01034_企業法務ケーススタディ(No.0354):幻の時効完成!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十六の巻(第126回)「幻の時効完成!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
株式会社曲有(クセアリ)工業 曲有(くせあり)

相手方:
よこやり債権回収株式会社
よこしま銀行

幻の時効完成!?:
脇甘グループがM&Aでワケアリ企業を買収した後、債権を取り立てる旨の通知が舞い込んできました。
どうやら、借りたことは事実だったようで、金利も含めまったく払っていないようです。
相手からは、払える範囲でいいので少しでも払ってもらえるなら分割でもなんでも協力します、という申し出がありました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:時効制度
民事事件でも時効制度はあり、改正前の現行民法では、債権は
「権利を行使することができる時」
から10年で時効が完成する(現行民法166条、167条)とされています。
これが原則となり、商行為により生じた債権は5年で時効が完成し(商法522条)、その他債権者の職業属性等に基づく債権発生原因別に短期間の時効が定められています(現行民法170条~174条)。
なお、改正民法では、
「客観的起算点から10年、主観的起算点から5年」
に一本化されるようになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:時効援用制度
時効が完成した後、債権を消滅させるには、債務者側の
「援用」
というアクションが必要となります。
「私は、時効が完成したので、借金を踏み倒します」
という意思表示です。
時効に関するトラブルの大半は、この
「援用」
をしそびれたり、忘れたり、あるいは積極的に返済意思を示すような紛らわしい行為をしたことによって、せっかく完成した時効をフイにしてしまうケースです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:時効のリセット
時効が完成したにもかかわらず、時効をフイにして、さらに、時効をリセット(また完成まで10年かかる)させてしまう場合とは、時効完成後、一度、承認したり、支払いを約束したり、一部支払ったり、と時効援用と矛盾する行為をしてしまうことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:長くほったらかしの債務の取扱
サービサーとしては、あの手この手を使って、時効の援用をさせず、逆に、債務の承認とか支払の約束とか、一部でも弁済させて、時効をリセットしようとします。
債務者側としては、まず、時効完成状況をきっちり調べ、もし、完成していて、時効の利益を使いたいのであれば、絶対に、債務の承認とか一部弁済とか、これと間違われるような積極的で意欲的で良心的な行動もとるべきではありません。
「時効が完成したので、これを援用する」
という意思表示を通知し、あとは、連絡遮断です。

助言のポイント
1.債権も支払わないまま一定期間経過すると、時効が完成し、消滅する可能性がある。
2.ただし、債務を消滅させるには、「時効援用」という「時効になったので、合法的に踏み倒すから、チャラね」という意思表示が必要。
3.せっかく時効が完成しても、債務者側が支払いに協力的な行動をすると、時効がリセットされてしまう。特に、長く不払いとなっている債権の処理に、債権者が甘く優しいささやきをする際は、要注意。
4.自分の債権は時効にかからせないよう、しっかり管理すること。また、時効が完成した債務は、しっかりと消滅させるよう、不用意な行動を取らないよう警戒すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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