役員の善管注意義務違反で会社が倒産した場合に、役員個人を株主代表訴訟で訴えるケースを例にとって、訴えを起こす(といっても、監査役への提訴要求通知が無視されることが前提条件となりますが)原告株主について、訴訟の目的や動機を推察してみます。
前提として、株主がつぶれた会社の役員を訴えるという目的、動機は、
「とりっぱぐれて困っとるんや! お前ら、責任者やろ! ケツもたんかい!」
みたいな単純なものだけではなく、実に様々な動機や目的が考えられます。
まず、個人で取りっぱぐれて訴えを起こしてきたようなタイプの方がいるとすれば、このような経済的動機で訴訟をやっている(カネがほしいからやっている)場合と想定されます。
なお、純粋にカネ目的の訴訟とすれば、本ケースはあまり効率的な訴訟とはいえません。
主張・立証課題が多いですし、課題の多さに比例して弁護士費用もそれなりにかかります。
万が一勝ったとしても、役員にお金がないと、判決を取っても結局お金を取り返すことはできません。
さらにいえば、株主代表訴訟は金銭の支払いを目的とする訴訟であるものの、請求が認容されても、株式会社への金銭の支払いが命じられるだけです。
すなわち、原告となった株主が直接利益を得るわけではなく、会社の財産状態が改善して、間接的に債権の回収可能性が増える、という意味しかありませんので、この点でも、構造的に、債権回収期待は非常に乏しい状況です。
お金にある程度余裕があり、お金儲けができる方であれば、こんな後ろ向きのことに時間とエネルギーと弁護士費用をつっこまず、
「債権管理の甘さの勉強をさせてもらった」
と考えて今回の件は吹っ切り、とっとと次のビジネスの成算を高める方向に自分の意識を転換させることができるでしょう。
その意味では、カネ目的で訴訟を起こすという相手方(原告株主) はそれなりにテンパっている方と推測されます。
ただ、カネがほしくて、それだけが目的で訴訟を提起しているという状況は、取締役被告側にとって都合のいいことです。
なぜかというと、カネ目的ということは、相手方(原告株主)が
「カネは、時間との相関関係において値打ちが変わってくる」
という程度の計算が働く程度の知能がある、ということですから。
被告取締役サイドがそのような相手方(原告株主)の目的あるいは状況を見越して、徹底して争う姿勢をみせ、手続に時間がかかることを相手方 (原告株主)に匂わせることができれば、相手方 (原告株主)が折れて適当な額での和解に至る可能性があるからです。
とくに、相手方 (原告株主)がカネに困って訴訟を提起しているような状況であればチャンスです。
貧すれば鈍す、という言葉にもあるように、空腹であれば腐肉にでも手が出てしまうのが人間です。
相手方 (原告株主)が
「最高裁まで争って数年後に億単位の請求を認める判決が確定されるという理論上の可能性に賭けるよりも、被告取締役に、詫びを入れさせ、適当な和解金を会社に支払わせる方がはるかに意味がある」
と考え、不利な和解をしてしまうケースなんていうのは実務においては珍しくありませんから。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所