01001_企業法務ケーススタディ(No.0321):海外投資で、シビれるくらいボロ儲けじゃ!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十三の巻(第93回)「海外投資で、シビれるくらいボロ儲けじゃ!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
投資会社 HARRY歩手田(ハリーボテダ)インターナショナル

海外投資で、シビれるくらいボロ儲けじゃ!?
資産運用に頭を悩ませている社長に、突如、目がくらむようなオイシイ投資話がもたされたようです。
「ケイマン、タックスヘイブン、LCC・・・」
社長の口から、耳慣れないコトバが飛び出します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:投資活動における重要点
投資というのは、
「安く買って、高く売る」
というシンプルなものが基本戦略となります。
先が読めない世の中で、3年先、5年先のことなんて、わかりっこなく、それに、何といっても、現在の日本は、デフレ真っ只中。
デフレーション、すなわち、モノの値段が下がるということは、手持ちのカネの価値が上がるということ。
年間2%のデフレの状況で、カネを使わずタンス預金や定期預金で持っておく、ということは、何もしなくても2%で運用できる、ということですから、これほどラクな投資はありません。
いずれにせよ、投資という活動を行う上で最も重要なのは、情報の真偽を見極め、正しいスタンスによって、いい加減な話に踊らされないようにするリテラシーが重要といえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:複雑怪奇な投資話
投資には、緻密な理論を構築して、安全で高収益を生むような商品もありますが、すべての商品がまともであるという保証はありません。
「デリバティブ」「クーポンスワップ」「ヘッジ取引」「モーゲージ債」「ハイイールドボンド」「サブプライムローン」「SPC」「ケイマン」「LLC」「LLP」「BVI」
言葉はいろいろありますが、いずれも元本が保証されず、値動きの仕組みがなかなか理解できず、しかも投機性が高い商品であり、あえていうなら、過激なバクチです。
バクチというのは、客が必ず損をし、胴元が必ず儲かるようになっています。
これらの投機的商品も、投資家がよほど値動きを注視し、勝ち逃げするタイミングをみていない限り、骨の髄までしゃぶられる仕組みになっています。
そして、参加者がどんなに辛い目に遭っても、商品を紹介したり、商品を設計したり、商品を運用しているような人間(バクチでいうと、“胴元”や“合力”)は必ず儲かるようになっているのも特徴です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:LLCって何?
LLCとは、Limited Liability Companyの略であり、日本語に訳すと
「有限責任会社」
わかりやすくいいますと、
「会社が潰れた場合の負債まで負わせると、誰もカネを出さないから、投資家を集めにくいので、『会社がぶっつぶれても、出資した連中は出資分をスるだけでおしまい。あとは、一切責任を負わない』という仕組みにした会社」
というものです。
LLCは、会社の本店は、ケイマンをはじめとするタックスヘイブン(租税回避地)にある本店所在地にしていても、数十億円を預かるにふさわしい巨大なビルや豪奢なオフィスがあるわけではなく、私書箱しかない、といった状況です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:実際発生した事件
A投資顧問という会社は、大企業の企業年金から中小企業の厚生年金基金の運用をしており、2011年9月末時点で、124社の企業年金から1984億円の資産の運用を受託しました。
年金運用を開始した2003年時点において預かった資金の半分をすでに喪失し、2008年には損失が500億円にまで膨れ上がっていたにもかかわらず、当時のA社長は損失を隠し続けました。
2015年12月に破産開始が決定され、また刑事事件にも発展し、社長に対する懲役15年の実刑判決を含め、役員2名にも懲役7年の実刑判決、追徴金として計156億円(といっても当然支払いは期待できません)を命じられました。
要するに、約2000億円のおカネが、ロクな確認をされないまま、
「カリブ海の小島の私書箱にしか存在しない、幽霊のような無責任な法人」
の財布に突っ込まれ、よくわからないまま、その大半が消えてなくなった、というあまりにお粗末な話です。

助言のポイント
1.知ったかぶりをしない。売る側の金融機関担当者を上回るくらい、きっちり勉強しよう。
2.わからなければ、トコトン聞くこと。波風を立てても、嫌われても、わからないことは、しつこく聞くこと。
3.トコトン聞いても調べてもわからなければ、手を出さない。手を出すなら、おカネやファイナンスの難しさや、おカネやファイナンスを取り巻く人間のずる賢さや恐ろしさといったものを、適切に理解すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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