00219_企業法務ケーススタディ(No.0174):パブリシティ権侵害リスクに要注意!

相談者プロフィール:
鈍蜜(ドンミツ)出版株式会社 代表取締役 鈍田 蜜子(どんだ みつこ、32歳)

相談内容: 
30年ほど前に一世を風靡したパンクレディーのダンスを紹介し、
「パンクレディーのパンクダンスをしながら痩せちゃおう!」
というコンセプトで、パンクレディーの写真を使いながらわかりやすく解説したものを書籍にして、
「パンクレディーダイエット」
として出版することにしたんです。
やはりパンクレディーのお二人はスタイルがいいから、図解より写真がいいかなって思って、たくさんお写真を載せてね。
パンクレディーの写真は、最近破産した出版社が著作権もっていたのを、安値で買い叩いたので、著作権は問題ないはずよ。
ま、パンクレディーなんて、もう過去のヒト。
タレントとしての商品価値はほぼゼロ。
でも、パンクレディーも、ウチの本のおかげで、また、最近テレビにも出だしたみたい。
すると、先日、パンクレディーのマネジメント会社から電話があって、
「ウチのパンクレディーの名前を使って儲かったんだから少しカネくれ。
50万円でいい。
今週中に振り込んでくれたら、それでチャラにする」
とか言い出すんです。
こんなのあり得ないでしょ。
ウチがパンクレディーのリバイバルを手助けしたようなもんじゃない。
だいたい、写真の著作権はウチが押さえているし。
この話、お断りしようかと思います。
裁判になったら、お願いしますわね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:パブリシティ権とは
自己の承諾なしに、自己の容ぼうや姿態を撮影されたり描かれたりされず、また、自己の写真等をむやみに公表されない権利を肖像権といいます。
この権利は、明確に何らかの法律上にはっきりと規定されたものではありませんが、国民は憲法13条によって国民の私生活上の自由が保障されており、その一環として認められている権利です。
そして、肖像権は、このような私生活上の自由として保護されているだけではありません。
肖像という個人の容ぼうや姿態は,商品の販売等を行うに際して、これを促進する顧客吸引力を有する場合があります。
そこで,このような顧客吸引力を利用する権利は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものとして保護されます。
これが肖像権のうち
「パブリシティ権」
と呼ばれるものであり、裁判所によって認められた権利なのです。
プライバシー権という人格上の利益が侵害された場合は精神的苦痛という低い賠償相場の事案にとどまるのに対し、パブリシティ権という経済的利益が侵害された場合、高額な経済的利益の回復も求めることが可能になります。
つまり、
「使用許諾契約を締結した場合の許諾料を損害として算定し、これをすべて賠償せよ」
というような議論が可能となるのです。
これを根拠に、鈍蜜出版は、パンクレディーの写真すなわち個人の容ぼうや姿態を利用して、週刊誌の売り上げを伸ばしたとして、パンクレディーから損害賠償請求をされるおそれがあるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:パブリシティ権侵害が認められるためには
しかし、芸能人の容ぼうや姿態を無断で利用したからといってすべてがパブリシティ権の侵害になるわけではありません。
どのような芸能人の容ぼうや姿態の利用がパブリシティ権の侵害になるかというと、この点につき裁判所は、
「肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として甘受すべき場合もある」
と権利範囲に相当な制限を加えた上で、
「1 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
2 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
3 肖像等を商品等の広告として使用するなど、
専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合にパブリシティ権の侵害と認めることができる」
と判断しました(最高裁平成24年2月2日判決)。

モデル助言: 
ダイエット方法解説のために、芸能人の写真を週刊誌に掲載した事例で、全200ページの週刊誌のうち、わずか3ページであること、白黒写真であること、読者の記憶を喚起するための補足的な目的で掲載されていることから
「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」
には当たらないと判断されたケースもあります。
しかし、本件の場合、
「パンクレディーダイエット」
という書籍を出版し、その中でパンクレディーの写真を多用しています。
これは、ダイエット目的の購入者が、スタイルのいいパンクレディーの写真を見て、
「自分もこうなれるかしら」
と思い、本書籍を購入すると考えられますので、パンクレディーの肖像の経済的価値を利用しているといえ、まさに
「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」
にあたるといえるでしょう。
本件が訴訟になれば、パンクレディと鈍蜜出版がパンクレディの写真使用許諾契約を締結した場合の許諾料や本書籍の売り上げ等多額の賠償が請求され、これらが損害として認められかねません。
50万円で済むならこれで手を打っておくべきでしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです