00923_企業法務ケーススタディ(No.0243):発明への資金協力

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十五の巻(第15回)「発明への資金協力」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
某大学教授

発明への資金協力:
当社が企画提供と資金提供をし、大学教授が開発した発明が、成功しました。
これからその発明をつかってビジネスをしようとしていたところ、大学教授は
「発明したのは自分だ」
と主張し、弁理士も
「『特許を受ける権利』を譲り受ける契約を締結しないと、特許権の利益にあずかれない」
と、いいます。
企業が研究者に委託した技術発明の成果は、誰のものになるのでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:特許権を取得できるのは誰か
特許法29条は、特許権を取得できる者を
「発明者」
に限っています。
単なる補助者、助言者、資金の提供者などは発明者にあたらない、としています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「発明者」に関する裁判例
東京地裁平成14年8月27日判決では、実際に研究開発を行った者へ指示を与えていた者について、
「それ自体が発明と呼べる程度に具体化したものではなく、課題解決の方向性を大筋で示すものにすぎない。
したがって、原告が上記着想を得たからといって、本件発明の成立に創作的な後見をしたということはできず、原告を共同発明者と認めることはできない」
という判断を下しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「発明者」でない者による出願
「研究テーマの設定」
「資金の提供」
をしただけでは、
「発明者」
には当たりません。
そして、発明者ではない者を特許出願願書に記載すると、冒認として出願は拒絶されることになります(特許法49条7号)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「特許を受ける権利」
特許法33条は、発明者が有する権利のうち
「特許を受ける権利」
については、第三者に譲渡できることを定めています。
「特許を受ける権利」
を有する者が特許の出願を行い、特許庁がその発明にお墨付きを与えてくれれば、特許権を受けることができます。
研究者に資金協力を行う場合には、事前に発明者となる者と契約を締結しておくか、発明後に発明者にお願いをして、
「特許を受ける権利」
の全部または一部を譲渡してもらうことが必要となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:「共同出願」
落としどころとしては、
「特許を受ける権利」
の一部を譲渡してもらい、発明者と一緒に共同出願することが考えられます。
注意しなければならないのは、特許法38条は
「特許を受ける権利の共有者全員による出願」
でなければ特許出願できないことを定めており、共有者全員でなされなかった出願は、拒絶されてしまいます(49条2号)し、万が一、特許登録できたしても無効事由となります(123条1項2号)。
したがって、共同出願についても、発明者となる者と事前に契約を締結しておくことが必要です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点6:「不実施補償」
特許を受ける権利を共有した場合には特許権を共有することになるのですが、共有者が有するのは自分で特許を実施する権利だけです。
説例の場合だと、当社は特許権実施により大きな収益を上げられますが、経営資源をもたない教授は、特許権を共有したところでまったく意味がありません。
打開策として、
「共有者の一部(教授)が特許権の不実施を約束する代わりに、他の共有者(脇甘商事)が、一定額の補償をする」(不実施補償)
措置を申し出る方法もあり得ます。
不実施補償には
「適正に権利化され、かつ事業化されたことを条件とする」
など条件を付しておくことが必要です。

助言のポイント
1.研究委託を行う際には、必ず書面で契約をしよう。
2.「資金を提供しただけ」「研究テーマを指定しただけ」では「発明者」になれず、特許も出願できない。事前に、実際に研究開発を行う者から「特許を受ける権利」を全部譲渡してもらう契約を締結しておくこと。
3.「特許を受ける権利」を共有している場合は、共有者全員による出願が必要。特別な事情がないかぎり「特許を受ける権利」は丸ごと自分のものにしておこう。
4.研究者側が要求する「不実施補償」には「特許権が成立し、かつ、当該特許権が適正に事業化できた場合に限り補償する」との条件をつけよう。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです