1 ツッコミその1:「会社が倒産すると社長も仲良く破産することがあるぞ」
前稿で述べたように
「株式会社においては、オーナーも、社長も、経営幹部も無責任」
という趣旨の話をすると、まず、
「でも、中小企業が倒産すると、社長も一緒に破産することがあるでしょ」
という1つ目のツッコミが入ります。
まず、このツッコミについて検証したいと思います。
中小企業において社長が会社と同じタイミングで破産するのは、
「船長が沈みゆく船と命運を共にする」
かの如く、社長が、経営責任を自覚して潔く自害、もとい、破産する、というわけではありません。
破産するのは、社長個人が連帯保証したことにより、その債務を払えなくなるからです。
要するに、社長は“個人”として保証した借金が処理できないため、個人の選択と責任の結果として、破産するのです。
銀行はバカではありません。
銀行員は、
「株式会社=有限責任=無責任」
という仕組みをきちんと理解しております。
資本主義社会で最も優秀で、狡猾で、猜疑心が強いプレーヤーである銀行は、無責任な連中にカネを貸すことはしません。
そこで銀行は、株式会社がつぶれて責任者不在の状況になったときを想定し、社長とかオーナーから連帯保証を取り付けてから、カネを貸すのです。
中小企業において会社がつぶれそうになったら、事前に取り交わされた約束に基づき、社長が連帯保証責任を負わされます。
そして、社長は、この
「個人として負担した責任」
が履行できず、破産させられるというわけです。
銀行は、
「中小企業」
や
「何とか上場を維持しているようなダメ企業」
に対しては、上から目線で偉そうに
「カネを貸してやる」
という立場を取ります。
しかしながら、トヨタや日本製鐵のような
「財務内容が超優良な大企業」
に対しては、銀行は、米つきバッタのように頭を下げ、
「できれば当行も是非お付き合いをしてください」
と慇懃で卑屈な態度を取ります。
当たり前のことですが、銀行が
「財務内容が超優良な大企業」
にお金を借りていただく際に、
「社長の個人保証をつけてくれ」
などと無礼で非常識なお願いをすることはありません。
したがって、
「財務内容が超優良な大企業」
については、中小企業と違い、
「会社がつぶれても、連帯保証を強要されない社長は、一切責任を負わない」
という状況が生まれるのです。
東日本大震災で原発事故を起こした東京電力も、少なくとも事故以前は
「財務内容が超優良な大企業」
とされてきましたから、東京電力の社長や会長は、銀行から借金するにあたって個人保証を要求されていないでしょう。
したがって、仮に東京電力が破産ないし破綻して、銀行の債権が焦げつこうが、社長や会長の私財が差し押さえられたりすることはなく、また、個人として破産させられることもありません。
2 ツッコミその2:「とはいっても、会社が倒産すると、社長や役員が代表訴訟で訴えられたり、逮捕される場合があるぞ」
前述の
「会社が破産しても、オーナーや社長も破産するとは限りません」
に関連して、
「とはいっても、会社が倒産すると、社長や役員が代表訴訟で訴えられたり、逮捕される場合があるぞ」
という2つ目のツッコミが入りそうですので、こちらも検証してみましょう。
会社が破産した場合に、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、
「会社が倒産したという結果に基づいて連座して責任を取らされる」
というのではありません。
会社が破産した場合に、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、会社経営において取締役“個人”として明らかな法令違反をやらかしたことによるものです。
すなわち、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、“個人”の違法行為を“個人”として訴えられているだけであり、
「会社が倒産したことに伴って連座させられる」
のとは違います。
以上のとおり、株式会社のオーナーあるいは役員は、会社債務に連帯保証をしたり、個人の行為として法令違反行為でもしない限り、
「無責任」
という状況をエンジョイできる、というわけです。
(つづく)
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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