー がトップでゴールできるよう競争をやめる
(C)当該国のランナーが自分の前を走る選手の足を引っ張ったりつかんだりして転ばせてしまう
ことが考えられます。
こんなことは競技の意味をなくしてしまうので、ダメに決まっていますが、独占禁止法も、同じ理念の下、市場での公正な競争を促すため、
(A)を私的独占とし
(B)をカルテルとし
(C)を不公正取引として
それぞれ禁止しているのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:価格引き上げ追随行為の違法性
独禁法が禁止しているカルテルは、事業者間の
「協定」
であり、何らかの話し合いが想定されています。
逆に言えば、本ケースのように、
「話し合いが始まってすぐに逃げ出し、協定自体に参加せず、同業者が実施したカルテルに一方的に便乗する行為」
は問題なさそうにも見えます。
しかしながら、商品価格の協調的価格引上げにつき黙示の意思の連絡による共同行為が存在したか否かが争われた事件で、東京高等裁判所は、
「特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をしたような場合には、特段の事情が認められない限り、事業者間に協調的行動をとることを期待し合う関係があり、『意思の連絡』があるものと推認される」
という趣旨の判断を下しています。
本ケースにおいても、会合に参加した名倉化学が価格引き上げに便乗したら、原則として違法と判断される可能性が高いと言えます。

モデル助言: 
予防的観点から言うと、
「李下の冠」
「瓜田の靴」
の故事のとおり、明らかにヤバそうな会合には参加しないことでしょうね。
正式な事業者団体の会合であっても、法律に
「事業者団体自体が独禁法違反主体となる」
に明記されている以上、油断は禁物です。
本件に関してですが、情報交換の途中から抜け出し価格引き上げに追随した場合であっても、ダメというのが裁判所の判断である以上、便乗値上げはやめといたほうがいいでしょうね。
「(カルテルがあったからではなく)原油高のため、値上げさせていただきます」
という言い訳も、
「じゃあ、なぜわざわざこの時期を選んで値上げをしたのか」
という問いには答えられないでしょうし、やはり言い訳にも限界がある。
いっそのこと、御社のみ価格を据え置いてみられてはどうでしょうか。
100m競争の例でいうと、他のランナーが一斉にダラダラ歩き始めたわけですし、こんな連中ほっといて、全速力で走り続け、先頭切ってゴールするのが正しい競争の姿です。
あと、公取委は密告大歓迎ですから、タレ込みを平行して行い、カルテル自体を排除してもらうのもいいでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです