00861_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム6:「アジア進出に失敗する企業」の失敗のメカニズム(総括)と成功するために必要な具体的方策

「企業が海外進出に成功するための条件」
としては、
「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー」
によって、
「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を前提に、徹底的に、情け容赦なく、メリットを活かす活動を行うことが必要です。

こういうことを言いますと、
「こんなリアリティスティックな行動スタイルがないと成功しないのか」
と嘆息が聞こえてきそうですが、これくらいシビアな感覚でもなお、成功は可能性に留まります。

逆に、はちみつ漬けのシロップが充満し、一面お花畑の光景が広がる脳みそで、
「世界は1つ、人類は皆兄弟。平和に、仲良く、ハッピーに、同じ人間として共に手を携えてがんばれば、きっとうまくいく」
といった、妄想に満ちた感覚で海外進出する、という経営者は、正直申し上げて、商売ナめてる、としか評しようがありません。

結局、
「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を前提に
「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー」
となるべき日本人など、まず、滅多にいませんし、仮にいたとしても、誰かのために命を張る、なんてアホらしいことなどせず、自分自身で乗り込んで一旗揚げ、成功の果実を独り占めするだけです。

すなわち、海外進出の成功のためには、創業経営者が現地に乗り込んで、ゼロというか、ハンデキャップ満載のマイナスからスタートする覚悟で、もう1回、創業する、ということが必須の前提となります。

「日本で成功し、カネに不自由せず、ストレスやフラストレーションなどまるで感じず安楽な生活をエンジョイできている創業経営者」
が、老体にむち打ち、それまでの成功体験をすべて捨てる覚悟で、アウェーで、不利な戦いをして、死に物狂いで事業立ち上げをもう1回最初からやり直す、ということを嬉々としてやるのであれば、可能性はないとはいえません。

ところが、海外進出を甘くみる創業経営者は、人任せで適当にやってもうまく行くなどと考え、番頭さん(役員)や手代さん(部課長)を送り込むだけです。

送り込まれた方も、現地に行くと日本でまるで勝手が違い、やることなすこと障害だらけで、日々壁にぶち当たる現実を目の当たりにする。

結局、普通にやっても成果が出ず、無理に成果を出そうとすると、命の危険にさらされる。

実際、2012年7月18日、自動車メーカー・スズキのインド子会社、マルチ・スズキのマネサール工場(ハリヤナ州)で、従業員による暴動が発生し、工場幹部1人が死亡、約90人が負傷する、という事件が発生しています。

「他人のために命を張るなんてマジ勘弁。そんなことするくらいなら、適当にやって失敗して、『海外進出は難しいです』という弁解をして帰国した方がマシ」
という、ある意味当たり前の感覚を持つ、番頭さん(役員)や手代さん(部課長)を送り込んでも、うまくいくわけはありません。

かくして、

1 海外進出の困難さをきちんと理解せず、あるいは、「海外進出したら、他人からかっこよくみられて、威張れたり、国際的な大企業から『マルドメ(まるで、ドメスティック。完全な国内志向)の中小企業』などと呼ばれる劣等感が払しょくできる」といった経済合理性とは無関係な意図・目的で海外進出を計画する

2 海外進出を甘く考えるか、「(見栄を張ったりやコンプレックス解消のための)ファッションアイテム」として海外進出を考えることから、創業経営者自身が、命がけで乗り込むことはせず、番頭さん(役員)や手代さん(部課長)を送り込むなど他人任せで何とかしようとする

3 番頭さん(役員)や手代さん(部課長)には、「圧倒的な士気とこの士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」は与えられないし、また彼らは「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルに、明確に、理解したリーダー」というキャラでもない

4 海外で事業立ち上げを任された番頭さん(役員)や手代さん(部課長)は、やがて、そのしびれるくらいきっつい現実に直面し、「他人のために命を張るなんてマジ勘弁。そんなことするくらいなら、適当にやって失敗して、『海外進出は難しいです』という弁解をして帰国した方がマシ」という、ある意味素直な考えをもつようになり、実際そうする

という
「必敗の方程式」
ないし
「敗北のスパイラル」
ともいうべき常套プロセスが次々に実現していき、ボロ負けし、這う這う(ほうほう)の体で、海外での事業を畳んで日本に帰ってきます。

以上、日本の企業の多くが、海外進出、アジア進出、中国進出にことごとく失敗するに至るメカニズムについては、
「目的があいまいで、考えも甘い中小企業が、アジア等の海外進出しても、相当な確率で失敗して悲惨な状況に陥り、撤退もままならない状態に陥る」
という典型的な事例につい、悲惨な状況に至るまでの詳細なメカニズムを、
「『実際進出に失敗した当事者』にとってはムカつくような冷静さとシビアさ」
を以って分析させていただきました。

なお、私は実務家です。

したがって、単なる批評家として批判するだけではなく、どうすれば成功できるか、ということもきちんと明記しております。

すなわち、海外進出成功させるためには、というか
「海外進出をまともなビジネス・プロジェクトとしてキックオフ」
するには、
「圧倒的な士気と、この士気を支える鼻血が出るほど魅力的なインセンティブ」
を前提に
「植民地時代の欧米列強資本家のような“エゲツナイ目的”を、しびれるくらい、リアルにかつ明確に、理解したリーダー」
が、文字通り、
「進出国に骨を埋めるつもり」
で、
「ゼロというか、ハンデキャップ満載の“マイナスから”スタートする覚悟」
で、
「実質創業」する、
という前提環境が必要条件となる、ということもお話し申し上げました。

とはいっても、そこらの中小企業の社内を見渡してみたところで、
「犀利な有能さと、エゲツないくらい、カネや成果に執着するリーダー」
となる資質を有する人材が、掃いて捨てるくらいゴロゴロ存在する、ということではなかろう、と推定されます。

そもそも、
「犀利な有能さと、エゲツないくらい、カネや成果に執着するリーダー」
となれるような、気概と能力を持った人間なら、とっくに、中途半端な規模の会社に見切りを付けてを辞めて、自分で商売立ち上げているか、外資系企業で、信じられないくらいの高給をもらって活躍しているはずです。

要するに、前述のような
「『海外進出を任せるに足るリーダー』としてのプロファイルに該当する、資本主義的競争社会の権化のような人材」
とは、創業経営者その人くらいしかいない、ということなのです。

すなわち、中小企業においては
「功成り名を遂げた創業経営者が、老体に鞭打って、現地に乗り込み、環境・言語・文化・商売慣行といった数多くのハンデをすべて呑み込み、文字通り“死ぬ気”で、もう1回、『創業というミラクル』を成し遂げる」
ということくらいしか、海外進出に成功することは想定できないのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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