まず、写真の著作権について、整理しておきます。
あったり前の話から。
「著作物たる写真」
の著作権が生じる場合、著作権者は、被写体(写真に写っている中の人)ではなく、写真を撮影した人です。
ジャニーズのアイドルを撮影した写真は、あくまで撮影者に著作権が生じ、中のアイドルには著作権が生じません。
ただ、中のアイドルのパブリシティ権は問題になります。
著作権法67条から70条には、強制許諾制度が定めれています。
強制許諾制度とは、著作権者の許諾が得られなくても、公益上の見地から政府機関(文化庁長官)が著作権者に代わって許諾を与えて著作物の利用を認める制度です。
「公表された著作物」
を対象として
「相当な努力を払っても著作者に連絡が取れない場合」
は、著作権法67条1項の
「著作権者と連絡することができないとき」
に当たりますので、文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託することにより、著作物を使用することが可能です。
「相当な努力を払ってもその著作権者と連絡が取れない場合」
については、著作権法施行令第7条の7に規定されています。
なお、写真に著作権が生じるかどうか、については、今一度確認をした方がよいかもしれません。
前記で
「著作物たる写真」
とカギカッコ付で書いたのは意味があります。
「著作物ではない写真」
という代物もあるからです。
「著作物」
とは、思想又は感情が創作的に表現されているものです。
駅の近くに設置してある自動証明写真や、何の思想も感情もいれずに、ひねりのかけらもない写真については、
「著作物ではない写真」
ということになります。
著作物とされるかどうかは、争われたときに、担当する裁判官の感受性が
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)
と認めるどうか次第です。
なお、裁判官といっても2800名近くいて(簡裁判事を除く)、それぞれ、天下御免・やりたい放題・スーパーフリー・得手勝手に、感受性を自由に駆使して、独自に判断してよろしいという、事になっていますので(憲法76条3項、裁判官職権行使独立の原則)、著作物性が微妙なものですと、裁判官の感受性次第ですし、弁護士の腕がよければ、うまいこと丸め込める可能性なしとはしません。
加えて、古くて、カビが生えてそうな写真ですと、著作権は、著作者の死後50年、または、著作者が不明の場合、公表後50年で消滅している可能性がある、いわゆる
「パブリック・ドメイン(天下の公物として、皆、勝手次第で使える)」
という状態になっていることも考えられます。
とりあえず、写真を使ってみる、というのも実務上ありかな、とも思います。
もちろん、平然と他人の著作権を踏んづける、というのもアレですので、何らかの正当化ロジックが前提になりますが(このあたりは、それこそ“実務的”な知恵となりますので、割愛せざるを得ません)。
その上で、著作権者が名乗り出てきたら、とりあえず、
・この写真、著作物ちゃうんちゃうか? 思想も感情も感じまへんし、ひねりも何もあらしまへんで。
・あんたはん、ほんまに、この写真撮影した著作権者ですか? 証拠ありまっか?
・あんたはんに、どんな損害が生じた、いうんですか? その訳、その理由、その内容、その程度を、きちっと証拠示して、説明してもらいまひょか。
と争う姿勢をみせて、相手がオレてきたら、カネを払って済ませるなり、著作権毎買い取ってもいいかもしれません。
著名写真家でもなければ、損害賠償(民法709条、同法719条、著作権法114条など)が数億とか数千万円になることもないでしょうし、ヘタしたら弁護士費用よりも安い賠償額かもしれません。
要するに、揉めるなら、こちらもこちらとして主張をぶつけて、裁判所の判定を仰いで、判決書を請求書として、考えて、支払い処理をしてもよいのでは、という実務的・戦略的な考え方になりますが、この是非については、コメントはあえてしません。
とはいえ、著作権侵害に対しては、損害賠償以外にも、差止め請求(広告コンテンツを掲載したサイトの削除や、パンフレットの回収および廃棄等・著作権法112条)、場合によっては謝罪公告掲載など名誉回復等の措置の請求(著作権法115条)を受ける可能性があり、舐め腐った態度をとって事態を甘く考えていると、思わぬトラブルになって、足をすくわれることもありえます。
また、故意の侵害で、情状悪質(あまりに舐め腐った態度で、これを見過ごすと、社会としての治安が脅かされる、と判断されるような場合でしょうか)とされた場合、最高10年以下の懲役または(および)1000万円以下の罰金が科されるという可能性(著作権法119条など)もあり、企業だけではなく、その担当者や責任者にも及ぶ可能性があります。
上記シナリオについては、違法性がないことや、仮に違法性があったとしても、故意も過失もなかったことを、きちんと立証できる材料を調えておくなど、十全の備えが前提となりますし、素人が生兵法で、安易に考え実行すると、えらい目に遭うこともあります。
あくまで、頭の体操として、
「良い子はマネしてはいけない、実務家の知恵・奥の手」
としての仮想事例としての紹介ですので、参考にする際にはご留意を。
設例の前提としては、
「著作権者に連絡が取れない場合」
や
「著作権者がわからない写真」
であって、著作権者が判ってて、しかも連絡が取れるのに、故意、過失で、無断使用となると、上記のシナリオとは使えません。
ちなみに、上記のような無断使用で、裁判になった例としては、
file:///C:/Users/hatanaka/Downloads/20150820_releases.pdf
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/082/085082_hanrei.pdf
といったものがあります。
もちろん、原告勝訴の判決ですが、ただ、気になるのは、賠償額が19万とか4万とか2万とか1万とか、しょんぼりするような金額であること。
この判決取るためにどのくらいの資源動員が必要だったのか。
もし、弁護士費用と企業内部資源動員コストを含めて総コストが300万円くらいかかっているとすると(裁判外交渉段階も含めると2年近くかかっているでしょうから、300万円でも足りないかも)、1万円札を10万円で買っているような話で、純粋なコスパだけ考えると、被害者が経済的には惨敗しているわけで、いろいろ考えさせられる事件です。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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