企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社ヤンキーナ 代表取締役 木下 椰樹菜(きのした やきな、23歳)
相談内容:
チョリーッス、先生。
今日はお世話になった人の会社にカネを貸す件で、一応相談に来ました!
アタシさ、今の会社立ち上げるまでは給食工場で働いてたんだぁ。
似合わないっていうと思うけどさ、人にはそういう時代だってあるもんなの!
その工場持ってる今田食品って会社には、今田一助(ぴんすけ)っていう社長がいるんだけどぉ、工場は特許技術満載のオートメーション化した無菌工場だから
「競合なんておらへん!」
ってブイブイいわせてたの。
彼は根っからのバクチ好きで、最近ではヤクザの賭場にまで出張ってるって噂を聞いてたから、
「それはアウトだからやめな!」
って何度もいってたの!
でも、全て聞く耳ナシ!
ま、とうとう警察のガサが入って、賭場への出入りがばれ、で、小うるさいPTAから責められて、結局、納入してた学校全部から契約切られちゃって瀕死状態、お馬鹿よね!
商売人だから、オフィス向けの宅配弁当に業態を変えて何とか乗り切ろうとしてて、いつも馬鹿にしてた私に頼ってきたってわけ。
不動産全部に抵当つけて構わないから、運転資金や機械のレイアウト変更のために5億円貸してっていうんだけど、不動産の評価はぎりぎり3億円くらい。
世話になったし、万一の場合、2億円は泣く覚悟で貸そうと思ってんだ。
ほんとは、5億円貸すなら、5億円分きっちりガッツリ担保取りたいけど、ま、そんな方法なさそうだし。
これって、しょうがないよね?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:企業への事業資金の融資の注意点
企業が、取引先や関係先に対して事業資金の融資を行う、ということはよく見受けられます。
もちろん、収益が見込める事業を計画的かつ合理的に営んでいる限り、何もプライベートな企業なんかに泣きつかなくても銀行が貸してくれるはずですが、無計画あるいは不合理な冒険的事業を企図するような場合や、不祥事等が発生して企業の存続に疑義が持たれるような場合には、銀行が相手にしてくれません。
このようなときには、設例のように、取引先や知人の経営者に泣きつく、といったことが生じます。
企業間の融資においては、
「困ったときはお互いさま」
という情実が働き、経済合理性のない形で無責任な融資が行われ、その結果、トラブルに発展しがちです。
しかし、よくよく考えれば、
「金貸しのプロである銀行が相手にしない」
という属性を有した債務者にカネを貸すのですから、
「フツーに貸したのではまず返ってこない」
とみるべきです。
したがって、
「そもそも貸すのを断るか、適当な見舞金を差し出して追い返すか、どうしても貸すのであれば、ガッチリ担保を取って貸す」
というのが経営者として取るべき行動ということになります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:工場抵当
ところで、設例のように、評価額3億円程度の不動産を担保に取って、5億円貸すのは、極めてリスキーといえます。
地方銀行や信金・信組で、こういうリスキーな融資が行われることがありますが、この種の経済合理性のない融資は、法律上、背任という犯罪行為となりますし、実際、この種のことが露見して、逮捕者が出たり、自殺者が出たりしていることは皆さんご承知のことと思います。
この状況で貸すなら1億円ないしせいぜい1億5千万円が妥当なところですが、どうしても5億円貸すという場合は、担保の取得方法を一層工夫しなくてはなりません。
すなわち、担保提供者が工場設備を有している場合、土地やその上の工場といった不動産だけでなく、有機的な企業施設を一体として抵当権の設定対象とする工場財団抵当という方法により、担保価値を再評価することで、融資判断を再考する余地があります。
設例では、
「特許技術満載のオートメーション化した無菌工場」
ということですから、施設丸ごと担保に取れるのであれば、
「有機的に一体となったいつでも動かすことが可能な工場」
という状態の担保価値を把握できるのですから、5億円をはるかに上回る担保評価となる可能性があります。
モデル助言:
そもそもの話ですが、今田さんには申し訳ないですが、経営判断と情実は切り離すべきであり、適当な見舞金を差し出して、まずは追い返すことを検討するべきですね。
今田さんの目論見が現実的かつ合理的な事業計画というのであれば、そもそも銀行が資金を貸してくれているはずですし、銀行が貸さない、ということは彼の計画に根拠がない、ということなんでしょうね。
それに、御社の体力から考えると、万が一2億円については回収できないなどという事態になりますと、経営に影響が出かねません。
まあ、どうしても貸したいというのであれば、先ほど申しあげたとおり、特許権やノウハウ等の知的財産権をも含めた工場施設全体を担保に取る
「工場財団抵当」
という方法によるべきです。
工場財団目録を作成したり、他人の担保権が設定されていないかを確認する等もろもろ面倒くさい手続きが必要になりますが、こういう抵当方法を前提として工場そのものの価値を丸ごと評価して、7億円程度の価値が見込めるならば、万が一の場合も回収が見込めますね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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