00185_企業法務ケーススタディ(No.0140):農地って簡単に買えるの?

相談者プロフィール:
株式会社ピーチアロマ 代表取締役 百木 さほり(ももき さほり、60歳)

相談内容: 
お久しぶりね、先生。
私の会社、今まで熟女向けの香水を作ってきたところだけれど、オンナの美しさは健康から、美しい香りはカラダの中からってことで、業務を拡張して、無農薬の有機野菜を売ることにしたの。
「香水の畑から採れた野菜」
なんてステキじゃない?
農業なんて私未経験だし、ウチの会社の役員連中は、土に触ったことすらないようなお坊ちゃんばかりだけれども、何とかなるわよ。
それで、香水を大量にまいても怒られないような、山奥の畑を物色してたら、私の友人の竹林直人ってヤツが、
「オレはもう農業をやめて、都会に出る!
先祖代々引き継いだ畑を全部オマエに売ってやってもいい」
なんていうのよ。
まあ、渡りに船、ってことで買いたたいてやろうと思ったら、竹林のヤツ、
「アンタ失敬だな!」
なんていって、なかなか安くしてくれないのよ。
ちょっと先生のほうで竹林と交渉して、うーんと安く買ってくれないかしら。
成功したら、水代わりに香水をまいた畑で採れた野菜、毎週送ってあげるからさ。
この野菜を食べたら、きっと先生、モテモテになるわよ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:農地法とは
私的自治の下では、私人同士、自らの所有する財産を自由に交換して、それぞれの経済的な合理性を追求することができるのが大原則です。
土地という財産についても、私人は自由に売買の対象とすることができるのが原則であり、当事者間で
「売った」
「買った」
との意思が合致すれば、所有権が移転するはずです。
ところが、農地法は、この大原則を大きく修正しています。
不動産登記上
「田」「畑」
とされているものや、判例上は、不動産登記にかかわらず、現に耕作されている土地等は農地法上の
「農地」
とされて、自由な売買や賃貸借、さらには、農地から宅地への転用等が規制されています。
農地法は、第2次世界大戦後に行われたいわゆる
「農地解放」
により、大地主から小作農らに対して格安で農地が売り渡された後、再度農地が大地主に戻ることがないように、
「耕作者自らによる農地の所有」(農地法1条)
を目的として制定されました。
農地法は、土地を所有して他人に耕作させる大地主ではなく、
「汗水たらして実際に耕作する農民」
に農地を所有させて、
「耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図」(同条)
ろうとしているのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:農地は簡単には買えない
農地法3条は、農地について所有権を移転したり、賃貸借をする場合には、原則として、農業委員会という、各市町村に置かれる行政委員会の許可を受けなければならないと規定しています。
そして、農地法は、所有権や賃借権を手に入れようとする者が、
「農作業に常時従事する者」
でない場合や、
「農業生産法人」
以外の法人である場合には、農業委員会は、許可を出すことができないと定めています。
つまり、農地法は、
「自分で真剣に耕作をする者以外が農地の所有権や賃借権を取得することはまかりならん、気合の入った者だけが、農地に関する権利を手に入れることができるのだ」
としているのです。
そして、農地法は、当事者間で農地の売買や賃貸借契約が締結されたとしても、農業委員会の許可がない限り、
「その効力を生じない」(3条7項)
と規定しており、当事者間の意思の合致(売ります、買います)があったとしても、売買契約が効力を発しないという、強力な規制を行っています。
さらに、農地法64条1号は、農業委員会の許可なく勝手に所有権を移転したり、賃借権を設定した場合には、
「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」
という刑事罰まで用意しているので、注意が必要です。

モデル助言: 
今回の土地は
「農地」
のようですので、貴社がこの土地の
「所有権」
を手に入れるためには、
「農業生産法人」
の要件を満たすことが必要です。
勝手に売買契約をしても契約は無効ですし、刑事罰を科せられるリスクもありますよ。
株式会社が
「農業生産法人」
となるためには、原則として株主の4分の3以上が農業に常時従事する者等であること、さらに、役員の過半数が農業に常時従事する者であることなどが農地法で求められています。
これらの要件を実際に満たすことは、結構大変ですよ。
貴社はまだ農業分野のノウハウもないようですし、いきなり農地を購入して初期投資をするのはどうかと思いますね。
2009年に農地法が改正されて、農地の賃貸借であれば、
「取締役のうち1人が農業に常時従事すること」
などの、比較的充足しやすい要件を満たせば、株式会社でも農地を借りることができるようになったところです。
まずは賃貸借で様子を見てから、本格的な投資を御検討なさったらいかがですか。
というよりも、農産物なんて日持ちしないので在庫として保持できず、売れ残ったらおしまいです。
香水のような賞味期限と関係ない商品の感覚で取り扱ったら大変な目に遭いますよ。
まずは業務提携とかOEM生産を考えるべきじゃないでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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