00994_企業法務ケーススタディ(No.0314):ナヌ? 傷ついた親友の会社を助けてやったら「特別背任」!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十六の巻(第86回)「ナヌ? 傷ついた親友の会社を助けてやったら「特別背任」!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘商事株式会社 グループ 脇甘工務店
脇甘工務店の監査役 スミツキ監査法人 会計士 隅尾 啄(すみお つつく)

相手方:
株式会社マブダチ 社長 間夫 太刀男(まぶ たちお)

ナヌ? 傷ついた親友の会社を助けてやったら「特別背任」!?
社長は、窮地にたつ親友の会社を支援するため、法務部長に、
「契約は後からでいいし、取締役会には適当にハンコをついて回せばいいから、まずは、グループ会社から相手に3億円融資をするように」
と、指示しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:やりたい放題の未上場企業と、公私混同ご法度の上場企業
創業者が100%の株式を所有している未上場のオーナー系企業では、取引に関して社長が公私混同をしようが何をしようが、基本的に問題とされることはありませんし、会社の資金繰りが厳しくなれば代表者個人の財産から会社の決済に必要なお金を融通してもらったり自宅賃料や税金の支払いなど個人的な使途に充てるために代表者個人が会社のお金を借りたりすることは、ごく普通に行われています。
しかし、
「会社が株式を公開(証券取引所に株券上場)している企業」
は、まったく異なります。
取締役は株主に対して
「善良なる管理者(“自分の利益を犠牲にしても尽くす立場”を表す法律用語)」
として忠実に振る舞うことを求められます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:ガチで、ヤヴァい、上場企業の公私混同行為
取締役会にも諮らず、契約も後付け、返済計画もなく、経済合理性すら検証されず、目的すら不明の融資を敢行するような公私混同の情実融資は、完全にアウトです。
会社法では、取締役会承認の仕組みを無視して取引を敢行した取締役は、原則として、会社の被った損害を賠償しなければならない、とされます。
規制に違反した場合には、民事上の責任のみならず、
「特別背任罪」
という刑事罰を受け
「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」
に処される可能性もあります。
特別背任罪は、取締役が、
「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたとき」
に成立する犯罪で(会社法960条)、刑法に定める背任罪(同法247条)の特別版です。
取締役は、多くの利害関係者に対して責任を負う立場にあることを考慮して、違反した場合の刑罰を、刑法上の背任罪よりも加重しているわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「そんな、ガチでヤヴァいこと」をやらかして大問題になった例
2008年7月、東証二部上場企業のK電機のS社長が、自らも役員を務める産業用機器開発会社Aに対して、返済能力とないと知りながら、当該K電機から約2億8000万円貸付け、これが回収不能となり、焦げ付かせた、という疑惑が浮上しました。
この貸付けは、その後の調べによって、総額約3億8000万円の規模となっており、K電機はS社長を、特別背任容疑で刑事告訴し、さらに、K電機も上場廃止となりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:オーナー系といえども、1円でも他人様の資本が入っている会社のカネは「他人様から預かっているおカネ」だ!
株式会社の使命であり存立目的は営利の追求であり、取締役はその目的遂行のために全力を注がなければならず、 自分の心情や友情や道徳心といった価値観・哲学・生きる目的すべてを後回しにして会社から託された使命を優先すべき、というものです。
取締役が、会社としての行うべきシビアな利益追求や財産増殖や毀損防止をほったらかにして友情や道徳心を追求すれば、それは逆に不誠実であり怠惰であり、さらにいえば、善管注意義務違反という法令違反であり、犯罪行為となり得るのです。

助言のポイント
1.オーナー系企業といえども、株券を証券市場に上場した以上、好き勝手・やりたい放題はご法度。
2.多数の株主の虎の子を預かっている以上、上場企業の取締役は、大きな経営判断に情を交えると法令違反に問われる危険がある。
3.上場企業が他社に融資する際は、経済合理性と法的適合性を、完璧に整える必要がある。情実融資は、身の破滅を招く、と心得よう。
4.どうしても、窮地の友人にカネを貸して救ってやりたい?! どうしてもそんな美談の主人公になりたいのなら、会社のカネを使わず、自分のポケットマネーで出してやること。自分の財布を傷めたくないのなら、「自分の財布を痛めてまで救いたくない、カネにだらしない友人」は、見舞金程度出して、とっとと帰ってもらおう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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