法務の各スキルアイテムについては、担当者それぞれについて有意な偏差(ばらつき)があり、担当者自身としても、採用・任用責任者としても、運用・指揮命令責任者(室長、部長、最高法務責任者あるいは経営者)としても、その高低を測定し把握しておくべきと考えられます。
モデル的なもので、完全なものではないのですが、各スキルアイテムについてスキルレベル測定基準を策定してみました。
もちろん、あるスキルアイテムについてはこのレベル、別のスキルアイテムは違うレベル、といった形で、スキルアイテム毎に別異の評価となることがあり得るところです。
法務担当者の各スキルアイテムの評価 |
【H-・NGレベル 】当該スキルを要求される業務について一切タッチさせてはいけないレベル : まったく理解できていないか、間違って理解しているが、知ったふり、わかったふりをしている。いわゆる「有害な無知」の状態。 |
【H0・デフォルトレベル 】当該スキルを要求される業務についてブリーフィングなしに補佐補助を任せると過誤修正が多くなり却って時間や手間を要するので、判断を一切伴わない単純事務しか任せられないレベル: 当該スキルアイテムに関連する概念や用語をテレビや新聞でみたことがあるが、実は、まったく理解できないし、何のことかも知らない、わからない。ただ、そのことをわきまえている。いわゆる「無害な無知」の状態。 |
【H1・アシスタントレベル 】体系・全体構造・概要把握レベル・当該スキルを要求される基本的業務(ルーティン)について補佐補助を任せられるレベル: 当該スキルアイテムに関連する概念や用語についてだいたいどういうものかが、頭で理解できる。完全に習得するために必要なロードマップを理解・把握しており、分野の深みや奥行きや、ケース演習(仮想経験)や実践(実地経験)を含めた経験の重要性が理解できる。 |
【H2・スタッフレベル 】当該スキルを要求される基本的業務(ルーティン)について責任者として自律的に執務ができるレベル・ルーティンフロー(業務の基本・手順・段取り)やルーティンオペレーション上派生する典型的な問題点を理解・把握しており、自主的に課題発見・特定・処理できるレベル: 当該スキルアイテムに関連する概念や用語すべてについて机上学習レベルで了している。また、基礎的なケーススタディも終えている。上司(企業によっては、顧問弁護士等、法務部メンターとしてミッション遂行する企業法務に専門知見ある外部弁護士を含む)の逐一の指示や監督がなくとも基本的実務を自律遂行できる。また、応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)についても、補佐・補助を任せられ、あるいは上司の指導ないし監督の下、対応を任せられる。上司の指示や監督にしたがい、手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ)の実務支援ができる。 法令管理・文書管理については、基本的業務全般(企画・運営から実施・総括)を統括できる。 政策法務・戦略法務については、業務の要求水準が高度であるため、基本的業務全般の統括は委ねられず、実施・総括は委ねられるが、企画・計画については参加させ、補佐・補助を委ねられる。 予防法務・内部統制法務については、業務の要求水準が高度であるため、基本的業務全般の統括は委ねられず、実施・総括は委ねられるが、企画・計画については参加させ、補佐・補助を委ねられる。 紛争法務や有事状況(存立危機事態)対処については、業務の要求水準が高度でかつ一定の経験が要求されるため、基本的業務全般の統括はもとより、企画・計画についての参加・補佐・補助も認められず(勉強・研修としては意味があるが、資源の有効活用という意味では他の業務を委ねた方が有益)、実施・総括の補佐・補助を委ねるにとどまる。 |
【H3・マネージャーレベル 】応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)に対応できるレベル・手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ)に対応できるレベル: 実地経験や仮想訓練(該当スキルについての資格試験やワークショップ)によって応用実務(ボーダーラインケースや新規課題)に十分な知見と対応能力を獲得している。 該当スキル分野に関するビジネスの現場知見(小前提としてのビジネスのメカニズムや段取りや手順)と専門的見識の双方について、社内で一定の評価を得ている。他部署責任者と対等に情報交換や意見交換(議論)ができる。スタッフの指揮監督や管理統括等ができる(部下のミスをすべて自己の責任として負担し得る監督業務を遂行できる)。取締役会で決定された予算・人員・納期にしたがって、手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ) に社内責任者として実務対応できる。新しいことや、未経験なこと、正解なき課題について、思考枠組みを用いて自力で一定の提案レベルの企画を策定できる。 取締役会で、単独で報告業務を遂行できる。社内研修講師を務められる。 法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括できる。 戦略法務・政策法務については、基本的業務については取締役会での報告レベルまで統括できる。新奇分野や応用分野については企画や補助・補佐ができる。 予防法務・内部統制法務については、基本的業務の統括(外部弁護士の競争調達と運用監視)ができ、新奇分野や応用分野については企画や補助・補佐ができる。 紛争法務については、基本的業務の統括(外部弁護士の競争調達と運用監視)ができ、新奇分野や応用分野については、企画や補助・補佐ができる。存立危機事態対処については、企画や補助・補佐ができる。 |
【H4・エグゼクティブレベル】最高法務責任者として当該スキル分野に関してあらゆる対応ができるレベル: ビジネスの知見と専門的見識について、役員や社外からも一定の評価を得ている。取締役会で対等の立場で議論に参加できる。外部で講師を務められる。存立危機事態対応や正解なき課題について、一定の成果が出るまで自律遂行できる。法務組織の立ち上げ(手順や事務構造や組織構造の創出)や大規模改変に関し、予算・人員・納期を含めた計画を立案し、取締役会において提案・意見取りまとめ等ができ、所定の計画にしたがって社内責任者として実務対応し計画実現できる。 法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括できる。 戦略法務・政策法務については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括でき、取締役会での議論参加ができる。 予防法務・内部統制法務については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務の統括(外部弁護士の競争調達と運用監視)ができる。 紛争法務や存立危機事態対処については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務の統括(外部弁護士の競争調達と運用監視)ができる。 |
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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