本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2013年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五十五の巻(第55回)「社長権限で従業員の減給!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
脇甘商事株式会社 従業員
社長権限で従業員の減給!?:
社長は従業員の減給を考えていますが、法務部長は
「社長の独断では従業員の賃金の削減はできません」
と苦言を呈しています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:個別合意による変更
労使間の合意があれば、賃金減額のような従業員に不利となる労働条件の変更も可能です。
しかし、従業員が使用者の提示した労働条件に同意さえすれば、どのような労働条件への変更も可能というわけではなく、
「労働保護法規や就業規則、労働協約に反しない」
必要があります。
最低賃金法で保障以下の賃金は労使者間の合意があっても認められませんし、労働契約も、意思表示の瑕疵・不存在がある場合は取消し無効の問題が生じます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:就業規則の変更
常時、10人以上の従業員を雇用している企業の場合、労働基準法89条による就業規則策定の義務がありますので、就業規則を定めることで、 就業時間や賃金、退職に関する事項等を定めた就業規則の制定し、その中で賃金の額の計算方法や支給条件などについて細かく定めることで、煩雑さを解消することができます。
減給に関する規定が就業規則に制定されている場合、当該規定に則って従業員の賃金を減給することはできますが、その規定がなく、就業規則に新たに賃金減額の規定を設ける場合、使用者のみの判断で就業規則を新しくすることはできません。
就業規則が拘束力を持つためには、就業規則を従業員に周知させていなければなりませんし、
「賃金は勤務成績によって降給することがある」
と規定するだけでは足りず、能力別の資格等級基準などを設けるなどして、どのような人事評価によれば、どのくらい
「降格」
になるのかを明確にしなければならないとされています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:周知性と合理性
就業規則の変更による労働条件の不利益変更が一切認められないというわけではありません。変更後の就業規則につき、
1.周知性
2.合理性
の双方が認められる場合には、従業員の合意がなくとも就業規則の不利益変更が認められることとなります。
従業員の賃金を減額する就業規則の変更が認められない場合、使用者は従業員に対し、減額後の賃金と減額前の賃金との差額を支払わねばならない上、遅延損害金といった利息の請求もされかねません。
また、適切な手続きを経ることなく使用者が減給し、既定の賃金を支払わないとすれば、
「給与全額払いの原則(労働基準法24条)」
に違反して罰金刑を食らう場合もありますので、無茶な減給は厳禁です。
助言のポイント
1.「社長命令で減給する」では、減給の合意があったとはいえない。
2.「就業規則を制定した」では安心できない。 減給の規定もしっかり埋め込もう。
3.「就業規則の変更」 というわけにもいかない。従業員にも知らせること。「減給も仕方ない」を誘い出そう。
4.下手に減給すれば、罰金刑を食らう。注意すること。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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