株式会社と言えば、世間では、
「公器」
などといわれ、信用があるように思われているようですが、見てきた通り、会社とは法律上のテクニックとして作られた幽霊のようなバーチャル人間にすぎず、しかも、会社にかかわる関係者全員、責任を巧妙に回避できるようになっています。
とはいえ、株式会社は資本主義社会における重要なプレーヤーとして、そこらじゅうにあふれていますし、株式会社と付き合わずに経済社会を生きていくことは不可能です。
では、私たちは、
「無責任な幽霊」
のような株式会社とどのように付き合っていくべきなのでしょうか。
1 規模の大きさや知名度やイメージに惑わされない
株式会社と賢く付き合っていくには、その会社の規模の大きさや知名度やイメージに惑わされず、
「株式会社=無責任」という本質を常に意識しておくことです。
一昔前ほどに、世間を賑わした事件で、AIJ事件(年金資産消失事件)というものがあります。
これは、AIJ投資顧問という会社が、高率の運用利回りを謳って年金基金等から多額の資金を集めたものの、調べてみると、運用資産の大部分が消失していた、という事件ですが、投資先は海外のLLCでした。
LLCとは有限責任会社(Limited Liability Company)のことであり、
「有限責任≒無責任」
を当てはめると、すなわち
「(事実上の)無責任会社」
ということを意味します。
海外の、聞いたこともない国にある実体のない
「無責任会社」
に多額のお金を預けて、年金はどこに行ったかわからない、しかも責任の所在が有耶無耶、という話のようです。
年金基金の運用担当者が、
「有限責任≒無責任」
という単純な理屈が理解できていれば、適切な回避行動が取れたとも思われますし、騙した方も悪いですが、騙された担当者も相当問題があります。
2 連帯保証を徴求する
もうひとつ重要なポイントは、このような
「無責任な幽霊」
と取引する際には、
「責任の取れる生身の人間」
から連帯保証を徴求しておく、ということです。
取引先の会社の債権を回収できなくなるのは、その債権が無担保であることが原因といえます。
逆に、会社からの回収ができなくなる恐れを見越して、融資や信用供与等の取引にあらかじめ連帯保証を付けることで回収不能のリスクは緩和されます。
つまり、連帯保証とは、
「無責任な幽霊」
に
「責任者」
を創設するシステムなのです。
実際、銀行は、連帯保証がついてなければ、カネを貸しませんし、事業会社が金融支援する際は、こういう銀行の行動をもっとマネすべきです。
なお、世間で意外と知られていないのは、
「保証人の数や資格には法律上一切制限がない」
ということです。
「中小企業への融資で連帯保証人を付ける際、社長一人から連帯保証を取っておけば十分」
と考えられているようですが、会社が潰れる際は、社長個人はあちこちの債権者に保証提供しておりますので、イザ、というときには保証はほとんど機能しません。
「保証人の数や資格には法律上一切制限がない」
わけですから、社長だけでなく、その妻や息子、両親、祖父母、妻の祖父母等も連帯保証人として要求したっていいわけです。
連帯保証人は多ければ多いほど取りっぱぐれるリスクも少なくなりますし、社長が
「子供や親に迷惑かけられない」
などと抵抗するようであれば、カネを貸さなければいいだけの話です。
さらに、資力のある人を連帯保証人にするとなおリスクが軽減します。
3 結論
「法律の理屈は、世間の非常識」
であり、世の中、法律の理屈をきちんと理解せず、雰囲気や常識だけで割り切ろうとすると失敗することが多いです。
「知名度のある会社相手の取引だから大丈夫だろう」
「この会社は社歴もしっかりしているから、カネを貸しても安心だ」
「LLCとか格好いい英語が出てくるのは高度なスキームを組んでいる証拠。絶対儲かるぞ」
などという安易な感覚で物事を進めると、思わぬ失敗をする羽目になるのです。
ビジネス社会においては、
「株式会社」
が顔を出さない場面はありませんし、生きていく上では、
「株式会社」
とのお付き合いは不可避です。
男女関係においても、
「付き合う相手をロクに調べず、結婚や深い交際をすると、悲惨な目に会うことがある」
というのと同様、株式会社とのお付き合いの際も、
「株式会社=無責任な幽霊」
ということをきちんと理解し、適切にリスクを回避していきたいものです。
(つづく)
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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