企業には、採用する、採用しないの自由がありますが(採用の自由)、前提として、採用を判断するための情報を入手することも、原則として自由であると考えられております(調査の自由)。
例えば、三菱樹脂事件最高裁判例は、
「採用にあたって、思想や信条といった、人の能力には関係がない、内心的なことを調査し、調査の結果を理由に採用を拒絶することも、当然には違法ではない」
と判断しています。
企業にとって、健康的、継続的に勤務してもらうことを目的として、採用希望者に対し、健康診断を受けさせたり、診断書を提出させることも許容されると解されています。
健康診断を受けさせて、その健康状態を調査した上で採否を検討するというのは、病歴の内容いかんによっては、労働能力に影響を与えたりもしますので、
「“調査の自由”を行使した」
といえなくもありません。
ただ、いくら
「調査の自由」
が認められるからといって、無制限な調査が許されるわけではありません。
本来の必要性を超えて、単に“興味本位”で調査を実施する、というのはご法度です。
病歴や持病の種類によっては、センシティブな問題をはらみます。
健康情報を調査・取得する場合、
「本人の同意」
と、調査の必要性が不可欠となります。
実際、採用にあたっての調査で、採用候補者に無断でB型肝炎ウィルス感染の調査をしたことがプライバシーを侵害するものとして、企業に対し慰謝料の支払を命じる判決が出ています(東京地裁2003年6月20日判決)。
例えば、本人に内緒で検査を行っているような場合、その時点で違法と判断される可能性があります。
敗訴しても慰謝料額自体はわずかでしょうが、たちまち
「ブラック企業」
という噂がたち、新卒採用に誰も応募しなくなるので注意が必要です。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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