企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
合綿(ゴウメン)紡績株式会社 代表取締役 浜田 裕二(はまだ ゆうじ、68歳)
相談内容:
先般、中田ハウス商事が仕掛けてきた敵対的TOB騒動では、大変お世話になりました。
まさに
「万事休す」
というところでしたが、吉本物産が裏で動いてくれて、ホワイトナイトとして岡八紡績さんを連れきてくれたお陰で命拾いしましたわ。
ところで、今日参上しましたのは、あの件の事後処理のことなんですわ。
あのとき、岡八紡績さんには、中田ハウス商事をイテこます目的で、業務提携を発表し、弊社の株式を150億円分、どーんとお買い上げいただきましたが、その後、株価もしばらくいい値段で推移しておりましたので、ほったらかしにしていました。
ところが、先日、岡八紡績の社長がいらっしゃって
「オマエところの株価、下がる一方やんけ。
業務提携ゆうても具体的な話一つもあらへんし、オレのところの株主騒ぎ始めてるぞ。
こんなクソ株いらんから、早よ引き取ってくれ」
とかなり強い調子で要請しはるんです。
ウチとしても、何とか、岡八さんところに一時的に抱いてもらったウチの株を引き取ってあげたいんですが、ウチの主幹事の桑原証券に相談しても
「岡八さんが保有株式を短期で市場売却すると、株価がむちゃくちゃなことになりますし、岡八さんのところだけ特別に自己株式として引き取るゆうてもイロイロ手続が大変です。
ま、難儀でんなぁ」
とツレナイ返事なんですわ。
昨年から進めてきました花紀州テクスタイル社との株式交換話も佳境に入ってきてクソ忙しいときに、また、ややこしい話持ち込まれて参っとるんですがこれ、なんとかなりませんかいな。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:ホワイトナイトのその後
敵対的 TOBで乗っ取られそうになっている企業を助太刀すべく、ホワイトナイトとして登場し、第三者割当増資等で株式を引き受けたりする会社がときどき脚光を浴びることがあります。
しかし、ホワイトナイトとして活躍して役目を終えた会社が、その後、
「どのようにして舞台をハケていくのか」
という点についてはあまり語られません。
設例のように、ホワイトナイトとして助太刀したのはいいが、そのために買い取った大量の株式(しかも買収騒動が終わった後は、もとの地味な会社に戻るため、株価はぐんぐん下がり始める)の処理は、ホワイトナイト側として正直頭を痛めるところです。
市場で大量に売却するとなると、株価の下落にさらに拍車をかけることになりますし、自己株式として引き取るといっても株主全員に対して声をかける必要があり(株主平等原則)、
「ホワイトナイトさんだけ特別扱いしてあげて、会社が株を引き取ってあげる」
というのも会社法上特別決議を要します(会社法160条1項、309条2項2号)。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株式買取請求を利用したウルトラC
このように、通常は、特定の株主から自己株式を取得することは非常に難しいのですが、
「会社の合併など、組織再編行為の場合の、反対株主からの自己株式の取得」
については、このような制限がありません。
その理由ですが、
「会社が合併などの組織再編をする必要性の高さと、それに反対する株主の利益を両立させるためにはやむを得ない措置であるから」
等と説明されています。
そこで、このような株式買取請求制度に目を付け、
「ホワイトナイトの手許の塩漬け株を自己株式として引き取る」
という離れ業をやってのけた事例が出てきました。
モデル助言:
ホワイトナイトが、 TOB騒動が鎮静化した後の株式をどのように処分するのかは頭の痛い問題です。
ですが、世の中には、頭のいい人間がいまして、株式買取請求制度を狡猾に利用して、手元の塩漬株を自己株式として引き取らせることに成功した例があるんです。
数年前世間を騒がせた製紙業界における TOB事件で、ホワイトナイトとして登場したN製紙は、乗っ取りの危機にあったH製紙の株式を150億円あまりで引き取りましたが、このH製紙株式は危機が去った後も売却ができず、塩漬けとなっていました。
しかし、H製紙がK製紙と株式交換を行うタイミングをとらえ、N製紙は、手元のH製紙株式について株式買取請求を行い、自己株式として引き取らせたのです。
うがった見方をすれば、株式交換自体本当に必要だったのか、株式買取請求という場面を作り出すために株式交換というイベントがつくられたのではないか、といろいろ疑問が生じてきますが、とにかく、手法としてはよく練られた方法です。
この手法のいいところは、株式買取請求を行使されると請求された側は拒否できないことから、事前の密談の実際の内容はさておき、引き取る側も
「ま、制度ですから、しゃーないですわ」
というポーズを取りつつ引き取れるところです。
とはいえ、きわどいと言えばきわどい方法ですので、後ろ指をさされないよう、リリース方法や株式買取請求権を行使する大義名分等を勘案し、慎重に進めて参りましょう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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