有事対応としては、一般に被害者対策や報道機関対策に目を奪われがちですが、企業を取り巻く利害関係者は、株主、取引先、金融機関、証券取引所や監査法人(上場企業の場合)、監督行政機関等数多く存在し、かつこれら各利害関係者はそれぞれ違った観点で企業の有事状況を認識し、それぞれのアクションを行います。
当該利害関係者ごとに級密なケアをしていく必要があります。
企業が法令違反にまつわる不祥事を起こし、これが企業を取り巻く外部の関係者(消費者や取引先)に直接間接の被害を加えることがあります。
また、被害を加えていなくても、企業の法令違反行為に起因する不祥事が長期的継続的な取引関係に悪影響を及ぼす可能性もあります。
特に、規制業種においては、監督行政機関から法令違反に対して業務停止命令等の措置が採られる可能性があります。
企業活動を禁じる行政処分(指名競争入札における指名停止処分を含む)が採られると、顧客との取引関係に決定的な打撃を与えるし、その際の企業の対応が拙劣であると、混乱を招き、危機そのものに、さらなる企業価値の低下が発生します(不祥事の種類によっては、危機自体に伴う信用低下より、むしろこのような企業の拙劣な有事対応が露顕することによる企業価値低下の影響の方が大きい場合もあります)。
企業のとるべき有事対応は、
「業務停止命令という事態がありうる」
旨の展開予測を早期に行い、先手を打って、現実に業務停止命令が出た場合の顧客へのアナウンスと混乱回避のための具体的対応プラン(現場での対応マニュアルやFAQ〔Frequently Asked Questions;質問事例集〕パンフレット等の整備)まで含めて対応を整えておくことです。
危機が具体化した場合、顧客は正確な情報を欲しますし、何より混乱を嫌うものです。
また、顧客は、他方で企業が危機に対する対応能力・信用リカバリー能力をどの程度持っているか、冷静に評価しています。
したがって、迅速な調査と事故報告、被害拡大防止措置・緊急改善措置の実施と報告、専門調査チームによる事実関係の調査・原因の究明と報告、今後の具体的改善策の提案など、顧客の信頼をつなぎ止める誠実かつ迅速な対応を行うための手順を確立しておくことが顧客対策上重要となります。
この点、欠陥隠蔽をしていた三菱自動車やパロマガスは、顧客への損害を拡大し、企業リスクの拡大再生産を招いてしまいましたが、他方で、事実の公表と迅速な製品回収を果断に行い、かえって企業価値を高めたジョンソン・アンド・ジョンソン社や参天製薬の例もあります。
有事対応は
「企業信用が低下する厄介な事態」
ではなく、企業の有事対応能力をアピールする絶好のチャンスである、という形で積極的に捉え、適切な対応を取りたいものです。
なお、危機に直面した企業は組織力が低下し、現場の士気が下がりがちであり、顧客や取引先に対して企業の内情や悪評を言い出す者も少なからず出てきます。
このような行為に対しては、
「会社に損害を与える行為として、このような行為は厳に禁じる。企業内不祥事は内部通報システムを通じて直言すべきであり、公益通報者保護法の要件を満たさない外部への通報行為は、企業価値を著しく損ねる場合として、就業規則に基づき懲戒を加えることがありうる」
旨の社長声明等を行うべきです。
いずれにせよ、企業が危機に直面しても、現場の末端の従業員も含めて全社員、これに動じず、通常と変わりなく適切な対応を整然と行うという姿を顧客・取引先に見せることが最大の顧客対策と考えられます。
これまで、消費者契約法違反事案に関しては個々の被害消費者が個人的に被害回復を図るだけでしたが、消費者契約法改正により、適格消費者団体による大規模かつ組織的な事件介入が法的に認められるようになりましたので、消費者団体の動静には注意と警戒を怠らないようにすべきです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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