相談者プロフィール:
株式会社カンタービレ 代表取締役 土野 樹理(つちの じゅり、25歳)
相談内容:
タラリララ~、せんせ~い、実は、最近、新しく会社を始めたんです。
今、ものすごいペットブームで、ドッグフードとか、わんちゃん用のお菓子とか、たくさん売れているでしょ?
そこで、あたしもこれに乗っかっちゃって一儲けしようと考えたんです。
今、一番、売れているドッグフードを調べたら、ペログリーワン社が製造している
「いぬまっしぐら」
っていうのが大人気みたいなんです。
でも、これって、1袋5千円の10キログラム入りしか売ってないみたいで、これより小さい量の商品は製造していないみたいなんですね。
チワワとか飼っている人なんか、量が多すぎて大変ですよね。
そこに目をつけて、今度、ウチの会社で、10キログラム入りの
「いぬまっしぐら」
をたくさん買ってきて、これを500グラムずつの小分けの袋に入れて、これに、手書きで
「いぬまっしぐら」
って書いた可愛いシールを貼って250円で販売することにしたんです。
こんなチラシも撒き始めたんですよ!
そしたら、昨日、ペログリーワン社の代理人弁護士とかっていう、いかつい人が来て、
「このチラシの商品は、ペログリーワン社の商標権を侵害している!
もし、商品の販売を開始したら損害賠償で訴えてやる!」
なんて脅すんですよ~。
ちゃんとホンモノ売ってるんだし、みんな喜ぶことだし、先生、あたしがやろうとしてることっていけないことなんですか~?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:商標の機能
そもそも、商標とは、商品を購入しようとする人やサービスを受けようとする人に対し、その商品・サービスを
「誰」
が提供しているのかをはっきりさせるために、業として当該商品やサービスなどに付けるマーク(文字、図形、記号、形状など)を言います。
そして、商標には、一般的に、
「出所表示機能」
「品質保証機能」
といった作用があるといわれています。
このうち、
「出所表示機能」
とは商品・サービスを「誰」が提供しているのかをはっきりさせる機能を、
「品質保証機能」
とはその商標が付けられた商品・サービスであれば、一定の品質を有するものであると消費者に信頼させる機能をいいます。
つまり、
「同じ商標が付けられた商品、サービスなら、同一の企業が製造した(販売した)ものである。だから、いつ、どこで買っても同じ内容、同じ品質のものが得られる」
という商標の機能によって、商品・サービスに対する
「全国どこでも安心して“いつもの商品・サービス”を得られるという信頼」
が生まれるのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「内容」も「品質」も同じ商品に勝手に商標を付けた場合
ところで、商標法2条3項、25条は、商標権(なお、特許庁に登録されてはじめて商標法上の「権利」を享受することができます)を有している者だけが
「商品」
やその
「包装」
などに当該商標を付けることができると定め、また、同法37条は、それ以外の者が同じことをした場合、商標権に対する侵害行為になると規定しています。
すなわち、第三者が、勝手に、登録商標と似たような商標を自分の商品に付けて販売などする行為は、
「“いつもの商品・サービス”を得られるという消費者の信頼」
を独占的に享受できる商標権者の権利を侵害する、と定めたわけです。
このように、法律で
「権利者だけが、商品のパッケージなどに商標を付けることができる」
と定めることで、商標が持つ「出所表示機能」や「品質保証機能」が担保されるわけです。
このような法律の趣旨を前提とすると、設例のように、
「出所」
も同じで、
「内容」
も
「品質」
も同じ商品であれば、勝手に商標を付けて売っても、結局は、“同じ商品”を売っているのだから何の問題もないような気もします。
しかしながら、設例と同じように、登録商標が付けられた
「一袋の量の多い商品」
を、“小分け”にして同じ商標を付けて販売した行為が違法であるか争われた裁判において、1994年2月24日、大阪地方裁判所は、
「商標権を侵害し、違法である」
と判断し、損害の賠償を命じました。
モデル助言:
前記の大阪地裁判決は、その理由の中で、
1 商標権者以外の者が勝手に“小分け商品”を販売すると、小分けする過程で異物が混入して品質が落ちてしまう場合もあるから、結局、商標権者の信用を損なうし、消費者の信頼も害する、
2 勝手な“小分け商品”を許すと、商標権者にとって、想定していなかった形態での商品の流通を余儀なくされるので、商品の品質と信用の維持向上に努める商標権者の利益を害する、
とも指摘しているのです。
ペログリーワン社だって、様々な理由や販売戦略に基づいて10キログラム入りの
いぬまっしぐら」
だけを販売しているのですから、ここで、カンタービレさんが勝手に“小分け”の商品を販売したら、消費者に
「ペログリーワン社が小分けの『いぬまっしぐら』の販売も始めた」
という誤解を与えてしまい、結果、上記のようなペログリーワン社の評判や信用を損ねてしまいます。
まぁ、チラシを配っただけで販売はまだなので、ここは、ペログリーワン社に対し
「チラシは全て廃棄しました。
なお、ご指摘の商品はひとつとして販売していませんし、今後、販売する予定もありません」
といった文章を出すなど、誠実な態度に努めて怒りを静めてもらいましょう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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