「裁判官の頭脳の中に存在する特殊な常識や考え方」
がひどいとか、矯正が必要とか、という話はあるでしょう。
実際、そういう話は、主に敗訴した側の当事者や代理人弁護士からよく聞かれます。
しかし、前記思考ロジックは、不愉快であっても間違っているとまでは言えませんし、ましてや、ゲームの勝敗を決定する権限を有するジャッジの思考なり哲学を非難したところでゲームに勝てるわけではありません。
これは、例えば将棋で桂馬を前に動かしたり、銀を横に動かしたりするとゲームが成立しないように、負けそうになったからといってルールの不当性を訴えても仕方がないのと同じです。
「郷に入っては、郷にしたがえ」
「裁判所では裁判官にしたがえ」
です。
訴訟弁護士ないし当事者にとって、前記のような裁判官の思考ロジックはゲームを展開する上での所与条件であり、ゲームを戦う上では
「裁判の思考ロジックをふまえて最適な行動をする」
という選択しか残されていないのです。
保佐や後見の処置をしていない認知に問題のあるおばあさんが1億円のリフォームを発注し、契約書が締結され、リフォームの工事が完成し代金が支払われたとします。この場合、社会常識からすると、当該発注はおばあさんの意志ではなく、明らかに業者の詐欺です。
このリフォームの事例ですが、
「合理的法律人仮説」
からするとひどい展開になりそうですが、だからといって
「絶対おばあさんが負ける」
と決まったわけでもありません。
おばあさん側の弁護士は、業者の主張や裁判官の非常識な判断原理と戦っていく上で、ハンディキャップを負担していることを認識しなければなりませんし、デフォルトの設定において不利な状況を覆すよう、さまざまな主張や証拠を用い、また裁判官に
「こちらが認識した事実や妥当と考える解決ロジック」
を理解浸透してもらうよう、効果的な
「マーケティング」
をしなければならない、ということになるのです。
逆に、自分が劣悪な状況に置かれていることに頓着せず、
「これはひどいぞ!」
「おばあさんが可哀相だ!」
「これは社会的に問題だ!」
等とわめき散らして勝った気になっている弁護士(結構この手の方はいらっしゃいます)は、知能に相当問題がある、ということが言えそうです。
そして、このような特殊な嗜好を持つ裁判官のココロを動かすのが、裁判所という国家機関のユーザーである当事者や我々代理人弁護士の役割ということになるのです。
「裁判官はお客様」
「お客様は神様」
です。
そして、訴訟を遂行し、裁判官に自分の主張を認めてもらう上では、
「神様である裁判官への供え物」
を作るのと同じような配慮と慎重さの下、
「通常の状態ではまったく無味乾燥にみえてしまう『生の事実』を、素材の原型をとどめつつ、徹頭徹尾、一般人では到底理解し得ない域に達した裁判官の超特殊な嗜好に合った形で調理し、これを裁判官の顔を伺いながら、効果的にサーブすること」
が肝要となります。
簡単にポイントを申し上げますと、以上のような観点から、裁判所とのお付き合いにおいては
1 ルーズなことをしない。納期は絶対厳守する
2 裁判官に早めに事件の全体像を見せるように努め、仕事が効率的に処理できるよう協力する
3 提出文書は、自分が言いたいことを好きなように書きつらねるのではなく、徹底して裁判官の趣味・嗜好に合わせ、読んでいただける工夫をする、その具体的方法として、
(1)10頁の原則
(2)修飾語やレトリックは「法曹禁止用語」
(3)裁判所の業界内部ルールである「要件事実」を意識する
(4)相手のリアクションを見越した言い方で主張する
といった
「裁判所における推奨行動」
ともいうべきものが導かれます。
運営管理コード:HLMGZ9-3
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所