00999_企業法務ケーススタディ(No.0319):中途採用は、ノリと勢いだけで、テキトーにやっちゃダメ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年10月号(9月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十一の巻(第91回)「中途採用は、ノリと勢いだけで、テキトーにやっちゃダメ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 中途採用希望者 市田 鈍一(いちだ どんいち)

中途採用は、ノリと勢いだけで、テキトーにやっちゃダメ!
みるからに仕事のデキそうな自称・スーパーエリートの中途採用希望者に舞い上がった社長は、採用に意欲満々です。
法務部長は、経歴詐称や、年数が合わないことや、誤字脱字、同居家族もいないことを案じますが、社長は、
「仮に、万が一にでも想像を絶するデキソコナイだったら、とっととクビでいいだろ」
といっていますし、その希望者本人も、
「エリートとしての矜持にかけて、必ずや成果を出します。出せなければ、すぐにクビにしていただいて結構。いくらでもオファーはありますので」
と、社長にいったというのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:中途採用
中途採用とは、
「終身雇用を本来的・原則的雇用形態としてみた場合、新卒採用から定年に至る“中途”の時点で採用される」
ことから、この名称が付けられています。
バブル崩壊後、一般化し始めたことから、中途採用が王道・原則となり、新卒からそのまま終身雇用されるようなタイプの雇用関係の方が異常かつ例外的となりました。
中途採用といっても様々な形態があるようです。
・即戦力としてすぐに実践配備される、プロの傭兵のような趣のキャリア採用型
・ほぼ新卒といって差し支えない、ほとんど従業員としては実践スキルのない若者の育成を前提に採用する若手・第二新卒型
・昇進を前提とした幹部候補生や総合職ではなく、補助的労働力を提供する期間・時間・地域限定型
・シニアパート・アルバイトに近い要員採用型

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:中途採用のリスク
日本の企業で働く従業員の労働スキルは、個別企業との親和性が高く(カンパニー・スペシフィック)、ある企業で使えるナレッジやスキルやノウハウも、他の企業ではまったく使えず、その蓄積が無駄になることも多いのが現実です。
さらに、
「同業他社間での転職」
となると、
「企業の機密漏えいや、ノウハウ移転を手土産にした、裏切りの匂い漂う、怪しさ大爆発の転職ではないか」
という勘繰りも出てきます。
学歴や経歴や転職理由について中途採用希望者を鵜呑みにすることはリスクです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:中途採用したが、おそろしく仕事がデキなかった場合の対処方法
一度採用した以上、企業の自由かつ任意の解雇はほぼ不可能となり、定年まで雇用し続ける義務が生じることになり、企業側としては、中途採用された労働者の能力を生かせる業務が会社に存在するかどうかを調べ上げ、他の適性職種への配転可能性の検討などを要求されることとなります。
しかし、労働契約上、職種・職務が特定されている労働者については、その雇用の仕組みの違いを考慮して、解雇がやや柔軟に認められる傾向があります。
「特定された職種が消滅すれば、基本的には解雇されてもやむを得ない立場にある」
という裁判所の基本的・根源的な発想があるためです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:職種・職務が特定された労働契約
設例においては、本人の宣言どおり、経営企画本部長としての地位や職務・職種・職責を特定した雇用契約とし、後日の紛議を避けるため、その旨明確に文書化した契約書を取り交わしておくべきでしょう。
学歴・経歴その他、本人の労働者としての価値を基礎づけるバックグラウンドについては、本人の了解と同意の下、すべて入念に、真実性と正確性の裏づけ調査を行った方がいいでしょう。
残業代の取り扱いも、管理監督者として、残業代が出ないことについて本人の同意・確認・了解ももらっておいた方がよいでしょう。

助言のポイント
1.中途採用といえども、雇用契約は普通の雇用契約と同じ。採用は自由だが、解雇は不自由。それもシビれるくらい不自由で、事実上不可能。
2.「オレはできる」「オレは優秀」「部長の地位しかやる気はない」などと大口を叩く中途採用希望者には、地位・職務等を特定した雇用契約を締結しておこう。この「地位・職務等を特定した雇用契約」を締結した労働者は、当該地位・職務が果たせなくなった、との理由を持ち出して、スマートな解雇が可能。
3.一見すると、有能でデキそうな人間であっても、中途採用は、慎重に行うべこと。経歴・素性・その他労働力の評価・測定基準の根拠となるデータに虚偽はないか等々、本人の同意の下、きっちり調べ上げた上で、雇用条件等もしっかりと交渉すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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