01708_🔰企業法務ベーシック🔰/企業法務超入門(企業法務ビギナー・ビジネスマン向けリテラシー)19_債権管理・回収に関する法とリスク

企業内部において創出された価値(商品・製品・サービス)の実現(カネに変える)に向けた活動(営業活動)において、商品・製品やサービスを、カネと瞬時に交換するタイプの取引(現金取引やこれに近い取引が多い、BtoC取引)では、課題や論点が発生しません。

ところが、商品・製品やサービスが即座にカネと交換されるわけではなく、
「信用供与(与信)」
が介在して、一旦、
「売掛(法律上は金銭債権)」
と交換され、その後、売掛がカネに変わる、というプロセスを辿る場合があります。

すなわち、多くのBtoB取引においては、商品・製品やサービスが、信用提供・与信管理というプロセスを通じて、売掛債権に変質し、この売掛債権が、債権管理・回収というプロセスを通じて、カネに変えられる、という資源交換プロセスをたどります。

整理すると、

BtoC取引:商品・製品やサービス→【ダイレクトに】→カネ

BtoB取引:商品・製品やサービス→【信用提供(与信管理)】→売掛債権→【債権管理・回収】→カネ

となるのです。

企業間取引(BtoB)や、高額な物やサービスの取引、さらには、売る側が弱い立場にあったり、あるいは売掛リスクよりビジネス拡張を重視してどんどん営業をかけるような場合、物やサービスと現金を即時交換する、という形態はまれです。

物やサービスを提供した側(売り主やサービス提供者)は、提供した時点では、お金ではなく、債権、すなわち、
「支払い約束」
あるいは
「買い主から支払いをしてもらえる権利」
を受け取ります。

この債権あるいは
「支払い約束」
を、決められた期限に
「債権弁済」あるいは「支払い約束を履行」
してもらう形で、現実のお金を受け取る、という2段階のプロセスを経ることになります。

ところで、
「1000万円の債権」

「1000万円の現金」
は、まったく同じ価値である、といえるでしょうか。

無論、世の中のすべての人が、
「走れメロス」
の主人公メロスのように、どんな障害があっても絶対に約束履行を果たしてくれるのであれば、債権も現金も同じ、と考えて差し支えありません。

しかしながら、現実の経済社会では、約束が、期限どおり、完全に約束されるとは言い難く、特に、物やサービスの品質に問題があったり、金額が大きく、支払う側の経済能力に不安があったりすると、
「約束が期限どおり完全に果たされることの方がレア」
といえるくらい、不安が大きくなるものです。

いずれにせよ、不安があり、危険がある以上、債権が現金に変わるまでの間、不安と危険を感じながら、フォローとケアをする、という業務プロセスが発生します。

これが、債権管理・回収といわれる業務の本質です。

では、なぜ、BtoB取引などにおいては、
「商品・製品やサービスを、カネと瞬時に交換するタイプの取引」
という単純・簡素な取引ではなく、与信管理や債権管理・回収という面倒なプロセスを介在させ、事態をややこしくするでしょうか。

これは、
「信用を提供することにより、効率的に事業を拡大できるから」
という経済的理由によるものです。

別の言い方として、
「時間」という資源
を最重要視するため
「効率的な規模の拡大」
を指向するから、という言い方もできます。

現金取引やCOD(キャッシュ・オン・デリバリー取引、代引取引)は、
「安全保障」
としては最良の方法選択であり、安全・安心ですが、
「ビジネスのスピード・効率性」
からすると、非効率な方法といえます。

同じように、100億円の売上目標を達成するのに、現金取引だと10年かかるところが、売掛を含めると、1年程度で達成できます。

そのくらい、売掛取引・信用取引は、時間的効率性が顕著なのです。例えば、

 原価率30%で、卸値1万円の商品を売却する場合で、
(ケース1)現金取引だと一月に100個売れ、
(ケース2)売掛取引だと一月に500個売れ、売掛事故率が10%となる
という両ケースを考えてみましょう。

(ケース1)現金取引の場合、売上が100万円で、原価が30万円、利益が70万円となります。

(ケース2)売掛取引の場合、売上が500万円で、回収金額が450万円(事故率が10%なので売上の90%しか回収できない)、原価が150万円、利益が300万円となります。

原価率と事故率にもよりますが、経営の視点からみると、売掛取引の方が、回収事故を踏まえてもなお、売上、利益ともに、圧倒的な経済性・効率性が顕著に存在します。

ライバル会社が売掛取引で、売上と利益をどんどん伸ばしているのに、自社が現金取引に固執していれば、数年も経たず、ライバルに圧倒的な差をつけられ、競争に完全に敗北し、市場から退出させられます。

企業の生き死がかかっている、という意味でも、ビジネスのスピードや効率性は、決定的な意味を有します。ここで、
「事故率(売掛事故率)」
というものが、人為的な介入によって、増減させられる、という事実が指摘できます。そこで、

・事故率(売掛事故率)を事前かつ予防的に低減させる「与信管理」

・事故率(売掛事故率)を事後的かつ対処療法的に低減させる「債権管理回収」

という営みが生まれてくるのです。

このようなビジネス上の合理性を背景として、主に売掛商売を行うBtoBビジネスにおいて、
「債権管理・回収」
という特殊な法務課題ないし営みが出てくるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです